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スーサイド・レコード  作者: 日常の音ずれ
第2章 大狼樹林編

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第17話 ダサい決め台詞

 昨日はフラナのおかげで久しぶりに満腹になるまでご飯を食べることができた。

 緊張から眠れるか心配だったが、腹が満たされたおかげかよく眠れる夜を過ごすことができた。

 加えて朝食も奢ってもらい、いつのまにかフラナへの恐怖心はなくなっていた。

 我ながら単純な脳みそだが、今日一日一緒に行動するのだ、今は自分の単細胞ぶりと優しいフラナとアルビウスに感謝を抱いている。


 朝食を取り終え、ギルドで同じ机に四人で腰掛けた。

 ギルド内にはスキンヘッドの姿があり、昨日より取り巻きの数が増えていた。

 また、町中で見かけた冒険者たちも集まっており、総数が四十人を超えている。

 そして今日のクエストについて、ギルド職員からの説明を受けるため待機している。

 特に笑い声が響くわけでもなく、意外とみな物静かにしている。


 昨日の煽りから見て、想像どおり冒険者は頭のおかしい人たちばかりだと思っていたが、命が関わることには意外にも真面目なのかもしれない。

 この世界の冒険者への見方を少し改める必要がありそうだ。


 そんな心境を整理しているとギルド職員のお姉さんが受付から出て来て、ギルド中に届く透き通るような声で今回の大まかな概要の説明を始めた。


「みなさんお集まりいただき、ありがとうございます。本日はアクアウルフの討伐をメインで行ってもらいます。今、樹林近辺で既に待機をしてもらっているクランの方々には、大狼の討伐に向かってもらいます。正体不明の魔物に関しては現場判断でお願いします。何か質問のある方はいらっしゃいますか?」


 お姉さんの言葉に対してスキンヘッドがアルビウを顎でしゃくり疑問を口にする。


「あのガキはBランクなんだろ。だったら大狼に当てた方がいいんじゃねぇのか?」


 その言葉からは昨日のことを根に持っているようには思えず、ただ単純にその作戦が成功に拍車をかける思いから出た言葉であった。


 スキンヘッドのことは嫌いだが真剣な面持ちで依頼のことを考えている姿を見ると、駆け出し感満載の僕らに何か非があったのかもしれない。

 やはり、弱い冒険者が首を突っ込んではいけないほど、大狼は危険だとか……?

 少し申し訳ない気持ちで、お姉さんとスキンヘッドの会話を聞き届ける。


「クランの方々には作戦があるらしく、他のサポートはいらないと事前に伺っております」

「Bなのにか?」

「あの方々の性格上、外部の皆様には少々当たりが強いことろがありますし……それぞれで動く方が適していると思います」

「なるほどな……まあ、よかったなお子ちゃまども。しっかり守ってもらえよ」


 いやらしい笑みで僕とリイシャに視線を移す顔に、先ほどまでの心苦しさを忘れてつい額に血管を浮かべる。

 それはどうやら隣にいたリイシャも同じようだが、お互い沈黙を貫くことにした。


 お姉さんはスキンヘッドの行動に溜息を零し、アルビウスへ顔を向けた。


「ですが、もしクランの方々が失敗に終わった場合。グレイフォードさんとナガーナさんに討伐を代わっていただきたいと思っております。よろしいいでしょうか?」

「ええ、もちろん。僕たちでよければ」

「おお、任せな」


 お姉さんの頼みを快く承諾するアルビウスと、首を縦に振り肯定するフラナ。

 それを聞いてお姉さんは独り胸を撫でおろした。


 僕は一連の会話を聞いて一つの疑問が浮かぶ。


 もしかしたらクランの人たちは難のある人たちなのだろうか?

 見るからに、お姉さんはクランの人たちを苦手にしていそうだ。


 お姉さんは小さくニコッと笑い、冒険者全員に視線を送る。


「ありがとうございます。ではさっそく樹林への移動をお願いします。詳しい話はクランの方々から説明があり思います。それではみなさん、お気を付けください」


 お姉さんからのエールを背に、僕たちは樹林へと足並みを揃えて歩を進めることとなった。




     ▽▽▽




 ギルドから片道徒歩一時間半――

 僕たちは大所帯で、クランの人たち約五十人が待つ樹林の入り口まで来ていた。


 彼らは一般冒険者と違い白銀に輝く鎧を着込んでいた。

 僕ら、と言うよりも先頭を歩いていたスキンヘッドを見て、リーダーらしき一人の男がニヤついた目つきで近づいてくる。


「初めまして法王軍所属副軍団長兼クラン”ハングリードッグ”のリーダー、オーザ、ランクはDだ。本日はてめぇらが雑魚どもの相手をしてくれるのだとか? 実にありがたい。まあ、そんじょそこらの羽虫では大狼の相手はキツイだろうから俺様たちに任せて、わんちゃんたちと水遊びでもしておいてくれよ」


 独りでつらつらと喋るとオーザはクラン許へ帰って行った。


 わざわざ国が救援に出してくれたクランを、お姉さんが嫌っていたのも納得である。

 ただ煽り性能で言ったら、スキンヘッドの方が上手かったように感じた。


 だがそのスキンヘッドは額から頭頂部まで血管を浮かび上がらせ、キレ気味で効果抜群のようだった。

 とまぁそんなことはどうでもよく、オーザの自己紹介で一つ気になることがあったのでフラナに聞いてみる。


「すみませんフラナさん。あのオーザって人、Dランクって言ってましたけど、大狼のランクってBなんですよね。あの人たち大丈夫なんですか?」


 フラナは肩をすくめ、興味なさげに答える。


「さぁ。実際に大狼を見てねぇから確信はねぇが、相手にすらならねぇだろうな。でもクランは対策してんだろ? じゃぁ大丈夫だろ。って言いてぇが、あのオーザってやつバカっぽいから、やっぱ無理だな」

「結構辛辣ですね」


 遠慮のない言葉に僕が顔を引き攣らせると、フラナはアルビウスに視線を向ける。


「んなこたねぇよ。アルビウスもそう思うだろ?」

「邪魔になる気がするので、今のうちに殺しますか?」


 アルビウスの発言にフラナは眉を寄せ気味に下げ、口をへの字にしてドン引く。


「法王はあのバカの生き死になんて気にしてねぇだろうが、敵じゃねぇんだ。そういうこと言っちゃダメだろ。()()()と感性似てきたな」


 アルビウスは気に食わないことがあったようで、普段の淡々とした喋りとは裏腹に怒りを滲ませて口を開く。


()()()()と一緒にしないでください」


 二人の会話を聞く限り、法王とはこの国――法王国の王様なのだろう、そしてフラナは知り合いのような素振りを見せている。

 フラナが本当に人類最強の一人なら、ありえない話ではないか……


 疑っていたフラナが人類最強という話に少し信憑性が増すも、他に疑問に思う人物が会話に出ていた。


 あいつ? あの人? とは誰なのだろうか?

 オーザか法王のことかと思ったが、それだと話が噛み合っていない気がする。

 昨日もギルドで二人は誰かについて話していたので、その人のことなのかもしれない。


 誰のことなのか、わかるはずもない人物の予想を立てていると、同じように疑問を持ったリイシャが質問を口にした。


「聞きたいことがあるんですけど。昨日から言ってる()()()? って誰のことなんですか?」


 フラナは溜息をついて、アルビウスを顎でしゃくる。


「アルビウスの兄貴だよ。今はやらかして牢にいる」

「っ!――」


 衝撃の告白に僕とリイシャは返す言葉が見つからず息を呑み、口を結ぶ。

 だがアルビウスは半目で溜息をつくだけで、フラナを責める発言はない。

 二人にとってアルビウスの兄が捕まっていることは、バレたくないことでもないらしい。


 フラナが変わらぬ調子でリイシャに視線を戻す。


「アルビウスほどじゃなくても、二人は兄弟嫌いになったりしなかったのか?」


 リイシャは僕を一瞥してフラナに視線を戻す。


「私たち一人っ子なので、ミルが私にとっての兄弟みたいなものでした。ミルは昔っから優しかったので……もちろん喧嘩はしたことありますが、嫌いになったことなんてないですよ」


 森で変な夢を見て以降、リイシャから僕への何気ない信頼が見て取れると心が潤される。

 僕が嬉しさから笑みを零すと、フラナが口角を上げ軽く肘で突いてくる。


「お似合いだと思ってたが、親公認だったのか。ミル、ちゃんと守ってやれよ」


 その言葉に、いの一番て反応したのはリイシャだった。


「ちょ、私の方がお姉さんなんですけど! なんでみんな私が守られる側の立場だと思うの!? 私がミルを守ってあげるの! 守ってみせるの! 実際、家を出てからは私の方が頼りになってるんじゃない?」


 リイシャは少し子どもっぽい怒り顔を見せた後、いたずらな笑みで僕の顔を覗き込んでくる。

 冒険者になってからはリイシャに迷惑ばかりかけており、ぐうの音も出ないのでリイシャに深く頭を下げる。


「その説は、大変ご迷惑をお掛けしました」


 僕の態度にご満悦なリイシャ。

 そんな僕たちには目もくれず、いつのまにかスキンヘッドたちは半分以上樹林に入っていた。

 いちゃもんよりも、行くときに声をかけてほしいものだ。

 樹林に続々と入って行く冒険者達を尻目に、フラナとアルビウスがこれからどうするつもりなのか疑問を投げかけてみた。


「樹林ではどうしますか? お二人は惨羊が目的なんですよね?」


 フラナは欠伸をして気の抜けた声で答える。


「さすがに本物がいるとは思ってねぇけど、バブリビオススを探しつつ、二人を見守ることになるかなぁ……」


 フラナにはよくしてもらっているので、少しでも恩返しがしたく思い。

 眠たいのなら、アクアウルフは僕とリイシャで討伐するべきかと思案する。


 リイシャに視線を移して、端的に問いかける。


「僕とリイシャだけでアクアウルフはどうにかならないかな? フラナさんはお疲れみたいだし」


 リイシャは大きく頷くと、僕の傷を抉る発言を口にする。


「私たち結構強いし大丈夫じゃない? ミルが気を抜かなければね」


 こ、心が痛い……


 苦心に顔を歪めている僕に、笑いながらフラナが肩を叩く。


「ありがたいじゃねぇの。まぁ、いざとなれば助けてやるよ」

「はい。ありがとうございます」

「では、そろそろ行きますか」


 僕らの会話に区切りがついたと判断してアルビウスが樹林に入るよう促し、僕らは樹林へと歩みを進めた。


     ▽


 僕とリイシャが先行し、フラナとアルビウスは数メートル離れて後ろを歩く。

 樹林には大量のアクアウルフがいると聞いていたので獣臭いものだと思ていたのだが、森特融の木々の心地良い香りしかせず、獣の唸り声や、足音などもしない、不気味なほどの静けさがあった。

 正確には、少し遠くの方で他の冒険者達の雄叫びは聞こえるのだがそれだけだ。


 周囲への警戒を怠ることなく歩を進めていると、前方からいくつかの気配を感じた。


 木々に隠れており姿は見えないが、十中八九アクアウルフだろう。

 いることはわかっているのだが、音がしない。

 特殊な能力でも使っているのだろうか?


 僕は槍を、リイシャは長剣をお互いに構えると、フラナが微笑を浮かべた。

 まるで品定めでもするかのようにして、僕たちに視線を向ける。

 アルビウスはというと、欠伸をしながら同じような視線を向けている。


 少しやりづらいな……


 二人に観られている緊張から僅かに委縮していると、リイシャが軽く肩をぶつけてきた。


「じゃあ、私たちがどれだけ強いか。あの二人の目が眩むくらい、雅に舞ってみよっか!」

「え? 何それ?」


 僕と真逆でリイシャは自信に満ちた言葉を放ち、発言の意味がわからず聞き返してしまった。

 リイシャは少し頬を染めて僕を一瞥する。


「いいじゃん別に! ノってよ!」

「わ、わかったよ。じゃあ……」


 僕が良い言葉はないか頭を巡らせると、それを隙と見て木陰から白色を基調とした毛並を持つ狼――アクアウルフが襲い掛かってきた。


 瞬間、ふとおじさんの言葉が頭を過る。


 命は儚い、それに慣れてはいけない。


 だったか、それなら、その命が僕の中で薄れないように……


「狼さんたちには、華々しく散ってもらおっか!」


 自分の声が鼓膜を刺激すると、羞恥から急激に顔が熱くなった。

 ノリが悪かったことに関しては、後でリイシャに謝ったほうが良いかもしれない。


 後悔の念に駆られ、リイシャのニヤッとした嬉しそうな笑みに苦笑いで返すことしかなできなかった。

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