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死生刹那

 パソコンを破壊しても機能停止していないなら担任の先生は間違いなく生身の人間だ。だからこそ居場所が掴めない。何処に逃げたのか。

「うちの担任の家って誰か分かるか?」

「ボクに聞かれても……」

「雀子には聞いてないかな……」

「家に帰るって、家なんて設定されてないんじゃないの? 慌てて逃げたくらいだから遠くまで……あーでも、何処に居るんだろ。アンタ薬使えないの? こういうのって色んなルート潰せば見つかるんだけど」

「無茶苦茶言うなよ」

 担任の先生が研究所出身の生者なら、何処へ逃げる? 周りの教師達が一斉に機能停止した時点で俺達が何をしたかを把握し、ここに来ると察した? その場合逃げるとするなら何処だ。外は遭遇するリスクがあるから考えにくい。真紀さんの存在を知っているなら猶更、知らなくても俺達と鉢合わせるリスク(そもそも学校に向かったのは真紀さんの助言があったからだ)があるから学校の外には行かないと思う。だが学校にはいなかった。俺が探し回って見つからなかったのだから居ないと思う。

 職員室に盗聴器があって俺達の動きを早めに把握していたならこの話は無駄に終わるが、響希がパソコンを破壊するなんて俺達も想定出来なかった行動をケアしているなんて思えない。それに、普段は何の意味もない仕込みだ。

 だからそれらを排除する。つまり学校から出ず、且つ鉢合わせるリスクもなしに脱出するには―――



 視線が、地下収納っぽい入口に向けられる。



 行くのか、俺は。

「心当たりがありそうね、泰斗」

「…………あるけど、行きたくないな。さっきも言ったけど何もかも終わる可能性が高いから。まあ……でも、条件が違うから今度は大丈夫、という見方も出来るけど」

 先輩達は先にこの異変に気付き調査していたという点では頼れるが、戦力的には殆ど普通の人間だった。だが現実はどうだ。かなり無理なお願いをする事になるかもしれないが、ここには一刀斎真紀という女性が居る。こちらは約束を果たしてもないのにやたら助けてくれるから……凄く申し訳ないのだが、せめてあの人が居ないと再度向かう気にはならない。

「ボクじゃ駄目なの?」

「雀子は……俺を助ける為に身代わりになったんだ。それで多分……確認はしてないけど…………」

「…………でもあの人、何処に行ったか分からなくない? 確か、家ってあっちの方向じゃなかったわよね」

「お前も気づいてたのか。そうなんだよ。あの人の家は反対方向なんだ……結構時間経ってるしもしかしたら家に帰ってるかもしれないけど、向かってみるか」

 それと一応、町中で担任の先生を捜索。もういい時間だから殆ど人気もなく、探すだけ時間の無駄だとは思うが。殆ど人通りがないとはいえ夜は雀子の尻尾が隠せなくなるので窮屈な移動を強いられた。真実があってもなくてもこの尻尾が公に知れ渡るのは都合が悪い。何かあってからでは遅いのだ。

 また海岸にやってくる事になろうとは思わなかったが、別に『三つ顔の濡れ男』が待機していてラウンド二が始まったりはしない。真紀さんが留まっている事は期待していなかったが、彼女はずぶ濡れになって、砂浜に座り込んでいた。

「真紀さん!」

「あー………………君達か~。学校に何もなかった? そんな筈無いと思ったけど」

「あったんですけど、危険な場所に行く事になりそうなんで真紀さんに同行してもらいたいんです……まだ約束果たしてないですけど、大丈夫ですか?」

 真紀さんは振り返らない。砂浜の上で胡坐を掻いたまま、水平線の向こうを眺めている。

「あー。いいよ。必要な事なんでしょ。んー。先に行っておいてくれる~。後で向かうから」

「……どうかしたんですか?」

「…………癖みたいなもんでさあ。今、何回目だっけ。繰り返すの、もう覚えてないなあ。うん、時々さあ、外の世界が恋しくなるんだよね。繰り返してるせいでこの島に閉じ込められてる。何でもないよ~。気にしないで」

 なんと言葉を返したらいいか。まるで生きてもいないし死んでもいない気分なのだろうか。自分の事なのに繰り返した回数すら覚えられないのは相当重症だ。声音はいつもの調子なのに、魂が抜けている。脊髄だけで喋っているというか。

「真紀さん」

「大丈夫。いつもの事だよ。前もやった。その前もやった。あー、その前はどうだったかな。うん。やっぱり習慣だ。気にしないの。別に関係ない。誰も死なないし、誰も関係ないし、あー。うん。ほら、行った行った」

「…………泰斗、行こ。私達じゃ無理だよ」

 あの人は俺の恩人だ。たとえこの世界が死人だらけでも、この島で最初に俺を助けてくれたのは確かに真紀さんである。何とかして助けたい。だけどその前に自分を救えときっと怒られる。

 なんて、無力なんだろう。























「お待たせ。じゃ、行こうか」

 職員室に隠された梯子前で待機していると、抑鬱状態としか言えないようなテンションで真紀さんがやってきた。手には杖を一本持っているだけ。海岸で黄昏ている時とはまた違った落ち着きようを見て、雀子は反応に困っていた。

「ど、同一人物なの?」

「大丈夫ですか?」

「ふん。君なら分かる筈だよ。ちょっと酒を引っかけただけ。さ、危ない場所へと行こうか」

「一刀斎真紀さん。貴方この場所については―――えっ」

 響希の声は果たして届いていたのだろうか。喋っている最中に真紀さんはぴょんと飛び降りて奈落の底へと降りてしまった。そこに梯子があるのに。一直線で。

「ちょ、ちょっと!?」


『心配しないでー。私は下で待ってるからゆっくり降りてきなよ』

 

 やっぱり普通の人間じゃない事は三人の間でも確認出来た。雀子の尻尾は破壊不能らしいが、この人なら破壊出来るかもしれないと思わせるような凄みがある。それくらい、ドン引きした。

「雀子、悪いけどお前はまた後ろな。尻尾が絶対邪魔になるから」

「これ、そもそも入るかな……?」

「入らなかったら無理やり壊して入れよう。じゃ、いつもの感じで」

 最初に俺が入ったら、次は女性陣とさっきやった流れだ。だが今回は先に真紀さんが待っている。それだけである程度は安心している。三姫先輩も岩戸先輩も誰も居ないけど、真紀さんが居るなら何とか…………駄目だ。突如として島が終わったあの記憶がフラッシュバックしている。不安が拭いきれない。

「ま、真紀さん! 聞いてますか!?」


『はい。何?』


「真紀さんのループの中で、この島全体が崩壊したみたいな事って何度かありましたか?」


『覚えてるのは三六回くらいかな。まー、そうそうある事じゃないけど、珍しいもんでもないよ。何があったか知らないけど、世界なんて案外呆気なく壊れちゃうんだから……不安に思う事はない。ところで、この先には何が居るの?』


「―――真紀さんも知らないんですか? なんか、白無垢を着たお化けが居るんですけど!」


『へ? 白無垢? お化け? 何それ』


「え」

「ちょっと、なんか雲行き怪しいわよ」







『ごめん。そいつとは一回も遭遇してないかも。うん。お姉さんももう年だけど、全然記憶にないなそんな恰好。悪いけどもうちょっと特徴を聞かせてよ』

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