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スーサイド・レコード  作者: 日常の音ずれ
第3章 百鬼迷宮編

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第36話  再突入

 中層に降りてから数時間が経過した。

 上層と同様に魔物の出現率は僕とリイシャの二人で潜ったときよりも増加していた。

 しかし僕とリイシャとフランネルの異端組の前では、オークが何度現れようとも苦戦することはなく、新エリアを隔てる壁までたどり着くことが出来た。


「みなさん、着きました。この奥が新エリアです」


 僕が隠し通路へ続く壁に触れパーティメンバーへ向き直ると、訝し気にゴソトが同じように壁に触れる。


「本当にこの先に通路があるのか? ただの壁にしか見ない、にわかに信じがたいが……」

「百聞は一見に如かずです。この壁を上げるので少し待っていてください」


 ゴソトの疑問を解決するために壁にいくつかある小さな穴の中から一つの穴、壁の開閉レバーがある穴へ腕を突っ込みレバーを手に取る。


「では今からギミックを起動させます。特に何も起こらないとは思いますけど、念のためみなさんは壁から離れてください」


 ゴソトだけでなく大半のメンバーが壁の向こうに通路があることに疑問を持っていたようで、壁に触れたり、舐めまわすように隅々へ視線を移動させていたが、僕の言葉でみな壁から距離を取る。


「では、動かします」


 もし一番最初に壁を持ち上げた時のように突風が吹いても対処できる位置まで全員が距離を取ったことを確認し、レバーを引く。

 すると以前と同様に、ゴゴゴゴゴとダンジョンに軽い振動を与えながら件の壁が天井へと引き上げられていく。

 壁が上がりきるも突風が吹くことはなく、僕はレバーから手を放す。

 一連の動作を見て大丈夫と判断したのだろう、ゴソトが僕の方へと歩み寄る。


「念のため、開閉の確認をさせてもらってもいいか?」

「もちろんです。どうぞ」

「ありがとう」


 ゴソトと入れ替わると、ゴソトは僕と同じようにして穴に腕を突っ込みレバーに触れる。


「なるほど、これがレバーか。みんな、今から壁の開閉確認をするから、まだ中に入らないでくれ」


 ゴソトはメンバーに注意を促して誰も壁に近づいていないことを確認し、何度かレバーを押しては引いてを繰り返しその都度壁が上下する。

 一連の動作を確認し終えるとゴソトが呟くように言葉を紡ぐ。


「なるほど、一度壁が動き始めたら途中でレバーをいじることはできないようだな。レバーを動かす際は周囲への警戒を強めた方がよさそうだ」


 ゴソトは最後にレバーを引いて壁を上げると隠しエリアとの境目が分かるように目印として松明を置き、メンバーに向き直って声をはりあげる。


「みんな! ここから先はオーガが出現する。今まで以上に気を引き締めて、慎重に進もう。フォーメーションも少し変えよう。フランネルの実力はもちろん。リイシャとミルはEランクに引けを取らないほどの実力がある。オーガをできるだけ素早やく倒していくために、俺を含めた攻撃力の高い四人で前を固めてオーガを叩く。ジャッジャは下がってフィカと一緒にみんなを守ってくれ、ヘイナとロットはオーガが陣営に入り込んできた時に時間稼ぎを、マイトは普段通り矢で援護、フォルスは怪我を負った者の治療のために魔力を温存。このフォーメーションは後ろからの脅威に滅法弱い。後衛組は後ろの警戒に注意を払ってくれ、オーガに挟み撃ちに会うような場合は全力でここまで後退し、壁を下ろす。この作戦で探索を決行しようと思うが、何か意見のある者はいるか?」


 ゴソトはメンバー全員の目を順に見据え、反対意見がないことを確認し剣を抜く。


「大丈夫そうだな。では今回の依頼のメインである、新エリアの調査を開始する」


 ゴソトは新エリアに足を踏み入れてすぐに脇道があることに気が付き、僕とリイシャに向き直る。


「そういえば君たちは、失くしたペンダントを探しにこの依頼を受けたんだったな。前回はどの道を進んだんだ?」

「できるだけ広い道を進みました。僕とリイシャは武器が長いので」

「なるほど、じゃあこの脇道には行ってないってことか?」


 ゴソトの僅かに眉間に皺を寄せた問いに、僕は首を縦に振る。


「そうですね」

「申し訳ないが今回も真っすぐ進ませてもらう。この人数で通れる道ではない。帰りに余裕があったら、この脇道も調べる。それでいいかな?」


 僕とリイシャにとっては新エリアの調査よりもペンダントを探すことに尽力したいが、ここで二手に分かれるわけにもいかず、愛想笑いを浮かべる。


「はい、大丈夫です」

「ありがとう」


 ゴソトは二カっと歯を見せて笑顔を作ると視線を前方へ戻し足を進めた。

 他のメンバーたちは期待か不安か唾を飲み込む者、頬に冷や汗を垂らす者、それぞれが思いを抱きゴソトに続いた。



  ▽▽



 途中に分かれ道がいくつかあったが、僕とリイシャが以前通った道と狭い道をできるだけ避けて数十分ほど探索を続けた。


 道にはこれといった希少な宝や鉱石などは見つからず、新エリアに期待を寄せていたのか勇石の剣のメンバーは表情が暗い。

 ロットとヘイナに関しては退屈そうに欠伸をして目尻に涙を浮かべているほどだった。

 しかしジャッジャが少し下がりロットの横に立つとロットの背中を鈍い音を立てて叩き、うとうとしていたフィカが二人に視線を移す。


 バシッ


「いっっっった!」

「ロット、ヘイナ! お前らたるみ過ぎだ! ここはオーガが出てくるんだぞ、そんなんで対応できんのか?」

「つってもよ、前はあの四人が固めてるし、大丈夫だろ。それに新エリアっていっても、今までと大してかわらねぇじゃねぇか。強いて言うなら壁に小せぇ穴が無くなったことぐらいか?」


 ロットの無気力な物言いに、ジャッジャは眉尻を吊り上げて目を見開く。


「それだけでも十分な情報だろうが! あの穴がねぇってことは、インプがいねぇってことだ。インプがいねぇ階層は下層だけ、下層に出現するのは主にオーガ、これだけでこのエリアの危険度が高けぇことがわかる。もちっと真面目にしろ!」

「ヘイヘイ」

「ヘイナもだ!」


 ロットと同様にヘイナは気だるげに答える。


「わかってるわよ……」


 ジャッジャは二人に注意を促すと元の立ち位置に戻り、大きなため息をつく。

 ジャッジャのことはあまり好きではなかったが、この依頼を受けてから少しづつジャッジャの印象が変わってきている。

 初めて会ったときの、脳を抉られるような頭の中を殴られている不快感は薄くなっている。

 加えて僕からも話しかけることへの抵抗も減ってきた。


 ギルドの人が言っていた、潤滑油の働きがあることについては疑問が残るも、周りをよく見ているリーダー気質な性格なのだろうとは思う。

 リーダーとしてはゴソトの方が素質はあるように見えるが、ゴソトがいなければジャッジャがリーダーであっても違和感はなかっただろう。

 初心者を揺するような性格さえなければ……


 ジャッジャのこれまでの行動を吟味し、これからの付き合い方について頭を巡らせていると、ゴソトが思案顔で隣に立つ。


「君たちのペンダントだが、ここまで探して見つからないとなると、オーガが拾ってるかもしれないな」

「オーガがですか?」

「ああ、意外かもしれないがオーガは貴金属を集める習性がある。俺もこのダンジョンに潜るまでは聞いたことがなかったよ」

「なるほど、ありがとうございます」


 ゴソトから初めて聞くオーガの習性について熟考し、一つの可能性をゴソトに提示する。


「さすがに貴金属を食べてるとは思えないですし、集めた物をどこかに持ち帰ってたりするんですかね? そう考えたらオーガの溜まり場? 巣? が近くにあるのかもしれないですね」


 僕の適当な仮説をゴソトは首を横に振って否定する。


「いや、それはないな」

「どうしてですか?」

「オーガは群れる習性がないからだ。いつも一体でうろついている」


 ゴソトは僕の見解を否定するが、その根底にはオーガが群れないという習性からくるものであった。

 しかし以前のダンジョン探索時にはオーガが複数同時に出現していた、となればゴソトの見解が履き違えていることになるだろう。

 僕はオーガと戦った内容を思い返し、口を開く。


「この前潜ったときは、僕とリイシャでオーガ三体と同時に戦いましたよ。だからその前提は少しおかしいと思います」


 ゴソトは目の玉が飛び出そうなほど目を見開き、僕の肩を大きく揺する。


「何!? オーガが三体同時だと!?」


 ゴソトの急な表情の変化に、僕は言葉を詰まらせつつ頷く。


「は、はい……」

「き、聞いた事ないぞ。前代未聞だ。オーガは多くても二体まで、三体も出てきてしまったら普通のパーティじゃまず勝てない。それこそ勇者様御一行の管轄だ。君の言っていることが本当なら、今すぐに帰還するべきだ……」


 ゴソトは額からは冷や汗を滝のように流して、足を止めた。

 他のメンバーも僕たちの会話を耳に入れていたようで、ロットが割って入る。


「ゴソト、ビビり過ぎだろ。オーガが三体も出るわけねぇって。もし出てたとしたら、こいつら二人で倒したことになるんだぞ? ありえねーよ」


 ロットの気の抜けた声を、ゴソトと同じように冷や汗を流しているジャッジャが否定する。


「この二人の実力はもう見ただろ。驚きはするが、不可能ってわけでもない」


 ジャッジャの見解にゴソトが同意を示す。


「そうだよロット、ジャッジャの言う通りだ」

「だがよゴソト、お前もさっき言ってただろ? 今までそんなこと一度もなかったんだぜ?」


 相も変わらず気の抜けたロットの問いに、ゴソトは適切な返答で返す。


「今まで見つかってなかった新エリアがあるぐらいだ。今まで見たことがなかった魔物の習性があったって不思議じゃないさ。それよりもミル、なぜこんな大切なことを報告していなかったんだ?」


 初めて入ったダンジョンで初めて見た魔物達、そこで未確認の習性を見ることがあったとして、何人の冒険者が気が付けるだろうか?

 いないと言っても過言ではないだろう。

 ゴソトの発言は少々理不尽とも取れるが、詳細を省いて報告を済ませてしまった事実はかわらないのだし、僕が悪いのだろうと謝罪を口にする。


「大切なことってオーガが三体同時に出たことですか? これが異常なことだって知らなかったので……インプもゴブリンもオークも複数体で行動してましたし、オーガだけ例外だと思いもしませんでした。すみません」

「いや、普通はそう思うか、仕方がない。取り合えず引き返そう。このエリアの調査はまた今度だ」


 ゴソトの指示を受けて踵を返そうとしたとき、何かの足音と共に地面が僅かに揺れた。


 何かに見られているような、というよりは狙いを定められているような視線を感じ、ダンジョンの暗がりへと目を細める。

 他のメンバーも同じ視線を感じ取ったのだろう、みなが暗がりへ、音のなる方へ視線を向ける。

 隣に立つゴソトが唾を飲み込む音が聞こえる。

 ゴソトは口を何度か開閉させ乾いた口でどうにか言葉を紡ぐ。


「みんな、撤退だ……」


 やっとの思いで出た言葉も、マイトの一言で空しく散ることになる。


「残念だがゴソト、そう簡単に帰らせてくれないみたいだ」


 マイトの言葉にゴソトが後方を振り返ると暗がりで二つの人影が揺らめいた。

 それと同時に前方の足音が大きくなり、今度は前方に向き直る。

 そこには二体のオーガが金棒を片手に殺気を振りまいていた。

 そして後方には同じく二体のオーガが金棒を担いで道を塞いでいる。


「おいおい、四体同時、しかも挟み撃ちか……ついてないな」


 ゴソトは芳しくない状況を恨むように顔を強張らせ、言葉を零す。


 オーガの姿に気圧され、全員がフォーメーションの隙間を埋めるように固まる。

 ただ、その圧に一人、フォルスが耐えきられなくなり尻もちを着いた。


 それに気を取られる者が数人、この機を逃すまいとオーガの金棒が振り下ろされた。

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