11.彼女
寝るように借りた客室で、陽泰と恋弥は陽泰のベッドに座ってHgのリストを眺める。
陽泰の彼女演者リスト、仲人は管理人で。
恋弥がやってくれるらしいので陽泰は膝を抱えため息をついた。
「顔と性格のタイプは?」
「そーゆーのいるんですか? 最低限フリしてくれる方なら誰でもいいんですが」
「黙れ答えろ」
「……顔はなんでもいいです。人らしい顔なら。性格はうるさくない人。なるべくインドア派で」
「えーつまんね。歳上とか言っとけよ」
「歳はなんでも……。あでも子供扱いしてくる人は嫌です。これはほんとに絶対条件で」
「むず」
「馬鹿にしてます?」
「お前素が子供っぽいからさー。まぁ育て組に似たんだな」
「あと沈黙で文句言わない人」
「あーそれ大事だ。お前喋んねぇもんな」
毎回一言多い恋弥にイラッときながらも、真面目に選考してくれてるっぽいので任せる。こういうのは真面目にやってくれるってわかってるんだけど、言動がさ、ね。
「……結構人数絞れるな。睦が合いそうな性格言ってたからそれで絞っていい?」
「お願いします」
何故大人になる前からこんなことになってんだろうと思いながら、まぁ恋弥と睦が協力してくれるなら大丈夫かなぁと。
たぶん、今世界の中でもトップレベルに信頼感はある二人だと思う。片方は尊敬に値しないが。
眉を寄せ、候補の顔写真と陽泰を見比べる。
「お前顔面いい上に身長高いからさぁ。彼女の方の自尊心が低いと……」
「ナルシストもメンヘラも嫌です」
「わかってるわ黙っとけ。彼女の自尊心が低いとメンヘラになりかねんしネガティブがお前に移りかねないからわりと重要な参考項目なんだけど。…………この人かなぁ。身長にこだわりない?」
「全然」
ならこの人かなぁ。一番、小心者でおチビな陽泰葉笶君を引っ張っていってくれそうな人。
「……よしとりあえず当たって砕けろだな!」
「砕けては駄目では」
「それはお前次第だ。……ただしこんだけ候補いるんだからせめて睦にぐらいいい人だったとか合わなかったとか伝えろよ。対面じゃなくていいから」
「わかりました……」
「当たる前に無理は禁物だからな!……んじゃ早速予定組むか。お前今、年中暇だろ? 適当に組んどくぞ」
「言い方どうにかなりません!?」
あの野郎最後の最後で言い逃げやがって。
まぁそんなことがあって、いわゆる見合いというか顔合わせ当日。
陽泰の顔が顔だし地位が地位なので個室だが。窓が大きくて明るい雰囲気だし、まぁいいんじゃないだろうか。知らんが。睦がやってくれたんならそうだろう。知らんけど。
これ、とりあえず人柄が合ったとしてエリオムに見せるのはどうするんだろうか。なんか、ボス唆してハメるとかそんなんかな。エリオムが自殺しないといいんだけど。
政府の取り締まりが厳しくなると、動きにくくなるしやったことを後悔してしまう。
欲で己を滅ぼすなというのは、佚世にずっと言われていた言葉だ。
約束の時間ピッタリの頃に、部屋にノックが鳴って扉が開いた。
「遅れてしまって申し訳ありません……」
「いえ、時間ピッタリです」
少し顔が青い気もする、平均より身長が高い女性は陽泰に一度会釈をすると向かいのソファに座った。
「えと……弓釆と申します。今日は会ってくれてありがとうございます」
「陽泰です。こちらこそ唐突な予定に合わせて頂いて助かります」
「いえ……!」
とても大人っぽい見た目の人で二十歳か睦と同じぐらいかと思ったら、喋った雰囲気が睦よりかなり幼い。
緊張もあるんだろうが、いやこれほとんど緊張のせいだな。少し焦りと混乱が見える気がする。
恋弥には黙ってていいよと言われたけど、初対面でこの緊張の中沈黙は駄目かなぁ。
コミニュケーション能力ぐらいなら仕事で鍛えられている。け、ど。
「すみません、失礼なのは承知なんですが、歳を聞いてもいいですか」
「あ、今年十九になりました。今年の初めに学校を卒業できまして」
「一個違いなんですね。すごく大人っぽい雰囲気だったので少し意外です」
「……大人っぽいの、嫌ですか……? 陽泰さんがすごく大人っぽくて冷静な方と聞いて、合わせるというか……子供っぽいのは駄目だなと思って……」
「いえ、本人に合っていればなんでもいいと思います。そういう配慮ができるのも大切ですし、俺何も考えずに来てしまったので」
「こちらこそ、もう、会ってくださっただけで感謝感激で」
なんかすごく腰の低い人だなぁと思いながら、店員が来たので陽泰はコーヒーと弓釆は紅茶とケーキを頼んだ。
「……弓釆さん彼氏とかいないんですか? すごく綺麗でモテそうなのに」
「ちょっと……私、なかなか人と会う機会がなくてですね……」
「たまたま見合いすることになったのが俺って大丈夫ですか……?」
「正直とてもハードル高いです……」
「いや……俺一応トワイライトですし、これも彼女のフリ的なものの話なので……」
「そこは私は全然気にしてないです。うちの家系も、闇医者に通ずる家系なので偏見とか恐怖とかは全然なくて……彼女のフリも、昔から演技が上手いと言われていたのでせっかくだしと両親が話を進める間にあれよあれよと……」
まぁ管理人が仲人になる時点でなんかしらの闇に染まっているとは思っていたけどな。
こういう会話のために睦に一切情報を貰えなかったので会話から聞き出すしかない。
「正直、ものすごい、その、見目麗しい方だったので、会ってみたいというのもなくはなかったと言いますか…………不純ですみません……」
「いえ、顔面を拝みたいという人は慣れました」
「でも会ってみたらすごく優しそうな方で安心しました。話しやすいし、もっと怖い方をイメージしていたので……」
「俺そのイメージを押し退けるような顔してますか」
「人類の至高だと思います」
「自分で言うのもなんですが自分よりイケメンな人を二人知っています」
「わ、私の中では陽泰さんが一番です」
健気だなぁ。
飲み物とケーキがやってきて、弓釆は嬉しそうに頬を緩めた。
上機嫌で食べ始める。
「甘いもの好きなんですか?」
「す、すみません…………私ばっかり……」
「いえ、美味しそうに食べるなぁと思って」
「私スポンジケーキとフルーツが大好きで、そのコンビになったらケーキしかないと思って……!」
「じゃ好きなのはフルーツが乗ったショートケーキですか?」
「もう大好きです……! いちこが乗ったチョコケーキもフルーツが入ったロールケーキとかカップに入ってるショートケーキとか、なんでも好きです」
好きなものの話になると少し雰囲気というか、言葉の発し方が幼くなった。
もしやしなくても睦や恋弥と同じタイプの人かもしれない。
なんならこう言う面のある人の方が接しやすかったりはするけど。
いつの間にか夕方になり、コーヒーカップが空になっていたので気が付いた。
「あもう五時だ……」
「え、あほんとですね。全然そんな感覚なかったんですが……」
「そろそろ出ましょうか。あまり遅くなってもご両親が心配するでしょうし」
「すみません」
「いえいえ、とても楽しかったです」
二人が部屋から出ようと陽泰が扉を開けた時、知っている声が聞こえた。
ハッとして、確認するよりも先に顔を逸らす。
ドッと冷や汗が出て、視線がさまよった。
「ど、どうされました……?」
「……いえ、なんでもありません。行きましょう」
そうだ、スイハ本館の近くのせいでアレがいるのか。普段全く気にしないので頭から抜けていた。危な。
弓釆とも別れは簡素に済ませて、待っていた車に乗り込むと中には睦がいた。
誰もいないと思っていたのでびっくりして、心臓が微かに飛び跳ねる。
「い、いたんだ……」
「やな予感がしたから念のため。……どだった?」
「良かったと思う。いい人だったし、楽しかったし」
「おぉ、いい傾向。沈黙も大丈夫だった?」
「ほとんどなかった。俺が話しかけてたのも多少はあるけど、よく喋る人だったし」
「そういうのに気付けるのはいいねぇ。また何回か会ってみてから決めるっていうのでもいいからね。あんまり焦らないように」
「うん。……相手、家は?」
「場所? ニーハンだから近いよ」
「次はそっちで会った方がいいかもしれない。ヴィールヒっぽいのがいた」
「……あら」
「直接は確認してないけど。危ないし」
「わかった」
ヴィールヒね、佚世のストーカーさん。
まぁ陽泰も二回目会う気でいてくれてるし、いい傾向かな。
この人と付き合う付き合わないにしても、二回目をエリオムに目撃させて上手く運べば簡単に終わるかも。
こっちは順調そうでよかった。




