02
「井上くん。三月さんはどうですか?」
暗い部屋で男が呟いた。
「はい。仕事もできますし、何なら、我々のフォローもしてくれて有能です」
男の横にいた女はメガネをカチッと動かした。
「ほう…そうか。ところで井上くん。例の女性殺害事件は全部調べなくてもいいからな」
「はい。警察組織の闇が暴かれてしまいますからね」
「新人はそう言うのに噛み付く傾向があるから、必ず阻止するように」
「はい…」
男は女の尻を撫でた。女は驚き、ビクついた。
「サラちゃんはもうちょっと後だからな。それまで、よろしく頼むよ」
女は嫌な顔を一瞬したが、また元の表情に戻った。
「では、私はこれで」
井上は部屋を出て行った。
朝から猛烈な吐き気で目が覚め、明楽はトイレへ駆け込んだ。その音でクロも飛び出した。
「明楽さん。大丈夫ですか?」
「大丈夫…うっ」
しばらくトイレに引きこもり、落ち着いたところでリビングについた。
「朝食どうしますか?」
「少しでも、お腹に入れたいから。お粥がいい」
クロは急いでお粥を作り、明楽に渡した。
「ありがとう…」
明楽はゆっくりお粥を食べた。
「明楽さん。何か病でも持っているんですか?」
明楽は手を止めた。
「ええ。私は、あまり長くはない…」
「…そうですか。すいません」
「ううん。大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」
お粥を半分残し、明楽は支度を始めた。クロも食器を片付け、大学へ行く準備をした。
「今日はどの位で終わるの?」
「五時には戻ってくる予定です」
「わかった。気をつけて大学行ってね」
「明楽さんも、気をつけてお仕事頑張ってください」
二人は玄関を出て行った。
明楽は電車を待った。明楽はイヤフォンをした。
「エナジー…」
「何でしょう」
「少し、怖くなった…」
「…今は安定しています。大丈夫です」
電車がきた。朝の満員電車。明楽も揉まれながら、何とか乗り込んだ。電車に揺られていると、お尻を触ってくる人がいる事に気づいた。
「はぁ…エナジー。いい?」
「もうすぐ駅に着くので、思う存分どうぞ」
明楽は触ってくる手を掴み、捻り上げた。
!?
「さっきから目障りなんだよ!」
触っていた人は、中年の男性だろうか。明楽はさらに男の腕を捻り上げ、肩を脱臼させた。そのタイミングで電車は駅につき、明楽は男を無理やり下ろした。そばにいた駅員さんに事情を説明し、明楽は警察を待っていた。待つ事数十分で警察がきたが、その中に遠藤がいた。
「おはよう。どうしたの」
「おはようございます。痴漢にあったんですが、なかなかやめてくれなくて…つい…」
遠藤は男を確認した。
「あぁ。こいつは常習犯で、今度したら刑務所行き確定してたんだ。三月さん。ありがとう」
男は連れていかれ、明楽も遠藤の車に乗り職場へ向かった。
「おはようございます」
「朝から大変だったね。お嬢ちゃん」
井上が声をかけてくれた。
「おはようございます…」
設楽が入ってきた。
「おい設楽!お嬢ちゃんが朝から大変な思いしてるのに、また寝坊か!」
時間を見ると始業時間の五分前。
「井上さん。まだ設楽さん遅刻じゃないですよ」
明楽は答えたら。
「警察官は早めの行動が重要だろう」
「だったら、私も遅刻じゃないですか?」
「お嬢ちゃんは、犯人逮捕したから免除だ」
井上は何かを思い出したかのように席を離れた。
「三月さん。ありがとうございます」
「いえいえ。遅刻でもないのに怒られるの変じゃないですか」
明楽は席につき、パソコンを開き作業をした。
チャイムが鳴った。
「午前の授業はここまでです」
クロは教科書を片付け、稽古場に向かった。
「お疲れ様です。叔父さん」
稽古場には白髪の男が立っていた。どことなくクロに似ていた。
「お疲れ様。クロ」
男はメガネをカチッと動かした。彼の名は、ライト・ルーマス。
「叔父さん。稽古お願いします」
クロは手甲鉤を装着した。
「では、はじめよう…」
ライトは刀を抜いた。一瞬静寂が走ったが、ライトが一瞬でクロに迫った。
っ…。
クロは手甲鉤で攻撃を受け止めた。火の粉が飛び散った。
「まだ反応が鈍いが、よく受けた」
「叔父さん…今何歳なんだよ」
稽古場内に鉄のぶつかり合う音で響き渡った。
「なら、これは避けれるかな?」
ライトは刀を突き出し飛んできた。
ただの一騎打ちではない。そうクロは睨むと、ギリギリまで待った。あと数センチの所で。
「そこか!」
クロは左に避け、手甲鉤でライトの逆の手を突こうとした。
「ムウ!」
ライトの逆の手には銃を持っており、手甲鉤が銃を刺した。
「二刀流…最近流行ってるんだけどな〜」
銃が粉々になった。
「流石に銃はダメでしょ…」
「そうかな?あー音でバレるか!」
クロは手甲鉤をしまった。
「叔父さんは、今日の授業ないんですか?」
ライトも刀をしまった。
「そうだな。担当の授業は終わってるが、研究が残っておる。龍についての研究だ」
「相変わらず熱心ですね。でも、そう言う所俺は好きです」
「クロも、この学科選べばよかったんじゃないか?私とタックをくんで…」
「考えてたんですが、こっちも捨てがたいと思って。いざとなれば、あの子を止める術を身につけておいた方がいいと思いまして」
クロは時間を見た。
「もう次の授業の時間なので。今日はありがとうございました」
「クロ。本当にありがとうな」
クロは稽古場を後にした。
「今日の仕事終わった〜」
設楽が伸びていた。
「お疲れ様です。今日も報告書等の書類多かったですね」
三月は帰る支度をした。
「三月さん。どこに住んでるんですか?」
ふと設楽は言った。
「内緒ですよ。お先に失礼します」
明楽は帰って行った。
「さてと、帰りますか〜」
設楽も帰る準備をした。
明楽はイヤフォンを装着し、駅に向かった。
「お疲れ様です。明楽さん」
「おつかれ。今日の予定入ってる?」
「はい。まずは画面を見てください」
明楽はスマホを取り出した。
「まず、今日の夜八時から任務があります。これは今日のお昼頃に入りました。上層国民達のダンス舞踏会があるそうですが、とある政治家を殺す任務です」
画面には政治家の写真が映し出されたが、明楽は名前まで覚えるつもりはない。
「クロさんも参加していいそうです」
「そう。なら、本人に聞いてみるわ」
すると、電車が来た。明楽は電車に乗り、最寄り駅まで目指した。
家に着くと、クロがもう来ていた。
「おかえりなさいませ」
「そんなに硬くならなくていいよ。それより、今日は仕事がある」
明楽は中に入り、説明した。
「今から、とある舞踏会に出席する。武器持参で」
明楽は暗殺予定の政治家の写真をクロに見せた。
「こいつを殺すだって」
「ほう…」
「てことで、正装で行くんだけど…」
「燕尾服ならあります」
「それでいいわ。私は…やべ。ドレスあるかな…」
明楽はタンスを開け、ドレスを探したが。
「仕事用のスーツと戦闘服しかない…」
するとクロが声をかけた。
「よろしければ…これはどうですか?」
何処から出したのかわからないが、赤いドレスを手にしていた。
「着替えてみるわ」
明楽は早速ドレスに着替えた。クロも部屋で燕尾服に着替えた。
「クロ…どうかな?」
なかなか似合っていた。
「いいじゃないですか。素敵ですよ」
時間を見ると、そろそろ出発しないといけない時間になっていた。
「武器持って行きましょう。ただ、目立たないようにね」
「御意」
明楽のスマホからエナジーが話した。
「明楽さん。クロさん。車の準備が整いました」
明楽はヒールに履き替え、クロと一緒に車に乗った。
「では、自動運転で向かいます」
カーナビにエナジーが映し出され、車が動き出した。
「道中暇だからさ、聞きたいんだけど」
明楽が問いかけた。
「何でしょう」
「クロって…マジ何者?魔法使いだけでもビビってるけど、普通の大学生が燕尾服とかドレス持たないって…」
クロは少し悩んだが。
「答えてもいいですが、明楽さんの事も知りたいです。交換条件はダメですか?」
「口外しないなら大丈夫よ」
クロは息を吐いた。
「私の家は…ここでいうお屋敷みたいな所で、親から厳しく育てられてきました。ダンスや礼儀作法も。そんな親が嫌で、これもお屋敷ですが、叔父さんの家にいつも遊びに行ってたんです。叔父さんはとても優しくて、戦闘は叔父さんから教わりました」
「叔父さんも、手甲鉤使ってるの?」
「いえ。叔父さんは普通に刀や銃です。叔父さんからは、戦闘の基礎を学びました。今でも一緒に稽古しています。叔父さんには本当に感謝ですよ」
「そうなんだ…」
「まぁ、礼儀作法は親には感謝ですけど。ただ、ほぼ虐待まがいだったし、叔父さんからも改めて礼儀作法を習ったので…」
そうこう言っているうちに、車は会場に着いた。
「私の話は、この任務が終わってから話すわ」
「えぇ。楽しみです」
クロはニコッと笑った。会場の入り口に着くと、ドアマンが声をかけた。
「いらっしゃいませ。お車を移動しておきます。中へどうぞ」
明楽とクロは車から降りた。ドアマンが車に乗り込む前に、車が勝手に移動していった。ドアマンはただ唖然としていた。
「クロ。いいかしら?」
明楽が手を差し伸べた。
「もちろんです」
明楽はクロの腕につかみ、会場に入った。会場には人が多く集まっていた。
「意外と人多いわね…」
クロは警戒していた。
「嫌な予感します」
「あなたが、危険と感じたら武器出してもいいわ」
「ええ。明楽さんを守らないといけないので」
すると、マイクを持った司会者が現れた。
「今夜は舞踏会にお越しいただき、ありがとうございます。早速ですが、メインの音楽を流しましょう」
すると、クラシックが流れ周りが踊り出した。
「ここは、空気を読んでどうでしょう」
「そうね。クロ。お願い」
クロと明楽は周りに合わせて踊った。
「あんた…本当に大学生?」
「えぇ。そうですよ?」
少し踊ると、クロは何かを感じた。
「明楽さん。ハンカチありますか?」
「えぇ。あるわ」
「口と鼻を覆ってください」
明楽は感じなかったが、嫌な匂いがあたりに漂った。
「クロ。なんなの?」
「魔法の世界にしかない薬物の匂いです。嗅ぐと昏睡するとか…」
すると、別の司会者がでてきた。
「それでは、みなさん。こちらの扉へ」
奥の方から大きな扉が開く音がした。すると、客は扉の方へ歩いた。だが、何かに操られているのか、ゆらゆらと歩いていた。明楽は周りを見渡した。すると、上の階にターゲットである政治家の姿があった。
「クロ」
明楽の目線を確認し、クロも見た。
「写真の…」
すると、司会者がターゲットにめがけて話した。
「今日は収穫です」
ターゲットは頷いた。
「クロ。吐き気がするからさ。思いっきり私を高く飛ばして」
「もちろん」
明楽はクロの手に足を置き、クロは明楽を思いっきり上に飛ばした。明楽は空中で銃を構え、ターゲットに照準を合わせた。
「さっきからニヤニヤ顔がキモいんだよ」
明楽は一発放つと、ターゲットの額に命中した。そして、司会者にもすぐに照準を合わせた。
「もう黙ってろ」
また一発放つと、額に当たった。明楽はクロに抱っこされる形で着地した。銃声の音で客達が気がつき、一気に入り口へと悲鳴を上げながら走り出した。
「我々も逃げよう…」
「いや、待ってください」
クロの視線があの扉の向こうに向いた。すると、一人の男が歩いてきた。
「明楽さん。私がやります」
明楽もただの男ではない事に察した。
「気をつけてね」
明楽はクロから少し距離を取った。
「匂いの正体は、あなたですよね?」
クロは男にそう問いかけた。
「ほう。匂いがわかったとは。君は、この世界の人間ではないな」
男は何かを抜いた。クロも手甲鉤に手をかけた。
「しゅっ…」
クロは一瞬で避けた。男はナイフを一瞬で投げていたのだ。
「ほう…これを避けるとは」
男は次々とナイフを投げたが、投げたナイフが床に落ちず消えている事に明楽は気づいた。
「どうなって…」
「明楽さん。これが、魔法なんです。おまけに、そのナイフ。斬られると傷口が永遠に治らないとか?」
クロは避けながら明楽の質問に答えた。
「御名答だ。私のナイフは無限に投げれるし、傷口が治らない分ダメージが増えるだけだ!」
男はさらにナイフを投げ続けた。だが、クロは一瞬の隙を狙い、男の背後に回った。
「俺の手甲鉤も、特注なんだぜ…」
男が振り向く前に、クロは男の首を刺した。
「やるじゃん」
「まさか、魔法の世界の人もいたとは。明楽さん。帰りましょう」
「そうね。時期に人が来そうだし」
すると、明楽のスマホから、エナジーが声をかけた。
「明楽さん。クロさん。お車の準備ができました。急いで入り口へ」
明楽とクロは急いで車に乗り、会場を後にした。