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Thread of World──世界の糸の物語──  作者: 織優幸灔&夜月夢羽
二章
83/124

1.恋とか

 (むつ)は大きくあくびをこぼした。



 机にへばりついている景矢(けいや)と、部屋から出てきていない枯梨(からり)と。

 この三人は最近お疲れ気味だ。





 というのも、体育祭が近付いている。

 ただ、景矢には魔法があるし、枯梨は自殺後の八年間はほとんど走っていないような生活だったので、二人とも体力はないし筋力もないし、走り方さえわかっていない。


 だから睦とミヤで教えることになった。



 睦は昼は子供たちの練習、夜は仕事、朝はどこかに出かけて、一番忙しい日々を送っている。


 同じく教えているはずのミヤは夜の仕事がないので平然としているが、睦は必死瀕死。





「睦君大丈夫か? 寝た方がええんや……」

「大丈夫です。体は頑丈な方なので」

「それあかんっ! 駄目なやつや!」

「若いんでいけます」

「三十路になってから後悔するでッ!」

「わー説得力が」




 修茶(しゅうさ)に頭を潰されそうな睦が謝り倒していると、一階の扉が開く音がした。


 最近は子供たちがこんな様子で、主戦力()も死にかけているので店閉めているんだけど。




 誰が来たのか確認した睦は立ち上がると、下に降りた。






「お疲れ様です春雨さん」

小雨(ささめ)ですいい加減口切り裂きますよ」

「まぁまぁ」

「元気が出てきたようでよかったです。くますごいですけど」

「今ねぇ」



 小間(ブース)に入りがてら、睦は小雨に今の生活を説明した。





「とにかく必死で」

「運動能力についてはこちらでどうにかできますよ。社員である学生の問題ですし、養成校の理事としても」

「死ぬほど助かります」

「睦さんはとにかく休んでくださいね」

「はい……!」



 睦は顔面を押さえ、あくびをしてから、少し心配そうにする小雨を見てハッとした。



「そういえばなんの御用で?」

「あ、いや、こんな状況なのであればまた後日でも」

「とりあえず用件だけ」

「一ヶ月ほど前に睦さんがパーティーで見付けてくれた参界者の方の容態が落ち着きまして、精神的にかなり弱ってはいるものの混乱も収まって今は政府にいます」

「はい」

「それで先日、世界の話を聞いてきました」



 そう言って、小雨は睦にメモ帳を差し出した。



「参界者が書いたものです。……そこ、睦さんがいた世界と同じではありませんか?」





 鏡界魔(キョウカイマ)がいた世界で、鏡界魔がいなくなった年に。

 睦が死んだ、十六年後の世界から来た人。




「……たしかに同じですね」

「やはり。……用はその確認だけです」

「え」

「ありがとうございました。また動きがあれば連絡しますね」



 そう言って、小雨はメモ帳を睦の手から抜き取ると颯爽と消えた。




 これなら、電話でいいじゃん。



 まぁ他に用事もあったんだろうけど、睦の体調がよくないのを考慮して帰ったんだろうな。にしても素早すぎるけど。




 睦は立ち上がると、事務所に戻った。




「すみません、今日はもう下がります」

「おーそうしろそうしろ。四十路になってから死ぬから」

「おつかれ」








 睦が出ていくと、机に伏せたままHg(ホログラム)を見ていた景矢が体を起こした。


 心配そうに、睦を見送る。



「なんか元気ありませんでしたね」

「小雨サンがなんか言ったんじゃないか。睦は内心でブチギレるタイプだろ」

「苛立ってる感じじゃなかったよあと失礼。めっちゃ失礼。小雨さんそんなこと言う人じゃない」

「じゃあ何故?」

「……喧嘩して凹んでる?」

「そうなるだろう」



 景矢は腕を組んで頭を捻り、さして気にならなかったミヤは特に気にすることなく仕事を続けた。












 お昼もすぎた夕方頃、上から睦の発狂する声が聞こえた。



 睦の席に座って猫又と遊んでいた響皐月と、部屋から出てきて普通に仕事中だった枯梨はビクッと震え、皆が上を見上げた。




 景矢が心配して事務室を出ると同時に睦が降りてきて、その手には最近睦に付きまとっているあの女神。



「睦さん、大丈夫ですか……?」

「うん平気」

「たすけてー」

「景矢、これに話しかけられても答えちゃ駄目だよ。皆にも言い聞かせといて」

「は、はい……」



 背を掴まれ、引きずられている女神は景矢に視線で訴え、それに気付いた景矢が睦を見ると睦はその女神の顔面を蹴り飛ばした。






 睦が殴って蹴って、女神が頭を抱えていると、誰かが下から上がってきた。



「おぉい。……あ、誰だそいつ?」

「ストーカー」

「神迎に渡せよ参界者」

「この人も参界者っぽいので。自分がどこから来たか話さないからなんも言えないけど。参界者とは違う現れ方でしたし」

「……ふーん?」



 上がってきた恋弥が女神の方に回り込んで顔を覗き込むと、目が合った。



 グレーの目を瞬いた女神は麗しい顔でにこやかに笑う。



「スーランの弟か!」



 恋弥が仰向けになっていた女神の顔面を横から蹴り飛ばして、蹴り飛ばしてからハッとした。




「あ、やべ」

「大丈夫。一発やったぐらいじゃ気付かれない」

「じゃいいや」



 恋弥はにこやかに笑い返すと、女神のそばにしゃがんだ。



 女神は顔を押さえ、少しうずくまる。



「……痛いな」

「次は頭ブチ抜くぞ」










 睦は恋弥を部屋に案内し、恋弥は遠慮の欠片もなく睦のベッドに座った。



「あー疲れた!」

「Hgでいいのに」


 話があるとだけ言われて突撃された睦は恋弥を見下ろし、恋弥は顔を逸らすと、少し目を伏せた。



「ボスがさー、陽泰(ようたい)と喧嘩しかけててさー」

「陽泰さんと!?」


 あぶね、持ってたお茶落とすところだった。



「んーあいつはそんなつもり毛頭ないだろうしだいぶんビビってんだけど。ほら、エリオム様にいよいよ執着し始めて」

「……あの女神差し出すか〜」

「いいんじゃね」

「適当に美人を探してるんですけどね、いないんですよ。彼女以上は」

「びっくりだよな素顔であれって」

「ね〜。まー似てるのでミヤかなぁと」

「やめろ小雨が発狂する」

「いや小雨さんがいなくてもやりませんけど。トライトに無害かつ美人で痩せ型、低身長。比較的従順、歳は八歳以上二十六以下となると」

「……厳しッ! あの女無理じゃん! 絶対ボスより高いし」



 恋弥は床に足を投げ出したままベッドに寝転がり、睦は自分の身長を目安に、天獄(てんごく)の身長を考える。



 170前後、5はないよなぁ。


 に対して、あの女神は180以上、たぶん睦と同じぐらいある。ヒールがめっちゃ高いのであれだが、にしても脱がせても175前後。並んだら駄目なんだっけか。




「……天獄さんって恋弥さんより身長高いですか」

「低い! 俺の方が高い!」


 嘘だな。恋弥が16、8か。

 てことは靴履いて173か2か。あの人巻き肩だから余計小さく見えるんだな。




「……むっず」

「いっそそこらの孤児整形させるか」

「金がかかりすぎますね却下」

「お前が女装するとか」

「身長で無理却下。それならエリオムさんと陽泰さん取っ替えたら陽泰さんの方が偏差値的には上ですよ」

「身長で無理だろッ!」

「俺も無理ですよ」



 恋弥が叫んで暴れ、睦がうるせぇなぁと思いながらお茶を飲んでいると、恋弥が体を起こした。



「いっそボスの部屋に大量の写真貼ってさぁ」

「えやだぁ」

「お前の話じゃねぇよ」

「絶対写真の収集癖できますよ。俺絶対撮られる」

「いいじゃん別に。女の子たちに撮られたら喜ぶくせに」

「喜んではねぇ断じてねぇ。推しと捕食対象は違いますし」







 二人で頭を捻り、悩んで、恋弥は早々にショートした。



 睦も睡眠不足も相まって机に突っ伏し、二人で呻く。




 そもそもエリオムを監視から外すのは陽泰との正面衝突を避けるためだろ。陽泰はエリオムのことまだなんとも思ってないだろうし、そもそも臆病で小心者なのでボスとの正面衝突はないだろうし。

 やる気だったとしても操ればなんの問題もないのでは。




「よし! 陽泰さんをどうにかしよう!」

「おー、じゃあ頼んだ」

「おぉい!」

「うるせぇな。俺はボスの方引っ張る」

「……面倒くさっ。じゃあそういうことで」

「お前今本音出たなぁ!? おい面倒臭いつったな!」

「うるさいですね言ってませんよ空耳です歳なんじゃないですか三十路」

「うるっせぇなってねぇよ青二才! 隠すために早口になってんじゃねぇ!」

「誤魔化すために馬鹿でかい声出さないでください」

「お前がいらんこと言うからだろうがッ!」

「はーい黙りましょうねぇおチビちゃん」

「黙れ腐れドクズゥッ!」





 恋弥を部屋から押し出すと、店から叩き出した。



 もー眠い。なんでただでさえ危険になった体育祭前にこんな想定外が重なるんだ。



 新参界者、トライトボスと幹部の衝突、それにプラスでエリオム(参界者)の保護。管理人の娘たちのこともあるし、(りつ)さんのこともあるし。



 あー精神擦り切れる。

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