06
「あ!谷川先生!」
工藤が谷川を見つけ、声をかけているところを、クロは見ていた。
「工藤くんじゃないか。どうしたんだい?」
「さっきの授業のことですが…」
谷川は特別講師として、よく大学に来ることは知っていた。工藤は谷川の話を熱心に聞いていた。
「さて…叔父さんのところに行きますか…」
クロは叔父さんの教壇があるところへ向かった。
「叔父さん」
「クロ。調子はどうだ?」
授業が終わったばかりなのか、ライトは片付けをしていた。
「相変わらずです。バイトの方も楽しんでしてます」
「それはよかった。ところでクロ」
「なんでしょう?」
「バイトの子は、体大丈夫なのか?」
ライトの肩に一羽のカラスがいつの間にか止まっていた。
「長くはないと本人は言っていました。だから、俺はなるべく本人が後悔のない様にサポートしていきたいと思っています。一つの社会勉強にもなるし、何よりあの方から学ぶ事が多くて勉強にもなるので」
「君がそう言うんなら、その方をフォローしてあげなさい。あの子の事は、私も見守っているから、安心してなさい」
「ありがとうございます」
「それと、ちょっと荷物を運ぶの手伝ってくれますか?」
「もちろんです」
クロはライトの数冊の本を運ぶのを手伝った。
「今日は、もう授業がないので城へ帰ろうと思います」
「そうですか。俺は午後から一限だけ授業があるので」
「うむ。頑張って励みなさい」
ライトの机に本を置いた。
「ありがとうな。クロ」
「いえいえ。叔父さんも気をつけて帰ってください」
クロは授業に向かった。
「終わった〜」
明楽は伸びていた。
「お疲れ様です」
設楽が声をかけてきた。
「新塚さん。三月さんにきついですね」
「そう?こんなもんじゃない?女同士は」
明楽は帰る支度をした。
「では、お先失礼します」
明楽はカバンを持って出て行った。電車に乗り、家へ向かった。
「明楽さん。大丈夫ですか?」
イヤホン越しにエナジーが声をかけてきた。
「うん…大丈夫」
なぜか冷や汗が止まらなかった。家に着くと、クロはいなかった。
「大学なのなか?」
しかし、立ってるのもやっとなのか、ベットに倒れ込んだ。
「ごめん。休ませて」
「わかりました」
明楽は深い眠りについた。
夢を見た。戦場で仲間が殺されている所を、明楽は銃を片手に逃げていた。
「誰か…」
必死に走ったが、向こう側にも敵がいた。
「はっ!」
明楽が銃を構える前に、相手の銃が撃たれた。弾丸は明楽の右目に当たった。
「うぐぁーー!」
明楽は悲鳴をあげ倒れた。あまりの激痛にのたうちまわった。
「明楽さん。大丈夫ですか?」
無線からエナジーの声が聞こえた。相手は次の攻撃を仕掛けようとしたが、去って行った。
「明楽さん。今応援呼びます。辛抱してください」
明楽は痛みに必死に耐えていた。医務室で明楽は眼球を取る手術をしていたが、痛みは無いが鮮明に覚えていた。
「私…目が見えなくなるのか…」
手術中明楽はそう思っていた。
目を覚ますと、さっきより体が落ち着いており、呼吸も楽になっていた。
「目が覚めましたか」
クロが入ってきた。明楽は酸素マスクをしていることに気づいた。
「クロがしたの?」
「はい。エナジーの指示の元ですが」
「ありがとう」
明楽はゆっくりと体を起こした。
「ごめん。ちょっとお腹すいた」
「暖かい御うどん作りましたが…食べますか?」
「うん。ごめんだけど、ここで食べていい?足に力が入らない…」
クロは御うどんを茶碗に入れ明楽に渡した。
「いただきます…」
明楽はゆっくり食べた。
「美味しい…」
しかし一口だけ食べて終わった。
「大丈夫ですか?」
「うん。ごめんね」
「いえいえ」
クロは明楽の残りを片付けた。
「クロ…ごめん。手貸して」
「どうしましたか?」
「シャワー浴びたい」
「大丈夫ですよ」
クロは明楽の着替えとタオルを用意した。明楽を支えながらシャワー室に向かった。
「シャワー室に椅子用意したので座ってシャワー浴びてください」
「ありがとう」
服を脱ぐのを手伝い、明楽はシャワーを浴びた。その間、クロは片付けをしていた。
「クロさん」
明楽のスマホからエナジーが呼んでいた。
「どうしましたか?」
「申し訳ありません。明楽さん…今日調子が最悪なのです。会社で大量の血を吐いていました」
クロは驚いた。
「え…」
「今は数値は安定しているのですが…」
クロは疑問に思った。
「エナジー。なんで明楽さんの数値がわかるんですか?」
「それは…」
エナジーが答えようとした時、明楽がクロを呼んだ。
「クロ…ごめん」
クロは明楽の所へ行った。
「着替え手伝って欲しい」
クロは笑顔になった。
「大丈夫ですよ。遠慮なく言ってください。明楽さんには尊敬しかありません」
クロは明楽の体を拭き、着替えの介助をした。
「髪の毛も乾かしますね」
クロは明楽の髪を乾かした。すると、明楽は涙を流した。
「ごめんね…」
「明楽さん?」
頭を乾かしてる間、明楽は何も喋らず涙を流した。乾かし終えると、丁寧に髪をブラシした。
「終わりましたよ」
「ありがとう」
また明楽を支えながら、ベットに連れて行った。ベットにつくと、明楽はゆっくり座った。
「ごめん。私、今日弱い日だわ」
明楽は涙を拭いた。
「そんな日もありますよ。無理はしないでください。心配します」
「ごめんね」
「片付けてきますが、少し一緒にいた方がいいですか?」
明楽は少し考えた。
「いいの?」
「えぇ」
クロは明楽の部屋にあった椅子に座った。
「クロって、ほんと優しいね」
「そんな事ないですよ。でも、私は明楽さんには敵いません」
明楽は俯いた。
「さっき夢見てたんだ。任務で私右目撃たれた夢でさ。実は私。右目見えないの」
「え…でも、眼球あるじゃ…」
「これは、義眼にエナジーを埋め込んであるの。まぁ、機械を埋め込んでるって思えばいいよ」
そう言うと、明楽は右目の瞳の色を白色に変えていた。クロは驚いた。
「え…どうなって」
「機械でやってるのよ。でもさ、右目摘出の手術さ麻酔は多分してたけど、意識バリバリでさ。あぁもう見えなくなるのか…て思ってたよ。今は見えないけど、エナジーが私と同じ景色を見れるし、私の体の管理も見てくれてるから、ありがたいよ」
「明楽さん。すごいですね。でも…」
「でも?」
「もう、休んだらどうですか?明楽さんを狙う奴は私が排除します」
明楽はニコッと笑った。
「言ってくれるだけでも嬉しい。ありがとう」
でもどこか悲しい表情だった。クロはすかさず明楽を抱きしめた。
「明楽さんは、頑張りすぎです。弱音を吐いてもいいんですよ」
明楽はどっと涙が溢れた。
「死にたくない…苦しいの…もう嫌」
クロの胸の中で泣いた。クロは抱きながら明楽の背中を撫でた。
「任務ももうやりたくない。もう長くないから、苦しんで死にたくない。死ぬまで恐怖を味わうの嫌」
溜め込んでいた気持ちを、一気に発散した。
「明楽さん…」
明楽が泣き止むまで、クロは抱きしめていた。
しばらくすると、明楽は落ち着いた。
「ごめんね…」
「全然。むしろ、言ってくれて、ありがとうございます。さ、今日は休みましょう」
「ありがとう」
明楽は横になり眠った。クロはそっと明楽の部屋を出て、残ってる片付けをした。
「クロさん…」
明楽のスマホからエナジーが声をかけてきた。
「ちょうど片付いたところだ」
「すみません。明楽さんの事、何から何まで…」
「大丈夫ですよ。明楽さん、我慢しすぎなんですよ。私がいる時は、我慢せずに我儘や弱音を吐いてもいいんですよ。でも…」
「でも?」
クロは考えていた。
「苦しんで死にたくないとおっしゃってたので、そこをなんとかしてあげたい」
「…といいますと」
「私も勉強不足なので、勉強してきます。それでは、シャワー浴びてお休みさせていただきます」
そう言うと、着替えを持ちシャワーを浴びて部屋に戻った。
「叔父さんに聞いてみるか…」
ノートに記録し、クロは眠った。