7.毒 舌
スイハに行く前、一度スレッドに戻った。
自室に帰り、着替えてから事務室に降りる。
「お疲れさまです。響皐月どこ行きました?」
「おかえり。公園にいなかったか」
「どうせ水尋と猫とほっつき歩いてるんだろう」
「なんでミヤはいっつも嫌な言い方するの?」
「元の口調に文句言われても困る。逆に聞くがなんでお前は気が弱い?」
またミヤと景矢が火花を散らしたので、睦は景矢の頭を撫でると落ち着かせる。
「ストレス社会を生き抜くためには必要な技術なんだよ」
「自殺志願者がやってると説得力あるだろう」
「うんでもせめてマイルドにする努力はして」
「考えておこう」
十分ほどすると、一階の入口が開いた音がした。
視下ろすと、水尋が響皐月を抱っこして二階に上がってきた。
「あ……! 響皐月、睦さんいるよ。帰ってきてるよ」
「……馬鹿!」
「響皐月……!」
「ごめんね、次は響皐月も行けるよ」
「こっち来んな! もう帰ってこなくていい!」
「まるで五歳児の癇癪だな」
「五歳児はこんな語彙力ないよ」
睦は大泣きする響皐月を抱き上げると、よしよしと頭を撫でた。
ミヤは顔をしかめて耳を塞ぎ、猫又も嫌だったのか姿を消す。
「ミヤは子供嫌いなの?」
「自分も子供じゃん……」
「他人の発狂する声を聞いて好きと答えるわけがない。ただうるさいだけだ」
そんなことを本人の横を通りながら言ったので響皐月はショックを受けて睦にすがりつき、睦は苦笑いを零した。泣きてぇのはこっちだよ。
「響皐月、明後日スイハの本部に行くんだけど」
「またぁ!?」
「管理人が響皐月も一緒においでって。寂しい思いは嫌だよねって、俺よりわかってくれたからさ」
「……一緒に行くの?」
「俺と水尋どっ……」
「むつぅ!」
「じゃあ一緒に行こう。猫も行けるし」
「行くー!」
「準備しといで。水尋さん、手伝ってあげて」
「は、はい」
響皐月は上機嫌になって走っていき、事務室に戻った。
「睦君疲労が顔に滲み出とるで」
「疲れました。ほんとに新幹線が恋しい」
「あれクソ高ぇやん」
「財力はありますよ」
「頼もしすぎるこの若造」
睦はけらけらと笑い、よく分からない枯梨と景矢は雨豪に翻訳を求めたが、雨豪はもう聞く気もなさそう。
「あそうそう。他の子供たちもおいでって。体育祭の練習できるよって言ってもらえた」
「俺たちもですか? 別に寂しさとか微塵もありませんけど」
「強いなー。まぁおいでよ。管理人の子供たちの相手してあげて」
「わかりました……学校は?」
「休んだらいいんじゃない? 体育祭の練習とかやることないでしょ。勉強は俺が見てあげれるし」
「わかりました」
「枯梨も大丈夫?」
「だ、大丈夫です……!」
ということで大人二人にちょっとの期間任せることになるが、やってやんよと大船に乗ったつもりでと頼もしい言葉を貰えたので。
睦は自分の仕事を瞬間終わらせると、ミヤも誘いに行った。
部屋にノックをして、返事がないのを心配する。
寝てしまったか、イヤホンかなと少し困っていると。突然後ろからか細い声でにゃあと聞こえた。
背筋がビッと伸びて、ハッとして振り返ると、猫又が尾を振った。
「びっくりしたッ……!」
少し挑発するように憎たらしく笑う猫又の頭を撫でていると、部屋の扉が開いた。
ミヤが顔を出す。
「……なんだ」
「ごめんね、寝てた?」
「別に」
「明後日のスイハ景矢と枯梨も行くからミヤもどうかと思って」
「行かない。仕事であれば行くが仕事は睦だけだろう」
「うん。思い切り走れるけど行かないの?」
「行かない」
そう言って扉は閉じられ、猫又はすっと消えた。
ミヤのいつにも増して素っ気ない、いつもの覇気がない様子に少し心配する。
元々勝気で強気、毒舌なのも、素なんだろうな。そのミヤが自殺したんだから相当なことがあったんだろうけど、まぁそれは今は置いといて。
毒には毒かなぁ。
またノックをして、声をかけた。
「ミーヤーちゃん。まーみーやーちゃんあーけーてー」
指が痛くなるぐらい連続でノックをして、しつこく永遠に声をかけていると、扉が開いた。だいぶんご立腹。
「なんの用」
「暇だから語り合おう」
「何を」
「猫」
「悪いな狐派だ」
「狐かー、珍しい。可愛いよね、フェネックぐらいしか見たことないけど」
「アカギツネぐらいあるだろう」
「どんなん?」
「赤毛の最も一般的に知られる狐」
「……赤毛の狐。真っ赤?」
「赤ってか……茶色。柴のもうちょっと濃い版みたいな」
「あー、なんかイメージつくかも」
そう言いながら当たり前のように部屋に入ってくる睦に顔を引きつらせながら、机の本を片付けた。
睦は椅子に座り、唯一の椅子を取られたミヤは立ちっぱ。返せ椅子。
「なんで茶が赤になるわけ?」
「赤毛の個体がいるからだ。パッと見、茶色より赤と言える個体が多いのが特徴だから」
「へぇ。狐可愛いよねぇ。昔山から降りてきたの見たことあるけど」
「いーなー生狐」
喋りながら、部屋の左全面の本棚を見上げる。
本棚が欲しいというので度々買い足していたが、物の見事に本が詰まっている。すご。
物語から参考書から資格本から料理本から図鑑から、何から何まで揃ってる。
「もしや読書家?」
「別に。ほんとに何の用だ……」
「なんで行かないのかなぁと思って」
「ガキの叫び声が嫌いなんだ。私がいたら響皐月も景矢も不機嫌になるだろう」
「まー……人の泣き声聞いてわーいとはなんないよね。自分が泣かせたのであれば話は別としてさ」
「わかってるなら聞くな。私は行かない」
「毒吐かない練習したら?」
「さっき景矢に言ったこと聞こえなかったか」
「口の悪さはわりと直せるよ。俺は完全自己流で他人が使えるかは知らないけど」
「自己流?」
「俺も元はめっちゃ口悪かったからさー。親に直せ直せ言われて、死んでから直した」
「意外だな。英国紳士みたいな見た目しといて」
「日本人なんすわ」
ミヤが直す方法に興味を持ったので教えていると、その途中で部屋にノックが鳴った。
ミヤが開ける前に扉が開き、女神が顔を出す。
「やーやー仲良さそうでッ……!」
ミヤが扉を閉めると女神は顔を強打し、押し返そうとしたので睦は扉を蹴り返した。
「入ってくんな不審者女神通報すんぞ」
「……顔面強打したんだけど」
「頭潰れて死んどけ」
構いすぎてガッツリ嫌われている女神を見上げると、女神はうるっとした目でミヤを見下ろした。その直後、睦に首根っこを捕まれ目を丸くする。
「ミヤ、管理人が会いたいって言ってたしおいで。景矢とは四六時中一緒にいなくていいから」
そう言うと、睦は女神を引きずって消えていった。




