01
すごく喉が渇いた。目を覚ましてもボヤけてよくみえない。テーブルに手を伸ばし、眼鏡を取った。
「もう朝か・・・」
ゆっくりと身体を起こし、ベットから出た。丸い窓から薄暗い空がみえた。だが、地面は灰色。男は着替えを持ち、サッとシャワーを浴びた。
・・・あの子は大丈夫だろうか?
ふと頭をよぎったが、考えるのをやめ着替えた。白いシャツに黒いズボン。コップを出し、何かを唱えると水がでた。コップいっぱいの水をグイッと飲み、鞄を手にした。
「さてと、学校へ行きますか」
指をパチンと鳴らすと、部屋から消えた・・・
男は林に降りた。
「早く学校へ行って図書室でも行くか」
男の目の前には大きな門があり、奥には建物が拡がっていた。
男の名前はクロ・ルーマス。魔法大学封印学部の四年生。
早速図書室へ入り、魔術の本を数冊取った。
「なるほど。そうすると止まるのか」
日々の勉強で、トップの成績を誇る。
どのくらいたったのだろう。懐中時計を出した。
「もうこんな時間か。教室に行かねば」
本を元の場所に戻し、教室に向かった。
「あ、クロだ」
声をかけてきたのは、体格の良い男とその取り巻き二人。
「あぁ、工藤と藤巻と加藤。おはよう」
体格の良い男は工藤だ。
「この前のテストで学年一位取ったんだって?調子に乗りやがって!」
殴ろうとしたがクロは華麗にかわし、工藤の後ろに回り込み、ナイフを突き立てた。取り巻きの二人はビックリした。
「早い!」
「え・・・」
二人は固まった。
「朝から暴力しか考えてないの?それでよく教師になろう思ったねー」
冷酷な笑みを浮かべるクロ。
「チッ」
「まぁ、殺しはせん。興味がない。では」
ナイフをしまい、教室を目指した。
「工藤。大丈夫か?」
「あぁ。本当にムカつくぜ。昔から成績優秀で戦闘も強いからよ」
「工藤、藤巻。チャイムがなりそうだぜ」
三人は急いで教育学部の教室に向かった。
「ここはこういう時に・・・」
先生の授業が始まった。いくら魔法大学とはいえ、パソコンで授業を記録する生徒もいた。
どうしてみんなパソコン使えるの・・・
そう思いながら、ノートにわかりやすく記録するクロ。
魔法を使えない世界でも生きていけるように。また、魔法と無縁に普通の人間として生きる人もいるため、パソコンやスマホがよく見かける。
電子系?と言えばいいのか、マジ苦手。電話を覚えるのでやっとだったなー。
そう思いながら授業に集中していた。
一限目の授業が終わった。
「クロ君。まだノートなの?」
「俺、電子系わかんねーし。それに、この世界の方が居心地がいい」
クラスメイトからよく言われた。
「相変わらず、アナログ人間」
「だったら、成績上位狙えよ」
反論すると皆黙り込んだ。そうこうしてるうちにチャイムがなる。皆席に戻った。
「はい。次の授業ですよ」
先生が入って授業開始。
やっと終わった。
ため息を吐き外に出た。今日の授業はもう無し。
「掲示板でも見に行くか」
掲示板へ行くと、新着の知らせなどが張り出されていた。
「バイトのチラシもでてるからなー」
この魔法大学の掲示板では、学校行事の他に、バイトやボランティア活動などの募集も張り出されている。稀に、魔法を使えない世界の情報も張り出されている。
「今日は情報多いな。・・・ん?」
ある一つのバイトに目が止まった。よく見ると魔法を使えない世界のものだった。
『ボディーガード募集!定員一名!主に夕~深夜にかけての時間帯となります。即日業務なので興味のある方は一度ご連絡ください。その時に給料の説明もします。なお、武器を使える人大歓迎です!』
「人間界でこんな募集か。嫌な予感だが面白そうだな」
早速その番号に電話してみた。
「バイトのチラシを見て連絡しました」
「あー。ボディーガードの?」
声の主的に男性だ。
「はい。興味を持ったので」
「そうですか。では、お名前と武器は使えるのかお聞きしたいです
いきなり言うのかよ!
「クロ・ルーマスです。武器は、ナイフですかね。銃は使ったことありません」
「わかりました。では、夕方五時半に今から言う番号に電話してください。給料は能力で決めます。よろしくお願いします」
ガチャっと電話が切れた。
そう思いながらメモした電話番号を見つめた。だがこれから恐ろしいことが始まる事は、誰も知らなかった。
ここは魔法が使えない世界。そして警視庁。
「今日からうちに配属したお嬢ちゃんだ」
大勢の男たちがいる部署に若くて痩せた女が入った。
「三月明楽です。よろしくお願いします」
黒くて長い髪が綺麗だった。
「三月さんは上からの命令で、期間限定でうちに派遣された。可愛がってやってくれ。三月さんの机はあっちな」
と男の上司が指を刺した方向を見ると、隣の席で寝ている若い男がいた。
「おい設楽!」
怒号がひびいた。
「スビバゼン!井上警部補!」
男は飛び起きていた。
「新入りが入るのに何やってるんだ!罰として三月さんに色々使い方教えてやれ」
「は・・・はい」
「では三月さん。わからなかったら何でもみんなに聞いてください。あと、うちの部署は別に警部とかつけなくてもいいから。さん付けでもいいので、気楽に仕事お願いします」
「わかりました」
井上は自分の席に戻った。
「三月さんでしたっけ?設楽です。三月さんの席はここで右隣が僕の席。左隣が遠藤さんの席です」
「よろしくお願いします」
明楽は鞄を席に置いた。
「お嬢ちゃん。設楽を頼むよ。こいつは使えなくてなー」
遠藤は笑いながら話しかけた。
「うるさいですよ」
一瞬ムスッとした。
「わかりました。設楽さんに負けないように頑張ります」
明楽は笑顔で応えた。
業務の基本はパソコン作業。だが、周りは年配が多いのか不慣れな人が多かった。
「うーん。ここどうするんだー?」
「ここはこうすれば」
明楽は丁寧に直していった。
「お嬢ちゃん。これもわかるかな?」
次々と手が上がった。
「私、パソコン得意ので」
「三月さんを入れた甲斐があったのー」
井上はどこか誇らしげだった。そうこうしているうちに、お昼時間になった。
「お嬢ちゃん、どうだ?」
「お弁当持参してたので、今度お願いします」
他は席を外し、自分の席でパソコンをみていた。再度人が居ないのを確認した。
「じゃーエナジー。始めようか」
携帯の画面に黒いドラゴンのような馬のようなアバターが写っていた。
「お待ちしておりました。明楽さん」
するとパソコンの画面にエナジーがでた。
「本当にこんなお国のところで、こんな事をしてるだなんてね」
ある一つの書類を鞄から出した。
「ですが、やはりセキュリティーがガチガチですね。時間がかかります。防犯カメラも一応調べておきます。この建物の構造図も探した方がいいですか?」
「ええ、お願いね。私もなんとかセキュリティー解除できるように頑張る。エナジーもお願いね」
「了解」
ハッキングをしているのか、キーボードをものすごい速さで叩いていた。
「やっべー。財布忘れた」
いきなり設楽が入ってきた。
!?
急いで画面を元に戻した。
「あれ?三月さん。ご飯まだなんですか?てか何してるんですか?」
「う、うん。まだなんです。よかったらご一緒にどうですか?」
「いいんですか?なら、近くの公園でも」
二人は公園に向かった。
「設楽さんは何で警察になったんですか?」
昼時なのか、人が少し目立った。
「僕、憧れだったんです。推理を立てて、物的に上がって逮捕が。頭の中で妄想などを考えるの得意で・・・。でも、結局配属は事務員みたいな年配の多い部署。憧れとは違います」
「そうなんですか」
「そう言う三月さんはどうなんですか?」
明楽はお茶を一口飲んだ。
「あんまり考えてないなー。うん」
「嘘だー」
設楽は興味を持っていた。
「パソコンも得意でなんか、何でもできそうに見えるんですけど」
「まぁ、あれは趣味みたいな・・・」
設楽は驚いた。
「あれで趣味レベルですか?一体どこで習ったんですか?」
「それは・・・」
喋ろうとした時、着信が二人の携帯になった。
“今どこだ!すぐ戻れ!また女性が上がった”
二人は走って戻った。
「えーと。先程、路地裏にて女性の死体が上がりました。ここ最近続いている女性連続殺人の可能性が高いと思います」
捜査本部で会議が行われた。スクリーンには殺害された女性が映し出されていた。犯行に使われていた凶器や血痕なども出されていた。
「設楽さんすみません。あの方は?」
「あぁ。この捜査本部長の海老名警部です。その隣にいるのが野上警視です」
明楽はスクリーンに注目した。すると妙なことに気づいた。
凶器と傷跡…妙に違う。しかも…プロ?
心に妙なモヤモヤを覚えた。会議が終わり、皆退席していった。
「なんか…淡々としていますね。ドラマや映画とは違いますね」
「まぁ…こんなもんでしょ?」
設楽は資料などをまとめて、鞄に入れた。明楽は資料を手に持ち、設楽と所属課へ戻った。
「三月さん。もう定時だから、今日は上がって大丈夫ですよ」
井上が呼びかけた。
「いいんですか?」
「初出勤に残業はさせられん。明日も頼むよ」
「ありがとうございます。お先失礼します」
明楽は鞄を持って退勤した。近くの地下鉄に乗り、最寄駅まで電車に揺られた。イヤフォンを出し、スマホに接続した。
「エナジー」
「お疲れ様です。明楽さん」
スマホにはエナジーが出た。
「明楽さん。早速ですが、教官からメッセージが届いております。今日からボディーガードを雇ったと。連絡も書いてあります」
「…わかった。電車から降りたら電話する。あと、帰り道に買い物行くから」
「了解」
最寄りの駅につき、外に出たところでメッセージに記載してあった番号に連絡をした。
“もしもし”
「もしもし?すみません。ボディーガードのバイトの方ですか?」
“はい。クロ・ルーマスと申します”
「今日から大丈夫ですか?」
“今日からですか…だい…丈夫です”
「では、今から住所を言うので、そこにきて欲しいです」
住所を言い、電話を切った。
「男性ですね…」
「そう簡単に辞めなければいいが」
明楽はスーパーに入り、食材を購入した。
「どんな人だろうね。エナジー」
「名前で見ると、外国人かハーフ?」
そうこう言っていると、家に着いた。一回はガレージになっており、玄関である二階まで階段を登った。鍵を開け、中に入り、電気をつけた。
「おかえりなさい。明楽さん」
明楽は鞄を置き、食材を片付けた。そして、一階へ繋がる階段を降りると、画面がいっぱいあるパソコンがあり、作業椅子に座った。
「じゃーエナジー。始めようか」
そう言うと、パソコンの電源が入り、どの画面にも異なる事が映し出された。
「では、今日の成果ですが…」
エナジーが成果を出そうとした時だった。チャイムが鳴った。
「来たのかな?ごめん。出てくる」
明楽は玄関に向かい、扉を開けた。
「すみません。バイトで来ました」
クロは明楽を見て、少し驚いた。
「どうしたの?てか、クロくんで…あってる?」
「これは失礼。知人にそっくりでして…」
「とりあえず入って」
玄関を通し、椅子に座らせた。
「初めまして。三月明楽です」
「クロ・ルーマスです」
「…ハーフ?」
「クオーターです。母方にフランス人がいます」
明楽は脅しのつもりで、クロに小さなナイフを投げたが、クロは瞬時にキャッチした。
「やるじゃない」
「このくらいは序の口です」
「年いくつ!」
「今大学四年生です。もうすぐ二十歳です」
「わかいねー。気に入った。クロ。今日からよろしくね」
「こちらこそよろしくお願いします。三月さん」
「明楽でいいよ〜。そうそう。クロが良ければいいんだけど、ここに住まない?バイトの時だけ。もちろんバイト時間外でも住んでていいし、大学生なら授業優先でいいよ」
クロは一瞬驚いたが。
「ここから大学近いので、助かります」
明楽は空き部屋をクロに案内した。
「ここ。好きに使って」
部屋にはベットと机と椅子があった。荷物を置き、窓を開けた。
「じゃークロ。早速だけど、夕飯作ってくれない?」
「ええ。お安いご用です」
クロは早速キッチンに立ち、冷蔵庫を開けた。
「買い物…行ったんですか?」
「なんでわかったの?」
「食材が揃っているので。リクエストはありますか?」
「うーん。パンが食べたいから、パンに合う料理がいいな」
クロは少し考え、食材を選び調理に取り掛かった。
「どのくらいかかる?」
「三十分ほどかかります…」
「なら、パソコンしたいから、できたら呼んで」
明楽は階段を降りていき、またパソコンに向き合った。クロはその隙に、自分の部屋に戻った。すると、窓にはカラスが待っていた。
「俺の監視を頼む」
カラスにおやつを与えて、どこか羽ばたいて行った。
「エナジー。クロの情報ある?」
エナジーはあらゆる情報機関にハッキングしたが、見つからなかった。
「どう言う事だ…」
明楽も考えた。
「普通の人間ではない。本人に聞いてみるか…」
するとクロがノックをした。
「明楽さん。夕飯の準備ができました」
「わかった」
明楽は階段を登り、テーブルに着いた。
「ビーフシチューです」
出されたビーフシチューは一流レストランに出てもおかしくない盛り付け。付属の丸パンもこんがり焼いてあった。あまりの出来栄えに明楽は驚いた。
「す…すごい…」
ビーフシチューをスプーンですくい、一口食べた。
「うま…え…」
あまりのおいしさに、パクパク食べてしまった。
「クロって…何者?普通の人間じゃないよね」
クロは口角を上げた。
「ええ。私は普通ではありません。ましてや…この世界の人でもありません」
「どういうこと?」
するとクロは空のグラスを手にした。グラスを明楽の前におくと、何かを唱えた。すると、黄金色の液体が湧き上がり、グラスいっぱいになった。
「どうぞ」
明楽は恐る恐るグラスを手にし、口をつけた。
「…これ、シャンパン?」
「はい。初めての出会いなので、お祝いです」
しかし明楽は、さっきのスーパーでシャンパンを買ってはなかった。
「マジック?」
「いいえ。私は魔法使いです」
「え…あっち系の…」
「違います。本当の魔法使いです。私は魔法大学封印学部に在学しています。私の世界は魔法が使える世界です。と言っても、この世界と魔法が使える世界は所々に隠し通路が存在します。明楽さんの家から大学へ行く隠し通路が近いので助かります」
クロはニコッと笑った。
「じゃ…この世界では、クロの存在は無いようなものか」
「そうなりますね。まぁ、この世界で生きたい魔法使いもいます。ただ、この世界で生きる事を選ぶと、魔法が使えないので私はしません」
エナジーが調べても出てこないわけだ。
「ただ…」
クロは考えてた。
「ただ?」
「大学にこの求人があったんです。妙なことじゃないですか?しかも、女のボディーガード」
明楽は少し俯いた。
「実は私も普通じゃ無い。魔法とかは使えないよ。赤ちゃんの頃捨てられて、拾われてアメリカに渡り、殺し屋の技術やスパイの技術を訓練させられたの。で、今に至る。もう、嫌ほど殺し、自分も重症負っての繰り返し。今はとある情報があって、こっちに派遣できたの」
明楽はグラスを傾け、光に当てた。
「一度でいいから、普通の人間らしい生活してみたいわ」
何処か寂しそうな表情だった。その時、明楽のスマホが鳴った。
「もしもし…はい…はい…了解です」
電話を切ると、明楽は支度をした。すると、明楽のスマホから変な物が映し出された。
「初めまして。クロさん」
クロは驚いた。
「なんだ?これ」
「私はエナジーです。明楽さんのパートナーをしています」
「画面が…喋ってる…」
ふと明楽はクロを見た。
「クロって…もしかしてこう言う電子機器苦手?」
「は…はい。大学でもノートに全てまとめています」
するとエナジーが画面を切り替えた。
「明楽さん。クロさん。もうすぐ車が到着します」
「クロ。あなた、戦闘の経験者でしょ?武器の準備して」
「わかりました」
状況が掴めないまま、クロは自分の部屋から特殊な武器を取り出し、腰に装着した。
「明楽さん。クロさん。車が到着しました」
エナジーの呼びかけで玄関を開けると、黒い車が来ていた。
「クロ。あれに乗って。私も乗るから」
二人は後部座席に乗ると、車は発進した。
運転席と助手席から話し声が聞こえたが、英語でしゃべっていた。
「クロ。喋れる?」
明楽はドイツ語で喋った。
「ええ。もちろん」
クロもドイツ語で答えた。
「今からテストになるんだ。クロなら大丈夫。車が止まったら、武器を出していいから」
「私を試そうと?」
「あなたと、私が試される」
車は数十分で目的地に到着し、止まった。運転席と助手席の人が降り、後部座席の扉を開けた。
「ツイタヨ」
そう英語で言うと、ナイフを突き出した。
「タダノリハ、ダメデスヨ」
明楽はニコッと笑うと。
「私、英語喋れます!」
一瞬のうちに銃が放たれ、脳天に命中した。すぐに外に出て、周りを確認した。
「クロ。だいじょう…ぶだね」
クロも三本の刃がついた特殊な武器で相手を刺し持ち上げ、地面に叩きつけた。
変わった武器だな。明楽はそう思った。
「行こう」
二人は入り口に向かい、扉を開けた。すると、奥から何かが飛んできた。クロはとっさに明楽の前に立ち、飛んできた物を武器で受け流していた。
「ありがとう」
「いえいえ」
奥へ進むにつれ、どこから飛んでくるかわからない投げナイフを、クロは華麗にかわしていった。
「クロ…あとでいろいろ聞きたいことあるわ」
すると、明楽めがけてナイフが飛んできたが、クロはそれをへし折った。
「ええ。いつでも」
すると、大きな扉が見えてきた。明楽とクロは扉を開けた。
「明楽。待ってたぞ」
扉の向こうから男が声かけた。明楽とクロは部屋に足を一本踏み入れた瞬間、二人はバク宙をした。ナイフが二人の顔スレスレに飛んできた。二人は同時に着地した。
「体操の団体でたら、いい試合になるんじゃ無いか?」
男は拍手していた。明楽は男に駆け寄った。
「教官。お疲れ様です」
明楽と男はハグをした。
「クロ、紹介するね。私の教官のダニエルだよ」
「君がクロか。随分といい好青年だな。いい動きをしていた。合格だよ」
ダニエルはクロの手をとり、握手した。
「光栄です」
「教官。テストするならもう少し早くに報告ください」
明楽は注意した。
「あぁ、申し訳ない。急遽予定が開いたもんでな」
「今日の呼び出しは、テストと何かあるんですか?」
明楽の問いかけに、ダニエルは書類を明楽に渡した。
「まぁ、今君に頼んでいる仕事で使うであろう武器の在庫書類だ」
「ありがとうございます」
「今日はこれだけだ」
そうダニエルが答えると部屋を出て行った。
「こんなことで呼ばれるんですか?」
クロは不思議に思った。
「そうなの。こんな大掛かり。さ、私たちも帰ろ?」
出入り口の戻ると、さっきとは違うスポーツタイプの車が止まっていた。するとスマホが鳴った。
「明楽さん。クロさん。お疲れ様です」
「クロ。これに乗って」
クロは助手席に乗り、明楽は運転席に座った。
「エナジー。頼む。」
すると車は自動で発信した。
「…どうなってるんですか?」
「エナジーが運転してるの。この車、私が改造したから」
車は一般道に入った。
「クロ」
「どうしました?」
「ごめんね。初日にこんな大変な思いさせて…」
「いえいえ。戦闘は慣れていますし、こう言うのは好きなので。それに、自分の腕も上がります。ありがたいです」
明楽は疑問だった。
「クロの武器、見たことないけど」
「あぁ、これですか?」
クロは片方の三本の刃がついた特殊な武器を出した。
「これは手甲鉤と言います。と言っても、改造していますよ。自分、銃が苦手なんです。何度も練習しても全て綺麗に外すので。これだと至近距離で相手に攻撃ができますし、ぶつかり合う攻撃で弾かれることも少ないので愛用しています」
よく見ると、メリケンサックみたいに、指が通る感じになっていた。
「でも、手入れ大変じゃ?」
「慣れました。この武器を使う宿命です」
クロは手甲鉤をしまった。
「明楽さんも、銃の命中率すごいですね。私にはできません…」
「私もいっぱい練習したんだけどね。センスがあったのかな」
そうこう言ってるうちに、明楽の家に車がついた。一階のガレージに車が入るとシャッターが閉まった。車から出、リビングに二人は向かった。
「何か飲みますか?」
明楽は首を横に振った。
「私はシャワーするわ。クロくんはもう自由時間でいいわ。シャワーしたいなら、終わったら声かけるよ?」
「では…お願いします」
明楽はタオルを持ち、シャワー室に入って行った。クロは自分の部屋に戻り、開いている窓に向かった。
「もう大丈夫だ」
そう呼びかけると、一羽のカラスがクロの腕に止まった。カラスはクロの耳元でクチバシを動かしていた。
「そうか…ふん…」
クロはカラスにおやつをやり、羽ばたいて行った。すると、もう一羽現れクロの腕に止まった。カラスはどこか疲れていた。
「大丈夫か?」
クロの問いに、カラスは不気味な鳴き声をあげた。クロの耳元でクチバシを動かした。
「…ありがとう。いい判断してくれた。まだ追跡中か…」
このカラスにもおやつを与えてた。
「ここで休んでもいい。ただ、フンは外でな」
カラスは窓際で大人しく羽を休めていた。すると、ノックがなった。
「クロ。シャワー空いたよ」
「ありがとうございます」
タオルと着替えを持ち、シャワーを浴びた。
「エナジー」
明楽は部屋のベットで横になっていた。
「どうしましたか?」
「今日は…発作なかった」
明楽は怯えていた。
「今日は平均的に安定していました」
明楽はスマホ画面を見ると、エナジーがだした心電図や血圧等の記録が出ていた。
「エナジー的に、私の寿命はどのくらい?」
エナジーは計算しつつ、言いにくそうに答えた。
「持って数ヶ月…ただ、いつ悪化するかもわからない状況です」
「そうか。今日はもう寝るよ。出勤初日だし、教官にも会ったし」
「わかりました。おやすみなさいませ」
明楽は毛布に潜り込んだ。