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Thread of World──世界の糸の物語──  作者: 織優幸灔&夜月夢羽
番外編─佚世の行方─
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佚世.8

 しんと静まった食堂で、佚世は机に顔をギリギリまで近付けずっとペンを動かしている。




 アリヴァンはずっと佚世の周りをうろちょろして、仕方なく手伝ったセウパは、もう瀕死のまま机に突っ伏している。ルーメルウスは復習。








 先ほど、アーネストの手術が終わったのだ。

 六時間、主に翼を解体し繋げるのに四時間かかったが、予め佚世が完全計算していたこともあり手間取らずに済んだ。




 その時に、根が内臓まで潰そうとしていたのでセウパは内臓に両手突っ込んでそれを支えたのだ。

 生温かい心臓に、根の脈が伝わってドクドクうねうねした感覚は今でも手から離れない。想い人の手術にはあれ、参加するもんじゃあない。萎えた。





 佚世は手術が終わってから、ずっと机にかじり付いている。




「佚世様、何を描いてるんですか?」

「魔法」

「ま……ほう……」

「さっさと帰りたいのにこんなちんちくりんで帰るわけにはいかないからさ。せめて十八ぐらいには伸ばそうと思って」

「な、なるほど……! 来た時も六歳ぐらいからすぐ伸びましたもんね……!」

「まーねー」



 佚世はノエルの視線に気付き視線を上げたが、ノエルは佚世と合う前に顔を逸らしてしまった。







 念の為、アーネストは翌朝まで眠りに付かせる。痛みで暴れたらウィリアム以外止められる者がいないので。



















 夜中、皆が自室に戻り執事も主の付き添いで、と思ったが、ノエルだけ降りてきた。



 夕方にアリヴァンとセウパを叩き出したので特に用はないと思うが。





「手術お疲れ様でした」

「ほんっとに。あんな長時間やったのいつぶりだろ」

「成功ですか?」

「うん。麻酔も切れたしあと魔法外すだけ」

「……別の病気なのですが。治療をお願いしたい子がいまして」

「アーネストの治療が成功するよう手助けしたのはそれの前払い?」

「そんな感じです」

「聞くだけは聞いてあげよう」






 病気じゃない。病気とは認められてない。ただ、魔力が異常ってだけ。


 その異常が、異常の度合いを越している。




 本来紫に近しい色をしているはずの魔力の色が抜け、魔力は純白。それ故に血色がなく、皮膚も髪も目も白。ただ、左目だけは赤い。



「生まれた頃はアルビノと言われていたんですが、どうも違うようで」

「うん。アルビノは目まで白くはならないからね。赤い目は特徴の一つではあるけどオッドアイなら両目の構造が違う可能性がある。それこそ奇形に分類されるものだし」

「流石。……ただ、奇形ではあるんです」

「あそなの?」

「翼なんですが。大翼の下に、二対、小さなものが」

「普通は一対ってこと」

「そうですね、三枚目の骨ができる子はたまにいますが、二対以上の翼を持っている子は歴史上四人目です」

「わー貴重。で、その貴重な四人目が謎の魔力持ってるから助けろってこと」

「やって下さいますか?」




 ノエルが見ると、佚世は頬杖を突いてため息をついた。



「専門外」

「外を内に収めたでしょう?」

「あれは俺が元々は外科知識があったから……」

「魔力知識もあるくせに」



 誰にも言っていないそれを何故知っているのか、佚世がノエルを睨むと、ノエルは本棚から一冊の本を持ってきた。




 渡され、表紙を開くと、一ページ目に絵が描かれていた。


 ()を広げた大きな紺色の龍と、その足元に二人の人間。左の一人は黒い長髪で身長よりも長い杖を突き、右の一人は黒と金の外套(マント)をまとい本を掲げ。




「何」

「ヴァイオレット様が持ってきたものです。外套(マント)の方、あなたでしょう」

「根拠のない言い掛かりだよ」

「それを言われて言い掛かりという時点で変ですよ」

「まーバレてもなんの問題もないから言うけど。私と君の魔力は違う」

「えぇ。私たちは神由来、あなたは龍由来ですね」

「よくもまぁ知ってるねぇ!?」

「レッドグレイヴの館の地下には全世界の御話しがあります」

「ヴァイオレットは誰も入れてないはずだけど」

「ルーメルウスには昔から世話になっていますので」



 あんの老いぼれジジイ。ヴァイオレットに知られたら激昂してヤバいことになるぞ。




「……知ってるのになんで言ってきたの」

「あなたの知識を見込んで」

「こっちの魔力でどうにかできると思ってんなら間違いだよ」




 図星だったノエルは本を取る手を止め、絵をじっと見る佚世の方に振り返った。



「試してみないと分からないのでは」

「無理だよ。無理だから、ヴァイオレットは効率の悪いこっちの魔法を使ってる」

「実験済みなんですね。まぁ魔力はいいです。知識面では、少なくともあなたは私達とは着眼点が違うので頼りになると思って」

「俺アーネストを治したらさっさと帰りたいんだけど」

「そこをなんとか。報酬はできる限り用意します」




 本を一冊持って戻ってきたノエルは佚世を見下ろし、佚世はノエルを見上げた。



 それは子供の上目遣いなどではなく、何千、何万の年月を生きた人間の、生も死をも感じさせない目。








「…………はぁ……誰? 君がそんな真剣に頼み込むなんて。彼女? 嫁?」

「妹です」

「……シスコンか!」



 佚世が茶化すつもりで見上げると、ノエルは胸に手を置いて満面の笑みを浮かべた。



「自他共に認める」

「チッ。……お代にその子嫁にちょうだいっつったらくれる?」

「本人の意思次第ですね。優しい子かつものすごく流されやすい子なので乗り気にはなると思いますがあまりにも生理的に無理と言うなら別の子を用意しましょう。ご要望を全てクリアするレベルの」

「いらない。……いいよ、診るだけは診てあげる。ただし治せるか治るのかは別だから」

「ありがとうございます」





 あー、癒しが欲しい。






















 翌朝になって、佚世が机の上で目を覚ますと皆が覗き込んできた。




「起きた」

「よく寝てましたねぇ」

「おはようございます!」

「なんで寝顔もいいんだ……」



 佚世はびっくりして、体を飛び起こす。



 ウィリアムもヴァイオレットもミシェルもエリックも、ノエル以外全員。



「……ルーは?」

「開口一番それか」

「叩き出しました。どうやら私の知らないところで私の知らないことをしでかしていたようなので」



 佚世がノエルを見上げると、ノエルは顔を逸らした。バレてんじゃねぇよ。




「……なんで私覗かれてたの?」

「二十時間近く寝てるものですから」

「……今何時!?」

「夜の八時半」

「……わッ!?」



 佚世は叫びながら部屋を飛び出していき、皆もそれを追いかけた。




 佚世は天蓋を開けると、アーネストに点滴が繋がれていることに安心する。



「あーよかった……!」

「なんの点滴ですか?」

「魔力抑制剤。ルア助かった」

「いえ」



 佚世は薬の残り量を確認すると中に入った分を計算して、点滴を閉めた。


 額に貼られた魔法印を剥がすと、アーネストを揺すった。



 ずっとそばにいたルナがあまりにも叩き起こそうとするので落ち着かせ、先に点滴の針を抜く。




「魔力の薬完成したのか?」

「うん? 中和剤じゃなくて抑制剤だからね。魔力が作られるコア麻痺させて生成を鈍らせるって代物だから元々あるにはあったよ」

「……へぇ?」



 エリックがノエルを見上げると、ノエルは緩く首を横に振った。それまで自作かよ。



「よくもまぁ材料ありますね」

「ここの地下なんでも揃ってるからさ」




 佚世はベッドが座ると、アーネストがぼんやりと意識を浮上させた。途端飛び起き、背中を押さえてのたうち回る。



「元気なようで何よりだ」

「元気か……!?」

「永眠よりいいでしょ」



 佚世が、ルナに心配されながらうずくまるアーネストの頭に手を置くとアーネストは佚世を殺意の篭った目で睨んだ。


 助けてあげたのにね。



「この術後ばっかりは一ヶ月は要安静だよ。動いて種内路ちぎれたら翼落ちるからね」




 また翼組がヒュッと息を飲み、アーネストは体を丸めて悶絶した。



 ま、生きたまま腕むしられたようなものだし仕方ないな。




「あと気を付けることはねー」



 佚世が机から紙を取って確認していると、突然ヴァイオレットが耳を押さえた。






 コンコンッとノックが鳴り、アーネストの呼吸が狂う。


 ルナが慌てて、ミシェルと二人でアーネストを落ち着かせた。

 ウィリアムはヴァイオレットを庇い、佚世はノエルを見上げる。






「何?」

「ストーカーです。ほら、アリヴァンが言っていた奴」

「ちょっと追い払ってきて。これじゃ話にならない」

「……不法侵入癖があるようで」




 ノエルはエリックをウィリアムに任せると下に降りて行った。



 少し落ち着いたヴァイオレットとウィリアム、ウィリアムのそばにいなければならないエリックも下に降りる。












 下に降りると、広間の中央にはアーネストと年端は変わらぬような男が立っていた。


 空色の髪を三つ編みにして肩に流し、朱色の目は歪な愛に染まり歪んでいる。





「イリルイア」

「……何故ここに?」

「付け回す癖をやめろと何度言えば分かる」

「おかしいのはそっちです。好きなもののそばにいたいと思うのは普通でしょう?」

「普通はそう思うなら監禁に寄ると思うがな」



 ノエルとストーカーが火花を散らしていると、コツコツとヒールの音が聞こえた。



「グレイズ!」

「穢らわしい。私の名を気安く口にしないで下さい」

「アーネストが治ったって聞いてさ! 回復祝いに来たんだ。だから今日は君じゃない」

「今日も明日も私にもアーネストにも会えませんしあなたは死ぬまでお気に入りと相まみえることはありませんよ。ご心配なさらずとも」

「そんな……」




 イリルイアが、かなり距離のあるまま止まったヴァイオレットに近付こうとしてノエルが首根っこを掴むと同時に、また扉がドンドンと叩かれた。




「たのもー!」



 このクソ忙しい時にクソ元気な声が聞こえ、皆が辟易した。



 ノエルはイリルイアを引きずったまま扉に近付くと、開けて先にそれを叩き出した。


 ヴァイオレットが杖を突くと、館にズンッと結界が張られる。



 客人は、堂々と館の中に入った。




「復活祝い&治した医者を学院に寄越せと言いに来たッ!」

「言ったな帰れ」

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