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スーサイド・レコード  作者: 日常の音ずれ
第1章 死後生前編

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第07話 雷の導き

 リイシャが魔術を使った。

 常人なら修得に一週間はかかるのだが、リイシャの所要時間はたったの六時間である。


 リイシャはこれといって何かが得意だということはなかった。

 どちらかというと不器用なことの方が多いイメージだったので、まさかこんな才能があったとは……


 僕が絶句しているとリイシャが目を弧に細め口角を上げて、スキップ交じりに歩み寄って来た。


「なんか~、わたし~、魔術を使えるようになるまで~、六時間もかかっちゃった~。こんなに遅かったらきっと~、ミルはもう使いこなしてるんだろうな~」


 本人は僕を煽りたいのだろう、ふにゃふにゃと体をうねらせている。

 ウザったい感じを出したいのだろうが、ただかわいいだけの子になってしまっていることに気がついてなさそうだ。


 それでもリイシャに先を越されたという事実が、僕のプライドをズタズタに引き裂いて膝から崩れ落ちた。


「そ、そんな、リイシャに負けるなんて……」


 リイシャは僕の様子に少し狼狽えた後、膝を曲げ目線を合わせて心苦しそうな顔をした。


「ごめん、ごめん。ミルより先にできたのが嬉しくて……だってミルに何かで勝ったのなんて初めてなんだし、許して、ね?」


 最近のリイシャは何か僕に勝てるモノを探していたので、今回勝てたことがよっぽど嬉しかったのだろう。

 先ほどまで僕とはまったく口を利いてくれなかったというのに、魔術が使えるようになったことをいの一番で僕に報告してくれたのだ。


 そのときのリイシャの笑顔は太陽のように眩しかった。


「別に怒ってないよ。ただ、リイシャが凄すぎて、ビックリしちゃっただけ」


 プライドが裂けたなどと口にしては一層プライドが裂けそうなので、素直に驚いた旨だけを伝えた。


「えっ! そ、そうかなぁ。私凄かった?」


 リイシャはほんのり頬を赤く染めて、自身の後頭部を摩った。


「うん、凄すぎて腰抜かしちゃったもん」

「えへへ~、私凄いかぁ。じゃあ今度から私のこと、もっと頼りにしていいよ」


 "もっと"か、リイシャのことを頼った記憶は全くないが、水を差さずに魔力子の運用について問いてみる。


「じゃあ聞きたいんだけど、魔力子ってどんな感じで操ったの?」

「あ~それはね。なんかこう、魔力子って言われてもわからないし、とりあえず体の中を風がグルグル回ってるのイメージして、ずっとやってたらできるようになった」


 リイシャは両手の人差し指を立てて回し、風が回るジェスチャーをしてみせた。


 リイシャの言動を見ていると、子どものときまで知能指数を大幅に低下させている気がする。


 風じゃなくて魔力子が回っているイメージをしないといけないのではないのか?

 魔力子をイメージするのが難しいから最初でつまずく人が多いのであって、魔力子が何かわからなくても扱えるのなら他の人たちも簡単にできていると思うのだが……

 本の説明から考えうるに風自体を起こしているのではなくて、魔力子を操った流れを利用して風を起こしているみたいなので、なおさら魔力子について理解しないとダメだと思う。


「うーん、ごめん。それじゃわからないんだけど」

「そう言われても、イメージが大事なんでしょ? イメージを言葉で表現するのって難しくない?」


 確かにリイシャの言っていることは間違っていない。

 自分がイメージしたものを他人へ明確に伝えることなど不可能に近いだろう。

 となるとリイシャの助けには期待できそうにない、自分でどうにかしなければ。


「そうだね、僕が逆の立場でも無理だろうし、リイシャは自分のことに集中してていいよ。それに僕だって負けてられないからね。すぐに追いつくよ」

「わかった。じゃあ私は、ミルが追いつけないくらい上手になる」


 リイシャはそう言い残してニカっと笑い、おじさんへ魔術を修得できたことを報告しに向かった。


 頑張らなきゃな。




    ▽▽▽




 日が沈み初めたので、家に帰り食事を済ませた。

 近場の空き地でリイシャと合同練習に取り組んだのだが、僕に限っては何も進展がなかった。


 リイシャはさらに上達して、風を使って自分の髪を結ったり解いたり、いじって遊んでいた。

 人の指と同じように繊細に風を操ることは初心者のレベルを超えているような気がする。

 リイシャの成長スピードの速さに唖然としていると、リイシャが少し気まずそうに顔を覗き込んできた。


「ねえ、ミル。魔術って適性も大切なんでしょ? 多分私の運がよかっただけだって、今日できなかったことは気にしなくていいんじゃない? きっと明日できるようになるよ」


 顔に出していたつもりはなかったが、リイシャは優しく微笑みかけて僕を励ましてくれた。

 リイシャに才能があっただけでまだ一日目なのだ、落ち込むほどではないと自分に言い聞かせて気丈に振舞って見せる。

 

「随分な余裕だけど、大事なのは上手く狩りができるかだから。僕はまだ負けたとは思ってないよ」

「そうこなくっちゃね。確かに私の魔術じゃ少し火力不足かもだし、もっと頑張ろ! 私も負けないから、じゃあね。おやすみ」


 リイシャに負けたことよりも、この程度のことで落ち込む自分に情けなくなり瞳から涙が零れそうになった。

 無理に笑って誤魔化してリイシャに別れを告げる。


「おやすみ」


 誤魔化せたはずだ……

 本当に頑張らないとな……




    ▽▽▽




 明朝、まだ日も登っていない時間帯。


 僕は村の外れで魔術の訓練に勤しんでいた。

 本来はあと六日かけ修得するのだから焦る必要はないのかもしれない。

 それでもリイシャは待ってくれない、いや待ってもらいたくない。

 僕が足を引っ張るようなことはしたくない。

 今日中に修得したい、でもやり方がわからない。


 ゲームや漫画、アニメなどを見てきたのだ想像力はリイシャよりも上のはず。

 そして魔術はイメージが大切、つまりリイシャにできて僕にできないことはない。

 だが魔力子のイメージが湧かない。


 リイシャは風をイメージしたって言っていたけど、なんでそれだけでできたんだろ?

 いや、今こんな屁理屈っぽいこと考えても仕方がないか、ちゃんとした知識がないんだし……


 とりあえずイメトレからかな。

 リイシャはできているんだし意地を張らずに素直になってみるか。

 リイシャは風をイメージしたから、僕は雷をイメージすればいいんだよね?

 雷が体に溜まるイメージ、雷が体に溜まるイメージ、雷が体に溜まるイメージ……


 雷が体に溜まるって何?

 雷って空から落ちてくるものだよね?

 それを体に溜めるってことは、雷に打たれるって意味だよね?


 死ぬイメージしか湧かないんだけど……


 いくら魔術教本に安全って書いてあっても雷を体に溜められるイメージが湧くわけないじゃん。

 ムリゲーだ……


 なんで雷の魔術なんか持ってるんだろ。

 最初はカッコいいしラッキーとか思ってたけどキツイわ……

 どうせ使えないなら雷じゃなくて静電気とか弱っちい魔術でもかわらないし……


 静電気……?

 あっ、そういえば静電気って教本に書いてあった気がする!


 手元に置いていた教本を急いで開き"『エレクトリック』使用方法"を読みかえしてみると――


 ”体内の魔力子どうしを激しくぶつけ合うことで、静電気を発生させると同時にエネルギーを体内に溜める”


 僕が勘違いしてただけで最初から静電気を溜めるように書いてあった。

 周りには誰もいないが、この事実は僕の顔色を赤色に染め上げるには十分であった。


 気を取り直して、体内に静電気を溜めるイメージを始める。


 静電気が溜まるってのは結構イメージしやすい。


 静電気を溜めるって下敷きを擦るやつでいいかな?


 日本人なら誰しもがやったことあるであろう小学生時代の遊び。

 規模は小さいかもしれないが間違ってはないはずだ。

 イメージさえ固まってしまえば後はただイメージを続けるだけだ。

 リイシャも言っていたことだし、成功する確率は高いだろう。


 僕はイメージをし続けた。

 下敷きを擦って髪が逆立つとき、バチバチと鳴るイメージ。

 車のドアハンドルに触ってバチッと弾けるイメージ。

 寒い日に重ね着をしてマフラーを巻くとき、バチチチと連なるイメージ。

 それら全てを溜め込むイメージ。


 視覚も聴覚も嗅覚も触覚も味覚も閉じて、ただただイメージを続けた。



 何時間たったかわからない、それでもイメージを続けた。




 空に夕焼けが浮かぶ中、無数の雷が男の体から上空へ駆け上がるように走った。


 バチンッ!


 空気を揺らし、空が割れるような轟音が辺り一面に響き渡る。


 光と音に当てられ呆気に取られていると、少し離れた岩陰から誰かが叫びながら走ってくる。

 視界が朧げで耳鳴りも酷くなっていたため、手に届く距離まで誰だかわからなかった。


「リイシャ!? なんでこんなとこ――」

「やったね、ミルー!」

「って、うお!」


 走ってきている人物がリイシャだと分かった直後、勢いをそのままにリイシャが飛びついてきた。

 ハグにバランスを崩してリイシャ共々倒れてしまう。


「ミル、凄かったよ今の! 体から光が空に上がったと思ったら、その後もっと凄い音がしたんだもん。ビックリしたよ!」

「僕もビックリしたよ。鼓膜が破れたかと思ったし」


 耳鳴りが収まり聴覚に異常がないか、リイシャの声に注力する。


「聞こえてるなら大丈夫なんじゃない? にしてもミルならあと五日はかかると思ってたんだけどなぁ」


 リイシャは馬乗りになる体勢のまま、目を細め口角を上げて僕に視線を落とした。


「昨日と言ってること違うじゃん」

「あれはミルを元気付けるために言った嘘。でも元気になったでしょ?」


 リイシャは立ち上がりながら、意地の悪い笑みを浮かべる。

 確かにあの言葉は僕に元気、というよりやる気をくれた。

 それにリイシャのアドバイスがなかったら今も魔術を使えていなかっただろう。


「うん、本当に助かったよ。ありがとう」

「ま、まぁ、私の方がお姉さんなんだし、当たり前のことをしただけだから。別に気にする必要ないから」


 少し頬を赤らめつつも堂々とした佇まいで、倒れている僕に手を差し伸べてくれた。

 その手を取ろうとして初めて体の異常に気がつく。


「ごめん、リイシャ。魔力が枯渇してるみたいで、しばらく体が動きそうにないかも……」

「しょうがないなぁ。お姉さんが家まで運んであげる」

「いいよ、ここで少し寝てたらそのうち動けるようになると思うし」

「遠慮しなくていいから」

 

 そう言ってリイシャは僕を――


 お姫様抱っこしたのだ。


「ちょっ、ちょっとまって! ほんとに大丈夫だから! すぐ動けるようになるから! だから下ろして!」


 恥ずかしさのあまり頬を赤く染めて抗議するが、リイシャはニヤニヤと目と口を弧に歪める。


「なになに~、はずかしいの? 大丈夫、大丈夫。年下の男の子が、年上のお姉さんに抱っこされるなんて普通だから」

「それは小さい子だけでしょ!」


 今の時刻はわからないが、もう日が沈みかけていた。

 トイレも食事も忘れるくらいに集中していたらしい。

 つまりこの時間帯は仕事終わりの人たちが帰宅する時間でもある。

 その中、村をお姫様抱っこされて移動となると恥ずかしさのあまり軽く死ねる。


 僕はほとんど動かない体でどうにか逃れようと、リイシャの腕の中で芋虫のように暴れまわる。

 だがリイシャは負けじと、釣り上げた魚を抱えるように僕を手放さない。


「私だけやられっぱなしは嫌なの。おとなしくして!」

「はぁ!? やられっぱなしってどういう……まさか、七年前のことまだ引きずってるの!?」


 七年前、汗だくで布団にダイブしたリイシャを抱えて殴られたことを思い出す。


「ちょっ、その言い方じゃ私がねちっこいみたいじゃん! 違うから! ちょうど今思い出して、ちょうど今仕返しできるからするだけ! てかミルがそんなこと言える立場なの?」

「うっ……わかったよ。せめてお姫様抱っこはやめてくれない?」


 七年前の配慮に欠けた行動と今回の一人で立つことすらできない状態に、リイシャに反論できず折衷案を出すと、一度地面に下ろしてくれた。


「はい、ちゃんと掴まっててよ」


 リイシャは少し膨れた顔で、背を向けてしゃがみ込んでくれた。


 おんぶも本当は嫌だが、運んでもらう僕に断る資格はない。

 仕方なくリイシャの背に身を預けようと手を伸ばすも、体をまだ上手く動かすことができず覆い被さるように倒れこんでしまった。


「おっと」

「ごめん! 大丈夫?」


 僕が謝罪を口にすると、リイシャは僕を背負って立ち上がり鼻をふんすと鳴らし自慢げに口を開く。


「大丈夫、このくらい。なんてったって私、お姉さんだし」


 リイシャはまたも自分が年上であることを主張する。

 リイシャの僕に対する対抗意識(?)に似た行動原理がわからず、問いかける。


「最近、勝ち負けとか年齢とか気にし始めたけど、なんで?」


 しかしリイシャはそっぽを向いて声量を下げる。


「ミルと少しでも、対等になりたいの……」

「どうして?」

「自分で考えて」


 辛うじて聞こえた答えに納得できるだけの内容が詰まっておらず、再度聞き直したがリイシャは頬を赤らめて答えを濁す。


 リイシャは頻繁に顔を赤らめている気がする。

 畑仕事をするときはいつも肌の露出が少ない服を着ているので、日に焼けやすい体質なのだろうか?


 畑仕事といえば、リイシャは力仕事を難なくこなしているし、今も僕を軽々背負っている。

 昨日不慮の事故で下着姿を見たときに思ったが、リイシャの体はとても引き締まっており意外と筋肉質だった。

 だが、今こうしておぶられてわかるがやはり細い。

 この体のどこにそんな筋肉があるのだろうか、不思議だ。


 それに髪からはいい匂いもする。

 同じ洗髪剤を使っているはずなのになぜだろうか?


 髪といえば初めてリイシャを見たときは肩に髪がかかる程度の長さだった気がするが、今のロング姿もとても似合っている。


 チラッとリイシャの顔を覗いて、とある日のリイシャと照らし合わせる。


「ほんと、綺麗な顔してるなぁ」

「えっ!?」

「えっ?」


 リイシャは僕へ顔を向けたが、目が合った瞬間に顔を背けた。


 まずいことに、声に出てしまっていたらしい。


 くそ、まさかこんな漫画みたいなことをしてしまうなんて。

 いやでも、仕方なくないか?

 こんな綺麗な顔が目の前にあったら、つい言っちゃってもおかしくない、不可抗力だ。


 リイシャは一層顔を真っ赤にした。

 秋に映える視界を埋め尽くすほどの紅葉よりも、甘くてすっぱい苺よりも、灼熱に燃え盛る太陽よりも真っ赤な顔をしている。

 そんなリイシャをかわいいと思いつつも、きっと僕も同じぐらい顔を赤くしているのだろう。

 自分の体温が上がっているのを感じる。


「い、いやいや、そ、そんな、こ、心にもないこと、言わなくて、いいから……」


 リイシャが目を泳がせて言葉を震わせるが、僕は言葉を取り消すつもりはない。


「いや、思ってるよ!」

「は、はぁ!? ……それ……本当?」


 傍から見ても整った容姿をしているのだが自信がないのはなぜだろうか?

 聞く人によっては嫌味に聞こえそうだ。

 だが本当に自信がないことは長年一緒に暮らしてきた僕にはわかる。

 だからこそ嘘はつかない。


「うん、本当。リイシャは綺麗だし、かわいいよ。ずっと前から思ってた」

「じゃあ、嘘だったらどうする?」


 リイシャが耳を赤くして僕へ意向を問う。

 リイシャのためなら、どんなことでも苦にはならない。

 だから僕は覚悟を口にする。


「なんでも一つ、言うこと聞くよ」

「それ前も言ってた」


 リイシャが目を細めて顔を向け、僕と目を合わせるが今度は背けないようだ。


「あ……いや、その、そういうつもりじゃなくて……」


 七年前にも同じ約束をしたことを思い出し、安売りしすぎたことに不安を駆られる。

 このままでは適当に流しているだけだと思われるかもしれない。


 リイシャと目を合わせることに対して罰が悪く視線を泳がせると、リイシャが唐突に吹き出して笑いだした。


「ぷっ、あはははは」

「えっ、どうしたの?」


 笑う要素がどこにあったかわからず冷や汗をかいて問うと、リイシャは目尻に涙を溜めて目を弧に細めた。


「いや、ミルがこんなにあたふたしてるところ、初めて見た気がしたから」

「そうかな?」

「そうだよ」


 "あたふた"とは言えないかもしれないが、魔術のことでプライドをズタボロされていた僕の不甲斐なさは目に焼き付いていると思うが……


 僕が自身の痴態を思い起こしていると、リイシャが呼吸を整えて笑いを抑え真剣な面持ちで顔を向けた。


「じゃあ私は今、ミルになんでも言うこと聞いてもらう権利を、二つ持ってるってことでいいんだよね?」

「そうなっちゃうね」

「じゃあ一つ目のお願い、聞いてくれる?」


 リイシャが一呼吸して頬を赤くしたまま決意の、覚悟の固まった顔つきで口を開く。


「私と、付き合って……」


 まだ顔を火照らせているリイシャの目を見れば、冗談ではないことは一目瞭然だ。

 ならば僕も自分の気持ちに正直に、今までの思いを全てぶつけなければ……


「そのお願いの権利は、また別の機会に使ってくれる?」


 僕の言葉を聞いて、顔を背けたリイシャの目には涙が見えた。

 それでも僕の思いは変わらない。


「そ、そうだよね。ごめんね。わ、忘れて、もう、こんなこと言わない――」

「リイシャ、僕と……付き合って……」


 首に回した手に、リイシャの涙が零れ落ちる。


「どういうこと? 今、断って……え? 私で、いいの?」

「リイシャがいいんだ」


 リイシャはぽろぽろと涙を零すも、目を細めて悪戯な笑みを僕に向ける。


「そんなカッコつけられても、今の状況わかってる? 私におんぶされてるんだよ?」

「いや、それは、こんな状況だし……」


 言葉が見つからず狼狽する僕に、リイシャはわざとらしく感情の籠っていない棒読みをする。


「えー、私のせいにするつもり? さいてー。てか私告白してないし。お願いなかったことになったんだからそうでしょ?」

「うっ、わかった、ごめん。もっとタイミング見て言えばよかったよ」


 心から想い合った末の気持ちを交わしたかったので、何でもする権利を使ってほしくなかった。

 理由がどうあれリイシャが振り絞ってくれた勇気を、僕は一度蔑ろにしたのだ。

 当然糾弾される覚悟はできており――


「そう? 私は結構好きだったけど……」


 リイシャは柔らかく目を細めてはにかんだ。

 リイシャの言葉に僕の感情は二転三転し頭を悩ませる。


「えっ!? どっち!?」

「ふふっ、あはははははははは」


 今にも転げ落ちそうなほどリイシャは腹を抱えて笑った。

 笑われて少し気恥ずかしい思いに蓋をして、喜びから生まれた微笑みをリイシャに向ける。


「そんな笑わなくてよくない? まぁ、リイシャに喜んでもらえてよかったよ。これからもよろしくね」

「うん、よろしく!」


 将来はリイシャの尻に敷かれた生活を送ることになりそうだが、この笑顔を見ることができるのなら、それ以上に幸せな生活はない。


 リイシャの晴れやかな笑顔に、僕は未来に想いを馳せた。

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