第33話 臨時パーティ
ダンジョンの中は陽光が差し込まないため相変わらず薄暗いままである。
だがそれを気にする者は誰もいない。
ゴソトを先頭、ジャッジャを二番手に置き、僕とリイシャの案内で隠し通路までの道を行く。
と言っても一度だけしか往復していない道を正確に覚えているわけではないので、ある程度の時間はかかるだろう。
そのため中層までの道案内は他の面々に任せている。
入口付近に魔物は見当たらず、自己紹介をしながら進むことになった。
まず初めに口を開いたのは、ギルドで率先して発言していたゴソトからだ。
「俺の名はゴソト・クーレ、Eランク。クラン勇石の剣でパーティリーダーの一人をやっている。炎系の魔術を二つ持っていて、条件下でのみスキルで筋力を上昇させることができる。すまないがスキルの詳細は教えられない。以上だ」
溌剌としたゴソトの自己紹介が終えると、パーティの最後方を歩くマイトが左手に持つ弓を軽く掲げて自己紹介を始める。
「俺はマイト、後方から弓での狙撃がメインだが、近接戦も出来なくはない。使える魔術は『エレクトリック』が一つ」
抑揚のない言葉を綴って自己紹介を終えたマイトを皮切りに、パーティの後方から順に自己紹介が始まった。
「私はヘイナ。普段はロットと一緒にアタッカーやってるけど火力はあまりないかな。魔術も『ファイアー』が一個だけだし」
「僕の名前はフォルスです。水と回復魔術を使って支援してます。近接戦はからっきしです」
薄い赤髪を後頭部で団子に結んだヘイナが手を組んで伸びをし、前髪で目が隠れたフォルスは軽い会釈と同時に自己紹介を終わらせた。
続いて、薄紫髪のポニーテールを靡かせた麗人が、腰に差した剣の柄に手を這わる。
「私はフランネル。近接戦が得意だけど、一応中距離技もあるわ」
フランネルが自己紹介を終えると、パーティ内でちょうど真ん中にあたる配置にいる僕たちの順番が回ってくる。
パーティを組んだ経験はないが、中衛の立場になるのだろうか?
以前フラナは『エレクトリックサンダー』と狂癲を持っていることがバレると、国軍や道徳のない者たちに狙われる可能性があると言ってた。
全員がEランク以下の冒険者であるならば、狂癲のことなどは知らないかもしれないが勇者の耳に入ることは避けたい。
本来は教えあう必要があるのかもしれないが、臨時パーティといえど僕の持つ能力を教えるつもりは毛頭ない。
なんせリイシャにすら狂癲のことは教えていないのだ。
冒険者としてのノウハウは未だにわからないが、僕はリイシャの身を守ることを最優先に決めている。
ここで開示する情報は最低限にとどめ、自己紹介をすることにした。
「僕はミルです。電撃系統の魔術を使いますが、メインは槍で戦ってます」
淡泊な自己紹介を終え、一度リイシャに目線を送る。
目線だけで僕の言わんとしていることを理解してくれたらしく、リイシャは小さく頷き僕に倣って詳細を省いて自己紹介を始める。
「私はリイシャです。風魔術を使えるんですけど威力があてにならないので、背にしょってる剣で戦ってます」
リイシャも『キルウィンド』を使用できることを伏せて自己紹介を終えた。
僕たちが隠し事をしていることなど露知らず、ピアスの男が気だるげに欠伸をし目尻に涙を溜めてから口を開く。
「俺はロット。剣の腕に自信はあるが魔術は使えない」
そんなロットとは対照的に、元気で柔らかな声音の人物が優し気な笑みを浮かべ僕たちに向き直る。
「私はフィカ。接近して相手をボコボコ殴るってより動き回ってヘイトを稼ぐ感じ。今回はジャッジャがいるから攻撃メインになるかも。あまり魔術は得意じゃないけど、アーススラストが使えるかな。よろしくね!」
ゴソトとフィカの二人は、僕たちがダンジョンで出会った四人組とは違って親しみやすそうな雰囲気を醸し出している。
マイトはポーカーフェイスで何を考えているのかわかりづらいが、僕たちよそ者には興味がないのだろう、変に深入りしてこないだけジャッジャよりも接しやすくはある。
深入りしてこないという点だけで見ればヘイナ、フォルス、ロットも同じだがあの三人はジャッジャをリーダーに置き不満等はなさそうに見える。
となればジャッジャと同じ類だと思っておいた方が気を引き締めて対話ができるだろう。
当たり前だが同じクランに所属しているからといっても人となりは違うモノなのだろうが、同じパーティとなれば似通った部分も出てくるはずだ。
疑心を抱いたまま、最後の一人の自己紹介に耳を傾けた。
「俺の名はジャッジャ。このデカい斧を魔術で強化してタンクをやってる。改めてよろしくな」
先の三人に好印象を抱いたとて、あの四人は受け入れがたい。
僕はこのパーティでひときわ大きな体格の短髪男の言葉に、軽く会釈をするだけに留める。
それに難色を示す者はなく、全員の自己紹介が終わったことでゴソトが力強く声を発しジャッジャに話しかける。
内容は大したことのない世間話のようなモノのようで、僕は会話に興味をそそられることなく辺りの警戒へと意識を向けた。
▽▽
歩くこと一時間。
緊張感の欠けらも無く豪快に笑うジャッジャ、快活に笑い応えるゴソト。
二人の笑い声にマイトが待ったをかける。
「何か来る。このパラパラとした不揃いで小さく、数のある足音は……ゴブリンだろうな」
マイトの注意喚起を受けて、いの一番にゴソトは鞘から剣を抜き身構える。
先ほどまでの周りを警戒していたとは思えない声量で喋っていた時とは別人のように、顔から笑みを消して真剣な面持ちを作っている。
ゴソトが先頭を歩く事に若干の不安を抱えていたのだがマイトの索敵能力の高さに杞憂に終わったようで、一人、胸を撫で下ろす。
なんせ僕とリイシャが気が付く前に魔物の接近に気が付いたのだから。
いや、ジャッジャとゴソトがダンジョン内に響く程の声量で喋っていたから気が付けなかったのかもしれない。
一度落とした評価を上げるにはまだ早い。
そんな僕の思いとは裏腹に、リイシャとフランネルを除く他のメンバーは各々の武器を構えていた。
このパーティにおいて僕たち三人が異端であり、他の面々からすればマイトは信用に値する人物なのだろう。
僕たちも武器を構え、今となってはしっかりと聞こえるゴブリンの足音がする方へと注意を向ける。
薄暗いダンジョンでは数十メートル離れただけで視界の先が朧気になる。
そんな中、やっとゴブリンの姿があいまいに見えたタイミングで、最後尾にいたマイトの矢が僕たちの頭上で低軌道な弧を描き先頭のゴブリンの頭蓋を射抜く。
それを合図に前方で構えていたゴソト、フィカ、ロットが六匹のゴブリンの群れへ走り出す。
ジャッジャはパーティの盾役として先頭で腰を落とし大斧を正面に構える。
ゴソトはゴブリンの棍棒を剣で軽くいなし切りつけるが、付けた傷は浅く仕留めきれずに後退する。
それを気に留めることなくゴソトと入れ替わるように、フィカの短剣がゴブリンの鳩尾にクリティカルヒットしてとどめを刺す。
ロットも一匹のゴブリンとつばぜり合いの末、勝利を収めたようで首を撥ねていた。
そんな殺気が錯交する中、後方にいたゴブリンの投石が放たれる。
ゴブリンの投石はジャッジャの大斧で簡単に防がれ、代わりにマイトの矢が戦場を疾る。
その後もゴソト、フィカ、ロットはそれぞれの距離でつかず離れずでお互いがカバーしあえる状態を維持し、マイトの援護を受けながら危なげなくゴブリンの群れの掃討を成し終えた。
結果だけ見れば僕とリイシャ、フランネル、ヘイナ、フォルスの五人に出番はなく、首尾の良い初戦だったと言えるだろう。
しかし、その戦いぶりにはプロのパーティの様な効率の良さや威圧感はなく、僕たち素人でもマネできそうな……いや、僕たちよりもお粗末なモノに見えた。
僕とリイシャで六匹のゴブリンと戦った時は二人で二分もかからなかっただろう、だが今回は六匹のゴブリンを倒すのに五人で五分はかかっていた。
ジャッジャは主に僕たち中衛と後衛の防御がメインだったため戦力としてカウントしてよいか微妙なところであり、マイトが最初に射抜いた個体を合わせるとゴブリンは七匹で一匹多いが、それでも時間がかかりすぎだ。
パーティを組む以上、陣形は大切でそれを守りつつ戦っていたから深追いできず時間がかかったのかもしれない。
しかし一撃で仕留められるであろうタイミングを何度も逃して、無駄な時間と体力の浪費に繋がっている。
初めて見る魔物や初めて来る場所などではそれでもよいかもしれないが、このダンジョンの下層まで足を踏み入れたパーティの戦い方とは思えない。
このパーティの異端組であるリイシャとフランネルは僕と同じような渋い顔をしている。
きっと表情と一緒で僕と同じ、不安にも近い感情を抱いているのだろう。
だが他の七人はなんとなしと戦利品の回収に勤しんでおり、僕らもそれに倣うことにした。
ギルドで受付のお姉さんは"この七人がオーガを討伐したことがある"と言っていたが、些か信ぴょう性に欠ける。
実際にオーガと戦った経験から推測するに、勝つことはできるのであろうが前衛に重傷者が出てもおかしくない程度のレベルに思える。
そのための回復要因としてフォルスがおり、一週間をかけてゆっくり往復と探索に力を入れるのだろうが、それを加味しても一度抱いた不安を払拭することは難しい。
今回のクエストのメインは新エリアの調査であるため、普段から見かけるゴブリンの戦利品は対して必要でない。
新エリアで大量のお宝などを見つけることができれば捨てていく程度の品ばかりであるので回収は早々に引き上げ、陣形を組み直し歩を進める。
ジャッジャとゴソトが再びダンジョン探索とは無関係などうでもよい話で盛り上がり始めた。
二人は気が付かないのだろう、その会話が僕とリイシャ、フランネルの不安に拍車をかけていることに。
この七人に背中を預けてもよいのだろうか……
このダンジョン探索での過ちは、自分自身の勘を信じ切ることができなかったこととなる。




