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Thread of World──世界の糸の物語──  作者: 織優幸灔&夜月夢羽
二章
95/124

12.設立の話

 入口で待っていると、やってきた。




「父様!」

「久しぶりなつ。いい子にしてた?」

「睦さんにたくさん褒めてもらいました」

「いいなぁ!」



 父に駆け寄ると、父は外套(マント)を広げて祉夏(ちなつ)を抱き上げた。



 祉夏は少し照れたように、嬉しそうに笑う。





 ライムも一緒に、三人で十二階に上がると、エレベーターの前では雨々驟が待っていた。




「ようこそ、お久しぶりです律様。こちらへどうぞ」



 雨々驟に案内された部屋に行くと、部屋の床では睦がうつ伏せで倒れ、その上に管理人が座っていた。


 睦は瀕死。




 雨々驟が焦る暇もなく、律は祉夏を下ろしそちらに行くと管理人に回し蹴りをした。


 軽くだったので当然避けられたが、再会数秒即火花が散る。



「何やってんの老害」

「子供の前でぐらいいい大人でいなさい、青二才」

「管理人降りてください……」

「君はもうちょっと反省しなさい」

「俺のせいじゃない……!」

「お前のせいだ」

「助けて……!」



 律が管理人を引きずり下ろしたので、睦はすぐに丸まり腹を抱えた。


 肋、肋死ぬかと、折れたかと思った。内臓潰れてたらどうしよう。やぶ医者しか聞かないのに、また脳之輔に怒られちまう。




「なんで睦君の上に座るわけ? 頭イカれてんの?」

「大切な娘たぶらかされたら父親としてブチギレるのは当たり前だろう?」

「ロッ……」

千綯(せな)さんが襲われたらブチギレるだろう。それと同じ」



 律の殺意のこもった視線が睦に向くと同時に、睦は起き上がって、長い長いグレーのまつ毛越しに律を見上げた。


 その視線は酷く不安に揺れて、微かにうるんで。



「俺なにもしてないんですよ。律さんが会いに来るって聞いて楽しみにしてただけで」

「えーそれほんと? それは嬉しいなぁ!?」

「ほんとにまったく会いに来ないのでいい加減帝翔さんに愚痴ろうかと」

「ごめんねぇ、忙しくってさぁ!」

「知ってます。だからちょっと我慢してました」

「偉いねぇ!」



 律の背中側にいる子供たちは立ち上がった睦の死んだ魚のような目に顔を引きつらせ、しかし律はそんなことも気にせず睦の頭を撫でた。




「……あれ、髪染めてないの?」

「最近必要なくなってきまして」

「まー手間が省ける分にはそれがいいよねぇ。可愛いいねぇ」





 律が睦の頭を撫で、睦がにこにこ笑っていると、部屋に帝翔がやってきた。



 後ろから貝寄も顔を覗かせ、祉夏は少し端に避ける。



「睦くーん、んな奴に撫でられてたら毒が移るよ。こっちおいで」

「久しぶりリッツー!」

「相変わらずうるさいね貝寄。あと相変わらず頭お伽噺か帝翔サン?」

「子供の前でいいのかなぁ!?」

「大丈夫ですよー? 殺人術も仕込んでるんでー!」



 律は帝翔に飛び蹴りし、帝翔がそれを受け流した時、管理人の声が聞こえた。




 律の外套(マント)がガシッと掴まれ、見下ろすと、さっきまで机でお菓子食べてた子供。



「誰?」

「サインください」

「サイン?」

「俰盤ッ……!」

「イケメンのサイン集めるのが趣味なんですって。俺もやりましたよ。俺と同じ場所にサインできるのを光栄に思ってください」

「やったやるやる」



 律はすぐにサインをしてから、その前のページを開いた。

 陽泰、睦、恋弥。



「陽泰君の睦くんが書いたの?」

「普通サインなんてありませんからね」

「陽泰君の署名も見たかったなー」

「筆跡真似て悪用するでしょう?」

「うん! トイト幹部の署名とか使わない手はないからね」



 にしても睦、ほんっとに字綺麗だな。恋弥に関してはローマ字だけど。



「……あれ、もう一人いないじゃん。春雨君」

「小雨さんはいませんでした。管理人が接触させるわけないでしょう」

「だよねー」

「誰? イケメンですか?」

「うん、金の世代はなんか知らんけどスイハ以外皆顔がいいんだよ」



 律が俰盤に手帳を返す時にそんなことを言ったもんだから、帝翔は律の顔面を横蹴りにした。



 貝寄は興味本位でその手帳を見せてもらう。





 帝翔と律の喧嘩に祉夏は不安そうに睦を見上げ、それに気付いた睦は祉夏を抱き上げた。



「お父さんの醜態は忘れてあげてね」

「醜態だなんてそんな……」

「じゃ応援してあげて」

「父様……」




 祉夏が不安そうに律に視線を向けると、下になっていた律は帝翔の首を掴んだ。その時点で管理人が帝翔を蹴り飛ばし、祉夏をライムに預けた睦が帝翔と律の首根っこを掴む。




「金の世代はほんとに佚世さんがいないと成立しませんね。もう少しご自分で制御する力を付けた方がいいと思います」



 そんなことを言いながら睦は二人を引きずっていき、客間はシンと静かになった。



 俰盤は席に戻り、祉夏もライムから降りる。





 三人がいなくなってすぐに、枯梨が景矢を見上げた。



「最近睦さんからよく聞くけど、佚世さんって誰?」

「さぁ? 聞いたことない」

「授業でもたまに出てくるが詳細は教えられたことないな」

「金の世代もイマイチわかんないよねぇ」



 三人の会話に、響皐月が管理人を見上げた。



「管理人、佚世って誰?」

「聞いてないの? 睦君なら自慢してそうだけど」

「まったく。たまに誰かと話してる時に聞こえるかな……ぐらいだよね」

「うん」



 管理人は響皐月を抱き上げると、そこに座って響皐月を膝に座らせた。




「佚世君は睦君が参界したあとの親兼師匠みたいなものだよ」

「睦さんも同じようなことを言っていました。それと、絶対帰ってくる、と」

「帰ってくるよ。彼にとっても睦君は大事な愛弟子だからね。……それに、可愛い子供と一番弟子がこうも苛まれてたら黙ってはいないと思うし」



 そう言って、管理人はソファでタブレットをいじっている恋弥とHgを見ている陽泰に視線を移した。



 その視線に瞬間気付いた恋弥は視線を上げ、管理人を見る。



「なんですか?」

「佚世君の話」

「あぁ。陽泰、佚世の自慢してやれ」

「無理です睦に頼んでください」

「あいつの自慢うぜぇもん」

「口達者が故ですね。恋弥さんも変わりませんからね」

「俺はしてねぇだろうが!」

「……そうですね」



 陽泰の薄い笑みに恋弥がキレて、また陽泰を組み伏せた。


 陽泰の上に座り、タブレットをいじる。

 今朝本部の奴に持ってこさせたの。暇だったから。




「睦さんからそんな話全然聞いたことなかったです。響皐月が何回か聞く場面はあったんですが、そのうちわかるよってばっかりで……」

「……なんでだろうね」



 睦は佚世との関係を隠して保身するような人間じゃない。隠すぐらいなら追われてもいいから佚世の後ろにいたいという子だ。



 子供たちにバレるとなにかまずいと思っているか、ただ話すのが億劫なだけか。


 考えうる中では後者の方が有力、ではあるが。




「帰ってきてからまた聞いてごらん」

「そもそも金の世代がよくわかってないんだが」

「それはねぇ。七から九年前に闇の黄金期と呼ばれた時代に各組織の筆頭を飾ってた人たちだよ」


 政府は小雨(ささめ)千譜結(ちふゆ)

 ピステルは夜光冠(やこうかん)(りつ)

 スイハは霹靂神(はたたがみ)帝翔(ていと)貝寄(かいより)

 そして中立組織廃教会から、名医として探偵として佚世(いっせ)



「佚世君が元々トワイライト出身ってことも相まって、しかも新世代筆頭三人のうち二人がトワイライトだからね。トワイライトは数えられてなかったんだけど。佚世君の暴君の栄誉はトワイライト時代から続いてたからねぇ」

「睦さんは、トワイライト出身の人と一緒にいたんですか……?」

「だからトワイライト所属の恋弥君とも陽泰君とも、スイハともピステルとも分け隔てなく接するんだよ。自分が政府に匿われてる存在っていう意識が低いのも理由の一つとしてはあるかもしれないけどね」



 四人は少々意外だったその話に面くらい、しかしそれを聞いていた祉夏は首を傾げた。



「トワイライトに肩入れするなら何故政府公認の中立組織の社長なんてやっていたんですか?」

「……廃教会として政府とトワイライトを抑えていた佚世君がいなくなった直後、それを知った天獄(てんごく)さんと小雨君が暴挙に出てね」




 詳細はたぶん睦が嫌がるので省くが、結果として五大組織のうち最も勢力の強い二組織が結託、中立組織『秘密結社スレッド』を立ち上げた。



「あまりにも睦君と脳之輔さんの話を否定し続けまともに取り合わないせいで結局睦君は廃教会は消えたと考えてるみたいだけどね。対して二組織は廃教会の代わりとしてスレッドを考えてるから、だから睦君は社長を拒否し続けてたんだよ。廃教会の代理としてスレッドを持つなら佚世君と同列の人材を。全く別組織であれば睦君も多少は我慢したんだろうけどね」



 管理人は響皐月の頬を撫で、管理人のここにはいない睦を哀れむ目に気付いた響皐月は少し不安そうにした。


 景矢も枯梨も、ただ社長を嫌がっているだけかと思っていたミヤも視線を通わせた。



「ねぇ恋弥君、そんな感じだよね」

「まぁ合ってるには合ってますが。小雨に関しては睦の話を頭から否定してほぼ洗脳状態にしたの方が近いですよ。だから睦はスレッド……とまでは行かずとも、スレッドに所属する自分は政府の使い駒だって考えてるわけであって」

「……小雨君そんなことしてたの?」

「だから睦、小雨に言われた依頼は拒否してるとこ見たことねぇだろ」



 恋弥が四人に問いかけると、四人は小さく頷いた。


「俺はあいつがいつか多重人格にならないか心配だよ」

「世界一であろう精神科医がそうなったらいよいよ治療できる人はいなくなるね。脳之輔さんって精神疾患対象内?」

「無理でしょう。睦曰く変人が精神疾患診ても変な病気に断定されるだけだって言ってましたし」

「そういうのって基本カウンセリングって言ってたっけ。カウンセリング……無理だろうなぁ。佚世君もなかなかに変人の部類だし」

「だから唯一正常な睦を皆が頼ってたんですよ。佚世が自殺寸前だった時も睦がどうたらしたらしいですし」

「……睦君すげぇな」

「ま、佚世が帰ってきたら初っ端小雨と喧嘩でもするでしょうよ。俺はおろおろ心配する睦の横で笑って傍観します」

「君もまぁいい性格してる」

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