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Thread of World──世界の糸の物語──  作者: 織優幸灔&夜月夢羽
二章
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8.作戦

 雨々驟が迎えに来てくれて、スレッドの子供たちを連れスイハに向かう。




「朝から帝翔(ていと)が半狂乱で暴れているので管理人が少々ブチギレまして。今仕事に行ってるんです」

「元気ですねぇ」

「ほんっとに。よくもまぁ発狂なんてできますよね。私声出ません」

「雨々驟さんは卒倒タイプですね」

「はい!」

「元気」



 枯梨がフルーツを切ってくれて、睦は食べたがる茶トラの首根っこを掴む。お前猫だろ。



「……その猫、睦さんの飼い猫ですか? 佚世さんに怒られてるのを何回か見ましたが」

「というか勝手に住み着いてるんです。拾ったのは佚世さんのつもりなんですけどね」

「名前は?」

「ありません」

「付けないんですか?」

「佚世さんは野良猫とかクソ猫とか呼んで脳之輔さんは茶トラとか猫とか呼んで俺が名付けようとしたら睦とか雪とかからかわれたのでもういいやと思って」

「私雪がお気に入りです。実家の飼い猫は雪丸と小雪です」

「白猫ですか」

「半分黒!」

「……由来は聞かないでおきます」



 睦は不思議そうな顔をする響皐月の頭を撫でるべく、鏡越しで煌々とした目で見つめてくる雨々驟から目を逸らした。



 名前で使える文字が雪しかなかったもんで、睦は睦一文字でバレるしその他はセンスどころかよくわからん名前になりかねないし。




「そうだ。今日は恋弥さんと陽泰さんも来るんですよ!」

「あそうなんですか? 仕事は?」

「恋弥さんは終わって陽泰さんは逃げるためだそうです!」

「睨まれてますねぇ……」

「管理人が何人か紹介してあげるって言ってました。何の話かわかります?」



 あー、うん。そりゃあの人にはバレるよね。なんでバレてんだろ。恋弥が口滑らせたかな。



「なんとなく」

「私が心臓発作起こしたら睦さんに診てもらうのが夢です」

「半分ぐらい叶ったと思うんですけどねぇ」









 車でものすごくしばらく走ると、スイハの本館が見えてきた。


 スイハの本部はホテル。元々ホテル会社の御曹司が設立した組織だ。





「お待たせ致しました、着きました」

「ありがとうございます。……響皐月、着いたよ」



 眠っていた響皐月と枯梨を睦と景矢が起こすと、二人は揃ってあくびをした。



 猫は椅子の上で体を伸ばし、尾を振る。





 車から降りて、雨々驟に案内されるままホテルの中に入った。



 外に聞こえるほど騒がしいと思ったら、既に帝翔がエントランスで待っていた。


 その隣に、凄く大人っぽい少年も立っている。




「睦くぅんッ! 睦くん久しぶりだねぇッ! ね〜久しぶり! またイケメンになって!」

「四日ぶりです帝翔さんッ……!」

「帝翔仕事は?」

「終わったよ! 管理人が意地悪してくるからさ! さっさと終わらせたよ!」

「意地悪ではないでしょう。あなたがそういうことして睦さんが困らないようにですよ」

「律だって佚世だってやってるしッ!」

「度がちげぇつってんだ」

「ま、まぁまぁ……俺は大丈夫ですよ」

「すみません、上に行けば管理人がいますので」

「はい……」






 帝翔と一緒に待っていた子供も一緒に客間に行くと、管理人の膝には疓憝(ねうら)俰盤(わだか)が眠っていた。


 片方は折れているので、二人で同じ方に寝転がって、くっ付いて。




「管理人睦くん来たー!」

「黙れ帝翔。うるさいよ」

「……お嬢様たち寝ちゃったの? 睦くん来るの楽しみにしてたのに」

「帝翔が朝から振り回すから疲れたんだよ。ほんっとに」

「ごめんなさい」



 普段通り、黒の面を付けている管理人に睨まれた帝翔はしょぼんとうなだれた。



 結局、帝翔の声で目を覚ました疓憝が起き上がる。



「ん……ねむい……」

「まだ寝てていいよ」

「…………おかーさんは?」

「買い物行ってる。すぐ帰ってくるよ」

「俰盤、起きて」



 二人が目を覚ますと、二人は揃って睦にペコッと会釈した。



「いらっしゃい睦君、スレッドの皆も。こんな状態でごめんね」

「元気に動き回られる方が厄介なので大丈夫です」

「帝翔、貝寄呼んで睦君と話進めて。睦君に迷惑かけるなら降ろすからね」

「気を付けます」

「肝に銘じろ」

「……はい」



 二人がいなくなったので、子供たちは景矢の方に寄った。



「まずどうしようか。睦君から体育祭の練習必死って聞いてるんだけど」

「ミヤ以外誰も走れなくて……」

「俰盤が教えられるね。疓憝も動けないし。……なつ君は私とお父さんの話をしよう」

「父の話ですか?」

「そ。私は君のお父さんが君ぐらいの歳から知ってるからね。君お父さんにそっくりだから」

「本当ですか?」

「うん。色々教えてあげよう」



 目を輝かせた祉夏(ちなつ)を呼び寄せると、子供たちを雨々驟に頼んだ。











 睦は帝翔と貝寄と共に別室に入り、席に座ると貝寄がHgを開いた。



「これ管理人が作った資料」

「ありがとうございます」




 とりあえず、整理しよう。


 相手はイノンダイ、目的は政府の管轄に収めさせること。闇組織なのに政府の管轄に収めさせるってどういうことっていうのは、単純。幹部レベルは取っ捕まえて捕まえるだけスペースの無駄になる下っ端共は政府が要監視対象する。


 トップは幹部二人、秋左雨(あきささめ)氷右霧(ひょうむ)

 秋左雨は参界者で精神操作を行い、氷右霧は神の力で何かしらの『植物』を操る。解毒薬不明、経皮のため棘や汁の可能性が高い。



 管理されている街は到底いい所とは言えないため住民はいつ暴動を起こしてもおかしくない。



 組織イノンダイの規模的に言えばスイハと並ぶが、その個々の実力はあまりにもお粗末。とても勢力があるとは言えない。





 最善は、住民が暴動を起こし大量虐殺が起こる前に全てを終わらせること。また住民と政府を繋げ、地区イノンダイを政府に管理させること。


 必須事項としては、まぁイノンダイの頭とできる限りの要員をスイハに引き渡し管理人に見せることかな。




「作戦どうする?」

「たぶん一気に派手に動いたら、三時間もしないうちに住民たちも暴動を起こします。派手にやるなら全面戦争として先に政府に街を守ってもらって組織イノンダイとです」



 頭を片方殺してもう片方に統率させる方法も考えてはみたが、そうしてしまうとたぶん頭は同じ中で派閥で真っ二つに割れるため動向が不確定になりやすい。スイハに向かうのかスレッドに行くのか政府に行くのか、好戦的なのか復讐目的なのか和解目的なのか、はたまたスイハを潰す気で来るのか。


 よく知らない相手を操るのに、自身が考えうる中でさえ不確定が多い作戦は失敗の元。この作戦は没。



「派手にやるなら?」

「管理人を治療したのはトワイライトであって、管理人は生死、動向を一切世に出していません。さすがに政府は把握していますが、イノンダイはまだでしょう。蝕むならそこからです」



 スイハ管理人が死んだ、または植物状態等、動けない状況と知らせればイノンダイは必ず動く。それは全面戦争であれ市場独占であれ、睨んできていたスイハの最高権力者が消えたのだ。必ず、スイハが再度動き出す前に、次代管理人が出てくる前に動きを見せるだろう。


 善は急げの精神で動けば勢力は今のまま、規模だけ大きくなることになる。そうなれば、外が広がれば内も薄くなる。頭二つをつまんでスイハ管理人が動き出したと言えば、瞬間縮こまるか、やってやると好戦的になるかの二極化する。


 まず好戦的な方を潰す。

 勢力差がなくても個々の実力は雲泥の差、これなら即片付く。



 まぁ別れる比率が不明なのでなんとも言えないが、片派を潰せば残ったもう片派はさらに二つに別れるだろう。保守を決める派と、殺された仲間の敵討ちに臨む派。


 後者を殺す。保守派は逃げるか抜けるか、上手く行けば平伏してくれる。あとは政府に投げれば終わり。



 街にはびこる根ごと抜くので、最も後片付けが楽なやり方。




「まぁあくまでもご参考程度に」

「戦争の場合はわかるけど! 市場独占の場合はどうやって潰すんだ?」

「別に潰す必要ないんです。目的は早々たる規模拡大。軌道に乗った瞬間に不幸に落として仲間割れさせるのが目的ですから」

「こっちの方がスイハも政府に干渉されないしいい気がするなぁ。こっちで動ける?」

「わかりました。微調整してまた共有します」

「お願い。……やっぱ睦くんいたら早いねぇ! いやー楽! 睦くんいっそスイハに入らない!? 佚世も管理人とはめっちゃ仲良いしさ! スレッドよりも君に合ってると思うんだよねぇ」



 考えている最中に、頬杖を突いて勧誘してくる帝翔を横目で見るとふいっと視線を逸らした。


「結構です。金にならない人間に使う時間と労力が無駄なので」

「激高払いだよー?」

「というかたぶんスレッドを抜けたらまずトワイライトに引き抜きをかけられるので。かけられなかった場合はまぁ考えさせていただきます」

「ほんと! またなんでも相談乗るからね」



 にこにこと笑ってそう言ったが、睦は思考の渦に落ちて行ってしまい、帝翔は眉尻を下げあからさまに凹んだ。貝寄は首を傾げてよくわかってなさそう。もうなにがわかってないのかすらわからん。黙ってるのでよし。








 少しして、貝寄が本を読んで帝翔が人員と規模の計算をし、睦が緻密な作戦を練り、沈黙が走る部屋にノックが鳴った。



「失礼します……? 帝都様、お茶を持ってきましたが……」

「置いといて」

「かしこまりました……。失礼いたします」










 刻々と時間だけが過ぎてゆき、帝翔はハッと顔を上げた。


 お茶は完全に冷め、もう日が傾いている。



 睦は未だ考えているし、貝寄は本に集中して周りが見えていないし。




 大変大変と部屋を出て、管理人の部屋にノックをした。



「せんせー」

「いいよ」


 扉を開けると、律の息子である祉夏(ちなつ)はいなくなって、管理人は一人でコーヒーを飲んでいた。いくらノンカフェインと言えど、よくもまぁぶっ倒れて死にかけたあとに飲めるね。カフェインが入ってるかなんて飲んでわかんないでしょうに。




「遅かったね。まとまった?」

「いや、作戦は三十秒ぐらいで決まったんだけどね。睦くんが完全練り始めちゃって俺も人員考えてたらこんな時間になってた」

「お疲れさま。食べる?」

「食べるー」



 管理人はお茶菓子を一つ帝翔に渡し、一人用のソファに座った帝翔はそれを上機嫌に開けた。



「どうなりそう?」

「規模拡大して頭殺して派閥で削るんだって。政府に街守らせて全面戦争でもって言ってたけど、こっちの方がいいでしょ?」

「だね。全部睦くんが考えたの?」

「そー! 聞いたら全部教えてくれた」

「そ……」

「それとねぇ、スレッドやめてトイトから引き抜きが来なかったらうちにおいでって言っといた。激高払いだって言って」

「そっかそっか、上出来だ」



 少しご機嫌になった管理人は薄く笑いながらコーヒーを飲む。




 睦は上に立つべき人間ではない。本人の性格上、それが適していない。


 ただ、政府が、トワイライトが動かすにはあまりにも才と力がありすぎる。

 それこそ、睦は雪として佚世の影を務めるのが彼的にも最も幸福であり安堵できる立場だろう。




 佚世が再度動き出し、睦と接触を図った今、佚世の逆鱗でもある睦を囲わない手はない。


 もうちょっと、かけてみるかなぁ。

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