表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スーサイド・レコード  作者: 日常の音ずれ
第2章 大狼樹林編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/61

第16話 七つの天災

 見ず知らずの二人の高ランク冒険者のおかげで明日の依頼を受けられることになったが、金欠であることに変わりはない。

 宿代しかないので晩御飯を諦め早めに寝て明日に備えるため、宿屋の扉を開けた。

 するとそこには、件の二人――黒髪の男と灰髪の男が一階の食堂でメニュー表に目を通していた。


 なんかデジャヴ……


 僕が扉の前で固まっていると、黒髪の男が僕たちの存在に気が付き手招きをする。


「おう。また会ったなぁ。一緒にどうだ!」


 食事を誘ってくれるのはありがたいが僕たちは金欠であるだめ、断りを入れるために男たちの座るテーブルへ歩を進める。


「あー、それがですね。そのー……」


 緊張で言葉を詰まらせていると、アルビウスが僕たちの現状を察して口を開く。


「師匠、ギルドでの様子から見て相当な金欠ですよ。宿代でやっとじゃないんですか?」

「なるほどぉ、そりゃあすまんな、気づかんで。せっかくだ、奢るから座れよ」


 黒髪の男はテーブルをポンポンと軽く叩き、一緒に食事を取ることを促した。

 テーブルに広げられているメニュー表の文字の羅列を見て、今にもヨダレを垂らしそうなリイシャが勢いよく食いつく。


「え、本当ですか!?」

「ちょっリイシャ、さすがにこれ以上お世話になれないよ」

「気にすんな、話しておきたいこともあったし。乗りかかった船だ、存分に乗り回せ」


 黒髪の男の言葉にリイシャは目を輝かせて僕の手を取る。


「ほらいいってよ、ミル。せっかくなんだからご馳走になろ?」

「じゃあ、お言葉に甘えて……」


 アルビウスが黒髪の男の向かいから隣の席に移動してくれたので、リイシャは黒髪の男の向かいに僕はリイシャの隣に腰を下ろした。


「ありがとうございます」

「ありがとうございます」


 僕とリイシャが礼を述べると、黒髪の男がメニュー表を差し出してきた。


「俺ら金はあるから、好きなだけ頼めよ」

「いや、さすがにそこまでは……」


 大盤振る舞いな発言に僕が首を横に振ると、アルビウスが抑揚のない言葉を口にした。


「遠慮する必要はありませんよ。全部師匠の奢りなんで」


 アルビウスはそう言うと、店員を呼びあれやこれやと注文を始めた。

 黒髪の男は注文の多さに肩を落としているが、それに気が付かずリイシャも注文を終えて僕にメニュー表を差し出す。


「ミルは何食べるの? 同じでいい?」

「うん」

「じゃあ、これもう一つお願いします」


 リイシャが僕の分の注文も済ませると、アルビウスが店員に向き直る。


「以上でお願いします」


 店員がメモを取り終え厨房へ戻って行くのを見送り、僕とリイシャは改めて二人に向き直る。


「依頼の件だけでなく晩御飯までありがとうございます。それで少し遅いですが、自己紹介がまだでしたので。僕はミル・ノルベルです」

「私はリイシャ・フレイスです。よろしくお願いします」


 僕たちが自己紹介を簡単に済ませると、黒髪の男はうんうんと頷き口を開いた。 


「そういや名乗ってなかったな。俺は戦帝せんてい フラナナガ・ナガーナ。言いづらいだろうからフラナって呼んでくれていいぜ。よろしくな」

灰戦はいせん アルビウス・グレイフォードです。好きに呼んでください」


 "戦帝"に"灰戦"と仰々しい二つ名に呆然としていると、フラナがにへらと笑みを浮かべた。


「で、ミルは俺に聞きたいことがあるんじゃねぇのか?」


 僕がフラナに対して疑問を持っていることに、いつ気が付いたのだろう……

 これも()なのだろうか?


 僕は疑問を口にするべきか頭を巡らせた。

 僕の疑問はフラナのプライドを傷つけてしまうかもしれない。

 優しくしてもらっているにも関わらず、そのような行為はするべきではない。


 だがフラナには僕のこの考えさえも見透かされているように感じ、意を決して口を開いた。


「気を悪くしたらすみません。フラナさんのランクがアルビウスさんより低いことが気になって……あ、もちろん答えられないなら、それでも全然大丈夫ですので……」


 恐る恐る問いてみると、フラナは飄々と答えた。


「あーそれな、申請が面倒でランクを上げてねぇだけだ。気ぃ遣わせて悪りぃな」

「いえ、そんな。複雑な事情じゃなくてよかったです」


 師匠と呼ばれるフラナが弟子のアルビウスより弱いことを他人に指摘されるのは嫌だろうと思ったが、杞憂に終わってよかった。

 僕が独り胸を撫でおろすと、別の疑問が思い浮かんできた。


 となると、Bランクのアルビウスより強いフラナの実力がどれほどなのだろうか?

 フラナもアルビウスも優しく接してくれているため、少しだけその厚意に甘えようと思い口を開けると―


「じゃあ、実際はどれぐらい強いんですか?」


 リイシャに先を越されてしまった。


 自分で聞きたかったわけではないので、僕は質問者としての立場をリイシャに譲る。

 そんなリイシャの疑問に答えたのはアルビウスだった。


「人類最強の一人ですよ」

「え? 最強?」


 リイシャが首を傾げ、同様に僕も首を傾げた。

 アルビウスは気に留めることなく言葉を続ける。


「ええ、ちゃんとランクを申請すればSになるでしょうね。Sが上限でなければその上を行くでしょうが」

「S!? ランクってAが最高じゃないの?」


 リイシャが驚愕の顔を僕に向けて確認を取るが、僕もランクの最高位はAだと思っていたので答えられることはなく首を横に振る。

 代わりにアルビウスが解説を出てくれる。


「一般的にはAまでしか周知されていないのでSの存在自体知ってる人はごく僅かです。お二人が知らないのも無理はありません」

「他にSランクの人って何人いるんですか?」


 初めて聞くランク帯に興味がそそられたリイシャの質問に、今度はフラナが答える。


「何人かは知らねぇが、フリージアとセリスは確実だな」

「師匠。勝手に話したら怒られると思いますけど」


 アルビウスが諫めるも、フラナは変わらず飄々と口を開く。


「いいだろあの二人は。俺と一緒でS超えてるし」


 フラナの適当な返答に、アルビウスはため息をついて補足を入れる。


「ちなみにフリージアさんは”幻帝げんてい”、セリスさんは”賢帝けんてい”の呼び名があり、師匠とで三傑驥さんけつきと呼ばれ、人類最強と謳われています。知っている人は僅かですが」


 世界の黒い部分に足を突っ込みそうな話題に、リイシャが眉根を寄せる。


「それって話していいことなんですか?」

「名の通った奴らなら知ってるし、今更だな。それより話したいことがあるって言ったよな。そっちも進めていいか?」

「質問ばかりですみません」


 リイシャが謝罪をするも、フラナはケラケラと肩を動かす。


「気にすんな。知見を広めるのはいいことだってセリスも言ってたしな。まぁ、あいつに言われちゃ嫌味にしか聞こえねぇが……」


 フラナは一度言葉を切ると、怪談話でもするかのように声量を少し下げて僕らの顔を覗き込む。


「で、話ってのは明日の依頼についてだ。実は俺たちが依頼を受けたのは金のためでも、ましてやこの町のために大狼を討伐しようと思ったわけでもなく。もう一つ、噂の凶悪な魔物の目撃情報が目当てなんだよ」


 フラナは調子を崩すことなく話を続けた。


「その魔物ってのは二本の湾曲した角に、全身黒で二足歩行の筋骨隆々なバケモンらしくてな。俺の知ってる魔物と見た目が一致してんだよ。で、そいつが本物なのか確かめるために依頼を受けたってわけだ」

「それが本物だったらどうするんですか?」


 リイシャが興味津々で話に聞き入り疑問を口にすると、フラナは調子を戻して飄々と答える。


「本物なら怒らせるわけにはいかねぇからな。周りの奴らが刺激する前に、さくっと大狼殺して依頼を終わらせたら帰るつもりだ」


 フラナの発言には、僕を驚かせる内容が二つあった。


 一つは、Bランクの魔物である大狼を何の脅威とも思っていないこと。

 二人の話が本当なら、フラナと大狼のランク差は二以上ある。

 フラナにとって大狼の討伐は、おじさんにEランクは堅いとお墨付きを貰った僕が、Gランクのバウファウを討伐する感覚と同じなのかもしれない。

 命の危険はあるが、負けるわけがないと思っているのだろう。


 二つ目は、そのフラナが噂の魔物には手を出さないということだ。


 リイシャも同じ疑問を持ったようで口を開く。


「え? その魔物は討伐しないんですか?」


 フラナは半目で首を横に振って答える。


「したい気持ちは山々なんだが、強すぎて無理だ。もし会っちまったら、他の奴らに注意喚起しながら逃げることになるな。それで二人には逃げる準備をしとくように伝えときたかったんだよ」

「いくら強くてもアルビウスさんはBランクで、フラナさんは人類最強なんですよね? 二人がかりでも勝てない魔物なんているですか?」


 リイシャの持つ疑問は至極当然で、二人で勝てない魔物がいるのであれば、人類では討伐が難しいと言っているようなものだ。

 今までの話の内容で一際気になり耳を傾けていると、フラナは伸びをして緊張感の欠片もないようすで口を開く。


「あぁ、勝てねぇな。時と場合、その他諸々こっちに分がある状態でしっかり準備をした上で、手加減してもらってようやくまともに戦えるぐらいだろうからな」


 興味心を抑えきることができずに、僕は言葉を零す。


「そんなに強いんですか?」


 リイシャが話している間は口を開くつもりはなかったのだが、ささやくような僕の言葉は三人の耳にちゃんと届いた。

 リイシャは口を閉じ、フラナは視線をリイシャと僕へ順に向けて口角を僅かに上げる。


「あいつは世界最強の魔物だからな。二人は七天災って知ってるか?」


 僕は図書館で調べた記憶を探るも自信がもてず、曖昧に答える。


「神話(?)の魔物ですよね?」


 フラナは頷くも、僅かに訂正して今回の件と結びつける。


「そう言われてるが、あいつらは実在してる。数多くいる魔物たちの中で抜きん出て強い七体を総称して七天災と呼んでる。で、その内の一体が噂の魔物と特徴が一致してる。名を”惨羊(ざんよう) バブリビオスス・グラベラ・ドーラ”」


 僕とリイシャが固唾を呑み、耳を傾ける。

 フラナは眉根を寄せて話を続けた。


「普段は罹災大陸にいるはずなんだが、こんなところにいるのがおかしくてな。ちょっと見に行こうってことになったんだよ」


 近所で桜が咲いたから見に行こう。

 みたいなノリで話すフラナに、僕は肩透かしを食らう。


「そんな軽い気持ちで大丈夫なんですか?」

「何もしなけりゃ見逃してくれたりするんだよ。一回だけ会ったことがある」

「怖そうなイメージですけど、意外と温厚なんですね」


 フラナは首を横に振って、僕のイメージを否定する。


「別に温厚ってわけじゃねよ。無駄に襲って来ないだけだ。セリス曰く狂暴性は他の六体が上らしい。まぁ強さは断トツでバブリビオススだがな」

「その六体は危険なんですか?」


 フラナは僅かに声のトーンを落として、口を開く。


「会ったことはなくて詳細は知らねえが、名前だけなら聞いてるぜ。七天災について俺より詳しいセリスが危険視してる順だとな、

――天を覆う極光”聖龍せいりゅう サバラ・ラバランナ・ランナ”――

――動かぬ大災害”島亀しまがめ サーナ・ヨル・ターム”――

――限りの無い氾濫”廻蝶かいちょう ノツイン・フライ・ゴア”――

――聡明なる瞳”狩鷲しゅしゅう メーズイス・ユア・メタ”――

――実体のない潜艦”巨鯨きょげい パル・ファル・テュッキ”――

――囚われの戦慄”獄描ごくびょう ヒュイア・ロウ・ガアル”――

ちなみにバブリビオススを含めた上三体は、人類で倒せるレベルじゃねぇそうだ。他の四体もバカみてぇに強ぇらしいぜ? 出会ったら逃げな。まぁ逆鱗に触れちまったら、逃げ切れるとは思えねぇがな。はっはっは」


 フラナは飄々とした態度を戻して笑ってみせた。


 人類最強、それは定かではないが、フラナは間違いなく強い側の人間だと確信を持てる。

 その人がここまで釘を刺すのだ、”七天災”会わないことを願うしかないだろう。


「つーわけで、明日は気をつけろよ」


 一通り話が終わりフラナが注意を促すと、リイシャが緊張の籠った声で返事をする。


「はい……わかりました」

「あ、はい、わかりました」


 すっかり話に夢中で明日にそのバケモノと会う可能性をド忘れしていたため、リイシャより少し遅れて返事をした。


 会わないよう願いたいところだが、もう既にその願いが砕かれかけている。

 今からでも依頼の受注を撤回できないか思考を巡らせる。


 まだ本物がいると確定したわけではないし、フラナはバブリビオススを怒らせないために依頼を受けているのだ、それに守ってくれるとも言っていた。

 依頼を受けられるようにしてもらって晩御飯もご馳走になったにも関わらず、二人の優しさを無下にしてしまう行為は褒められたモノではない。

 僕は諦めて、独り肩を落とす。


 どうしようもないタイミングでのカミングアウト、神様は僕のことが嫌いなのだろうか。

 おお、神よ……


 無宗教だが、両手を組んで天を仰ぐ。


 日本人あるあるかもしれないが、神様を信じていないくせに、ここぞという時だけ神頼みをするのはなぜだろうか?

 いや、信じてないから簡単に祈るのだろう……


 僕が信じてもいない神に密かに祈りを捧げていると、フラナが一瞬目を見開き顔を顰めた。

 今まで見せたことのない、その様相に僕は萎縮してしまう。


 ちょうどのタイミングで店員さんが来て、大量の料理をテーブルに所狭しと並べ始めた。 

 それを皮切りにフラナは飄々とした表情に戻ったが、僕のことで何か思うところがあったのだろうが怖くて何も聞けない。

 明日はフラナの機嫌を損ねないように一つ一つに細心の注意を払って行動しなくては……


 そんな僕の苦悩を露知らず、リイシャは料理を美味しそうに頬張る。

 気を紛らわすために僕もリイシャに倣って料理を口に運ぶ。


 しかし明日はもちろん、フラナにも恐怖を抱く僕の背中は冷や汗でびっしゃり濡れており、味のわからない晩御飯となったことは僕だけの秘密である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ