16.左
夜中、薬を飲んで熱を収めた睦は外套を羽織って車に乗った。
参界者は、参界者が殺さないと。
参界者を殺すと政府公認の懸賞首になる。それは、生死を問わず必ず捕まえるという政府の意思表示であり同時に、民間人でも殺していいよという合図にもなりうる。
実際それで食いつなぐものたちもいる。
スイハの一人に地区イノンダイの手前まで送ってもらい、街の中に入った。
さすが小雨が指揮してくれてるだけある、街には人っ子一人いないし、代わりに神迎の見回りがある。
組織イノンダイの参界者以外は帝翔と貝寄があらかた片付けてくれたので、睦はそれ殺して、まぁ黒幕野郎がいたらそれも片付けたいが。さっさとしっぽ巻いて逃げている気もするので深追いはしない。
組織イノンダイ、地区イノンダイの根城である街中央の城に入り、中を歩く。
入った初っ端人の死体がゴミのように散らばっているのを見ると、瞬殺だったんだろうな。迎撃故の死体の山っていうのがない。
薬が切れたら死ぬからあんまり識別は使いたくないんだよなぁと思いながらも相まみえないと何も始まらないので、識別で探してそちらに向かった。
目的は大広間にいて、大広間には死体が並べられていた。
全員準幹部以上、案外情に厚いやつなのかもしれない。
「誰だ侵入者」
「最後の残党を殺しに来ました」
「見てわかるでしょ、通夜の最中」
「おしゃべりに来たんじゃないんです」
銃口を向けると、相手は体の向きを変えた。
発砲を避けながら間合いを詰める。
これがあれだろうか、精神操作発動条件。範囲が決められているか触れたら対象になるのか、一回触れたら永遠に対象内か一回ごとに触り直さなければならないのか。
精神操作の間意識が飛ぶようならまずいが、そこはまぁ殺される前に起きるしかないよね。
やっぱり狙うなら弾切れのタイミングよねぇ。
睦はたぶん、身体的的に言えばミヤや陽泰、陽泰よりも上かな。ミヤと同列には動ける。
そもそも殺らないと死ぬ世界にいたので動く他ないのだが、睦は異能の影響や鏡界魔の影響もあって人間のフィジカルは余裕で超えている。俗に言うフィジカルモンスターってやつ。
後ろに下がって、顔面を触られかけたのをふっと避けた。
途端にズンっと脳裏が重痛くなり、こめかみに頭痛が出る。
距離を取って、痛むこめかみを押さえた。
発動条件、これね。
「手掌の中にいる相手の脳……というより、記憶を操るって感じですか」
「そ。自殺志願者には効果てきめんでしょ?」
脳裏に親や友人、こちらに来てからの記憶、研究所での実験、生まれる前の記憶まで、全てがフラッシュバックのように流れる。
が、まぁ、忘れてたわけじゃないし記憶的に封印していたわけでも嫌なわけでもない。
「勘違いしないでいただきたいんですが」
「泣き喚けよ自殺志願者」
「俺は死にたいから死んだわけじゃないし過去にトラウマがあるわけでも自殺したい明確な要因があるわけでもない。俺をメンタル面で行動不能にしたいならそれこそ記憶改ざんか感情操作でもやってみせろ」
「人は記憶でできてんだ、記憶が一切影響しない人間なんているわけがない!」
「生物として狂ってる人間を人間に当てはめるなよ」
おぞましいほどの圧が睦から放たれ、ゾッと背筋が引き裂かれんばかりに悪寒が突き抜けた。
正しく生にも死にも存在しない、概念という概念がないような、そんな化け物の圧。
「モンスターめ……!」
こめかみを撃ち抜き、ようやく終わったと項垂れた。
ほんとに永遠記憶が流れ込んでくるので、相手のせいではあるが自分との戦いだったって感じ。
ふらっと後ろに倒れ、ため息をついた。
駄目だこれ。動けない。
薬を探すが、頭にモヤがかかって、動けなくなった。
ブツっと画面が消えるような感覚で、意識が途絶えた。
目を覚ますと、景矢と目が合った。
景矢は目を丸くすると、ハッと振り返る。
「ミヤ起きた!」
「ミヤ……? ここどこー……?」
「スイハの本館ですよ。あまりにも遅いので恋弥さんたちが迎えに行ったら倒れてて……」
倒れてたって、どこで。迎えに行ったって、どこに。
ミヤの冷たい手に冷やされ癒されながら体調を確認された。
「熱はないが顔のほてりが酷いな。なにか冷やすもの」
「魔法印でいい?」
「なんでも。冷やすか熱吸収」
「……ん、描けた」
額に貼られ、邪魔なので剥がして首筋に貼った。優秀な紙。
まだうつらうつらしながら景矢に心配されていると、部屋に恋弥がやってきた。
「あ、起きた?」
「さっきな。まだ眠いようだが」
仰向けで、顔を横に向け眠りかける睦を見下ろした。
首筋と鎖骨が出てるせいだな、これぞ色男。
写真を撮ってから、陽泰に送った。最近は既読無視されている。
睦の頬をちょんちょんと触ると、睦が目を開けた。
「なに……」
「陽泰が頭抱えてたから謝ってやれ」
「ごめんなさぁい……」
「うぅん、もっかい。録音して送る」
「もっかい寝る」
「起きたときには全員揃ってるだろうよ」
ほんとに次起きたときには皆が揃っていて、帝翔と響皐月が揃って顔を覗き込み真上で頭をぶつけた。
二人が頭を抱えるのに代わって、上に乗っていた茶トラがにゃーと鳴く。
「……眠い。寝すぎた……」
「十一時間ぐらい寝てたぞお前」
「……お前が過眠になってた時よりマシだ」
「俺は関係ねぇだろうが」
睦が起き上がると、響皐月が茶トラを押し退け睦の膝に上がった。
睦は響皐月の痛がる頭を撫でて慰める。帝翔には誰一人として目を向けてないけども。
管理人がベッドに座ると、響皐月に追い払われた茶トラは管理人の背に登って肩に乗った。
「睦君大丈夫? 担当医が記憶混乱がとか言ってたけど」
「担当医じゃないんだが」
「記憶は戻ったので大丈夫です。たぶん眠かっただけですし」
「今は大丈夫?」
「はい」
睦は恋弥に髪ゴムを返してもらうと髪を結び、跳ねている気もする後ろ髪を押さえた。
「……何時?」
「六時。明日は体育祭です」
「……あー……」
他人に合わせて行動しなきゃならんって、ものすごい面倒くさくかつ苦痛があるのだが、親ってこんなもんなんだろうか。
「……ミヤはエリオムさんと面識あるし任せていいよね? イベント初めてみたいだし、枯梨と一緒に見てあげて」
「わかった」
「景矢は陽泰に色々聞いてね」
「睦」
「何?」
「明日任務入った」
陽泰にHgを渡され、睦はそれを確認した。
任務の詳細データ、佚世の過去の説明によれば、たぶん班以下がやるような仕事。
「恋弥行く?」
「いーけど。んじゃ片付けてから帰る」
「一人で行けな」
「陽泰来い!」
すごい音を鳴らして殴られた恋弥は頭を抱えて絶句し、睦は陽泰にHgを返した。




