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Thread of World──世界の糸の物語──  作者: 織優幸灔&夜月夢羽
二章
92/124

9.お勉強

 顔面凶器組(睦・陽泰・恋弥)が同室で眠った翌朝、陽泰が睦が熱を出していることに気が付いた。



 体が熱く、顔色が悪い。





「……睦、睦起きれるか」



 声をかけると、睦がぼんやりと目を覚ました。



 虚ろな目で、生気も人間味もない、正しく死人のその目に捉えられたのが怖くて、思わずベッドから立ち上がり視界から外れた。




 睦は何度か目を瞬いたあと、いつもの優しい目で、不思議そうに陽泰を見上げた。



「どしたん」

「……いや、別に……」

「なんだよ」

「そんなことよりも睦、熱出てるけど」

「熱…………あぁ……」



 熱が出てたから、悪夢なんか見たのか。



「水ある?」

「うん」



 陽泰がコップに注いだ水を渡すと、睦はなんとか体を起こしてそれを飲んだ。


 あぁ気持ち悪い。



「……ありがと。何時?」

「八時過ぎ。恋弥さんは子供たちのとこに降りてったけど」

「陽泰はどうするの?」

「別に、特にやることないし」

「じゃー午後は子供たちと勉強しようか。それまでは相手してあげて」

「あぁ」






 午前中は休んでいるらしいので、陽泰は下に降りた。

  顔のせいか地位のせいか両方か、視線が多い。










 いつの間にか寝落ちていたようで、目を覚ますと、目の前に疓憝(ねうら)が見えた。


 じっと覗き込んできていたのにヒュッと心臓が縮み、そっと布団に隠れる。



「起きた」

「びっくりしてるよ」

「してないよ」

「してるよ。してるから隠れたの」

「二人とも黙って。睦さん体調大丈夫ですか」


 起き上がると疓憝と俰盤(わだか)と、昨日帝翔と一緒にいた男の子がいた。ものすごく大人っぽい子。



「……君、祉夏(ちなつ)君?」

「はい、挨拶が遅れてしまって申し訳ありません。夜光冠(やこうかん)祉夏(ちなつ)です」

「礼儀正しいねぇ……。よしよし」


 頭を撫でると、嬉しかったのか微かに口角が上がった。



「律さん厳しい?」

「いえ、とても優しいです。尊敬の父です」

「よかった」


 子供に醜態見せてなくて。






 どうやら大人たちは昼食中で、昼食を先に食べていた子供たちが見ていてくれたらしい。


 起きたらどこにいても管理人の場所がわかる疓憝が呼びに行く係だ、と。



「俰盤行こう」

「疓憝が行くんじゃないの?」

「一人で行くの?」

「そうじゃないの?」

「わかんない」

「一人でいいじゃん」

「一緒に行こうよ」

「一人で行きなよ」


 二人の会話に睦は苦笑いして、祉夏は意味を成すのかなさないのか意味不明な会話に呆れる。



「もーいい。俺が行きます。場所教えてください」

「わかんない」

「は?」

「わかんないよねぇ」

「知らない」

「疓憝さんがわかるから大人がいなくなったのでは……!?」

「わ、私は行けるけど、場所はわかんないもん……」

「大丈夫だよ、連絡できるから。三人とも待っとこう」



 睦は祉夏を抱き上げると膝に座らせ、少し長い髪を手で梳いた。



「髪伸ばすの?」

「ち、父に、伸ばしなさいと言われて、父も昔長かったと聞いて」

「律さん確かに長かったねぇ。あれ髪切ったことあるのかな。今の俺より長かったよ」



 睦の髪が今胸下腹上ぐらい。律は、たしか腰下ぐらいなかったっけ。最長でそのぐらいだった気がする。



「今から伸ばしたらお父さんが切った歳頃には同じぐらいになると思うよ。おすすめは結べるようになったら毎日強めに結ぶこと」

「父は何故切ってしまったんでしょうか」

「子育てに邪魔だったんじゃない?」

「えッ」

「なんて。さすがに長くなりすぎたからバッサリ切ったんだと思うよ。佚世さんが現れたらまた伸ばすかもねぇ」

「金の世代の一人ですよね? 睦さんは会ったことあるんですか?」

「ん? うん、俺を育ててくれた親兼先生だからね。廃教会って知ってるでしょ」

「トワイライトも政府も抑えてたっていう……」

「俺はそこに拾ってもらったからさ」



 三人が目を丸くすると、睦は首を傾げた。


「聞いたことなかった?」

「父は廃教会のことを話してくれないので……」

「お父さんも全然話さないね」

「聞いたことない。廃教会って何?」

「昔にあった中立組織だよ。スレッドみたいな中立組織だけど、もっと強かったんだって」



 都市伝説や陰謀は好きでも歴史は好きじゃない俰盤が疓憝の説明にふーんと興味なさそうな返事をして、睦を見上げた。


「なんでなくなったの?」

「佚世さんっていう代表者がいなくなったから、皆、まぁ二人だけなんだけど。二人もバラバラになっちゃって」

「なんでいなくなったの?」

「長期の仕事が入ったからだよ。そのうち帰ってくる」

「ほんとに?」

「うん。絶対」

「帰ってきたら会いたい。イケメン?」

「俺より陽泰より。顔面偏差値限界超えてると思う」

「サイン……!」








 四人で盛り上がっていると、部屋にノックが鳴った。直後、扉が開いて陽泰と、陽泰を押し込んで恋弥が入ってくる。



「よー来たぞー!」

「恋弥さんノックッ……!」

「したじゃん。子供たちと戯れて楽しそうでなによりだ。体調は?」

「まぁ熱が上がったぐらい。頭痛はあるけどそんぐらい」

「どうせストレス熱だろ。まだ寝とけよ」



 恋弥は睦の隣にある自分のベッドに座ると、足を組んだ。




 管理人が入ってきて、疓憝と俰盤は管理人に飛びつく。



「おとーさん! 廃教会の話して!」

「お父さん佚世さんの写真見せて!」

「……睦君教えたの?」

「疓憝ちゃんが元々知ってました」

「だッ……」

「二人とも、傷口に触るからこっちおいで」



 睦が呼ぶと、管理人が抱き上げようとしていた二人は一歩離れ、雨々驟に深々と頭を下げてから睦のベッドに飛び乗った。



 祉夏が横にずれ、疓憝が膝に、俰盤が祉夏と反対の横に座る。



「睦さんあったかい」

「熱出てるからねぇ」

「陽泰も入れてもらえよ」

「嫌ですよ。入るべきは恋弥さんです」

「んだよ入るべきはって」

「そういうキャラ担当」



 恋弥が陽泰を引きずり回しに行ったのと交代で、響皐月と景矢がやってきた。


 景矢の首に腕をかけ、ふよふよ飛んでいた響皐月はナイス運動神経で着地すると走って、睦に飛び付いた。



 俰盤が疓憝の頭を抱えたのを、睦が膝の上にいた疓憝を抱き上げ膝立ちになって、響皐月を受け止める。



「むつー!」

「響皐月走れるようになったね」

「そー! 教えてもらったのー!」

「人が多い室内で走ったら駄目だよ。水尋(みつね)さん怪我したでしょ?」

「はーい」



 睦は座り直し、管理人はあからさまにホッとした。



 睦のベッドに座ると、俰盤は疓憝を掴んで管理人の方に逃げていく。




「景矢も調子どう? 体育祭出れそう?」

「頑張れば!」

「まー景矢は魔法でドーピングしてもそれもまた一興みたいなとこはあるよね」

「どーぴんぐ?」

「知らなくていいよ」



 睦は真顔で見てくる祉夏(ちなつ)に手を置き、単語を知らず首を傾げる景矢ににこっと笑った。


 ちなみに睦はドーピング常習犯。別に薬とかやってないし。素の異能(イノウ)だし。




「枯梨と陽泰は大丈夫そう?」

「枯梨はまだヘトヘトで必死です。早歩きはすごいんですけど。陽泰は……まぁ、いいんじゃないですか」

「陽泰運動神経いいもんなぁ。おしッ」

「嫌です」



 睦がケラケラ笑い、熱で変なテンションのせいかそれにツボっていると、部屋にミヤがやってきた。引きずった恋弥を恋弥のベッドに捨て、一生腹抱えている睦を見下ろす。




「……なんで笑ってんの?」

「何かが面白かったみたいで」

「人生楽しそうでいいなぁ」

「馬鹿で笑えないと精神すり減るからさ。二回目死んで元の世界に帰るとか地獄でしょ」

「即死ぬ」

「でしょ〜? まぁ色んな自殺法は試してみたいけどさ」

「自殺オタクか?」

「そんな感じ」



 ツボっていたかと思えばふっと薄笑いで重々しい会話をする睦とミヤに皆が引いていると、恋弥が起き上がった。



「自殺法ってどんなんがあんの? 俺知ってんの三つだけなんだけど。落下、斬首、服毒」

「入水とか首吊りとか窒息とか、ちょっと頭使うのでいけば一酸化炭素中毒とか」

「なんそれ」

「密閉空間で空気が薄くなって窒息する」

「私入水だな。騎士(ナイト)の前で海で死んでやった」

「いいねぇそういう恨みつらみ大事じゃない?」

「溺れた直後地上に放り出されるのは勘弁だが」

「俺もうちょっと知識と余裕あれば服毒で死にたかったなー。死んだのが病院だからさぁ、毒がねぇんよ」

「飛び降りでしょ? いいじゃん、楽しそう」

「エレベーター使えねぇよ?」

「気の持ちようでしょ。遊具感覚でさ」

「睦はどうやって?」

「手首切って首ばっつん」




 管理人と雨々驟は三人以外の子供たちを部屋の外に連れ出し、管理人は部屋の外で危ない会話にならないかチェック、その間に雨々驟が睦の食事を取りに行ってくれた。













 午後は睦が薬を飲んで少し落ち着いたので勉強会。


 最年少八歳組は睦のベッドに置かれた机で睦の向かいで、その他は隣に設置された長椅子に並んで長い机に向かって。




 教師は睦と恋弥。時々恋弥の代わりに陽泰。


 こうなるなら大人組も連れてくりゃよかった。





祉夏(ちなつ)君賢いね。教科書見てわかる人?」

「ある程度はわかります。生物学は苦手なんですが……」

「そっち教えてあげようか? 生物学は一応できるから」


 祉夏は元気に頷くと、教科を変え始めた。


 その間に疓憝と俰盤を見る。



 二人ともすごい集中力で、同じ数学、算数だな。をやるが、進みの速度がまるで違う。


 疓憝はあと見開き一ページで終わるが俰盤はまだ二ページ目。暗算ができないのか、ずっと指折り数えたり筆算をしている。



 集中力がないわけじゃない。どちらかといえば異常と言えるほどで、一言も喋らず周りを気にせずできているが、ただ進みの速度が違うだけ。




 疓憝は計算が得意。俰盤は計算だけできないんだな。


 計算式はわかってるみたいだし、口出すこともないか。疓憝も特に心配なさそうとか思ってたらもう終わりかけだし。




「ん、終わった!」

「じゃ次理科」

「理科嫌い」

「簡単な方法教えてあげよう」

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