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Thread of World──世界の糸の物語──  作者: 織優幸灔&夜月夢羽
二章
88/124

6.左右

 そう言えば、脳之輔から貰った封筒を忘れていた。




 蝋封すらない誰が開けたのか開けていないのか、手紙を開けながら階段を降りる。



 その衝撃で、段から足を踏み外して八段ぐらい落ちた。





 頭を強打し、そのまま階段下で頭を抱えた。




「痛ったッ……!」


 死んでまう。頭蓋骨割れた。





 すごい音が鳴ったのを自覚したほどなので、スレッドの皆が事務所や下から上がってきて睦に駆け寄った。



「睦君大丈夫か……!?」

「睦さん……!」



 修茶と景矢がそばに膝を突いてくれて、睦は修茶に手を借りながら起き上がった。

 視界がバチバチと弾け、知らぬ間に倒れかけていたようで景矢と修茶に慌てて支えられた。



「脳震盪だな。相当強打したか、お前どっから落ちた」

「一番上……」

「言語障害なし。立てるか」

「平衡感覚消えたかもしれない」

「救急車ぐらいなら呼んでやるが」

「頭腫れてない……?」

「たんこぶはなさそうやけど……」

「あー気持ち悪い……」



 そう言って、睦は慌てる修茶の肩を借りながら無理やり起き上がった。



 握ってしまった手紙を畳み、封筒に戻した。



「……痛った」

「それで済むかよ超人」

「人間じゃない血が流れてんでね。ちょっと休む……」

「働いてもなかったくせに」

「減給」

「パワハラッ!」

「俺は四六時中働いてますー」



 睦のそばに茶トラ猫が寄り、茶トラはふらふらの睦を気遣うように見上げながら階段を上がった。





 ベッドに寝転がり、手紙を読む。



 差出人は、佚世から。




 帰ってきたこと、また別の世界に行かなければいけないこと、今は、まだ会えないこと。この街にはいないこと、諸事情あって数年は会いたくないけど会いたいので頑張るねということ。



 あと恋弥と陽泰にはまだ伝えないでね、と。



 脳之輔に直接預けるのを予定していたから封すらなかったらしい。





 もうすぐ会えるという歓喜と、まだ会えないというもどかしさと、またすぐいなくなるというショックと、でも手紙貰えたことの嬉しさと。



 色々相まって、声にならない声で悶絶していると部屋にノックが鳴った。



「む、睦さん……?」

「どうしたー!?」

「あ、えと、ミヤが一応診察ならしてやる、と……」

「いらなぁい! 元気、超元気!」

「……ミヤ病院! きゅーきゅーしゃ!」

枯梨(からり)大丈夫だよー!? 大丈夫だから! 枯梨!」




















 めっちゃ上機嫌で茶トラを撫でていたある日、脳之輔から連絡が来た。


 管理人の傷が安定して、歩けるようになったよ、と。松葉杖で死にかけてたけど。



 今会ったら佚世のこと隠してるの絶対バレるけど会ってイノンダイの話しないとだし、大丈夫かなぁ。まぁ管理人にバレてもたぶん脳之輔に伝えれば佚世に伝えてくれるだろうし、あでも佚世のHgは恋弥が持ってんのか。返したいものが山ほどあるが全部会ってからじゃないと返せないし、さーどうした。脳之輔に預けたら行ってくれるだろうか。






 上機嫌に笑って猫を撫でて、半分鼻歌を歌っていたせいか、皆からの奇妙なものを見る視線に気付いた。



「……なんです?」

「上機嫌やなー……と……」

「やっぱわかります? 駄目ですよねぇ、駄目だなぁ!」

「睦、どうしたの?」

「なんでもないよ〜」



 久しぶりの水尋(みつね)と遊んでいた響皐月は睦のそばに寄り、睦は響皐月の頭を撫でた。


 響皐月は気になるようで睦に教えてとねだる。


 それを、ミヤは鼻で笑い飛ばした。



「告白でも成功したんだろ」

「ちがーう、もっといいこと」

「……お前まさかついに隠し子が……!?」

「ちげぇもっといい事だっつってんだろ」

「いや知らんがな」

「さて、俺はまた数日間出かけてくるよ」

「え……えぇ! えぇやだ! やぁだ! なんで! 俺も行く!」



 突然響皐月は駄々をこねだし、外套(マント)を持って立ち上がった睦はすがりついてくる響皐月の頭に手を置いた。



「だめ」

「なんで! 帰ってきたばっかじゃん!」

「仕事だからさ。新しい依頼の相談」

「俺もスレッドの一員なの! 俺も行く!」

「だーめ。いい子にしてるんだよ」

「ばかー! 二度と帰ってくるなッ!」








 本拠地の病棟に行くと、管理人の部屋には脳之輔と雨々驟、帝翔、貝寄がいた。



 雨々驟と帝翔は珍しくご機嫌な睦に目を当てられ、脳之輔はぷいっと顔を逸らす。



「ではそろそろ失礼して」

「うん、ありがと」




 睦が代わって椅子に座ると、管理人は貝寄に、発狂寸前で窒息しかけている雨々驟と帝翔を引きずっていってもらった。




「……どうしたの? 珍しくほんとに上機嫌だね」

「やっぱりわかります? ここ数日間ほんっとに絶不調すぎて」

「テンション高いね。君がそんなになるってことは佚世君かな?」

「発狂で耳が張り裂ける可能性が高いので言いませんが」



 現れたってことね。



「……私にも教えてくれてもいいのに」

「恋弥さんと陽泰さんには絶対教えるなって言われて。管理人は口が軽いとでも思われてるんじゃないですか?」

「ショックだなー。……断じて硬いとは言わないけどね」


 特に娘に対しては。聞かれなくても、もうすぐ史上最高のイケメンに会えるよとか言っちゃう。上に立つには最悪の属性。




「まいいけどさ。そんなことよりイノンダイの話受けてもらえるんでしょ。真面目にやんないと帝翔発狂するからね」

「大丈夫ですよ。感情殺す方法はいっぱい知ってます」

「…………佚世君に会ったらまず最初に管理人は悪くないって言うんだよ」



 にこやかに笑う睦に懇願していると、貝寄が戻ってきた。



 後ろからついてきたすんっと無表情に戻っていた雨々驟は口を押さえて即にやけ、元々にやけ顔だった帝翔は入口にしゃがむと頭を抱えた。



「僕は何も見ていない」

「うーんそだね、君は何も見てないよ。……貝寄、メモの準備して」




 睦と貝寄が、管理人を交えてまずイノンダイの概要について話す。



 ユグドラシルが占拠しようとしていた地区、メラン。リオの崖があるところ。


 そこの、左側に位置するのが悪と薬の街、イノンダイ。

 イノンダイという名の地区であり、イノンダイという名の組織が支配するほぼ無法地区である。



 法は頭の幹部二名。生活に人権はなく、全てが組織役持ちの言いなり。逆らおうもんなら即斬首刑。

 その極悪の如くを尽くしたイノンダイは、現在二極化になりつつある。



 今のままを続ける保守派、市場独占で金を集めたい過激派。過激派に関しては、資金が集まり地位が確立され次第戦争でも始めんじゃないかと思ってるけど。




「私が掴んだのはここまで」

「では次はスレッドの耳に入った話を」



 というか、廃教会時代に佚世から教えてもらったこととか患者から教えてもらったこととか、廃教会時代の患者に連絡取って教えてもらったこととかだけど。




 イノンダイの二大巨頭、片方は秋左雨(あきささめ)、片方は氷右霧(ひょうむ)

 んで片方の秋左雨、参界者だと情報が入った。



「小雨君が瞬間食いつきそうだけども」

「参界者と知っているのは極一部の人間だけだそうで。彼を拾った人、育てた人三人、相棒の氷右霧。うち育てた方の一人は死亡済み、一人は行方不明」

「事実三人しかしないのか。……誰から教えてもらったの?」

「一応は、行方不明とされている方から」

「もう怖いよ」

「情報は武器ですよ。……で、その能力がですね」



 それも教えてもらった。

 これを教えたのはこの人で、人の精神と踏み外してはいけない道を教えたのもこの人。



「精神操作だそうです。対処のしようはあるんですが、さすがに生死の問題になると明確な答えは頂けませんでした」

「まぁねぇ……。体に備わってる特殊能力がある世界ってどこ?」

「俺が知る限りでは五つ」



 一つ、妖神(ようしん)。ミヤと修茶がいた世界。精神操作等の『能力名』はないため可能性からは排除。


 二つ、鏡界(キョウカイ)。睦がいた世界。まぁなくもないが、本来人間が持つべき能力なので穴がある。対処可能。


 三つ、参界。ここ。神と呼ばれる、八百万の神の力。帝翔や貝寄、律、佚世もらしいが。陽泰も、それぞれ司るものがある。精神はない。排除。


 四つ、一番可能性があると思っているところ、參支国(さんしごく)。恋弥がいた、唯一『能力名』が『能力名』として存在する世界。精神操作とまではいかずとも、精神干渉、撹乱、幻覚等有り得る世界。



 五つ、名称不明。響皐月がいた世界。

 ここも八百万の神と似た神はいるそうだが、それは本当に世界の理を作る神の力であり力の所有者が神、女神と崇められているだけ。世界の理に関係ない生物の精神に干渉する方法は、魔法以外ない。排除。




「……とまぁ、こんな感じ」

「恋弥君に聞いてみようか。なんか知ってるかな」

「どうでしょう……」




 睦が恋弥を呼ぶと、恋弥は三分ぐらいで登場した。手網を引いていた陽泰はげっそりしている。



「来たぞー」

「失礼します……!」

「お久しぶりです管理人。お見舞い兼仕事しに来ました」

「来るの早いねぇ」

「八階だったので階段短かったです」

「……階段?」

「トラウマでエレベーターが使えないんです。どうしても浮遊感だけは駄目で」

「大変だな……」

「陽泰、休んでていいよ」

「死ぬッ……!」



 酸欠と脱水で本当に死にかけている陽泰に水を渡すと、陽泰はそれをぐいっと飲んだ。ま、雨々驟が倒れたけどほっとこう。



「で、何?」

「恋弥さんの世界の能力に関する話を聞きたくて」

「あー精神操作の話?」



 恋弥は管理人に許可を貰ってベッドの端に座ると、足を組んだ。この子ら足ほっそ。





「俺が知ってる中で一人それ使える天才がいたけど。その人は精神操作じゃなくて異才(カース)、能力そのものが精神ってジャンルだったから」

「ジャンル使えるって最強ですね」

「ガチ最強の人だった。クソイケメンだし声いいしすんげぇ顔いいし身分高いし頭いいし性格いいし顔いいし頭いいし」

「佚世さんとどっちが?」

「……俺あいつがイケメンって意識がないんよ。兄貴も親もイケメンとは思わないじゃん。その部類」

「まぁ自我が芽生える前の十歳からでしたらそんなもんですかねぇ。たぶん今写真とか見たら目溶けますよ」

「別に面食いじゃねぇよ」




 まぁジャンルを操るなんて天才そうそういないだろうし、何かしら抜け穴はあるかな。睦も調子を戻したら視れるし。



「じゃ、もいいですよ」

「雑! 人の扱いが! 雑いッ!」

「えお前が言います?」

「俺は愛ある鞭だから」

「それ虐待って言うんですよ」

「虐待がない家の方がないだろ」

「世迷言の迷言ですね。さっさと帰れ」

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