03
「はい…すみません。でも、ターゲットは無事に殺りました」
明楽は電話を切った。リビングの椅子に重く座った。
「お疲れ様です。明楽さん」
クロはお茶を入れたマグカップを明楽に渡した。
「ありがとう…」
一口飲んだ。
「大丈夫ですか?」
「うん。大丈夫。あぁ、忘れてたね。約束のこと」
明楽はクロを見つめた。席に座るよう促し、クロは座った。
「私ね、実は日本で生まれたの。でも、孤児でさ。引き取られてアメリカに渡って、訓練をさせられたんだ。潜入捜査もやったし、戦争の兵士としても参加した。たくさん人を殺し、仲間も死んでいくところも見た。そんな時にコンピュータを習って、エナジーを作成した。一人でも、犠牲を減らしたかったし、私のパートナー的な存在も欲しかった。まぁ、エナジーがいてくれてここまで来てるんだけどね」
「…大変ですね」
「で…ある任務で失敗した。潜入中に猛毒を浴びてしまった。持って数ヶ月とか言われてるけど、いつ発作がおきて死んでもおかしくないの」
クロは何も言えなかった。
「だから、実質これが最後の任務になると思う。任務が終わったら、死ぬか殺されるかの二択だと思うけどね。組織の情報持ってるから、漏洩防止のために…」
明楽はどこか寂しく言った。
「明楽さん…」
「だから、一度でいいから、普通の人間の生活してみたい。遊びに行ったり、美味しいもの食べたりしたいな」
すると、クロは明楽の手を取った。
「私にできることがあれば、言ってください。なるべく叶えてあげたい」
「クロ…うん。ありがとう。あなたが来てくれて、本当に良かった」
明楽は笑顔になった。どこか幼さが残っているように、見えた。しばらく談笑していると、明楽が聞いた。
「クロって、彼女いるの?」
ギクっと体が反応した。
「え…と…」
「いるの?」
「居ないですが…好きな子はいます…」
「お!」
クロはお茶を飲んだ。
「年下で離れています。と言っても、直接話した事があるのが一回だし、後は遠くから見守ってます」
「え…ストーカー!?」
「違います!近づいたり、嫌がらせなんてしてません!日中、大学に行ってるので行く暇がありません!」
クロは全力で否定した。
「どう言うことよー」
明楽は横目で見た。
「実は…叔父さんが連れてきたんです。事情は言えないんですが、生みの親が生まれてすぐに死んだんです」
「え…でも、父親は…」
「その辺りもちょっと言えないんですが、とりあえず親が居なかったんです。叔父さんが連れてきて、少し面倒見てたんですけど、ちゃんとした家庭で過ごしてほしい意味で、信頼できる家庭に預けたんですが…」
「どうしたの?」
「その子自体が幼くして家出したんです。自ら」
「え!?」
明楽は驚いた。
「居場所はすぐわかったんですが、そこで定着してしまったんです。なので、叔父さんがメインで見守ってるんです。私も、協力してるんですが」
クロがまたお茶を飲んだ。
「実は、明楽さんに初めて会った時に、驚いてしまったんです。あの子にそっくりだったし、名前も似ていたので…」
「そうだったんだ」
「見守るって言っても、生存確認だけです。学校で、どう言う生活してるかはさっぱりです。ただ、危険が及ぶようなら助けるつもりです」
それを聞いて明楽は納得した。
「ストーカーしてないからよかった」
「俺…ストーカー興味ないですよ」
「クロも男だからねー。男は何するかわかんないし。上の存在の人なんて、変な癖持ってる人も多くてさ。潜入でドン引きした事何度あるやら」
明楽は呆れていた。
「明楽さん。ここは私が片付けるので」
クロは立ち上がり、食器を片付けた。
「片付けてる間にシャワー浴びるわ」
着替えを持ち、明楽はシャワーを浴びた。すると、鼻血が出ていることに気づいた。
「え…」
鏡を見た。かなり出血していた。それと同時に激しい動悸がなり、しゃがみ込んでしまった。
クロは皿を洗っていた。すると、明楽のスマホからエナジーが声を上げた。
「クロさん!明楽さんが!」
クロはシャワー室に向かった
「明楽さん失礼します」
ドアを開くと、シャワーに当たりながらしゃがんでうずくまってる明楽がいた。シャワーを止め、タオルをかけてあげた。
「大丈夫ですか…?」
辛いのか声が出ない。
「体拭いてもいいですか?冷えるので」
そう言うと明楽は頷いた。クロは明楽の体を拭いてあげた。すると、明楽が少し落ち着いたのか動けるようになった。
「ごめん。ベットまでいい?」
明楽を支えながらベットに連れて行った。着替えを手伝い、明楽は横になった。
「大丈夫ですか?何か飲みますか?」
「いらない。本当にごめん」
「私は大丈夫ですよ。エナジーが教えてくれました。今日はもうお休みになってください。片付けは私がやりますので」
「ありがとう…」
クロは途中だったリビングの掃除をし、シャワー室を綺麗に掃除してシャワーを浴びた。部屋に行き、新しいノートを取り出し、今日の出来事をノートに記入した。すると、どこからか声がした。部屋を出て明楽の部屋に行くと、うなされてるのか苦しそうにしていた。
「明楽さん。大丈夫ですか?」
クロは明楽を揺さぶった。
「やめてーー!」
明楽は悲鳴と共に目を覚ました。呼吸が荒く汗もかいていた。
「大丈夫ですか?」
「クロ…」
「すごくうなされてたんですが」
「うん…ちょっと嫌な夢見た。ごめんね。もう大丈夫。ありがとう」
クロは明楽の事がどこか寂しそうに見えた。
「大丈夫ですか?明楽さんが眠るまで付き合いますよ」
「そこまでしなくても大丈夫だよ。子供じゃあるまい」
明楽は笑った。
「気持ちだけ受け取っておくよ。ありがとう。遅くまでごめんね」
「いえいえ。いつでも呼んでください。では、私もお休みします」
「うん。お休み」
「おやすみなさい」
クロは部屋を出て自分の部屋に行き、休んだ。