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スーサイド・レコード  作者: 日常の音ずれ
第3章 百鬼迷宮編

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第27話 ダンジョンに踏み入れる日

 僕たちは今、百鬼迷宮の関所で銀貨一枚を支払い検問を受けている。

 許可がなくては入ることができないようで、依頼内容と人数、加えて持ち物検査等を受ける必要がある。


 ダンジョンが許可制になった理由は、三百年前に大きな事件があったことが原因である。


 当時、とあるダンジョンで大量の人の死体を遺棄し、アンデット系の魔物が大量に増え、立ち入ることが禁止になるほど危険になった。

 本来死体を放置しても動物や魔物の餌になるか、腐敗するだけである。

 ただ魔力子濃度の高いダンジョンなどでは稀にアンデッドとして蘇るらしい。


 この事件における死体遺棄は不法投棄ではないが、ダンジョンに外から持ち込んだ物で異常をきたすことを防ぐために検問を行っているようだ。

 ちなみに魔物の死体は気化して魔力石と呼ばれるエネルギーの塊の石が残るだけなので、アンデッドになる心配はないらしい。


 僕とリイシャは三分ほどで検問を終え、人生初となるダンジョンの扉を潜り抜けた。


 門には魔物がダンジョンから出てこないように、ダンジョン内の魔力子を吸収する細工が施されている。

 ダンジョン内は魔力子が充満しており、凶悪な魔物などが生まれやすい。

 また、凶悪な魔物は魔力子濃度の高い場所を好む。

 門が魔力子を吸収することで、出入口に近くなるほど魔力子濃度が薄くなり凶悪な魔物が近寄らないようになっている。


 吸収された魔力子はエネルギー源として町でインフラなどに使用している。

 そのためダンジョンが近場にある町は栄えやすい。


 高さ3mある大きな門が閉まると、等間隔で壁に灯された松明が薄暗い周囲を照らしていた。


 インプもゴブリンもオークも、僕とリイシャの相手にはならないだろう。

 それでも初めて入る薄暗く閉鎖的な空間に緊張し、袖で頬を伝う汗を拭う。

 ちらりとリイシャに視線を移すと、少し口角を上げて僕の背中を押すように言葉をかけてくれた。


「じゃあ、行こっか」

「うん」


 一つ言葉を交わし、僕たちは歩を進めた。



  ▽▽



 ダンジョンに入り数時間が経過しても目に映る光景の変化は微細なモノであり、進んでいるのか疑問を持ってしまうほであった。

 時たま矢印が書かれた看板が立て掛けられているのだが、大きさや角度が異なっているため同じ道を歩いていないはずだ……


 入口付近以外に松明はほとんど見当たらず、自然に生成されたのであろう淡く光る石が壁に散りばめられていた。

 意外にも薄暗い闇に目が慣れて視界を十分に確保することができていた。


「ねぇミル。また小さな穴があるけどさ、やっぱり魔物はいないっぽいよ」


 リイシャは膝を曲げて屈むと、直径三十センチ程の穴の中を覗き不満気な声を出した。

 僕たちはこの数時間で一度も魔物と遭遇していないが、魔物がいたであろう痕跡はいくつも見つけていた。

 リイシャは顔を顰めて、僕に向き直る。


「どうする? オークを倒さないとダメなのに、ゴブリンもインプもいないけど」

「元々オークは中層にいるって受付の人は言ってたからしょうがないけど、何もいないのは不思議だね……看板がちょくちょく立ってるから迷うことはないだろうし。もう少し遠くまで行こっか」

「そうだねー」


 リイシャは屈伸の要領で手を膝の上に置き立ち上がると同時に、ダンジョンの奥から足音のような物音が聞こえた。

 リイシャは僕へ向き直ることなく、音のした暗がりを見据え声を潜める。


「聞こえた?」


 小さく頷き返し聞こえた足音の方角へ視線をやる。


「うん。複数匹いそうだね。五、六匹かな?」

「多分……」


 まったく魔物が出てこなかったため、解けかけていた緊張が引き締まるのを感じる。


 なぜだろうか、今日はやけに緊張する。

 初めて狩猟をしたときも、初めて依頼を受けた時もほとんど緊張しなかった。

 初めてダンジョンに入るから緊張しているということはないと思うが……

 もしやダンジョン特融の閉鎖的な空間のせいだろうか?


 僕は横目でリイシャを見やると、リイシャも同様に緊張していることに気が付いた。


 リイシャの普段の様子から、この程度のことで緊張するタイプだとは思えない。

 気が付かないうちに僕たちに何か心境の変化でもあったのだろうか?


 そんな僕の不安をよそに、暗闇からゴブリンが六匹ほど姿を現す。


 見た目はゲームなどでよく見るような一メートルほどの大きさで緑色の姿をしており、それぞれが棍棒のような物を持っている。

 ゴブリンが視界に入った瞬間、僕は何故か安堵を覚えた。


 気が楽になったためリイシャのことは僕が守らなくてはと思いリイシャの方を見やると、リイシャも気の晴れたような顔をしていた。

 僕とリイシャの緊張が解けた謎がわからず頭を悩ましていると、背負っていた長剣を構えたリイシャが僕の目を見て悪戯な笑みを浮かべる。


「ミル。私と一緒に舞ってみない?」


 その一言で僕はすべてを理解した。

 リイシャが恐れていたことを、僕が怖れていたことを。

 そして僕もまた笑みを浮かべ応える。


「おっけー。じゃあゴブリンたちには、華々しく散ってもらおっか!」


 僕は勢いよく走りゴブリンの群れに正面から突っ込む。

 先頭の一匹の頭を槍で串刺しにし、石突で横にいたゴブリンの顔面に強打を入れ空中で一回転させゴブリンを地面に落とした。

 続けて後列にいたゴブリンを蹴り飛ばし、横にいたゴブリンも一緒にかっ飛ばす。

 わき腹をがら空きにした僕を横から二匹のゴブリンが棍棒を振り上げて襲ってくるも、リイシャの一刀により二匹は首から上を飛ばすことになった。

 僕は槍を軽く振ることで刺さっていたゴブリンを壁まで振り飛ばし、地面に転がっている先ほど石突で強打したゴブリンの顔面に穂先を突き刺し槍を抜き取る。

 蹴り飛ばした二匹を見ればリイシャが先ほど同様首から上を撥ねたのだろう、首と分断された死体が転がっていた。


 戦ってみてわかったがゴブリンは同じGランクのアクアウルフより明らかに弱かった。

 傍から見れば違いはわからないかもしれないが、皮膚の堅さや機敏さがまったく違うだけでなく、あの厄介な体液のような特性がなかった。


 この調子だとゴブリンより弱いといわれているインプはまるで相手にならないだろう。

 同じランク帯でこうも強さが違ってくるとなると、もっとランクを細分化した方が良いのではないかと思えてしまう。


 僕とリイシャは血振りを終え、それぞれ武器を背負いなおす。

 リイシャはこの戦闘に感じることがあったようで眉尻を下げる。


「弱かったね。気、張りすぎちゃってたかも」

「そうだね。でも、それでいいんじゃない? 足を掬われるより」


 僕が賛同を示すとリイシャは考え込むように眉間に皺を寄せる。


「そうなんだけど、種類が違うっていうか……変な緊張感があって、でもゴブリンを見たとたん緊張がほぐれて……見たことない魔物が怖かったのかもしれない」

「うん。僕もそんな感じだった。多分だけど僕たち、惨羊のことを未だに頭のどこかで考えてたのかもしれないね。徐々に近づいてくる足音を、過剰に怖がってた気がする」


 僕が苦笑気味にリイシャへ視線をやると、リイシャは肩の荷を下ろすように表情を和らげる。


「確かに、ほんの少し状況が似てたかも。あんなヤバい魔物他にいないってわかってるんだけどね」


 リイシャは両手を組んで伸びをし、先に進もうと催促した。


「う゛ーん゛……この調子ならオークも普通に倒せそうだし、とりあえず進もっか」

「そうだね」


 僕たちは雑談混じりにダンジョン探索を再開することにした。


「ねぇミル、さっきの蹴りってさ、アルビウスさんがやってたやつでしょ?」


 僕は先ほどゴブリンを蹴り飛ばした行為と、樹林でアルビウスがアクアウルフを蹴り飛ばした行為を頭の中で結びつけて答える。


「ただの横蹴りなんだけど……意識してないっていったら、嘘になるかな」

「なんでアルビウスさんなの? フラナさんに稽古つけてもらってたんだし、フラナさんから教えてもらった技を使えばいいのに」


 リイシャからの純粋な疑問に、僕は身を削る思いで粘り続けた一ヵ月を思い返す。


「フラナさんからは相手の攻撃を受け流したり、防いだりすることをメインに教えてもらったから」

「へー、でも、『エレクトリックサンダー』が使えるからミルの指南役をしてくれてたんでしょ?」


 僕は特訓初日のフラナの発言を思い出し、はっとして口を半開きにする。


 フラナが僕についた本当の理由は狂癲や、異世界人のことを話したかったからなのだろう。

 しかし、変に気を遣って欲しくないため、リイシャに話すつもりはない……


「いや、『エレクトリックサンダー』の火力調も教えてもらったよ。けど、フラナさんって槍使いみたいだし、結局そっちがメインになっちゃったんだよね」


 ちなみにこれは嘘ではい。

 二日目に『エレクトリックサンダー』の扱いを軽く教えてもらい、後は自主練しろと言われていた。

 自主練といっても殆ど組手を行っていたため、その中で自分なりの解釈を広げての訓練となった。

 これに対してリイシャは疑うことなく、賛同を示してくれた。


「あーなるほどねぇ。私はほとんど筋トレと剣裁きだったなぁ。あっ! それでね。アルビウスさんが筋トレようの重り造ってくれたんだけど、土を灰にして色んな器具を造ってくれたの! 凄くない!?」

「へー、確かに凄いね」


 フラナがアルビウスの狂癲は触れた物を灰にして自由に扱えると言っていたが、そんなに細かい使い方もできるのか。

 僕の持ってる狂癲と能力は違うだろうが役立つ機会が多そうなので、狂癲についてきちんと理解しておいた方がよかったかもしれない。


 僕が狂癲について改めて関心していると、リイシャが不満げに顔を覗いてきた。


「なんか興味なさそう……」

「あ、いや、そうじゃなくてさ、えーっと、ほら。樹林で惨羊から逃がしてくれたとき、あんな凄いの見せられたら、ね?」


 木々を端によけ塗装された歩道のような灰道を作って僕たちを逃がしてくれたことを思い出し、額に汗を滴らせる。

 リイシャは瞬きの間に考え込むと、弱弱しく口を開く。


「あれに比べたら大した事ないように感じるかも……」


 無機物を灰にして筋トレ器具を造るなど大したことなのだが、僕の発言でリイシャの考えが変わってしまし訂正する言葉が思い浮かばない。

 僕がリイシャの感性を狂わせたことに冷や汗をかいていると、リイシャの興味はもうそこにはないよで話を変えてきた。


「それよりフラナさんって、何か凄い技とか魔術持ってた?」


 僕はフラナとの摸擬戦で目にした魔術を思い返して答える。


「全部見せてもらったわけじゃないけど僕たちが知らないのは三つもあったよ。『アクセルドライブ』っていう空中を走れる魔術と武器や体を硬質化させる『ハードシェル』、体の傷を癒せる『ヒールリング』。で『ヒールリング』が特に凄かったかな。あのボロボロだった腕の傷を治したぐらいだったし」


 バブリビオススから逃れるために腕に重傷を負っていたフラナは数日のうちに傷を治していた。

 リイシャは実際に治る瞬間を見ていなかったので、疑問を頭に浮かべる。


「あれってポーション飲んでたから治ったんじゃないの?」

「いくら凄いポーションでも大きな骨折とか部位欠損は治らないらしいよ。魔術じゃないとダメなんだって。でも、効力は魔力量に比例するから普通の人が使ってもポーションより少し効果が高い程で、修得しない人もいるんだってさ」

「あんな惨羊(あんなヤバイの)相手に生き残って、傷も自力で治せるって、フラナさん本当に人類最強なのかもね」


 リイシャが感嘆交じりにフラナへの考えを改めた。

 僕もリイシャ同様信じていなかったのだが、狂癲持ちであり異世界人であると見抜かれたことに加え、世界情勢に詳しいことから、人類最強である確信はある。


 となればフラナを含めた三傑驥(さんけつき)の残りの二人、フリージアとセリスも最強の名に恥じない実力の持ち主なのだろう。

 二人の人柄が気になるが、二人の所在を知らない上に変に知り合って僕の存在が知れ渡るようなことはさけたい。

 有名になってしまえば、狂癲を狙う者達に何をされるかわからないのだから……


 僕は興味に蓋をして二人に出会わないことを祈りつつ、魔物の住まう薄暗いダンジョンの奥へと歩を進めた。 

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