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慟哭

 また、その問いだ。今度は放送室全体をジャックして俺達に問うてきている。もうこの場に居るのは俺達しかいない。結局あの白無垢の怪異が何者かを知る人はおらず、正体が分からない事には対処のしようがない。怪異である事に違いはないのだ。ないのに、まるでバレたくないかのように何処にも情報がない。それは単にこの世界に情報がないだけだったのか……最初からないのか。怪異をいくつもの世界で分割管理していると言っていたし、前者であると信じたい。

 問題は前者でも後者でも俺達には打つ手がないという事だ。

「………………聞こえてるか!? どうしてそれを俺達に聞くんだ! 俺達は何も知らない!」

 それは決して隠している訳ではない。そもそも知っているならこんな回りくどい方法を取る必要はなく、もっと簡単に、単純に終わっていただろう。俺達とは言ったものの、この怪異が問いを投げている相手は十中八九俺だ。他の誰もその疑問を投げかけられていた感じはしない。それならもっと悩んでいていい。聞いていた可能性があるのは三姫先輩くらいだが、彼女はここには居ない。

「答えは知ってる人間に聞くべきだ! 知らない物を尋ねられても困る!」


『……我 ノ 肉体ハ 何処 ニ在ル』


「聞こえてないんじゃないの?」

「いや、アイツは度々俺に聞いてきてる。聞こえてる筈だ」

 物理法則を気にしてはいけない。相手は怪異、それは気にするだけ無駄だ。科学がどうのと言い出したら、脈絡もなく別世界へ送られた俺について説明しないといけなくなる。それは誰であっても無理だろう。

「俺達をここから出してくれ! 何も知らないんだ! どうして俺にばっかり聞く! 知らないよ! お前の身体について知ってたらもうとっくに教えてる! そのくらい、もう十分苦しめられた! ああお前の勝ちだって! だから、もう聞くな!」


『………………』


「や、止んだ?」

「ほら、やっぱり聞こえてるんだよ。しかし聞こえてるならやっぱり俺に聞く理由が分からないな。無差別なら、ただ垂れ流してるだけって割り切れるんだけど」

 会話の合間に雀子は必死に装置を調べているが手応えはなさそうだ。これで別の世界に逃げられるなら話が早いものの―――誰も扱い方を知らない。それならまず選択肢になかった『いっそ本人に頼む』という手だって俺は取ろう。もうこれ以上、知り合いが死ぬのは見たくない。


『………………』


 スピーカーからはノイズのような音しか流れていない。スイッチは入っていてもそこにはもう誰も居ないようだ。当てが外れてがっかりしたか―――良く分からないが、もう俺達に構う事はないだろう。安心して脱出出来る。

「わ、わ、わ、わ! せ、センパイ、これまずいかも!」

「なんだ、触ったら何か開いたか?」

 雀子と装置の方へ振り返ると、画面いっぱいに文字化けの文章が広がっていた。びっくりした彼女は既にキーボードから手を離しているが文字列は勝手に入力されていく。

『遘√?縺雁燕縺ォ蜉ゥ縺代r豎ゅa縺ヲ縺?k縺ョ縺ォ縺雁燕縺ッ遘√r蜉ゥ縺代↑縺??ゅ←縺?>縺?▽繧ゅj縺?縲√♀蜑阪?縺薙%縺ョ莠コ髢薙〒縺ッ縺ェ縺?□繧阪≧縲らァ√r蜉ゥ縺代m遘√?逵?繧翫◆縺?□縺代↑縺ョ縺?縲ゅ←縺?@縺ヲ遘√r襍キ縺薙☆縲ゆス墓腐遘√r襍キ縺薙☆縲らァ√′菴輔r縺励◆縲ゅ♀蜑埼#縺ォ蜊ア螳ウ繧貞刈縺医◆縺九?ゅ♀』

 終わらない、終わらない、消えない、切れない。延々と続く文字列の意味を解する事は出来ない。ただ何となくそれは、恨み言のように思えた。

「な、何だよ。これどうにか切れないか? 電源、そうだ電源を落とせば消えるだろ!」

「電源って何処!」

「導線を辿ろう! なんか、嫌な予感がする! 手分けするぞ!」

 

『蜑阪?譛ャ蠖薙↓驟キ縺?・エ縺?縲らァ√?蜉ゥ縺代r豎ゅa縺ヲ縺?k縺ョ縺ォ縺ゥ縺?@縺ヲ縺昴l繧貞女縺第ュ「繧√※縺上l縺ェ縺??らァ√?縺溘□逵?繧翫◆縺?□縺代□縲らァ√′縺雁燕驕斐↓菴輔°縺励◆縺具シ溘??遘√′縺雁燕驕斐?證ョ繧峨@繧帝が鬲斐@縺溘°縲よョコ縺励◆縺九?∝眠繧峨▲縺溘°縺雁燕縺ッ縺雁燕縺ッ縺雁燕縺ッ縺雁燕縺ッ?√??遘√?縺雁燕繧貞勧縺代※縺サ縺励>縺?縺代↑縺ョ縺ォ?√??遘√?縺薙%縺ォ螻?k?√??縺薙%縺ォ螻?k繧薙□?√??隕九※?√??遘√r隕九▽縺代m?』


「雀子!」

「こっちにない!」

 無数の線を辿っても、大抵は地下に潜って届かない。無理やり手元まで伸ばす為に導線を引っ張る? そんな、少し引っ張ったくらいで抜けるようなプラグだろうか。見た目にも太いし、とてもじゃないが腕力で抗える気がしない。無理やり引きちぎる? 引き千切る? 

「雀子! 尻尾で切れるか!」

「え!? き、切れると思うけど」

「じゃあ頼んだ!」

「か、感電しないかな? ボク、尻尾の材質を調べた事なんてないけど……」


『縺昴≧縺九?ゅ♀蜑阪?遘√r蜉ゥ縺代※縺上l縺ェ縺??縺?縺ェ縲ょ勧縺代r豎ゅa縺溽ァ√′諢壹°縺?縺」縺溘?よュサ縺ュ』


 雀子は尻尾を構えると、床に潜る大量の線めがけてその切っ先を突き刺す。




 閃光が―――俺達を包み込んだ。




  



















「…………………うっ。く」

 記憶はハッキリとしている。意識を失っていた事も分かる。確か雀子が床に潜る大量の線を切ったら、装置が放電を初めて―――それで、爆発が。

「…………」

 忘れていた違和感に身体が気づき始める。痛みはない。そして体も軽い。それは至って健康状態である事の証かもしれないが、それは俺が五体満足の人間だったらという仮定に基づいている。すっかり忘れていた。この四肢は作り物で、切り離された瞬間に痛覚を喪うのだと。

 だから身体も軽いのだと。

「………………」

 すぐ近くで灰になっている何かが、俺の足だろうか。最早起き上がる事も出来ない。何処を見ても常に尻尾が映っており、どうやら雀子が守ってくれたらしい事は分かった。そのまま視界を横に倒すと遠くで雀子が倒れているのを見つけた。

「雀子、大丈夫か!?」

 返事がない。

 

 当然だ、彼女の身体は黒焦げになり、ぷすぷすと煙を上げているのだから。


「………………」

 ここまで来て、希望的観測を持つ気にはならない。既に一度裏切られた。尻尾には傷一つない事からこれで身を守れば彼女は助かった筈だ。殺したのは―――俺だ。俺が、あんな提案をしたから。

「…………………」

 二回。二回だ。二回も俺は後輩に守られ、死なせてしまった。そして両足も失った。真紀さんはその内死に、響希はここまで来た事を後悔するような惨たらしい死に方をし、俺には……何もない。

「は、ははは。あははははあはは! あははははあああああはははは!」

 笑いが止まらない。おかしいという言葉はこんな状況の為にある。笑いが止まらない。痺れたように声が震え、顎が震え、ありったけの感情が口をついて出る。

「はははあはははははは! あーはははははあああああはははははあああああああああああああ! ああああああああああああああ! ははははあああああああああああああああああああああああ! あああああああああああああああ」

 真紀さんのループが羨ましい。何が苦しいだ。どんな目に遭ってもリセットされるなら苦しい筈ないじゃないか。俺は、俺だってループしたい。やり直したい。こんなどうしようもない自分を否定して、愚かな選択をなかったことにして、一から全部やり直したい! やり直せるならそうするべきだ!

「あああ ああああああああ! あああ……ああああああ………………はああああ」

 視界がどんどん暗くなっていく。派手に放電させたせいで照明系統にも影響が及んだのだろうか。どうでもいい。眠らせてくれ。もう何も見たくない。この真っ暗闇の中で、眠らせてくれ。

 誰も。どうか誰も、俺を起こさないでくれ。

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