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スーサイド・レコード  作者: 日常の音ずれ
第1章 死後生前編

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第06話 魔術の天才

 昨日はおじさんに狩りの仕方、というより狩りをする際の心構えを教わった。

 そのため今日は本格的に狩りの仕方について教わるのだが……


「やり方なんて人それぞれだ。他人のマネをするより自分の好きな方法を自分で探せ」


 というのがおじさんの教えらしい。


 昨日は他人から学べるものがあるとか言っていたのに……

 僕とリイシャは初心者なのだから、まずは人のマネから始めるべきだと思う。

 仕方ないがで自分で考えるしかなさそうだ。


 本来の狩りは猟銃を使ったり罠を張ったりするのだろうが、この家に猟銃はないし罠の張り方もわからない、どうしたものか……


 ん?

 そういえばおじさんって罠使ってないな。

 倉庫に罠の在庫があるのも見たことがないし……

 なんでだろう?


 狩りのヒントになるかもしれないと思い、直接本人に聞いてみると――


「罠は使ったことないんだ。あった方が楽かもしれないが作り方がわからなくてな。こいつ一本でやってきた」


 おじさんは壁に立てかけてある大斧をコンコンと拳で軽く打つ。

 力技でどうにかしてきたのだろう、まだ体の出来上がっていない僕たちにはできない真似事だ。

 他に何か良い案がないか再度思考を巡らせる。


 いきなり生身で戦うのは怖いので罠を使いたかったのだが難しいようだ、となると遠距離武器だ。

 銃がないなら弓矢を使うしかないが、初心者の矢が有効打になるとも思えない。

 魔法などがあればよかったのだが……


 あるじゃん魔法!


 たしかこの世界(ゲーム)には魔法、正確には魔術、もっと正確にいえばマジック・レコードなるものがあったはずだ。

 原理を理解すれば大半の魔術は使えるようになると本に書いてあった気がする。

 妙案は浮かんだが魔術の使い方がわからないので、これもおじさんに聞いてみようと思い……


「じゃあ、魔術とか使ってみるか?」

「え?」


 今まさに魔術について考えていたので、心を読まれたのかと勘違いしておじさんの発言に思わず唖然としてしまう。


「やっぱいやか、あれは結構面倒らしいからな」

「いえ、魔術って噂でしか聞いたことなかったので、凄い気になってたんです。ぜひ使ってみたいです!」


 おじさんは一瞬考え込むように腕を組むが、僕の輝かせた瞳を見て大きく頷いた。


「本当か? それなら狩りは後回しにして魔術の練習でもしてみるか。でも俺は使えないから町に魔術教本を買いに行こう。あっ、十九になってからでいいと思ってたが、ついでにレコードカードも発行してもらうか。リイシャも連れて行かないと拗ねるよな」

「ですね」

「じゃあリイシャに伝えてきてくれ」

「はい、わかりました」


 やった!

 やったぞ!

 今までの日常パートもよかったけど、やっぱり魔術が使えるなら使ってみたい。

 臨場感の溢れる世界(ゲーム)で魔術を使うことで爽快感を味わう。

 これがゲームの醍醐味なのだから。


 抑えられない興奮とともにリイシャの部屋まで一直線に駈け出し、部屋のドアをなんの躊躇いもなく開け放った。


 今思えばなぜノックをしなかったのか……

 普段なら部屋の中から返事が聞こえない限り、絶対にドアを開けないというのに。


 数秒ほど遅い後悔をした僕の瞳には、男にとっての神聖領域の代名詞ともいえる純白に光り輝くショーツが映り込んでいた。

 そして上には下と同じぐらいに神々しさを迸らせ、少し控えめではあるがいつだって男が辿りつきたいと願うユートピアの守護者、世にいうブラがリイシャの手によってちょうど守りに着いたところだった。


 日常的に日の光に当たるときは長袖長ズボンを着ていたためか、透き通るような白い肌に、畑仕事を難なくこなせるほどの筋肉を秘め、少し腹の割れたスラッとした体をもつリイシャと目が合ってしまう。


 言い訳のしようがない状況だが穏便に収めるべく、一瞬の内に出来うる限り必死に思考を巡らせた。

 リイシャの精神が成長したといってもこの状況、きっと何を言っても僕が殴られる未来は変わらないだろう。


 それなら少しでも、リイシャが嫌な思いをしないような言葉を……


「凄く、似合ってるね……」


 ドンッ!


 リイシャの右足が僕の下腹部に勢いよくめり込み、その勢いを殺すことなく廊下の壁に叩きつけられた。


 蹴りがくるのは想定外だったため覚悟ができておらず、一瞬意識が飛んでしまった。


 うめき声すら上げられずに(うずくま)る僕に、顔を真っ赤に染めたリイシャは一睨みしてからドアを閉めた。

 蹴りを受けたときは一瞬死を覚悟したが、そんなことがどうでもよくなるほどの眼福に思いを馳せた。


「綺麗、だったなぁ……」




    ▽▽▽




 今、僕たちは馬車に乗って隣町パストまで来ていた。


 リイシャにはあの後すぐに謝ったのだが今に至るまでずっと無視され続けており、これが結構(こた)えている。


 おじさんは気にするなと言ってくれた。

 言ってくれたときは優しい人だと思ったが、よくよく考えると自分の娘が下着姿を見られてそれでよいのだろうか?

 僕が幼い頃から同居しているとはいえ、血の繋がりもない男が相手なのだ。

 そいつを八つ裂きにしてやる!

 ぐらいの怒りはあってもいいと思うのだが、本当に怒っていなさそうなのである。


 父娘の関係が僕の知らないところで悪化しているのか心配になってくるが、僕から話を振れるわけもないので心の奥底にしまっておくことにした。



 会話は弾むことがなく僕たちはこの町のギルドに着いた。


 ギルドに来た理由はレコードカードの発行のためだ。

 なぜレコードカードの発行から行っているのかというと。


 この世界(ゲーム)の人たちは生まれ持って魔術の種を秘めており、その魔術を先天魔術と呼ぶらしい。

 先天魔術は他の魔術と比べて修得しやすいので、どんな魔術を持っているのか確認するためだ。

 先天魔術はレコードカードに薄色で記載されており、使えるようになればはっきりした色になるのだとか。


 先天魔術を使えるようになるには魔術の効力を理解し、魔力子の運用方法を覚える必要がある。

 理論上は誰でも使えるらしいが魔力子の運用がとても難しいらしく、先天魔術が使えずに挫折してしまう人もいるようだ。

 平均修得日数は一週間であり、一週間何も結果を出せなかった場合に諦めてしまうらしい。


 それに加え魔術を修得するたび他の魔術は修得しづらくなる傾向がある。

 魔術に適性があっても二つ目の魔術の修得には二カ月ほどかかり、三つ目となると一年、適性がなければ二つ目の時点で一年かかることもあり、先天魔術を無視して他の魔術を修得する人もいるのだとか。

 そのため魔術師を除いた戦闘職の平均魔術所有数は一つ、魔術師は四つ程度らしい。


 まぁ、諦めなければ最初の一つは絶対使えるらしいので頑張るしかあるまい。

 何より出発する前におじさんから話は聞いていた、やると言ってしまって後には引けない。

 ちなみにそれを聞いたリイシャは口には出さなかったものの、”今度こそ絶対勝ってやる!”という表情で僕を睨んできた。

 

 今おじさんは受付で書類を書いている。

 僕たちは未成年なので保証人が必要だからだ。

 リイシャとの会話はなく、ただボーッと待っているとおじさんに呼ばれたので二人で受付まで行く。

 

「お二人がリイシャ・フレイスさんとミル・ノルベルさんでお間違いないですか? この紙面の内容にお間違いがなければ、レコードカードを発行させていただきます」


 おじさんが保証人確認以外に僕たちの仔細も記入してくれていたらしい。

 用紙に目を通し間違いがないことを確認して受付のお姉さんに返した。

 リイシャも間違いはなかったようで手渡している。

 お姉さんは用紙を受け取り、大きさがA3、厚さが5cmほどの木の板に用紙を挟んだ。


「ではこの楕円に親指の腹を数秒間当ててください」


 お姉さんに言われた通り、僕とリイシャは木の板の下部にある黒色の楕円に親指の腹を当てる。

 三秒ほどすると楕円が一瞬青白く光った。

 

「はい、ありがとうございます。では離してもらって大丈夫ですよ」


 お姉さんは窓口の脇から二枚のカードを取り出し、リイシャと僕に微笑みかけた。


「こちらがフレイスさん。こちらがノルベルさんのレコードカードになります。紛失された場合は再発行ができますので遠慮なくお申し付けください。では軽くレコードカードについて説明させていただきます。レコードカードとは……」


 お姉さんから教えてもらった内容は、僕が以前に図書館で調べた内容と大差なかった。




    ▽▽▽




 ギルドを出た後は魔術教本を買うため本屋に来ていた。


 魔術教本は数えきれないほどの種類があり、一つの魔術のためだけに書かれたモノや浅く広く魔術を記したモノ、言うなれば教科書や教材、資料集みたいなモノだった。

 そのためまったく違う内容の教本を買っても意味がない、物理の勉強をしたいのに歴史の教科書は買わないように。

 

「たしかリイシャの魔術が『ウィンド』で、ミルの魔術が『エレクトリック』だったよな。これなんかどうだ?」


 おじさんがリイシャに渡したものは「風魔術の基礎」、僕に渡したものは「雷魔術の基礎」と書かれた本だ。

 

「そうですね。僕もそれがいいと思います」

「いいんじゃない」


 僕のせいで朝から少し不機嫌なリイシャは声のトーンを落としつつも同意をしてくれた。

 リイシャの機嫌を取る方法はないか思案していると、おじさんが本棚から一冊の本を取り出した。


「これなんかもよさそうじゃないか?」


 おじさんの持つ本のタイトルは「戦闘時の立ち回りに役立つ魔術」と書かれており、中身は防御やサポート系の魔術について記されていた。


 僕たちの先天魔術は攻撃系統のように思えるので、おじさんの提案は渡りに船である。


 だが魔術教本は少々高い、この町に来るための馬車代にレコードカードの発行代もかかっているのだ。

 フレイス家は裕福ではないので僕は断りを入れる。

 もちろん、値段の話はせずに。


「ありがたいですけど、一つ目の魔術もまだなので……」

「大丈夫だろ。いつか必要になるなら、早いに越したことはないしな」

 

 おじさんは値段を見て言っているのだろうか? 

 一冊あたり日本円で一万円弱もするというのに……


 おじさんは何のことはないとばかりにレジへ教本を三冊持って行き、会計を済ませてしまった。

 頭を下げて礼を告げると、おじさんは白い歯を見せてニカっと笑って見せた。




    ▽▽▽




 僕たちは魔術の練習をするために、町の外にある更地まで来ていた。

 馬車に乗っているときに、ここで練習することだけは話していたのだ。

 というか、このことについてしか馬車では話さなかった。

 今もリイシャは僕にそっぽを向いている状態だ。


 僕が百対零で悪いのはわかっているが、少しぐらい会話してくれないと立ち直れなくなってしまいそうだ。

 こんな憂鬱な気持ちでは魔術の練習に集中できそうにない。


 いや、ここで僕が上手に魔術を使えるようになれば会話に繋がるのではないか!

 きっとそうに違いない、ならば頑張るしかないよな!

 なんか魔術を修得するために頑張る理由がガラッと変わったけど、リイシャとおしゃべりすることが最優先に決まっている!


 この滾る思いを胸に「雷魔術の基礎」の教本を勢いに任せて開く。


 『エレクトリック』使用方法――

 体内の魔力子どうしを激しくぶつけ合うことで、静電気を発生させると同時にエネルギーを体内に溜める。

 その後、溜めきることができなくなったエネルギーを体外に放出し電撃を生み出す。

 これを一度でも成功させることで今後、電気を必要以上に溜めることなく魔力子をエネルギー源として任意で電撃を放出できるようになる。


 と書いてあった。


 つまりパンクするまで体にエネルギーを溜めろってことだよね?

 マジで?

 これ下手したら死ぬのでは?

 確かに魔術は使えるようになりたいけど、死ぬ可能性があるとなると、ちょっと……ね。


 他に方法はないものかとページをめくろうと手をかけたとき、ページ下部に注意書きを見つけた。


 自身の魔力子によって発生したエネルギーは、体内で暴発することは()()ないので自身に対しては無害であると思ってよい。

 しかし、放たれたエネルギーが周りの人や物に被害を出すため扱いには十分に気を付けること。

 この方法は魔力の枯渇が起きやすく、体内の魔力が枯渇すると一定量回復するまで体を動かすことができなくなる。

 また、体が必要以上にエネルギーを消耗しないよう生命維持のために意識を失うこともあるので、行使には注意が必要である。


 と書いてあった。


 周りへの被害を考慮して更地に来ているので心置きなく練習ができそうだ。

 あとは魔力の枯渇に気をつければよい。


 「風魔術の基礎」の教本が気になり、リイシャに視線を送ると使用方法が載ったページを開いたまま教本を手渡してくれた。

 見せてくれるとは思っていなかったので少し驚いたが、僕もリイシャに本を交換のような形で手渡した。


「ありがとう、じゃあ、これ」


 リイシャは僕を一瞥して本を受け取るも、口は開いてくれないみたいだ。

 リイシャが本を読み始めたので僕も手元の本に視線を落とす。


 『ウィンド』使用方法――

 体内の魔力子を循環させて流れを作り、その流れを維持したまま体外に放出することで風を起こすことができる。

 魔力子を循環させることを重点的に鍛えること(魔力子循環トレーニング)により魔力子の扱いが向上し、体外の魔力子を用いて同じことが可能となる。


 注意書き――

 魔力子循環トレーニングによって体内の魔力が八、体外の魔力が二の割合で行使できるようになれば一人前となる。

 しかし、それ以上の効力は見込めないので、その時点でトレーニングを中断することを推奨する。


 と書いてあった。


 リイシャには悪いがあまり強そうではない。

 突風や強風、旋風ではなく、”風”を起こすと書いてあるのだから攻撃向けの魔術ではないのだろう。

 ゲームで初期魔術は攻撃系統と相場は決まっているので深く考えていなかったが、三冊目の教本は別の内容がよかったかもしれない。


 もちろん、魔力を大量に用いればそれ相応の威力は出せるだろうが多分効率が悪い。

 今回も僕に軍配が上がりそうだ。

 妹では兄に勝てないというところを見せつけてやろう。


 まぁリイシャは妹ではないし、僕は兄ではないのだが……


 お互い教本を返して練習に取り掛かる。

 おじさんは魔術がからっきしなので、何か起こったとき即座に動けるように見守ってくれることになった。

 

 ではまず、”魔力子どうしを激しくぶつけ合う”から試してみたが、うんともすんとも言わない。

 魔力子の運用にはイメージが大切らしい。

 今まで色々なゲームをしていた経験が参考になりそうだと思っていたのだが、舐なめていたようだ。


 魔力()というのだし、原子と同じ括りの物体なのだろうと、学生時代の化学の知識も引っ張りだしてみるが、やはり何も起こらない。




 僕の持ちうる知識を総動員して試行錯誤するも進展はなく、気が付けば六時間が経っていた。


 イメージが他の人より湧きやすい僕でこれだけ難しいのなら、諦める人が出てもおかしくないな。

 これ、今日中には無理だなぁ。

 まぁ教本にも一週間はかかるって書いてあったし、元々今日中に終わるとは思ってなかったけど……


 スタート地点にすら立てておらず何をやるべきかわからない練習に、一週間も真摯に取り組める気がしない。

 もちろん魔術の練習だけをやって生活するわけではないが、気が滅入りそうだ。


 何もない中空を呆けて見つめていると砂埃が風にさらわれて目に入ってしまった。

 僕は目を擦りながら風の吹いてきた方向を見て、驚愕のあまり見間違いを疑って再び目を擦る。


「ねえ! 見て! 見て! ミル! 私、風を操ってる!」


 そこには掌の上で風を巻き起こし髪をなびかせた、子どものように無邪気な笑みを浮かべているリイシャの姿があった。

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