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スーサイド・レコード  作者: 日常の音ずれ
第3章 百鬼迷宮編

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第29話 輝きを失くす

 瞼を開けると横になっている僕の隣に、リイシャが壁を背に軽く足先を広げて体育座りをしていた。

 この目線ならリイシャの下着が見えてもおかしくないのだろうが、生憎と彼女はスカートではなく体のラインが良くわかるパギンスのような物を履いているので、目に収めることはできなかった。

 ただ、ピッタリフィットのパンツがエロティシズムを醸し出している。


 眼福な光景に目を奪われていると、その軽く開いていた足が閉じられた。


「起きたらまずは、おはようでしょ」


 呆れにも似た声を聞きながら僕は上半身を起こし胡坐をかく。

 

「おはよう。いやね、目を開けたらなぜか目が離せなくなってさ。これが俗にいう金縛りだったのかもしれない」


 僕の意味の分からない言い訳にリイシャは目を細めて訝し気な視線を送る。


「今動けてるじゃん」


 もちろん金縛りなどは嘘なので、微笑みを浮かべて答える。


「リイシャの声を聴いたから、体の中の悪い成分が浄化されたみたい」

「そっ、元気になってくれたみたいで何より」


 リイシャの訝し気な目を気に留めず、僕は頭を巡らせて不快感が消えていることを確認する。


「うん、ありがとう。頭もスッキリしたよ。何時間ぐらい寝てた?」

「さぁ、時計がないからわかんないけど、五時間ぐらいかな?」


 リイシャが小首をかしげるのに対して、僕は眉をハの字に下げて心苦しくなる。


「だいぶ寝ちゃってたね、ごめん。疲れたでしょ? 今度は僕が見張ってるから、たっぷり寝ていいよ」

「そうする」


 リイシャは背負っていた長剣を傍らに置き、壁の方に顔を向けて横になった。


「あ、ミルが寝てる間は魔物来なかったから起こさなかったけど、もし来たら起こしていいから」

「わかった。じゃあ、来ないことを祈っとくよ。おやすみ」

「おやすみ」


 僕からはリイシャの寝顔を見ることはできないが、「おやすみ」と同時に瞼を閉じたのだと思う。

 リイシャは長剣を両手で軽く抱き寄せ、少し体を丸めこむ。

 僕は眠っている間にリイシャが立てかけてくれていたのだろう槍を手に取り、リイシャの横に腰を下ろし数時間前のことを思い返す。


 なぜいきなりあの四人組のことに対して無性に嫌気が差したのか……

 リイシャの言った通り、もしかするとただの善意だったかもしれない。

 ダンジョンでは新人の護衛をかってでることが普通だとか。

 僕たちはあの四人組としか会っていないからわからないが……

 あれ?

 今更だが、なぜこんなに人が少ないんだ?

 勇者が来るから人が町を後にしているとは聞いていたが、この町に籍を置く冒険者もいるはずだ。

 他に誰も潜っていないのだろうか?

 というか魔物も少なすぎる。

 もしかして何かこのダンジョンで起こっているのだろうか?

 わからない……

 こんなことならあの四人組に何か聞いてみればよかった。


 僕は意識的に関わりたくないと、突っぱねた四人組のことを再び思い出す。

 それだけで身を震わせるほどの怖気がした。


 なぜあの四人に会った瞬間、嫌悪感を覚えたのだろう。

 多分ロクでもない奴らなのだろうが、本当に心優しい人たちだったら失礼極まりなかったな……

 ただ、どこかで会った気がするが思い出せない。

 正確にいえば、会ったことないはずなのだが、会ったことがある気がする。


「はあ、わかんないなぁ……」


 つい大きなため息が零れてしまう。


 はっとなり、リイシャを起こしてしまってはないか顔を覗くが、僅かに聞こえる程度のいびきをかいてスヤスヤと眠っていた。

 あまりの可愛さに数秒ほど見とれ、もう少しちゃんと寝顔が見たくなったので、リイシャの顔にかかっていた髪を耳にかける。


 その瞬間、僕の手はリイシャの手に掴まってしまい、とっさのことに僕は手を引き戻そうとするもリイシャは離してくれない。

 起こしてしまったかとリイシャの寝顔をよく見たが起きた様子はなく、またもや杞憂に終わってくれたようで胸を撫で下ろす。

 リイシャの寝顔を見て少し心に余裕ができたきがして、僕はとりあえず考えるのをやめて、リイシャの手を解き見張りに徹することにした。


 右手に持つ槍に力を入れ、周囲への警戒を強めて。




     ▽▽▽




 リイシャが寝たあとも魔物に襲われることはなかった。

 暇を持て余し欠伸で目尻に涙を溜めこんだ僕に、隣で眠っていたリイシャが伸びをしながら上体を起こして声をかけてきた。


「う~ん。あはよう」

「おはよう。よく眠れた?」

「まぁまぁかな。ミルはまだ眠たい感じ? もうちょっと寝てもいいけど」


 リイシャは僕の目尻に溜まった涙に視線をやると、もう一度就寝につく提案をした。

 僕は首を横に振り、ありがたい提案を断る。


「大丈夫、暇だっただけ」


 相変わらず寝起きの良いリイシャは手拭いで顔を拭くと、今後の予定を問う。


「それはよかった。じゃ今日はどうする?」

「そうだね。どこかに腰を下ろして、そこを拠点にオークを少しずつ討伐するってのがベストになるかな?」

「上層みたいに魔物が少なかったら、奥まで探し回らないとかもよ?」

「それもそうだね」


 オークはFランクとはいえ、六体も討伐するのだ安全を第一に考えたかったがリイシャの言い分も一理ある。

 リイシャの提案を呑んだ僕は、奥へと繋がっている道を進むため地に手をついてその場で立ち上がる。

 槍を右手に持ったまま空いた左手で座っているリイシャに手を差し伸べ、リイシャは長剣を右手に僕の手を取り立ち上がる。


「っしょっと。ありがと」

「どういたしまして。じゃあとりあえず歩こっか」




   ▽▽▽




 あれからどれだけの時間が過ぎただろう。

 上層に比べ中層は分かれ道が多く、何度も行き止まりに出くわし、行ったり来たりを繰り返していた。

 分かれ道はできるだけ大きな道を選びながら進んでいた。

 たまに細い道などもあったが、武器を振り回せるほどの道幅ではなかったので選択肢から外した。

 しかし今、目の前には大きな道が三つ。

 中層では未だに魔物と遭遇していないが、行ったり来たりがそろそろ億劫になってきたところだ。


「リイシャ、頼みがあるんだけど」

「何?」

「『ウィンド』と『タクタイル』でこの先を少し調べてくれない?」


 リイシャの扱う『ウィンド』と『タクタイル』の同時使用、これは『ウィンド』によって広範囲に風を送り、『タクタイル』によって風の僅かな変化を察知する。

 風の強い場所で使えず外での戦いが多かった今まではまともに使うことができなかった、リイシャの探査技術である。

 僕は薄暗く数十メートル先までしか見えない枝分かれした道を示し、リイシャに向き直る。


「中層も魔物が少ないみたいだし、魔力を消費してでも歩く体力を温存するために、先がどうなってるのか確認してほしくて。やってくれないかな?」

「いいよ。じゃあちょっと待ってて」


 リイシャは一つ頷くと瞼を閉じ、右手を軽く前に出し、


「『ウィンド』、『タクタイル』」


 二つの魔術を微かな声量で唱えた。

 瞬間リイシャの髪が羽毛のように風になびき、ダンジョン内に微風の通る音が木霊する。

 数秒ほど経ちリイシャが目を開ける。


「五百メートル先ぐらいまでしかわからなかったけど、右の道はずっと行ったら行き止まり。真ん中の道は真っ直ぐ行くと奥にはちゃんと魔物がいるっぽい。人より少し大きいのが三体、見たことないから分からないけど多分オークなんじゃない? で、その先は行き止まりなんだけど、壁の隅には微かに風が通る道があって、その向こう側は多分道が続いてる。もう片方の道はゴブリンが七体ぐらいで固まって壁にある大きな穴の中で寝てる。まだ奥には道が続いてるみたい」


 リイシャの正確な情報共有に僕は一つの疑問を頭に浮かべる。


「風が通る道? その壁の向こうは、隠し通路ってこと?」

「さぁ、結構分厚い壁だし人力でどうにかなるとは思えないけど、もしかしたら動くかもね」


 僕は壁の向こう側への興味が湧き、一つ提案をする。


「オーク狩るついでに、その壁も調べてみよっか、奥の通路が気になるし」


 好奇心から生まれた僕の発言に、リイシャは眉根を寄せる。


「いいけど、壁が動かなかったらどうする?」

「壊してみるのもありじゃない?」

「いや、なしでしょ」


 リイシャの冷たい眼差しに僕は瞳を射抜かれ、冷や汗を垂らしながら先を行くことを催促する。


「わ、わかってるって。冗談冗談。とりあえず見るだけでもいいからさ、早く行こっ」

「はぁ……」


 リイシャは溜息を一つつき、僕を横目に歩き始め、僕は頬を伝う冷や汗を拭って後を追う。




「で、あれがオーク?」

「そうだと思う」


 リイシャは近場にあった大きな岩の陰に隠れ、二十メートルほど先にいるオークたちを見据えながら、隣で一緒に隠れている僕の問いに答えた。


 オークたちはリイシャの言っていた通り丁度三体おり、二体は手に持っている大きな棍棒で自身の頭をポクポク叩き、一体はボケッと座っている。

 大きさは二メートル弱ほどあり、ゲームなどでよく見るような豚顔ではなく、ゴブリンがそのまま大きくなったような見た目をしている。

 お腹が少し出ているので、オークというよりホブゴブリンといった方が日本人には伝わりそうだ。


「それにしても、なんで頭叩いてるんだろ? 見た目があんなんじゃなかったら、かわいいんだけど……」


 リイシャは軽く口を尖らせムスッとした表情で残念そうにオークたちを眺める。


「さぁ、なんでだろ。ゴブリンより頭が悪そうに見えるよね。まぁ理由がどうであれ、折角だしとりあえず狩ってみよっか」

「やり方は?」

「リイシャはさっきの探知で結構魔力使ったでしょ? 僕一人でやるよ」

「別に、まだまだ元気だけど?」


 そう言うと、リイシャは腕を直角に曲げ、服の上からでもくっきりわかるほど大きな力こぶを見せつけてきた。


 なんと逞しいことだろう、先ほどの探知技は大量の魔力はもちろん、高精度な技術も必要となるはず。

 だというのに当たり前かのように行い疲れを見せない、何べんも思わされるがリイシャは間違いなく魔術の天才だ。


 こういうのは転生した僕の立場じゃないのだろうか?

 凄い力で愛する女性を守る、王道ファンタジーじゃないのか?

 と度々思うが『エレクトリックサンダー』を使用でき、実力がEランクの僕も十分凄い側ではあると思う。

 何よりお互い背中を預けあうこの関係の方が僕は好きなため、自分の弱さに落胆することはあってもリイシャを妬んだことはない。


「じゃあお言葉に甘えて。頭叩いてる二体を僕が、リイシャは座ってる奴ね。ゴブリンとインプには魔術を使ってこなかったけど、さすがにFランク相手には使っていこっか」

「おっけ」


 リイシャの返答を聞き届け、槍を構える。


 僕は一気に『オーバードライブ』で頭を叩いている二体の間を通り過ぎると同時に、槍の石突で体を反らさせるほどの一撃を右側のオークの顔面にお見舞いする。

 左側にいたオークは困惑を見せつつも状況を理解したのか、持っている棍棒を横なぎにして僕に振り切る。

 それを槍で弾きオークの腹を切り裂く、間髪入れずに顎を目がけて石突を勢いよく振り上げて骨を砕く。

 僕の背後から、一撃目を受けたオークが棍棒を大きく上段に構え振り下ろす。

 半歩横に移動して棍棒を躱すと同時に、槍の穂先でオークの首を切り裂く。

 が、オークは少しよろめく程度で傷が浅かったのだろう。

 僕が追撃を加えようと槍を構え直すと、座っていたオークがいつの間にか接近しており僕に向けて棍棒を振り下ろす。

 それを少し遅れてきたリイシャが『ウィンド』によって速度を増した上段抜刀斬りによりオークの両腕を断ち、腕と棍棒が地に落ちるより速く、逆袈裟切りの要領でオークの顔面を斜めに一刀する。

 僕はリイシャが来ていたことを把握していたため、構え直した槍でよろめいていたオークに一突き、人の腕の数倍はあるだろうオークの首からは止めどなく血が流れうつ伏せに倒れる。


「魔術を使わなくても、一対一なら普通に倒せてたかもね」


 リイシャは三体のオークの死体に視線を落として、戦ってみた感想を口にした。

 僕は一つ頷き、リイシャの手に持つ長剣に視線を向ける。


「そうだね。にしてもその剣ホントに凄いね。頭って相当硬いはずなのに、小枝みたいに斬ってさ。刃こぼれもまったくしてないし」

「いやー、わたしもそれよく思うよ。こんな良い物造ってもらって。帰ったら何か孝行しないと」


 リイシャは長剣を見つめ目を和らげると、血振りをして背中に担ぎ直し行き止まりに歩みより壁を軽く擦る。


「そのためにも、何か手土産の一つでも持って帰らないとね」


 僕も壁に手を当ててリイシャに一つ問いかける。


「この向こう側に、その手土産があるの?」

「もし誰もここを通ったことがなかったら、お宝の一つでもあるかもね」

「じゃあこの壁をどうにかしないとね……フンっ!!!」


 槍を背負い直し腰を落として、両手を壁に思いっきり押し当ててみたがビクともしない。


「まぁ、そりゃあ、そうだよね……」


 僕とリイシャは数歩下がり、軽く壁の周りを見回してみる。


「ねぇリイシャ、風が通る道があったんだよね? どの辺り?」


 リイシャは僕の質問に逡巡を見せ、壁の隅をUの字を描くように指で差す。


「壁の端っこ」

「天井の部分は?」

「そっちもあるけど向こう側には繋がってないと思う」


 風の通り道に頭を巡らせて、僕は一つの仮説を口にする。


「この壁が動くことを前提に話すけど、その場合、これは上に持ち上がるってこと?」

「だと思うけど。普通に考えてこれを持ち上げるって、どう考えてもおかしいよね。もしかして地震か何かで、上から岩盤が落ちて道が塞がったとか?」


 リイシャの信憑性の高い仮説に、僕は肩を落とし強硬手段に出る。


「ありえるね……仕方ないけど、壊すしかないかぁ……」

「いや、壊さないって」


 しかしリイシャの良識のある指摘に僕は今一度頭を巡らせる。


「それなら……リイシャの『ウィンド』で持ち上げれる?」

「無理だと思うよ……数十トンはあると思うし」


 無理だと断言しないリイシャに軽く戦慄しつつ、壁の分厚さに驚愕する。


「え、そんな大きいの? なら壊せないかも……」

「例え壊すにしても、結構時間はかかるよ」

「うーん……他に何かこの辺になかった?」

「今までみたいに小さな穴がいくつかあるだけ」


 リイシャは壁に数個ほどある小さな穴に視線を送った。

 それを目で追った僕は中腰になり、一つの穴の中を覗いてみる。


「結局この穴ってなんなんだろ? オークとゴブリンが使うにしては用途がわかんないし、小さすぎるよね。ってなるとインプが使ってそうだけど、いる気配はないし……ん?」

「どうしたの?」


 疑問を浮かべた僕の発言に、リイシャが不思議そうに顔を傾け尋ねてきた。

 僕は穴の中に腕を突っ込み、中を調べつつ答える。


「中に何かある気がして…………あっ」


 僕の間の抜けた言葉を聞いて、リイシャが興味ありげに近づいて来た。


「何々? 何かあった?」

「うん、なんかレバーみたいなものがあるんだけど、これ引いてもいい?」

「いいよ」


 二つ返事で軽く承諾してくれたので、僕はレバーらしきものを握りしめ、力強く引く。


 ゴゴゴゴゴ


 すると、ダンジョンに軽い振動を与えながら件の壁が天井へと引き上げられていく。


 謎が解け、リイシャが瞳を輝かせる。


「ミル! 動いてる!」

「うん! これで通れ、うわっ!」


 壁が上がり始めて通れるようになったことに歓喜し、僕とリイシャが顔を綻ばせていると、唐突に背中を押すような突風が吹き、壁のなくなった通路へ体が持って行かれそうな勢いで吸い込まれそうになる。

 吸い込まれないように壁を下ろすため、僕は咄嗟にレバーを押し戻す。

 リイシャは身を屈めるも、首にかけていたペンダントは紐を切って通路に吸い込まれていった。


「あっ! 待って!」


 ペンダントを追いかけようと身を乗り出したリイシャの頭上からはゴゴゴゴと音が響き、僕はレバーを押し戻すことを辞めて引き直そうと力を入れるもレバーは動かないな。

 このままでは壁が降りて、リイシャが押しつぶされてしまう。

 僕は声を張り上げて、リイシャに制止をかける。


「戻って!!」


 僕の言葉に反応してリイシャは踏ん張りを利かせ、その場に留まった。

 次の瞬間、天井から壁が勢いよく下り粉塵を巻き上げる。

 僕はその光景に瞬間唖然とするも、すぐさま砂埃で見えなくなった壁の側まで駆け出す。


「リイシャ!!」 


 そこには下りてきた壁のすぐ手前でリイシャが尻もちを着き呆けていた。

 どうやら間一髪のところで下敷きにならずに済んだらしい。

 それを見て僕はほっと胸を撫で下ろす。


「はぁ、よかった。怪我はない?」

「う、うん。怪我はないけど、お母さんから貰ったペンダントが飛んでっちゃった」


 ペンダントがかけてあったであろう胸の前で空を握りしめる、リイシャのその仕草からは哀情が見て取れた。

 ペンダントは祖母の形見である、拾わずに帰ることはできないため僕は再度レバーに手をかける。


「じゃあもう一回壁を上げるよ。風が吹いた仕組みはわからないけど、吸い込まれないように気をつけてね」

「ありがとう」


 リイシャの言葉に応えるように僕は右手でレバーを、左手でリイシャの手を力強く握る。


「じゃあいくよ……」


 リイシャが首を縦に振ったのを見て、僕は頷き返しレバーを勢いよく引く。


 突風に耐えるため僕とリイシャはすぐに身を屈め壁が上がるのを待つ。

 先ほどと同様ゴゴゴゴゴとダンジョンに軽い振動を与えながら壁が天井へと引き上げられていく。


 壁がなくなった通路に吸い込まれるようにして突風が吹き、僕たちは身動きが取れないまま思考を巡らせる。

 ということにはならずに、壁が上がり終わったにも関わらず突風が吹くことはなく、ほんの少しの微風が僕たちの髪をなびかせるだけ。

 僕もリイシャも面食らい一瞬の沈黙が流れた後、先に言葉を発したのはリイシャだった。


「ねぇ。なんか大丈夫そうじゃない?」

「っぽいね。それじゃあ、探しに行く?」

「そうする」


 リイシャの言葉を受け僕は立ち上がり、繋いでいる左手でリイシャを軽く引き上げて立つ一助をする。

 立ち上がったリイシャは”ありがとう”と一つ感謝を述べ、通路の先を見据えて顔をしかめ言葉を続ける。


「ミル。一緒にペンダントを探しに行ってくれるのは嬉しいけど、この先は今までとは違う気がする」


 そう、リイシャの言った通り通路の奥からは今までとは異なり、体を刺すような圧が感じられ、僕もそれに気が付いていた。


「よくない雰囲気だよね。だからペンダントを見つけたらすぐに帰るよ」

「ごめんね」


 リイシャが心苦しそうに愛想笑いを浮かべ、僕は首を横に振る。


「僕がこっちの道を選んだのが原因だし、寧ろごめん。それに、おばさんから貰った物だしね。僕にとっても失くしてほしくない物だから気にしないで」

「今度、なんでも一つ言うこと聞いてあげる」


 リイシャは悪戯な笑みを浮かべ、僕にとっては専売特許にも近い謝罪文句を決めてくる。


 僕は苦笑いで応えて槍を構え直し、リイシャと共に壁のなくなった薄暗い通路の奥へと歩を進めた。

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