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スーサイド・レコード  作者: 日常の音ずれ
第3章 百鬼迷宮編

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第26話 勇者の町へ

※第三章以降、物語全体を通して、一部に過激な流血、負傷描写および、精神的に強い衝撃を伴う描写が含まれます。

苦手な方はご注意ください。

「リイシャ、これからどうする?」


 僕とリイシャはフラナとアルビウスに別れを告げ、宿屋の自室で今後について話し合っていた。


「これからって言ってもねぇ。別に今まで何か考えてたわけじゃないし。この町に来たのも、ミルが無理やりって感じだったしねぇ」

「あ、それは、ごめん……」


 ファザファタを出たときのことを思い返し、自身の無計画さに心を痛める。

 リイシャはベッドに仰向けで寝そべったまま、一抹の切なさの籠った口調で言葉を紡ぐ。


「別に責めてないよ。それにフラナさんとアルビウスさんに会えて、惨羊をこの目で見て世界の広さを知れた。私にできることって小さいんだなって……結果的によかったと思ってる」


 リイシャは村にいた頃、小さな万能感のようなモノがあったのだろう。

 だが井戸の中の蛙であったことを思い知り気を落としている。

 何か元気づけられることはないかと眉間に皺を寄せ思案していると、リイシャが上体を起こして腕に力こぶを作ってみせる。


「でも折角鍛えてもらって強くなったんだし、もうちょっと旅を続けよ。ミルのことは守ってあげるから心配しないで!」


 ほんのり場に漂っていた暗い雰囲気を、リイシャの力強い眼差しが晴らした。


 リイシャは村にいたころから僕のことを守ると言い続けていた。

 だがその考えは次第に変化している。

 口先だけだった当時と違い、パストでの薬草採取の依頼で蝙蝠と戦闘し僕と離れ離れになったこと。

 樹林でバブリビオススと遭遇し、手を引かれるがまま走ることしかできなかったこと。

 この二つの要因がリイシャの覚悟をより強めていた。


 リイシャは才能がありながら何もできない自身に悔いているのだ。

 リイシャはいつも強くあろうとしているが、弱い部分はもちろんある。

 だからこそ僕がリイシャにかける言葉は、慰みでも励ましの言葉でもない。

 僕は口元を歪ませ、目を細め、リイシャを煽るような口調で告げる。


「まだ守るとか言ってんの? 僕はフラナさんに鍛えてもらったんだし、リイシャより強くなってるかもなぁ~」

「じゃあ次はDの依頼でも受けてみる? 私はミルより強いつもりだけど」


 リイシャは眉尻を上げて対抗意識を燃やすが、僕は首を横に振って断りを入れる。


「いや、もう危ないことはしないよ。フラナさんが言ってたみたいに、目立たないように生きていこう」

「そうだね……」


 元々Eランク相当の実力のあった僕たちはフラナたちに鍛えれ、Dランクとまではいかないまでも実力は上がっている。

 二人で力を合わせればDランクの依頼もこなせるだろう。

 だが、少しでも危険があるのなら受けずに、Eランク以下の依頼で留めるつもりだ。


 僕は話を本題に戻すため、大きく頷いたリイシャに質問を投げかける。


「で、結局どうする? このまま北に真っすぐ行く?」

「とりあえず一番近くの町にでも行く? それともギルドで何か聞いてみる?」

「ギルドの人に何か聞いてから決めよっか」


 いくら実力がプロレベルだとしても僕たちは冒険者としては新米も新米、その道の人に聞くのが一番であることに間違いはない。

 僕とリイシャは荷物をまとめて宿屋の一室を後にした。



  ▽▽



「この町を離れるのですか?」


 一ヵ月ぶりのギルドへと足を運び、受付のお姉さんにおすすめの町を訪ねる。


「はい、ここから近くて治安がよく、依頼のランクがEを超えない町に行きたいのですが、ありますか?」


 お姉さんは肩を落とすと、顔に暗い影を落とし書類に視線を落とす。


「そうですか……今、確認いたしますね……」

「?」


 僕とリイシャはお姉さんの気落ちした表情を疑問に思いお互いに視線を合わせる。

 リイシャが眉尻を下げて、お姉さんの正面に立つ。


「元気ないですけど、何かありましたか?」


 お姉さんは弱弱しい上目遣いでリイシャに視線を送る。


「実は、以前ナガーナさんが惨羊の件は内密にした方がいいとおっしゃっていましたので、ギルマスが隠蔽工作に励んでいるんです。ただ国軍にも嘘を付くようで、クランの方々は大狼にやられた旨の伝書を送付されました。もし嘘がバレるようなことがあれば、私たちはどうなるかわからず気が気でないのです。なので、少しでも事情を知っている方々に残っていただければ、心が少し落ち着くと言いますか……」


 リイシャは合点がいったように小さく頷くと、お姉さんに励ましの言葉を送る。


「それなら大丈夫だと思いますよ。フラナさんが、"法王はあのバカの生き死になんて気にしてねぇ"とか言ってましたし。ねっ、ミル」


 リイシャの下手くそなフラナのマネを聞き届け、僕は頷いて応える。


「うん、確かに言ってた」


 お姉さんはリイシャと僕を順に視線を移すと、頬を僅かに上げて喜びを見せると同時に困惑で眉間に皺を寄せる。


「ほ、本当ですか!? で、ですが国軍に属するDランク並びに約五十の兵の死を気にかけない王様などいらっしゃるのでしょうか?」

「私たちも王様について何か知ってるわけじゃないですが、あのフラナさんが言っていたので、信じても大丈夫だと思いますよ」


 実力と実績があるフラナの発言はバブリビオススの脅威から逃れることができたこの町のギルド職員にとっては、信じるに値する情報なのだろう。


 リイシャが考え込むように背中を押す発言をすると、お姉さんはホッと息をつく。


「そうですね。あのナガーナさんですもんね。いつかバレることがあっても、今すぐってことにはならなそうですね……そう思うと肩の荷が下りた気がします。ありがとうございます」

「いえいえ、私たちはフラナさんの言葉を伝えただけですから」


 リイシャが微笑みかけると、お姉さんはペコっと頭を下げて話を戻してくれた。


「お二人は行先に困ってらっしゃいましたね。えーっと、近くて治安が良く、依頼のランクがEを超えない町……でしたら、下層にさえ行かなければ初心者用との呼び声の高いダンジョンと隣接しており、活気も良く、あの勇者の生まれ故郷でもあるボジディがおすすめですよ。他は希望とことなりますが、ならず者が多い代わりにGランクの依頼が九割を占めるイングトゴル。依頼のランクは最低Eと高いですが、この国で最も治安の良いといわれる首都ジスクがありますね」

「どうする?」


 三つの町の紹介を受けてリイシャが僕に視線を移す。


 勇者と呼ばれる人物がこの世界にいたことには少し驚いたが、今は特段必要のない情報だ。

 普通に考えればボジディという町が条件にあっているので迷わず選びたいけど、活気が良いということは言い換えれば揉め事に巻き込まれやすく、人が多いとも捉えれる。

 ただ、人が多いということは狂癲や希少魔術について知っている人がいる可能性もある。

 だが、ならず者の町は危険なので論外であり、この国の首都となると国のトップや権力者が大勢滞在しているだろう。

 フラナは僕たちを狙うのはそういう人たちだと言っていた。


 僕は頭を巡らせ考えをまとめるとリイシャに向き直る。


「ボジディにしよっか」

「うん」


 リイシャに同意を貰い、僕はお姉さんへ視線を移し、この町を出立する旨を伝える。


「というわけで僕たちボジディに行こうと思います。色々とありがとうございました。ギルドとしてはこれからが大変になるんでしょうけど、頑張ってください」

「ありがとうございます。お二人もお気をつけて」

「はい、では」


 僕たちは受付のお姉さんに礼を告げ、ボジディへの旅路に着いた。




   ▽▽▽




 あれから二週間、これといった問題もなく僕たちはエウィジスの東北東にあるボジディにたどり着くことができた。


 活気が良いと聞いていたのだが、町を行き交う人は少ない。


 僕とリイシャは頭にクエスチョンマークを浮かべつつ、ギルドへと足を運んだ。


 ギルドの大きさは三階建てのアパート程度の大きさがあり、内装は今まで見てきたギルドとほとんど同じである。


 ギルドに着いてさっそく僕たちはランクを上げるために依頼を受けることにした。

 僕は狂癲のこともあり目立ちたくはないのでゆっくりランクをあげていくつもりだったのだがこの二週間で話あった結果、やはりランクが高い方が自由度が増すだろうとリイシャが上げたがっていたのでEまで上げる方針となってしまった。


 狂癲のことを話せば僕の意見に賛同してくれただろうが伝えるつもりはなく、他にランクを上げない理由がないため僕が折れるかたちとなった。

 フラナもEまでなら問題ない言っていたので大丈夫だろう。


 僕は受付のお姉さんにランクの昇格をするために、Fランクの依頼を受注したい旨を伝える。


「すみません。Fランクに上がるための依頼の受注をお願いします」


 お姉さんは胡乱な目で僕とリイシャに視線を移すと、気だるげに口を開く。


「Fランクですか……お二人の実績を確認し、そこから算出しますのでレコードカードのご提示をお願いします」


 僕たちはレコードカードを手渡し、本人確認のために指紋認証を行う。

 お姉さんはレコードカードに視線を落とすと、目を見開き優し気な声を作る。


「お二人ともBランクの依頼を手伝い、アクアウルフの群れをいくつも討伐されていますね。これだけの実績があれば、Fランクへ直ぐに昇格できますよ」


 お姉さんの表情の変化を見るに、Gランクとは言えアクアウルフの群れを討伐できることは初心者に難しいことなのだろう。

 それともBランク依頼を手伝った実績の方が大きいのだろうか?


 ランクを上げる規定をきちんと理解していないが、上級と呼ばれるFランクへ昇格を容認され、僕は首を縦に振る。


「それならお願いします」

「少々お待ちください」


 お姉さんは受付台の脇で指紋認証装置と似た物体で作業を終えると、レコードカードを僕とリイシャに返却する。


「お二人のランクをGからFへ昇格完了いたしました。お若く見えますがとても優秀なのですね。本日は依頼を受けて行かれますか?」


 ランク昇格のために依頼を受けるつもりだったがその必要がなくなった。

 加えて大狼討伐、というよりもバブリビオススから町を守ったとしてエウィジスで多額の報奨金を貰っておりお金にも困っていない、どうしたのもか……


 僕は頭を悩ませて、お姉さんに助言をもらう。


「特に決めてなかったので……オススメはありますか?」

「でしたら町の外れにあるダンジョン、百鬼迷宮(ひゃっきめいきゅう)でFランクのオーク六体の討伐ですかね。期間は五日間です。オークは主に中層に生息し二~三体で行動しておりますが、知能が低いため一体ずつおびき寄せて対応できます。道中インプとゴブリンに遭遇いたしますが、どちらもGランク下位の魔物ですので難なく対処できるかと。下層にはEランクのオーガがいますので下りないよう、ご注意していただく必要がございます。いかがでしょうか?」


 お姉さんから依頼の仔細を聞いて、僕の頭には一つの懸念が過り質問を口にする。


「僕たちダンジョンに入ったことなくて……五日間って少し長く感じますけど、大丈夫ですかね?」

「野宿の経験はありますか?」


 お姉さんから質問を返され、僕はリイシャと離れ離れになった日々を思い返して答える。


「僕は二週間ぐらい魔物が出る森で野宿したことあります」

「それなら、大丈夫ですね。ただダンジョン内は陽の光が入らず時間間隔が狂いやすいのでお気をつけください。それと期間の話ですが、中層までの往復は二~三日が平均となっており、残りの二日でオークを討伐することが理想と言われております。もちろん早めに帰って来ていただいても構いませんよ」


 お姉さんは懇切丁寧に注意事項を伝えると、続けてダンジョン特融の事象について解説を入れる。


「あとは、魔力石のことをご説明いたしますね。ダンジョンに入ったことがないなら存じ上げないと思いますので」

「お願いします」

「魔物の死体は魔力子濃度の高いダンジョンなどでは時間が経つと分解し気化され魔力子を生み、掌サイズの石になります。その石は生前の魔物の強さに応じて高い魔力純度を持った魔力石になります。魔力石とは魔力が詰まり膨大なエネルギーを内包している石のことです。使い切りではありますが、魔術を行使する際などに魔力の代わりに使用できます。ギルドで買い取りもしていますので、余裕がある際は。ぜひ集めてみてください」


 ダンジョンに潜る際に必要な最低限の知識を頭に入れ、僕はリイシャへ視線を移す。


「どうする? 受けてみる?」

「いいんじゃない」


 リイシャは迷う素振りを見せず依頼を受ける意思を見せたので、僕はお姉さんへ向き直る。


「受注します」

「かしこまりました」


 お姉さんは書類に依頼の受注の旨を記載すると、微笑を浮かべギルドの隣へ手を向ける。


「必要な物がありましたら隣に冒険者専門の道具店がありますので、そちらで調達をお願いします」

「わかりました」


 依頼の受諾がひと段落したところで、僕はこの町を訪れて気になっていたことを口にする。


「話は変わるのですが、この町っていつもこんなに人が少ないんですか? 活気があるって聞いてたんですけど……」


 僕の言葉にお姉さんは少し得意げに口端を上げる。


「聞いていませんでしたか。実は二週間もしないうちに、あの勇者様がお帰りになられます。勇者様が帰郷なさる日は、町総出で勇者様御一考を労う祭りが催されます。住民権を持たない方は強制的に町を退出していただきますので、早めに町を後にされる方が多いのです。ただ、冒険者の方々なら、いつでも住民権の発行は大歓迎ですよ」


 この町は勇者の故郷だという。

 疲れて帰ってきた勇者にゆっくり休んでもらうために、身内だけで祭りを行うのだろう。


 僕は独り合点がいき、小さく頷き返す。


「わかりました。考えてみます。では」


 お姉さんに軽く会釈をして僕たちはギルドを出た。


 僕は狂癲持ちだとバレたくないので有名人と会いたくない。

 強制的に町を出ることは寧ろありがたく、住民権を取ることはないだろう。


 僕が独り頭を巡らせていると、リイシャがギルドを出てすぐの道具屋を見て質問を投げかけてくる。


「どうするミル? 何か買っていく?」


 勇者のことで気掛かりになることはないので、勇者のことを頭の片隅に追いやり頷き返す。


「取り合えず入ってみよっか」


 道具屋には縄や松明にポーション、携帯食料、武具や大きめのリュックなど多種多様な物品が多種多様に並んでいた。

 何か役に立つ物があるか日本でのゲーム知識を遡る。


 ダンジョン探索でいる物は何があるだろう?

 ゲームなら一瞬で地上へ帰還できる道具などが必需品だが、そんな便利道具があるわけもなく……

 僕は頭を悩ませて、リイシャに視線をやる。


「リイシャは何か必要だと思う?」

「わかんないなりの考えだけど、松明と食糧、あとはポーションとか? まあ足りない物があっても、五日間だけだならどうにかなりそうじゃない?」


 リイシャが眉間に皺を寄せて必要になりそうな物を手に取る。

 僕は同意を示して、ダンジョンでの心構えを共有する。


「そうだね。もし無理そうだったらすぐ帰ろっか。今回は依頼の達成よりも、ダンジョンに慣れることをメインに考えよう」

「だね」


 軽い話し合いの結果、数本の松明と携帯食料を購入した。


 青い空の日が降り始めた刻、

 僕とリイシャは初めてのダンジョンへと足を運んだ。

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