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Thread of World──世界の糸の物語──  作者: 織優幸灔&夜月夢羽
番外編─佚世の行方─
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佚世.9

 下が騒がしくなり、佚世の額に青筋が立つ。



 ()()()を外すと、顔を上げた。



「痛みは? ちょっと落ち着いた?」

「少し」

「日が暮れる頃には薬が切れるから傷も治り始めるよ」




 悪魔の手術は特殊な器具で、その再生能力により傷跡が火傷跡のようにただれることがあるそう。

 佚世はそれを懸念し、ノエルから再生阻害の薬を買った。払ったのはヴァイオレットで相当吹っかけたのかまた喧嘩してたけど。



 切創と熱傷では治り方がまるで違う。





「あいつらは何騒いんでんだ……」











 佚世が階段の方に行くと、階段からはその光景がよく見えた。


 新しく増えたオスのガキとヴァイオレットが押し問答している。




「ちょっと。うるさいんですけど」



 佚世が張った声でそう言えと、皆がハッとこちらを見上げた。



「誰? 来客変わったの? どうでもいいけど声抑えてうるさい診察してんの考えろ馬鹿」



 一通り言い放った佚世が戻ろうとすると、突然片腕を引っ張られた。




 そのまま階段から落下しかけるのを、引っ張った奴は落ちていく。佚世は、空中に手を突くとバク転で難を逃れた。



「あぶっないッ!」

「浮いた……!?」

「それやったあとに言います」

「できたからいいけど! 怪我したらどうしてくれんの!?」

「あなた怪我するんですか?」

「さぁ。でも結界で魔法の効果が薄れる可能性はある。私ここの医者微塵も信用しないことにしたから」

「嫌な宣言を……」




 佚世はヴァイオレットと話している最中に、ふっと足元を消して床に着地した。


 ミシェルとエリックは唖然として、佚世は微かに痺れる足を振った。

 やっぱりこの世界じゃ印は使うもんじゃない。別種の魔力に引っ張られて誤発か、使えても効果が弱くなってしまう。



 成長魔法、やめた方がいいかな。




「何の用だいチビ」

「今のあなたが言います」

「ルアそれ黙らせて」

「お前がルーネア治した医者か!?」

「そうだけど?」

「うちに来て……!」


 すっ転んだまま叫ぶ子供の話に、顔をしかめた。


「断る。もう予約は満杯なんだ」

「誰!? 病室や道具、薬は全部こっちで用意できる! だから予約全部終わったあとにこっちに!」

「こっちってどっち」

「学院に! 最年少二歳から最高十九歳まで学べる学校に!」

「あいにく学校は卒業する歳で」

「医者としてッ!」

「声抑えてねー」



 佚世が無視して戻ろうとすると、その子供は佚世の腕を掴んで引っ張った。



 肩が抜けると思った佚世は強く抵抗できず。



「たのむー!」

「メリットとデメリットをプレゼンしたまえ」

「私がやりましょうか」



 ノエルがやってきて、その子供を抱き上げた。


 子供はノエルにキラッキラの目を向け、ノエルは玄関に向かう。



「メリットとしては設備の充実と患者には困らないでしょう。最高レベルの人材と資料もあります」

「うん」

「デメリットとしては全部ここで揃いますし帰れなくなりますよ、あなたの言う元いた世界に」

「断固拒否ッ!」



 ノエルはその子供を外に下ろすと、そっと扉を閉めた。鍵をかければ、ガチャガチャガンガン扉を開けようともがいても無理。


 わりと、魔法の鍵は対処されることが多いが転移魔法が使えない限り、物理で抵抗された場合はお手上げの者が多い。ここは結界内で転移の天才でさえ突破できない結界が張ってありますので。




 部屋に戻ると、佚世は診察を再開した。








「特に問題はなさそうだけど」


 佚世は聴診器を首にかけると、点滴を移動させた。



「魔力が不安定な気すんだよねぇ」

「というか、吸収する翼なくなったのに魔力大丈夫か?」

「君の場合翼に吸われすぎて魔力が永遠に増えてたけど、翼がなくなれば無理な消費がなくなるから魔力面では楽になると思うよ。魔力供給が慣れるまでは定期的に魔力使う必要があるけど」



 佚世は点滴をアーネストの肩の後ろに刺し、抜けないようにテープで留めた。



「動かないように」

「痛い……」

「我慢しろ」



 とことん痛みに弱いらしいアーネストはしかめっ面になったが、佚世が二の腕をつねるとそっちに怒って元気になった。




「あぁそれと。常保湿しないと皮膚乾燥したら割れるからね」

「……われ?」

「壊死したところギリ無理やり引っ張って閉じてるから乾燥したら裂けるよっていう。内ももから取ってもよかったけどいけそうだったし痛いの多いの嫌かなと思って!」

「割れる方が嫌なんだが……!?」

「保湿頑張りなさい」



 怒る元気が出てきたアーネストを見ると、肩に大きなブランケットをかけてから天蓋を開けた。




「特に問題なさそうだよー」

「よかった……!」

「にぃー!」

「ほんと一流だねぇ」

「おぉおかえり」



 佚世は戻ってきたルーメルウスを見上げると、聴診器を机に置いた。




「ルナちゃん、毎日絶えずこれ塗ってあげてね」

「ういっす!」

「あーあ変な返事覚えた」



 アーネストは膝に乗ったルナの頬を挟み、ルナはにししと笑った。




 兄妹が微笑ましいのは置いといて、佚世は天蓋を閉めると椅子に座った。



 ルーメルウスとノエルになにかの紙を渡す。




「……あぁ」

「だめだねぇ……」

「なんですか?」

「んー? いや、今のところは問題ないよ」


 ルーメルウスは不安そうな顔をしたヴァイオレットの頭に手を置き、ヴァイオレットは眉を寄せるとルーメルウスから紙を奪った。



「合併症のリスクありですか」

「ちょーっと予定外が起きたからね。ま、今のところは問題ないから」

「いつ起こるか予想はついてるんですね」

「あはは、黙ってろよお嬢様」



 佚世はヴァイオレットから紙を取り返すとルーメルウスに返した。



「君はそれ目通しといてね」

「助かります」

「お前のは違う内容か?」

「これは個人的なものですので」



 ノエルは紙を閉じると、覗き込もうとしてくるガキ(エリック)の頭を押した。



「佚世」

「これに関しては確実に起きるとは言えないし起きてからじゃないと対処できないよ。黙って待ってるんだね」







 たぶん、子供の頃かいつかに受けた医者のせいだろうな。


 内臓に根を張ろうとしていた主根の先が切られ、挙句焼かれて再生が阻害されていた。


 予定外すぎたのでとりあえずルナの落ちた片翼の主根と側根の先を移植したが、繋がるか分からない。



 アーネストが異常に痛がっていた原因が分かった。主根の先がなかったせいで側根がより強く太く、根を広げていた。だからルーメルウスが治療していたにも関わらず、進行が止まらなかった。

 主根よりも圧倒的に多い側根がほとんど主根と同じ太さになってさらに範囲まで広がるんだから、そりゃ激痛も走る走る。




 経過観察で、一つは『主根が繋がるか』、一つは『種内路(しゅないじ)が役割を果たすか』、一つは『翼が成長しないか』。あと強いて言うなら、『翼の切断面が上手く繋がるか』。


 この四点五点を重点的に見て、とりあえず種内路、翼の縮小、翼の成長阻害がこなせればまぁまぁ。縮小のために切った切断面が上手くいったら上出来、主根に関しては、ほんとに計算外なのでなんとも言えない。




 ルナは両親ともに血の繋がった同母兄妹らしいし、ただ心配なのは移植反応による体の拒絶が出ないか。

 血液検査で問題なかったとしても、移植による拒絶反応には関係ない。拒絶反応が起こるなら抵抗抑制薬を投与しないと。薬治療はなるべくしないのが、精神的にも身体的にもいいんだけど。





 つーか誰だよ、翼の主根切るって。しかも相当昔だろ、まだ成長期前なら成長期に側根が異常発達する可能性も考えろよ。再生するのが分かって焼いたくせに、やぶしかいねぇ。

 愛しのご主人様に会うために人運ケチりすぎたんじゃねぇの。


















 ここ数日この上なく苛立っている佚世は地下に篭もり、ヴァイオレットはそれを見送った。



「イレギュラーが起きただけでそんなに苛立ちますか」

「相当緻密に計画を練っていましたからね。医者として誇りを持っているようですし」



 ヴァイオレットはノエルに差し出された紙を見て、微かに目を見張った。



 工程どころか時間や道具、メスを入れる深さ長さから、全て書かれている。



「こんな綿密に書いてやるものなんですか」

「……まー、それが特殊ではあります。普通の医者は何センチ入れたらどうなるかなんて実践しないと分からないことも多々ありますので、計画は立てようにも立てれないことがありますし」

「佚世様はとても忙しい病院で働いてるんですよね? いつもこんな計画立ててるんでしょうか……」

「まさか」



 ヴァイオレットに紙を見せてもらったミシェルがノエルを見上げると、ノエルは肩を竦めた。



「普段パパッと終わらせるからこその緻密な計画でしょう。……というか、それだけの技量がある人でもそれだけの計画を立てないとできない術だったんでしょう。事実手術が直接の理由で治ったものはこれが初ですから」

「相当いい医者になったようですねぇ」



 ヴァイオレットは頬杖を突くと、微かに目を細めた。

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