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スーサイド・レコード  作者: 日常の音ずれ
第1章 死後生前編

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第08話 初めての狩猟

 先日僕が告白をした際、リイシャは快く受け入れてくれた。

 僕の人生に桃色が射し込む兆しが見え、浮かれた日々を過ごしている。


 なんせ毎日早朝、二人っきりで魔術の練習に勤しんでいるのだから。 

 そう、二人っきりなのだ。

 付き合っている男女が二人っきり、何も起こらないはずはなく……

 

 などということはない、リイシャはいたって真面目に練習している。


 えっ? 

 僕たち付き合ってるんだよね?


 と言いたくなるが、明日は人生で初めて命をかけた戦い、狩りをするのだ。

 もちろんおじさんが付いて来てくれるが、この状況で浮かれている僕がおかしいのだろう。


 リイシャとイチャイチャできると思っていたのだが、こればっかりは仕方がない。

 そういうわけで、僕も魔術の練習を真面目に頑張っている。


 リイシャは自分のことをお姉さんなんだと言っていたが、昔はよく僕に頼っていた。

 ならば僕の頼れるところに惹かれたのかもしれない。

 そう思うとなおさら頑張らないといけない気がしてくる。

 だが魔術に関しては僕が頼る側になりそうだ。


 チラッと横目でリイシャを見ると、おじさんから以前護身用にもらった短剣を、風を使って鳥のように操っている。

 魔術教本には”風を起こす”と書いてあった、”風を操る”ではないのだ。

 著者が間違えて書いてない限りは、リイシャの技術レベルが初心者のレベルを優に超えていることは明々白々だ。


 追いつける自信がない……


 いや、弱気になってはダメだ。

 確かにリイシャの方が繊細に扱えている。

 でも威力は僕の方が上だ、やりようによっては十分に勝てる。


 とは思うが、リイシャはいつも涼しげな顔で魔術を使っている。

 一発一発顔をしかめている僕とは違う。

 もしかしたらリイシャが全力で魔術を使えば、大地をえぐり、木々を一掃するほどの暴風を生み出すことができるのではないか?


 さすがにそれはないと思いたい。




    ▽▽▽




 翌日――


 今日は僕とリイシャにとっての人生初の狩猟の日。


 魔術は数発撃っただけで魔力枯渇してしまうので、早朝の魔術練習はお休みだ。


 昼過ぎ、僕たちは昼食を済ませて武器庫に来ている。

 魔術が使えるからといっても、やはり武器は必要らしい。

 一応おじさんからもらった短剣があるが心もとない。


 かといって使い慣れてない武器を持って行ったとしても、邪魔になるだけなのではないのかと思ったが、おじさん曰く――


「最初の一週間はそれぞれに合った武器の選定期間だから、使い慣れてない武器を持って行くことは想定内だ。むしろ、初日から魔術を使えて戦える状態になっている方が想定外だ」


 というわけで僕たちはそれぞれ武器を選んでいる最中だ。


 そう、やっと武器選択パートまで来たのである。

 ゲーム内時間で約九年……


 え?

 お前どんだけゲームやってんだよって?

 やめかたがわからないんだから、仕方ないじゃないか!


 というかこの生活はとても気に入っている。

 日々汗水垂らして働いて、好きな子と一緒に鍛錬に励む。

 なんのストレスもなく清々しい日々を過ごしているのだ。

 リアルより充実しているといっても過言ではない。


 それにこのゲーム世界で九年以上を生きていても、今の僕が死んでいないということは、現実の僕も死んでいないというわけだ。

 ゲームでの時間経過と違って現実では数時間程度しか経っていないのだろう。

 ゲームと現実の時間経過に差があることは、どのゲームでも起こりうることだ。


 たったの数時間で数年単位の幸せな時間を過ごせるとなると、このゲームは神ゲーのレベルを超えている。

 ゲームをやめたとき、現実への悪感情が増して自殺する人が出るのではないだろうか?


 そう考えるとこのゲームは人の生死を左右するモノで、今すぐ廃盤にするべきでは?

 まあ、やめかたわからないし、もうしばらくはプレイし続けるけど……


 いや、ゲーム内とはいえ九年間毎日過ごしてるのに、現実では数時間しか経っていないなどあるのだろうか?


 いくらなんでも進行速度遅すぎる。

 それに未だにゲームやめれる気配ないし……

 も、もしかして、これが今流行ってる異世界転生か!?

 な、なんてことだ、なぜ今まで気がつかなかったんだ!

 くっ、こうしちゃいられない、きっとこの世界は僕の助けを待っている!

 こんなところでイノシシ狩りに勤しんでる暇なんかない!

 今すぐにでも旅立とう。

 もちろんリイシャも連れて行く。

 厳しい旅になるだろうが、僕が神様からもらった転生特典さえあれば、きっと守り切れる!

 よしリイシャにも、このことを伝えよう!

 きっと快く共に来てくれるはすだ!

 とその前に、転生特典の確認しないと……

 僕ってなにもらってたんだっけ?

 ……あれ?

 僕って何かもらった記憶がないけど?

 てか神様に会った記憶すらないけど?


 一応念のため、レコードカードを見てみると――


 名前:ミル・ノルベル

 ランク:G  職業:未成年  所属:

 依頼内容

 ・

 マジックレコード

 ・エレクトリック

 スキルレコード

 ・


 やはり、転生特典らしきものは見当たらない。


 加えて、この世界に来て初めて見たときは依頼が二つと、ほにゃららレコードみたいなものがあった気がする。

 他にも何かあった気がしたが、それらが全て消えている。


 ただ大方予想はついている。


 僕は以前、とある女性に後頭部を殴られた。

 その人は多分、いや、間違いなくリイシャだろう。


 そして目が覚めると草原にいて、そこには小さいリイシャがいた。

 つまり今この世界は、気を失う前の世界の過去ということだろう。


 いきなり転生して、いきなり過去編など……

 そんなつまらない転生物語は聞いたことがないし、だいたいあの類は所詮妄想の産物。

 どう考えてもこの世界はゲームの世界…………


 ここで築き上げた関係も紛い物なのだと思うと、少し切なく感じる。


 どちらにしろ転生特典のない異世界転生は文明レベルを落とし、一般人では到底生きていけない過酷な環境に身を投じることになる。

 ただの一般人である僕には生きていく術などないのだ。


 だから今は、この世界(ゲーム)を楽しもう。


 自分の気持ちに整理をつけて武器選びを再開する。


 何が良いだろうか?

 せっかく楽しむのだ、カッコイイ武器にしよう。


 武器庫内を見回すと槍と弓が目に入り、手に取って思考を巡らせる。


 弓は僕の低い身長というデメリットを補って余りある射程がある。

 しかし、近接戦闘時に扱いづらいはずだ。

 一応『エレクトリック』が僕にはあるが上手く扱えるわけでもないし、頼り切るのは良くない。


 となれば槍の方が良いだろう。

 近接武器で、長さもある。

 うん、槍にしよう。

 武器なんてどれも上手く扱えると思えないし、やっぱカッコいいのが最高に決まってる。


 僕が槍の触り心地を確かめていると、リイシャが興味気に歩み寄ってきた。


「それにしたの? なんで?」


 頼れる兄貴肌を見せつけるために理知的な部分を見せようと、武器を選んだ理由を取り繕って語る。


「槍は他の武器と比べて長いから、身長が小さい僕の弱点を補ってくれるかなと思って」

「本当に?」


 しかしリイシャは僕の心を当たり前かのように見透かし、目を細めた。

 リイシャに嘘は通じないだろうと観念して、本当の理由を口にする。


「ごめん、カッコイイと思ったから」

「じゃあ、私も見た目で選ぼ」


 リイシャは武器庫内を歩き回り、すぐに一本の武器を手に取った。


「私はこれにする。なんてったってカッコイイからね」


 リイシャが手にした武器は、四尺ほどの長さの長剣だった。

 この長さは普通の剣よりも数十センチは長いと見える。

 リイシャの身長は僕と同じ150センチなので、ただでさえ長い剣がなおのこと長く見える。


「ねぇリイシャ、本当にそれにするの? さすがに大きすぎると思うけど」

「大丈夫でしょ。それにお父さんが大きい武器使ってて、私も使いたくなったの。無理そうなら諦めるけど、今日は別にどんな武器を使ってもいいんでしょ?」


 リイシャは、武器庫の入口で佇むおじさんに視線を移した。

 承諾を求められているおじさんが少し困惑に眉尻を下げる。


 さすがに大きすぎると思っているようだが、この一週間は武器の試用期間、頭ごなしにダメだとは言えないのだろう。


「わかった。ただ一つ条件がある」

「何?」

「父さんが許可をしてないときは背中に担いでおくこと。手に持っていたら動きづらいし、下手に振り回すと危ないからな」


 おじさんは顔を顰めてリイシャの瞳を見つめる。

 僕の選らんだ槍は性能上、身長より大きい武器だ。

 しかしリイシャの選んだ長剣は本来、体の大きさに合わない武器である。

 おじさんは武器の扱いに条件を付けることを、リイシャから反対させない意思を固めているようだ。


「うん。いいよ」


 大した条件ではないと踏んで、リイシャは大きく頷いた。

 おじさんは反対されなかったことに胸を撫で下ろす。


「じゃあ二人とも武器が決まったみたいだし森に行くぞ。前に話したことは忘れてないよな?」

「もちろん」

「はい」

「よし、ついて来い」


 おじさんは白い歯を見せてニカっと笑うと、武器庫の扉を開け放った。




    ▽▽▽




 僕とリイシャはおじさんに連れられて森へと足を運んだ。

 以前の反省を活かしてリイシャと共に周囲へ気を張っている。


 リイシャは長剣を担いで軽々移動している。

 最初は心配だったが、よくよく考えてみれば僕を担いで移動できるのだから、これぐらいわけないのである。

 

「いいか二人とも、獲物を見つけ次第俺に報告。俺がそいつを弱らせるから、あとは二人でやれ。だが油断はするなよ、いいな?」

「うん」

「はい」


 今日の狩りはおじさんが弱らせたところにとどめを刺すだけ。

 リイシャは不満そうだったが、しぶしぶ了承していた。


 イノシシ程度なら魔術のある僕たちに負ける要素はないだろうが、武器の試用が目的なので僕はありがたいと思う。

 

 二時間は捜索しただろうかというとき、茂みの向こうにヌタ場で泥遊びをしているイノシシを見つけた。


 予定通りにおじさんへと報告する。

 おじさんは大斧の柄に手を添え、抜き足差し足でイノシシへと忍び寄った。

 僕たちを一瞥し、勢いよく大斧の横腹でイノシシを殴り飛ばす。


 ゴギッ


 イノシシの骨が折れたのだろう、耳心地の悪く鈍い音が鼓膜を刺激した。


 今ので死んだのではないか?


 茂みに隠れて観察していると、イノシシがよろよろと力無く立ちあがった。

 足が震えており、今にも倒れそうだ。


「よし、どっちでもいい、やれ」


 これにとどめを刺すのか、気が乗らない。


 リイシャも同じことを思ったのだろう、眉間に皺を寄せて苦悶の表情を浮かべている。


 やりたくないのなら僕がしよう。


 僕が茂みから顔を出して背に担ぐ槍に手をかけると――


「ねえミル、私がやってもいい?」


 リイシャが発した予想外の言葉に、一瞬黙りこくってしまう。

 僕は唾を呑み込み意識を切り替えてリイシャに向き直る。


「うん、いいけど、大丈夫?」

「大丈夫……」


 リイシャは長剣を背から抜き構えてイノシシに詰め寄り、イノシシは鋭い目つきで睨み返す。

 リイシャが長剣の柄を両手で力一杯握りしめるのが傍から見てもわかった。

 そして憐れみを籠めて口を開く。


「ごめんね」


 長剣が寸分違わずイノシシの首を両断した。

 おじさんが弱らせていたとはいえ、あっさりしたものだった。


 切れ味凄っ!

 ていうかイノシシの首を両断するってやばくない?

 明らかにあの長剣の方が細いし、折れてもおかしくないと思うんだけど……

 もしかして相当な業物なのかな?


 僕が長剣の切れ味に見とれていると、リイシャが倒れたイノシシに視線を落として唇を噛んだ。


「ねぇお父さん。このやり方やめない?」


 言葉の意味を考え込むようにして一呼吸置き、おじさんは口を開いた。


「……かわいそう、だからか?」

「うん。それに剣を振って確信したけど、私もミルもイノシシには負けない」

「確かにかわいそうだが、お前たちに何かあってからじゃ遅いんだ」


 傍から見れば甚振(いたぶ)って殺したようにも見えるかもしれないが、おじさんの言う通り安全が第一である。

 だがリイシャは真剣な眼差しでおじさんを見つめ返した。


「でも、勝てる相手をいちいち弱らせるのって、命を大切にしてるようには思えない。私はお父さんとの約束を守りたい」


 僕は先日おじさんからレクチャーを受けた時はイノシシの死に動揺していたが、既にその死を受け入れてしまっていた。

 しかしリイシャは真逆で、先日以上に今回の死に深い意味を見出しているように見える。


 両者を横目でチラッと見ると、二人の視線は儚くも力強い真剣な目をしていた。

 数秒経った後、おじさんが口を開く。


「わかった。だが狩りをするのは一人ずつで絶対俺とペア行動。もう一人は付かず離れずの距離で安全を確保。いいな?」

「うん、ありがとう。ミル、ごめんね、競争はできないや」

「僕もそっちの方がいいと思う」


 先ほどまったく違う内容を考えていたとは思えないほど、今の言葉は自然と口から出てきた。

 リイシャの気持ちを汲み取らなければならないとでも思ったのだろうか、自分でもわからないが上手に狩りをする競争はやめだ。


「じゃあ、次の獲物を見つけたらミルの好きなようにしていい。何かあったら俺が助けるから安心しろ」

「はい、お願いします」


 僕たちは木漏れ日を浴びながら、捜索を再開した。




    ▽▽▽




 今、僕たちは武器庫で今日使った武器の手入れをしている。

 あれから僕とリイシャは二匹ずつイノシシを狩った。


 僕は一匹目のとき、最初は槍で応戦していたが決め手に欠けたのでおじさんに一度タンクになってもらい、その隙に『エレクトリック』を放ち仕留めた。

 二匹目はおじさんの力を借りずに一人で打ち負かすことに成功。


 リイシャの二匹目は、『ウィンド』を使ってイノシシの目をつぶし(イノシシは視力に頼っていないようだが目に土が直撃するのは耐えられなかったらしく)、よろめいたところを素早く接近して首を両断。

 あまりにも流麗な一連の動きに僕は口をあんぐりさせてしまい、おじさんも同じ顔をしていたのを鮮明に覚えている。


 その後リイシャは――


「これちょっと重いかも……あっそうだ! 風で支えれば軽くなるんじゃない?」


 と独りで合点がいったように頷いていた。


 三匹目、長剣を本当に風で支えながら戦ったようだ。

 一、二匹目のときに比べて長剣を振るう速度と重さが明らかに上がっていた。

 そして、瞬く間にイノシシの首を両断。

 それを見た僕とおじさんは、再び口をあんぐりさせることになった。


 武器の手入れを終えると、リイシャが武器の物色を始めていた。


「リイシャ、どうしたの?」

「もっと長いのないかなぁと思って」


 今使っている長剣より長い剣となると、リイシャの身長を超えてしまうのではないのだろうか?

 僕は驚愕に目を見開き、リイシャに問いただす。


「えっ、もっと長いの使うの!?」

「うん、そうしたいけど、なさそう……お父さん、もっと長い剣ってないの?」


 リイシャは懇願するようにおじさんを見上げるが――


「あれ以上にか!? ないと思うが……」

「そう」


 眉尻を下げ、口をすぼませて落胆する。

 おじさんは目をギュッと瞑り少しの熟考の末、口を開いた。


「父さんが新しいの造ろうか?」

「造れるの!?」


 リイシャは瞳を輝かせて、グイッと顔を上げる。

 おじさんは胸を張り得意げに口を開く。


「リイシャが今日使った剣は、昔に俺が造った物だからな! 父さんが世界一の剣を造ってやる!」

「やったー! ありがとう! お父さん!」


 リイシャは地を蹴り上げておじさんへ飛びついた。

 頼られたことが嬉しかったのだろう、おじさんはニカっと笑いリイシャの頭を軽く撫でた。


 この歳頃の娘は何かと理由を付けて父親を拒んだりするので、二人の関係は微笑ましいモノなのだろう。


 ただ僕の抱いた感情は、"実に羨ましい"である。


 僕、付き合ってるのに、あんな大胆ハグされたことないけど……

 いや、あるか……

 あったとしても羨ましい、またハグしてほしい。

 僕ってリイシャと付き合ってるんだよね?


 彼女の親に嫉妬するなんて女々しいことはわかっている。

 だがこの光景を目の前にして、僕のことは愛してくれているのだろうか?


 と思ってしまう。


 自信がなくなってきた……

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