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スーサイド・レコード  作者: 日常の音ずれ
第3章 百鬼迷宮編

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第35話  実力の証明

 リイシャとフランネルは食事を済ませたあと、お淑やかで楽しげに会話を弾ませていた。


 十代半ばを過ぎたあたりからは大人びたイメージも付き始めたリイシャだが、僕の中ではまだ元気な少女という印象が残っている。

 実際、先ほどは元気で明るい笑顔でフランネルをパーティに勧誘していた。

 そのリイシャが微笑みながら柔和なトーンで話している。

 見たことがないわけではないが、リイシャの稀にしか拝めない一面に眼福で心が満たされる。


 二人を暖かい目で見守っていると、リイシャが僕や家族以外と楽しそうに雑談をしている光景が久しぶりであることに気が付いた。

 冒険者になってからは特定の村や町に長いすることがなかった。

 強いて言うならばフラナ、アルビウスと話しをする機会が多少あったが、雑談というよりはトレーニングや僕たちの知らないことを教えてもらっていた。


 村ではご近所付き合い程度の軽い会話程度、雑談らしい雑談は学生時代以来だろう。

 その学生時代もたったの二年間で、内一年間は結局僕といる時間の方が長かった。

 リイシャはどんな人物とも分け隔てなく接することができていたが、特定の親しい友人はいなかった気がする。

 フランネルと楽しそうに話している姿を見ると、まるで青春をやり直しているようにすら思える。


 もしかするとリイシャが特定の友人を作らなかったのは、僕がいたからなのかもしれない。

 家に帰れば常に遊び相手であり、勉強を教えてくれる存在がいる。

 それに加え、嫌々であっても家の手伝いをしていた。

 根の真面目な性格と僕の存在がリイシャの青春を奪っていたのかもしれない。


 心の中にわだかまりが芽生えるも、僕は素知らぬ顔でリイシャに就寝を促す。


「リイシャ、そろそろ寝ないと明日に響くよ」


 リイシャがはっとして軽く微笑む。


「そうだね。それじゃフランネルさんお休みなさい。ミルもおやすみ、見張りありがとね」

「うん、おやすみ」

「おやすみ」


 僕が言葉を返すとフランネルは同じように続いて、僕へ視線を移す。


「ミル、私も先に休ませてもらう」

「はい、おやすみなさい」

「おやすみ」


 フランネルは一度瞬くと、横になって眠りについた。


 一抹の罪悪感はあるもののリイシャから不満を言われたわけではない。

 下手に煽ってしまわないように、見張りに徹することにした。

 今のリイシャが幸せなのであれば、それに越したことはないと――この気持ちに蓋をして。




   ▽▽▽




 昨晩の見張りは前半組が僕と勇石の剣のメンバー四人、後半組はリイシャ、フランネルと残りの三人の交代制であった。

 僕はリイシャ、フランネルの二人と交代で眠りにつき先ほど起床し朝の支度を済ませていた。

 他のメンバーもほとんどが起きて支度をすませたところである。


 懐中時計で時刻を確認したあと膝に手をつき立ち上がったゴソトは、パーティメンバー全員に聞こえるように声を張る。


「よーし、みんな準備はいいか、そろそろ時間だ。出発するぞ」


 各々が立ち上がり武器や防具、リュックを手に取り準備を始める中、ゴソトがいびきをかいて眠りこけているロットの肩を揺する。


「眠たい気持ちもわかるが今日からは中層だ、起きてくれないと困る。さぁ起きてくれ」


 ロットは寝ぼけ眼で口を大きく開け、寝たりなさそうに欠伸をする。

 見かねたジャッジャは瞼を閉じようとするロットの手を取り無理矢理立たせ背中を叩く。


「ほら、シャキッとしろシャキッと!」


 バシッ


 ロットは痛みに目を大きく見開く。


「いって! たくよぉ。お前、力強いんだよ」


 ロットが渋々と剣を腰に差し、所定の配置に着くことで昨晩に話していた陣形が完成する。

 陣形の完成を見届けたゴソトは僕たち異端組を見て、眉尻を下げる。


「ミル、リイシャ、君たちが冒険者になったのは最近だと聞いている。Fランクとはいえ気を付けてくれ。フランネル、先頭は最も危険に曝される、今まで以上に気を引き締めてくれよ」


 フランネルは生気の籠っていない瞳を半開きにして、淡々と答える。


「へまはしないから安心して。それより、今日はどこまで行くの?」

「そうだな。今日は隠し通路の先まで行って、野宿できる場所を探そうと思う。調査自体は明日からでも遅くないだろう」

「わかったわ。それなら急ぐ必要はなさそうね」


 フランネルは腰の剣を数センチほど抜いてすぐに収めた。

 剣の引っかかりや滑り具合を確認したのだろう、特に異常がなかったようで前に向き直る。


「じゃあ行くわよ。リイシャ、前は私が見ておくから周囲の警戒を頼めるかしら?」

「はい、もちろんです!」


 リイシャのはきはきとした返事を受けて軽く頷き返し階段を下りるフランネル、そのあとに続くように僕たちも歩を進めた。


 ガガガガ、ガリガリ、ガガガガリ


 階段を下りてすぐ、何か硬い物を引きずるような不規則な音が聞こえた。

 音は聞こえているはずだが先頭を歩くフランネルは足を止めることはなく、ただ道を真っすぐ進み音のする方へと近づく。


 十数メートルほど歩き目を細めた先には、オークが三体ほど棍棒を引きずりまわして闊歩していた。

 その光景に驚く者はおらず、みな音の正体がわかっていた様子であった。


 階段からオークの許までは一本道、倒して進もうとフランネル、リイシャ、僕の三人が武器の柄に手を添える。

 先頭のフランネルがリイシャと僕に横目で視線を送り、オークの方へ向き直る。


 腰に差す剣の柄に手は添えたまま、フランネルの俊足が火を噴いた。

 だが道は直線、オークにバレずに撃退することはできない。

 フランネルの接近に気がついたオークはフランネル目掛けて棍棒を振り下ろす。


 フランネルから半歩間を開けるようにリイシャと共に駆け出していた僕の瞳には、一筋の煌めきが映り見惚れてしまう。

 煌めきが過ぎ去った後にはオークの手がいつのまにか宙を舞っており、握りしめられていた棍棒は手からすっぽ抜けていた。

 一瞬であったため正確に目視できなかったが、フランネルが抜刀したことによる結果だというのは理解できる。

 ちらとフランネルの剣を見れば、刀身は既に鞘に収まっており全容はわからない。


 オークは手首から先が無くなった血が迸る腕に視線を移そうとするが、二度目の煌めきが目の前を過ぎたときには視界が上下逆さまとなり、頭だけが地面に落ちていた。

 フランネルの二激目がオークの首を撥ねたのである。

 そして再度、鞘に収まる前に僕は刀身を目で捉えることができた。


 フランネルの一連の動作を見て一つのことに気が付き目が釘付けになっていると、接近していたオークの棍棒が僕を襲う。

 棍棒を槍の穂先で弾き、すかさず石突をオークの鳩尾に勢いよくめり込ませる。

 オークは地面に膝を着いて、呼吸すらままならなくなる。

 背丈が二メートル弱あるオークも膝を着けば僕よりも頭頂部が低い位置にくる。

 目の前にあるオークの顔を槍で一突きしオークの命を奪う。


 最後の一体はリイシャが棍棒ごとオークの体を一刀両断し終えていた。

 リイシャの攻撃は一撃一撃が重たいことはわっかていたが、棍棒ごとオークを真っ二つにしてしまうほどとは思っておらず唖然となる。


 この光景には他のメンバーも同じ感情を抱いたようで、みな鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。


 静寂の中リイシャだけが血振りをして剣を背に納め、全員に注目されていることに気が付く。

 状況がよくわかっておらず、きょろきょろと辺りを見回し僕の横にピタッとくっついた。


「あの~、私、何か、やっちゃいましたか……?」


 リイシャの戸惑いにいの一番に反応を示したのは、目を輝かせつつも冷静を取り繕っているフランネルであった。


「Fランクに留まらない冒険者なのだろうと薄々感じてはいたけれど、、まさかここまで強いとは思わなかったわ。魔術師としてならもっと上のランクまで上り詰められるんじゃないかしら。リイシャってすごいのね!」


 仲が良くなったリイシャ相手なら稀に柔らかな表情を作ることがあるフランネルだが、僕の中ではまだ泰然自若な印象が僅かに残っている。

 そんなフランネルが少し声を上ずらせ興奮気味にリイシャの手を握る。

 リイシャは満更でもなさそうに表情筋を緩ませ、溶けた顔で「えへへへ」と息をこぼす。

 二人の柔らかな雰囲気を横目に、カチャカチャと金属が擦れる音を立てゴソトが僕に歩み寄る。


「それにしても本当に凄いじゃないか。二人でオーガを討伐したことは聞いていたが……うん、頼もしい限りだ。これはうかうかしていたら、すぐに追い越されてしまいそうだな。はっははははは」

「そうですか。ありがとうございます」


 僕が愛想笑いを浮かべると、ゴソトは眉根を寄せる。


「君たちがFランクというのはもったいないな。Eランクへ昇格しないのか?」

「先日Fに上がったばかりなので、そこまで考えてなかったですね」

「であれば、帰った際には昇格するといい。俺が君たちの実力の証人になろう。自分で言うのもなんだが、俺はギルドから信頼されているし、勇石の剣でも古株の方だからな……あ」

「どうしたんですか?」


 ゴソトがポツリと言葉を零したことが気になり顔色を伺ってみると、ゴソトは組んでいた腕を解き快活な笑顔で向き直る。


「いいことを思いついた。君たちも勇石の剣に入らないか?」

「え?」

「実のところ、このクランは勇者様メインパーティが世界中で活躍する一方、我々一端のパーティは名が広まっておらず、この町を拠点に周辺地域でしか活躍出来ていない。町全体で我々のパックアップをしてもらってはいるが、冒険者自体の人数はそこまで多くないんだ。たまに都心まで遠征することもあるが、実力者も少なく困っていてな、君たちが入ってくれれば名を売る機会も広がる。どうだろう?」


 ゴソトから早口で勧誘され、僕は少し顔を引き攣らせて首を振る。


「別に僕たちは名を広げたいわけじゃないので……」

「名が広がるだけじゃない、勇石の剣に所属しているだけで、この町にある大半の店は半額で利用できるぞ。それに町の人たちは俺たちを慕ってくれている。何があっても味方をしてくれる。名声などがいらない者たちはそっちを宛にしているぞ。改めてどうだ? 悪い話ではないだろう?」


 リイシャはともかく、僕は狂癲を知られるわけにはいかない。

 名が広がる行為に繋がることはできるだけ避けたいのだ、なんせ命がかかっているのだから。

 "名を広げるつもりがない"ではなく"名を広げたくない"僕にとっては、この町に滞在し続けるつもりがないし、この町限定の料金半額など天秤にかけるまでもない。


「確かに魅力的な話ではありますが、この町に長期間滞在するつもりはなくて、すみません」


 僕の当たり障りない返答に、ゴソトは小さく頷く。


「なるほど。それでも俺たちは、いつでも歓迎しよう。気が変われば声をかけてくれ」

「ありがとうございます」


 熱心な勧誘も虚しく、しかし快活に笑いゴソトは戦利品の回収を行っているメンバーの方へと歩を進めた。


 ゴソトと入れ替わるようにリイシャが僕の顔を覗き込む。


「何かあったの?」

「クランに誘われただけ、断っちゃったけど。勝手に決めてごめんね」

「いいよ別に。まだいろいろ旅してみたいし」


 リイシャが同意を示してくれる横で、フランネルが眉間に皺を寄せる。


「それは正しい判断だと思うわ」


 不穏な言い回しを怪訝に思い、僕は首を傾げる。


「どういうことですか?」


 フランネルは僕とリイシャだけに聞こえるように声を潜める。


「あくまで噂だけど、この町の人たちは外の人を嫌ってる節があるの。勇者様の生まれ故郷ってことに誇りを持っているみたいね。自分の功績でもないのに、バカバカしい話」

「そうなんですか? でもこの町は治安が良いって聞きましたよ」

「勇者の生まれ故郷ってだけで、そういうイメージが付いてるだけよ。私からすれば誇大広告のようなものにしか思えないけど。だから住人の素行も普通に見えちゃうんじゃないかしら? それと優秀な冒険者には勧誘をしているから、優しくしてるみたいよ」


 フランネルの言葉を頭の中で反芻し町に着いてからの住人の行動を思い出してみるが、直ぐにダンジョンに潜ったのであまり印象がない。

 強いて言うなら受付の人と話したが普通だったと思う。


「気にしすぎだと思いますけど……」

「そうね。さっきも言ったけど、あくまで噂よ。私もそう思うことにしてるわ。ごめんなさいね。忘れて」

「はい、そうします」


 "噂"を強調する割には解像度の高い話ではあったが近くには件のクランメンバーがいる、これ以上話を広げるわけにもいかない、話題を変える為に僕は気になっていたことをフランネルに尋ねてみる。


「それより聞きたいことがあるんですけど」

「何かしら?」

「フランネルさんの持ってる剣って、もしかして日本刀ですか?」


 フランネルがオークとの戦いで使用していた剣は片側にのみ刃があり、反対側は反っており、柄はひし形の模様を作るように糸を巻いた諸撮巻(もろつまみまき)、鍔の形は十字形でなく円形となっており、まさしく日本刀そのものであった。


「日本刀? というのは初めて聞いたけど刀で間違ってないわ。もしかして初めて見るかしら? 珍しいものね。よく知ってたわね?」

「小さい頃に本で見たことがあって」

「そんな本、家にあったっけ?」


 僕の返答に疑問を浮かべたのは幼少期を共に過ごしたリイシャである。

 フレイス家は本がたくさんあったわけではないし、僕とリイシャはほとんど一緒にいることが多かった、リイシャとしては僕だけが知っていることは当然の疑問である。


「学校で暇してる時に先生から本を借りたことがあって、それで見たんだ」

「そうなんだ。でも剣作る時教えてくれたら良かったのに、そしたらまた違ったアイデアあったかも」

「確かに、ごめんね。頭が回ってなかったみたい。今度からは気をつけるよ」


 もちろん嘘である。

 刀を見たことがあるのは日本にいたころ、ゲームやアニメ、時代劇などで見たことがあるだけ、幼少期に先生から本を借りたことなどない。

 まして学校にいたときは他の生徒に勉強を教えていたのだし、他の本を読む機会などなかった。


「さ、みなさんのところに戻って先に進もう」


 ただ、リイシャは特に違和感を覚えなかったようなので深堀をせず会話を終わらせる。

 いつかリイシャには、僕が転生していることを打ち明けないと行けない日がくるかもしれないと、一抹の不安を抱いて。

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