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スーサイド・レコード  作者: 日常の音ずれ
第3章 百鬼迷宮編

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第34話 素敵な笑顔

「『ファイアー』!」

「『アーススラスト』!」


 ゴソトの掌から火が噴出されゴブリンを焼き払うと同時に、フィカが地面に手を添えることでゴブリンの足元の地面が勢いよく隆起しゴブリンの腹を貫く。


 ダンジョンに入ってから八時間が経過し、僕たちは中層へ降りる階段の前まで辿り着くことができた。


 この間、ゴブリンのみに留まらずインプにも襲われたが難なく迎撃することに成功。

 戦闘は主にゴソト、フィカ、ロット、マイトの四人が戦ってくれており、他のメンバーは体力を消費せず順調に探索に勤しんでいた。

 しかし、魔物に襲われた回数は既に十回を超え、半日でゴブリンとインプに一回ずつしか遭遇しなかった先日(リイシャと二人で初めてダンジョンに潜った日)と比べれば異常な遭遇率である。


 チラッとフランネルに聞いてみたところ、魔物の出現率は普段通りであるとのこと。

 受付のお姉さんが言っていた通り、先日が上手く行き過ぎていただけのようだ。

 それを加味しても僕とリイシャなら上層、中層程度なら危なげなく探索することはできるだろう。

 だが、ダンジョンを舐めていたことに変わりはない、少しだけ改めるよう心に決めた。


 ゴブリンやインプ、オークならどうということはないが、オーガがこの頻度で出現するかもしれない下層は確かに大変だろう。

 僕たちが見つけた隠し通路の奥もこの危険性を孕んでおり、ペンダントを本格的に探そうとするなら油断できそうもない。


 僕含め戦闘に参加していなかったメンバーで戦利品の回収を行っていたところ、ゴソトが提案を持ち掛ける。


「みんな、すまないが今日は休ませてほしい。魔術はまだ使えるが疲れが出て少々腕が重い。ロット、フィカ、マイトは大丈夫か?」

「流石に疲れたわー」

「そうね、私も休めるなら休みたいかな」

「まだ矢を射れるだけの体力はあるが、急所を外し始めたし、集中力はもう切れてるな」


 ロット、フィカ、マイトもそれぞれ疲れが溜まっているらしく、少々顔色も悪い。

 四人の体調を気遣い、ジャッジャはフォルスから荷物を受け取り野営の準備を始める。


「わかった。それなら今日はここで野宿しよう。俺とヘイナ、フォルスで飯作るから、お前らは少し休んどけ」


 ジャッジャとフォルスはリュックから簡易的な鍋と取り皿、包丁、干し肉、薬草と親指サイズのキューブ状の何かを取り出した。

 キューブ状の物体はサイコロより一回りほど大きな物体で、ヘイナが興味深げに覗き込む。


「フォルス、そのサイコロみたいなの何?」

「これは調味料みたいなものです」

「へぇー、おいしいの?」

「さっぱりしてておいしいですよ。それに栄養も満点で持ち運びしやすく、保存も効きやすいんです」

「そっ」


 僕はそれに見覚えがあった、何せ日本で一人暮らしをしていたころに一人鍋をする際などでよく使っていたモノに似ていたからだ。

 もちろん似ているだけで同じものではないだろうが、この世界の文明レベルは僕が想像しているよりは発達しているのかもしれない。

 あのキューブの作り方は知らないのでどのレベルの技術力が必要になってくるかはわからないが、今はそんなことを気にするよりも野宿の準備をしなければならない。


 しかし、ジャッジャ、ヘイナ、フォルスは僕、リイシャ、フランネルの異端組に声をかけることなく淡々と準備をしている。

 異端組の僕たちは今日一日何もしていない、あの三人も大きな活躍はしていないが、ジャッジャはパーティの守り、ヘイナはフォルスの守り、フォルスは傷ついた人の治療。

 パーティに攻撃が襲い掛かってくることはなかったので実質ジャッジャとヘイナは何もしていないが役割がありそれに準ずる行動をしていた、僕たちとは比べるでもなく働いている。

 相手のことを嫌っているからといって何もしないわけにはいかずジャッジャの方へ歩を進めると、リイシャに声をかけられた。


「ミルどこ行くの?」

「今日なにもしてないし、できることがないか聞きに行こうと思って」

「じゃあ私も行く。ちょっと待ってて、フランネルさんに声かけてくるね」


 リイシャは駆け足で戦利品の回収が終わっったフランネルの許へ向かい、フランネルと一緒にすぐに戻ってきた。

 フランネルは眉尻を下げて、忍びない面持ちで口を開く。


「私も今日は何もしていないし、少し肩身を狭く感じていたわ」

「そうですか、じゃあ一緒に仕事をもらいましょう」


 リイシャにフランネルを加え、改めてジャッジャの方へ歩を進める。


「すみません。何かできることはありますか?」


 僕の問いかけに呆けた顔でジャッジャが思いがけないことだと目を点にする。


「意外だな。俺らのことが嫌いだろうから、あんたらは手伝ってくれると思わなかった」


 この依頼は元々リイシャのペンダントを探すために受けたものだ、見つけるためには嫌いな人とだって協力を惜しむことはない。

 本音を隠しつつ、自責の念に駆られたことを理由に使う。


「今まで皆さんに任せっきりでしたので、少しでも役に立てることがあれば、頑張らせていただきます」


 僕の意思表明にリイシャは無言で頷き賛同する。

 ジャッジャは後頭部を摩り、カッと笑って見せる。


「いやー、そう言ってくれるとありがてぇや。で、フランネルの方はどうなんだ? パーティ嫌いなんだろ? この依頼を受けたこと自体が不思議だったんだが……」

「このまま何もせず、というのも申し訳ないし、ちゃんとするわよ。この依頼を受けたのはちょうど暇だっただけ。強いて言うなら、この二人に興味が湧いたからかしら」


 フランネルの興味とは、新エリアの見つけ方のことだろう。

 これに関しては既に話を終えているので、後は成り行きといったところだろうか?

 それとも本当に暇だったのかもしれない。


 ジャッジャは「はあぁ」と納得したのか、してないのかよく分からない相槌を打つ。


「つっても今はしてもらいことなんかないからなぁ。おいゴソト、何かやることあるか?」


 ジャッジャは逡巡した後、腰を下ろし剣の手入れをしているゴソトを呼びつけた。

 ゴソトはうんうんと頷きながら歩み寄って来る。


「そうだね。こうやってみんなが一致団結できていて、嬉しい限りだよ。実のところ俺たち勇石の剣のメンバーだけでどうにかするつもりだったからね。君たち三人には夜寝る時の見張りと明日から戦闘に参加してもらえるとありがたい。見張りはもちろん全員で交代するよ。Eランク一人にFランク二人をちゃんと戦力として数えられるのは僥倖だ。折角だし甘えることにしよう。俺とロット、フィカの代わりを三人にお願いできるかな? 戦力的には申し分ないはずだ。ジャッジャはヘイナと引き続きパーティを守ってくれ。それで問題はないだろうか?」


 ゴソトの的確とも言える指示に反論する者は誰もおらず、ゴソトは他の五人にも伝え確認のため陣形を入れ替えてみる。

 フランネルを先頭にジャッジャ、リイシャ、僕、フィカ、ロット、ゴソト、フォルス、ヘイナ、マイトの順で細長いひし形状の陣形を組む。

 元の陣形と形は同じで、メンバーの位置が入れ替わっただけである。


「うん。以外にも安定感のありそうな形になったな。よかった、よかった。では冷めないうちに食事を済ませよう」


 新しいメンバーの配置に満足気なゴソトは、フォルスたちが作ってくれていた鍋から一人前分のスープを取り皿に移し腰を下ろして食べ始める。

 それに倣うように他の面々もスープをよそい食事を始めた。


 ジャッジャは相変わらずゴソトと快活に話し始め、フィカとマイトは壁に背を預ける。

 ロットは地面にうつ伏せで寝ころび、横ではバッグを下ろしてもたれ掛かるようにフォルスとヘイナが体育座りをしていた。


 皆、各々の体勢でスープを口にするのを横目に僕とリイシャも空いているスペースに腰を下ろして食事を取る。


「隣、いいかしら?」


 声のする方には僕たちの顔を覗き込むようにしてフランネルが立っていた。

 リイシャは隣の地面にある汚れを軽く風で飛ばし、柔らかな笑みを浮かべ座るように勧める。


「もちろんどうぞ」

「ありがとう。それにしても器用なのね。実のところ、新エリアを見つけた方法についてはまだ半信半疑だったのだけど。こんなことをサラッとやってしまうのだから、信じるしかなさそうね」


 フランネルは僕たちに疑いの目を向けていたことを告げるも、感嘆交じりの言葉はそれを信頼へと昇華させたことを示唆していた。

 リイシャにとっては箒を使ってゴミを掃いたことと同じ感覚であり、驚かれるようなことをしたつもりはなかったようで小首をかしげる。


「今のって、そんなに驚くことですか?」


 フランネルは大きく頷いてリイシャの瞳を見据える。


「『ウィンド』を使うことができれば誰でもできるでしょうね。ただ出力を抑えても最低限の魔力は消費するし、もしもの時にこの一回が生死を分ける可能性もあるのよ? こんなことをサラッとする人は、考え無しのバカか、気に掛けなくてもいいほどに魔力量が多い、もしくは魔力効率が桁違いに良い人ぐらいね。あなたたちのことだから、考えなしのバカってことはないでしょう?」


 フランネルの言葉にリイシャは冷や汗をかき、居心地の悪そうな笑顔を取り繕う。


「も、もちろん。ちゃんと考えて日ごろから魔術を使ってますから、安心してください」


 リイシャはきっと何も考えずに魔術を使っていたのだろう、それでもフランネルの見立ては正しく、リイシャの魔力効率は文字通り桁違いだ。

 冒険者になる前から分かっていたことではあるが、リイシャは体内の魔力をほとんど使っていない。

 魔術を行使することで疲れは溜まるが、魔力が枯渇することはないだろう。

 魔術の特訓は僕に合わせたペースに付き合ってくれていたため、リイシャが魔力を枯渇させているところを見たことがない。

 頭では考えていなくとも、体で自分の限界は理解できているのだ。

 まさに天才である。

 しかし"考えなし"の部分は図星だったらしく、リイシャは冷や汗をかきながら話題を変えることにしたようだ。


「そ、そういえばフランネルさんはなんでパーティを組まないんですか?」

「機会がなかったから……かしらね」


 フランネルの言葉にあまり納得がいってないようで、リイシャはもの問いたげな顔で眉間に皺を寄せる。

 少しナイーブな話題を振ってしまったのかもしれない、とでも後悔しているのだろうが気にすることはないとフランネルが言葉を紡ぐ。


「ごめんなさいね。気を遣わせてしまったかしら? 深い意味はないのだけど、ただ心から信頼できる人がいなくてね。臨時でパーティを組むこともほとんどないわ」

「そうなんですね。でもパーティを組んだ方がいろいろと楽で安全だと思いますよ?」

「もちろん分かっているわ。ただ背中を預けることと天秤に掛けた結果、私は一人でいることを選んだ。ただそれだけだよ。信頼できる人に出会えたら、パーティも組んでみたいと思っているわ」


 信頼できる人、フランネルにとって背中を預けられる、つまり命を預けられる人のことを言っているのだろう。

 僕にとってはリイシャだけが命を預けられる人物であり、この場は少し居心地が悪い。

 フランネルの気持ちもわからなくはない。


 そんな僕の考えとは裏腹にリイシャが驚愕の言葉を口にする。


「それなら、この依頼が終わったあと、私たちと一緒に冒険しませんか?」


 思いもよらない唐突な言葉に口をぽかんと開け呆気に取られる僕の視界には、同じように呆気に取られているフランネルの顔が映っていた。


「あ、ありがたい申し出だけど、リイシャは私の話を聞いていたのかしら? 信頼に足る人がいないからパーティを組まないのよ? 今朝あったばかりのあなたたちのことを信頼していると思っているの?」

「さっきは半信半疑だったけど信じるしかなさそうって言ってましたよね?」

「あれは新エリアを見つけたことに対してだけよ。背中を預けられるほどじゃないわ」


 ぶんぶんと首を横に振ったフランネルに、リイシャは瞳を輝かせて勧誘を続ける。


「でも、たった一つだけとはいえ私たちのことを信じてくれたのなら、後はそれを積み重ねるだけ、希望はありますよね? それならこの依頼中に安心して背中を預けられるってところを証明してみせます!」


 フランネルは口をパクパクとさせ言いたいことが纏まっていないようだが、数秒()をおいてリイシャの目の中を探るように見つめる。


「なんでそこまで私とパーティを組みたいのか、理由がわからないわ」

「フランネルさんは優しい人なので、それが理由です」

「私はあなたたちに優しくした覚えはないのだけれど」


 フランネルが眉尻を下げて小首をかしげるも、リイシャは胸を張って燦爛と瞳を輝かせる。


「フランネルさんの笑顔はとても素敵でした。素敵な笑顔の人はみんな優しいんです!」

「私の笑顔がどうかは別として、その論には何の根拠があるの?」

「勘です! 勘はバカにできないって、私たちに稽古をつけてくださった方も言ってました!」


 リイシャの子供じみた理屈のない言葉に小さな笑みが零れる。


 クスッ


 フランネルは一瞬だけ顔を綻ばせたように見えたが、すぐに口を締め僕に視線を移す。


「ミルの方は私をパーティに入れることに対して驚いているみたいだけれど、リイシャに何か言った方がいいんじゃないかしら?」


 僕が呆気に取られていた姿はフランネルの視界にちゃんと映っていたらしく、以前リイシャがおじさんに対して唐突に冒険者をやりたいと言った日のことを思い出した。

 あの時もいきなりでリイシャの我ままとも言える行動に振り回されたものだ。

 苦しい想いもしたが、リイシャと一緒にあの村を出たことを後悔していない。


「僕はリイシャを信頼してますから」

「ありがとね、ミル」


 薄く頬を染めてはにかむリイシャ。

 リイシャと僕を交互に見つめてフランネルが口を開く。


「そうね、考えておこうかしら。だからこの一週間、頑張ってくれないと困るから……よろしくね」


 口角がほんの少し上がり、目は軽く湾曲していた。

 庭駆け回る幼子のような可憐で朗らかな微笑み、そこには素敵な笑顔があったのだった。

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