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白亜の真実

「わあ、ここがセンパイ達が拠点にしてたとこなんだ」

「今更こんな所に来てどうするつもりだ? 私達は幾度となくここに来て、何もない事を知ってる筈だぜ。作業所と休憩室があるだけだ。パソコンの中なんて見れねえぞ」

「もしかしたらパスワードを解除してるかもしれないだろ」

 彼女はこうなる事を予期していたのかもしれない。じゃなかったら『黒夢』と一緒に鍵まで持ち込まない。或いはそれも本体が言った指示なのか……なんにせよ、今の俺達が探索出来ていない所が何処かと言われたら、ここだ。『仮想性侵入藥』によるカンニングすらしていない。だから情報が眠っている可能性も非常に高いとみている。

「物置に何かあったりしない? パソコンの事はボク分かんないから何か探してみるねー」

「あそこ埃やばいから蠍女はくれぐれもくしゃみに気をつけろよな。さて、ログインか」

 パスワードは、設定されていない!

 だがどのファイルを見ても関係のありそうなデータは残っておらず、真っ白だ。パソコンはデータを削除しても完全には消せないらしいが、それをサルベージする技術が俺達にはない。それを知っていたから芽々子もパソコンの画面をむき出しに平気で捜査していたのかもしれないが、もどかしい。

「おい、ちょっと貸してみろよ」

「それっぽいのは何もないぞ。響希がパソコン強いのか?」

「普通くらいだよ普通くらい。だけどな、気になる事が生まれちまった。芽々子の奴がテスト勉強にクラスメイトを行かせた理由だよ。薬を使って何度もやり直していた頃―――その時お前が居たかどうかは知らないが、テストは絶対にあった筈だ。ああなる事も当然知ってた。なのに行かせた」

「知ってたかどうかを証明する方法は俺達にはないけどな。戦う時期が違っていたって事もあるだろうし、後はアイツが想定外を嫌ってたから流れを分かっててもとりあえず進めたとか」

「その想定外を嫌うってのもおかしな話だ。薬で未来をカンニングしてサポートするのはお前もやってきた事だ。それを何回もやったならこの流れはどうあがいても失敗するって分かりそうなもんだろ」

 文句をいいつつ雪乃が開いたページは学校のファイルだ。一年生から三年生全体の成績が記録されており、一年生の直近のページを見れば見慣れた点数がある。最初のページは全教科の累計点数だが、クリックするとそれぞれの教科毎の点数、更にそれをクリックすると問題用紙のどの問を間違えたかまで詳細に記録されている。テスト用紙がアップロードされているのか?

「…………担任達は世介中道会の手先だから、芽々子もそうだったって事か?」

「や、それは違うだろうな。だったら世介中道会という言葉をもっと早く知ってた筈だ。知ってたならお前だって薬を使えない状況にはならなかったんじゃないか?」

 響希の家族が危なくなってしまったので色々と頑張った。俺が薬を使えなくなった理由は要約するとその一言に尽きる。世介中道会について知っていたら回避出来たかは……分からない。岩戸先輩と繋がりがあると事前に分かっていないと厳しいと思うが。

「俺達は怪異の餌なんじゃないかって話の延長だ。私の仮説だが、これは…………おい、蠍女! もっと静かに物置漁れねえのか!」

「雪乃」

「おお悪い。仮説だが、餌ってよお、単に育てりゃいいってもんなのかなって。浸渉ってのは最高の餌とする下準備らしいじゃねえの。テスト勉強もよお、そういう下準備の一環じゃねえのか? ほら、例えば家畜はよお、美味しく食べる為に丸々太らせるだろ。ニュアンスはそんな感じで」

「…………要領を得ないな。その例えなら家畜を育ててる時に食べられたぞクラスメイトは…………って」

 島火絵里とうかえり。すり替わったクラスメイトで、分析する為に雀子に殺してもらったのは記憶に新しい。テスト本番前に殺害されたので点数がある筈ないのだが、記録されている。

 それだけじゃない。他にも殺されたクラスメイト達の点数が記録されている。柳木すら例外ではない。共通点は…………点数が低い事、だろうか。

「…………おい見ろよ。ここのボタンで二年生と三年生を排除すると、今の一年が昇級してからのテストの点数まで出て来るぞ。次のテスト、お前は数学七〇点だ」

「……いや、待て。直近のデータを戻していくとテストの点数に誤差が生まれてる。俺だけは後から芽々子が修正を加えてたんだな。だからこれも絶対じゃないんだろうけど……」

「他に修正した様子はねえな。しかもよく見りゃ、お前のはそもそも用紙がアップロードされてねえ。世介中道会と繋がりがあんなら手に入る筈だからやっぱ関係ねえんだ」

「何で俺だけ……」

 外から……来たから?

 だがそれよりも恐ろしい事実として、クラスメイト達はまるでロボットのようにテストのどの問題をどう間違えてどんな点数を取るか、全て予め設定されている事だ。そうとしか言えない。未来の分まで記載されているなら。

「…………」

 なんとなく、入り口のハッチを閉めるボタンを押した。知ってはいけない事を知った気がして、その罪悪感から。




「先輩! 大変大変大変大変大変!」




 あまり使っているイメージすらない物置からバタバタと物を散らかして雀子が飛びついてきた。尻尾は元から収まっていないから大した被害はないが、束ねておいてあったケーブルや積んであった布、作業台の予備パーツなどが雪崩のように外へ飛び出している。

「なんかこいつそそっかしいな」

「雀子、どうした?」





「地下に続く扉を見つけたの! は、梯子があってさ……凄い長いんだけど…………!」





















 物置から続く梯子は確かにあったし、その入り口の異様な雰囲気に俺達は全員気圧されていた。真っ白い四角い空間が穴のように続いている。底は見えない。正確には底も白いから全体が把握できないと言った方が正しい。光源がなければ幾ら白かろうと暗い筈なのに、その白さを強調するように明るいのも妙だ。

「…………降りてみよう」

「さっき尻尾だけ下ろしたけど、ボクの尻尾じゃ短すぎて床に触れなかったっ」

「……尻尾が邪魔だし、雀子は殿を頼む。俺が先に降りよう」

 梯子を掴んでゆっくりと降りる。底が見えないとは言ったが降りていく程明るくなっていくので恐怖はない。真上を見ると雪乃のスカートの下から薄緑のパンツが…………いや、これは事故だ。二人を危険に晒すまいと先陣を切っただけ。

「おい、どうした?」

「…………ごめん」

「はあ?」

 人格が切り替わっていて助かったか。本来の人格なら気づいただろう。女性はきっと、視線に敏感だ。五分ほど梯子を下りた気がする。速度は自分でも遅いと思ったが、それにしても長かった。足が床についたと思った時には思った以上の疲労が足に来ていた。ちょっとよろめいてしまう。

「まーじで長いなこの梯子。どんだけだよ」

「梯子に尻尾が絡まった︿╱︿︹_/▔▔!」

「本当その尻尾って不便だな。雀子、俺を引っ張れ。手を貸すよ」

 尻尾が絡まったというより横に太すぎて引っかかっていただけだ。力任せに引っ張ると梯子を一部切断しながらもなんとか残りが落ちてくる。これで全員、下に降り切った訳だ。周囲を改めて見ると、真っ白い景色が広がっている。左方と正面に灰色の扉、曲がり角に合わせて地図が置かれている。扉は自動扉っぽくカードキーがないと開かないようだが、雀子の尻尾で簡単に破壊出来た。





 広がっていたのは、無数のパソコン。






 モニターの上部に顔写真が取り付けられており、それぞれが『学生』『大人』『管理者』で区分けされている。人っ子一人いないがそれぞれパソコンは自律的に稼働しており、今も無数にコマンドが入力されている。

「…………な、なんだよ、これ」 

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