表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Thread of World──世界の糸の物語──  作者: 織優幸灔&夜月夢羽
二章
87/124

5.父でありたい

 ベッドのわきに座り、死んだように眠る管理人を視下ろした。




 だいぶんカフェインも抜けて体調も良くなっていそう。



 これ睦の方が悪くなる。駄目だなぁ。知らない人視たら、こっちが死にかける。







 目を押さえて、頭を空っぽにしようと頑張っていると、ベッドが少し動いた。


 まだ『識別(シキベツ)』閉じ切ってないのに。




「起きましたか」

「……どうしたの」

「目が痛いです」

「痛いのはこっちだよ」

「脳之輔さんが治療してくれたのですぐに治ると思います。カフェインは一応薄まってはいると思いますので」

「……面ある?」

「抜かりない」



 睦が棚に置いてあったそれを渡すと、管理人は酸素マスクを外し起き上がってそれを顔に当てた。


 紐でくくっているわけでもなし、すぐにくっ付く。



「それ片目見えないんでしょう。怪我しないでくださいね」

「気を付けてるよ。……睦君の目ってもしや外観もわかったりする?」

「視てませんよ、戦争に発展しかねないので」

「よかった。君を幽閉したくはない」

「あー怖い。怖い怖い」

「大丈夫? テンションおかしいよ」

「深夜ですから」

「まだギリ夕方じゃない?」


 自覚してます。




 睦は目を押さえて顔を横に振ると、一度目を開けてみた。



 ちょっと、マシになったかな。




「……どこに襲われたかわかります?」

「わかったら君協力してくれる?」

「……依頼とあらば」

「イノンダイだけなんだよ、これ(弱点)知ってるの」

「やっぱり……」

「もしや推測済み?」

「いえまったく。ただバレたのは管理人になる前で動いてるのはイノンダイかもしれないなぁ……程度で」

「すごい全部当ててくる」



 睦はわりと元気そうな管理人と話しながら、血圧と脈、酸素濃度と水分も確認した。




「……ちょっと脱水気味ですね」

「水ちょうだい喉乾いた」

「冷たいのでいいですか」

「なんでもいいよ」



 睦が冷蔵庫に入っていたのを渡すと、管理人はそれをグイッと飲んだ。




 ペットボトルと酷似した容器なので勝手にペットボトルと呼んでいるが。ゴミに出したら完全リサイクルになる容器の水を飲み干すと、空の容器を机に置いた。500mlだったはずなんだけども。



「もう一本いります?」

「いらない」

「ちなみに一時間に1L以上飲むと水中毒になる恐れがあるとか」

「なにそれー」

「水の吸収が間に合わずに死ぬんです」

「それ知って勧めたの〜」

「いや飲んでもらわないと困る程度には重症だったので」

「……助かりましたよ」

「なんですかその不服そうな」

「別に」



 睦は冷蔵庫を閉めると、脈に狂いがないかを確認した。



「……不整脈も収まりましたね。ほんとに」

「助かったよ」

「子供にトラウマ植え付ける達人ですね」



 管理人が倒れたので、睦は機械を片付けた。



 恋弥に連絡し、家族を連れてくるよう頼む。




 発熱と発汗、体調の諸々も調べ、カルテに記入していると、部屋にノックが鳴った。

 返事をする前に扉が開き、疓憝と俰盤が飛び込んでくる。




「お父さんッ!」



 二人で声を揃え、起き上がった管理人に飛び付いて管理人を押し倒した。



 奥さんも管理人に駆け寄り、睦は席から外れる。




「管理人どう?」

「だいぶん安定してるし明日の朝にはカフェインも抜けるだろうし、大丈夫だと、思われる」

「なんその不確定さは」

「だって何も知らないし」

「……ま、大丈夫だろ。お前がミスするとかないだろうし」

「そう願うよ」



 睦が連れてきてくれた恋弥と話していると、突然管理人が奥さんに叩かれた。ベシベシと叩かれ、管理人は頭を抱える。




「…………夫婦ってこういうもんだっけ?」

「違う。断じて違う。ただ何故か俺の周りの半数以上の夫婦はこうである」

「お前のせいだな」

「ちげぇ……!」



 極端な結論を出す恋弥に怒っていると、脳之輔がやってきた。


 どうやら陽泰が呼びに行ってくれていたようで、陽泰もやってくる。




「お待たせ」

「一応バイタル安定してます。嚥下障害等もなさそうです」

「よかった。濃度下がった?」

「着実に。水を飲んだので明日の朝か夜には抜けると思います」

「了解。……任せていい? 患者が溢れて死にそうなんだ」

「じゃあ俺は管理人担当で」

「ちぇ」



 言葉のあやで応急処置を睦に任せんとしていた脳之輔は睦を恨めしそうに睨みながら去っていき、睦は脳之輔を煽るように爽やかな笑顔で手をひらひらと振った。






「睦さん、お父さんっていつ退院できるの?」

「えーとねぇ」



 睦は部屋の中に戻ると、寄ってきた俰盤の頭に手を置きながらカルテを見下ろした。


「特に他の問題もないし、明日の夜には退院できるんだよ。本来はね」

「本来は?」

「見るかい」


 俰盤にカルテを渡すと、俰盤と疓憝はそれを見下ろした。



「バツの場所が穴空いてるとこね」

「……三箇所?」

「そ。左肩と右腹部、腎臓と腸とか貫通してね。右大腿にも穴空いて神経切れてなかったのが奇跡なの。骨はヒビいってたけど」

「……お父さん死ぬ?」

「死んだら世界滅ぶからねぇ。死なないけど。もうしばらく安静かな」

「どのくらい?」

「二週間ぐらいだよ」

「体育祭来れる?」

「大丈夫大丈夫。多少早くても安静にするなら退院はできるからね」



 俰盤はほっとして、管理人もあからさまにほっとした。なんか前科がありそう。




「ま、医者の言う通りにしてれば死ぬことはありませんよ」

「ねー怖いこと言わないで? 私結構世界の要だよ?」

「俺から見ればただの重傷患者ですので〜」

「頼りにしてますよ先生」

「主治医は脳之輔さんですよ。俺一応精神科医なんで」

「え!? 外科手術するのに!? 精神科医なの!?」



 素で驚いたような声をする管理人に目を丸くし、肩を竦めた。



「外科医が精神病患者のそばにいるわけないでしょう。それは一応副業ってことで」

「ずいぶん煩雑な副業だな……」

「うるさいですね口縫いますよ」


 やっぱ外科医じゃん闇医者じゃん。




 管理人は口を押さえると、そっと顔を逸らした。


 陽泰はぼけっとして、自分が精神病患者扱いされたことに気付いていない恋弥を見た。睨まれたけど。




 管理人はすごく圧をかけてくる睦を無視して、顔色の悪い妻をベッドに座らせた。


 腕も怪我しているし、最悪。



「大丈夫ですか」

「貧血?」

「そうかも……」

「どうぞベッドに寝転がってもらって」


 夫婦揃ってカフェインが駄目なんだな。



 睦が水を首元に置くと、奥さんはそれを受け取って頬に当てた。


 首や反対の頬に当て、体を冷ます。



「……やっぱ睦君外科か内科になった方がいいよ」

「天才がいるとわかっているジャンルを専門にすることはありませんよ。やっても意味ないですし」

「悲観的だなぁ。十分天才的じゃない?」

「一つの病院に天才的な外科医が三人もいても困るでしょう。案外いるんですよ? 精神患者」

「へぇ」

「主に死にかけた恐怖と四肢がなくなったことによる精神崩壊と仕事の鬱」

「……うちに住み込む?」

「小雨さんが患者になりますね」















 家族が帰り、管理人が眠りに付いたので睦もそろそろ戻ろうと立ち上がる。


 このまま引き継いでも問題ないよなとカルテだけ確認していると、突然管理人が喋り出した。



「スレッドに帰るの?」

「びっくりしたッ……! 寝といてくださいよッ……!」

「相変わらず小心者だね。そんなにビビるかな普通」

「ビビりますよこの真っ暗闇の中死人が喋ったらッ!」

「うるせぇ声量抑えろ勝手に殺すなお前医者だろ」

「目閉じてたら口がよく回りますね」

「次は背中に保冷剤入れるよ」

「やめてください死んでしまいます」



 椅子に座り直し、カルテを置くと、管理人は寝返りを打ってうつ伏せになったかと思うと上半身を引きずり、だるまになった。


 この人案外寝相悪い。



「スレッドの睦になるなら今から一個依頼しようかな」

「スイハからの依頼は度によりますけどねぇ」

「私が留守の間に帝翔(ていと)貝寄(かいより)とともにイノンダイを潰してよ」

「へぇ」



 ちょっと意外な睦がそんな声を出したもんだから、管理人は不満そうな顔のまま起き上がった。

 左の目を押さえ、膝を立てる。



「何」

「ご自身で復讐はいいんですか?」

「言ったでしょ。娘の前では父親でいたいの。嫁を傷付けたのも娘に手出そうとしたのも部下巻き込んだのも一般人に被害出したのも許す気はないけど、何より家族の前では父親でいたいからね」


 相当恨んでらっしゃる。




 睦が首を傾げると、管理人はまだ何かあるのかとでも言うように睦を睨んだ。



 何故帝翔に任せないのか、次期管理人を育てる気はないのか問いたかったが、何となく空気を読んで黙った。


 イノンダイ潰すのね。



「頭がいないんでしたね」

「今はね」

「幹部二大巨頭ですか」



 一人殺して一人に全員の忠誠が行ったところでもう一人殺して、こちらへ向く敵意を上手く政府に投げてみようかな。


 あの人ならたぶんこういう時は下町使って落とすと同時に政府と住民の絆を確固たるものにするんだけど、難しい気するなぁ。睦にそれだけの話術と群衆を操る腕はない。




「……まぁ考えておきます。政府が駄目と判断したら無理ですので」

「なんとか説得してみてねぇ」

「そうなったらまた連絡します。ではおやすみなさい」

「おやすみ」

「夜中の間に点滴の線抜いたら鎖持ってきますからね。おやすみなさい」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ