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Thread of World──世界の糸の物語──  作者: 織優幸灔&夜月夢羽
番外編─佚世の行方─
73/124

佚世.1

 6年前、廃教会が解散した理由である佚世の長期仕事。


 その詳細を書き綴る。

 目を覚まして、体を起こした。




 今回もなんとか移動できたことに安心し、ホッと息をつく。のも束の間、何かがおかしいことに気付いた。



 手を見下ろし、外套(マント)の中を覗き、サッと顔が青くなる。





 そのまま、嫌ともギャァとも取れない叫びを上げ天を仰いだ。



























 街を走り、森に入った。


 なんとか、必死に、もうヘトヘトで。



 ドンドンドンッと扉を叩くと、数分して扉が開いた。




「はい……?」



 青系のメイド服を着た八歳か九歳の女の子が顔を出す。

 銀の髪に、青の瞳の見たことない子。誰だ。いやそれよりも。




「ねぇヴァイオレットって人いる!? 知ってる君の主人だよねッ!?」

「え、え? え? ちょっ、ちょっと待って……!」

「ミシェル、大丈夫ですよ」



 遠くから声が聞こえ、ミシェルはハッと振り返った。




「ウィリアム様、この方は……?」

「だッ……!」



 見た途端、燕尾服の十六ほどの青髪の美青年は吹き出しながら顔を逸らした。


 真っ赤な目が潤み、膝から崩れ落ちて大笑いする。




「あはははッ! あははッ! ちっさッ……!」

「お前はいつになっても身長変わらんね」



 爆笑から一転ブチギレたウィリアムが捕まえようとするのをすり抜け、慣れた屋敷の中を走ると扉を開けた。




「先生ッ!? 先生これ直して!?」

「騒がしいですねぇ」

「先生これ直してッねぇッ!?」

「ずいぶんと縮んだようで、イッセ」

「うるっせぇさっさと直せクソォッ!」




 黒髪に、大きな翡翠の目の七歳か六歳ほどの少年は叫んだのを皮切りに力尽きたのか、膝から崩れ落ちた。




「まぁ一旦座りなさい」

「……今力ってどっち?」



 立ち上がると、先生と呼ばれた真っ赤な髪を結い上げた少女は透明な瞳を細めた。透明と言えばいいのか、白と言えばいいのか。

 少女と言っても、まだ十か九ほどだが、どこの世界の美少女よりも美しいと言える美しさと儚さがある子供。



「まだ継承してないの。じゃニーミス嬢のとこ行ってくる」

「待ちなさい、待ちなさい佚世(いっせ)

「それで呼ばないで」

「佚世ッ!」



 ヴァイオレットの声で空気が張り、ミシェルがビクッと怯えた。


 部屋を出ようとしていたイッセは足を止め、振り返って嫌味ったらしく笑う。



「だってこの歳じゃメス握れないもぉん。それじゃ来た意味ないしぃ、先生の方こそ困るよねぇ」

「今世界を越えることは許しません」

「俺が来たから境界が歪んでるの? それとも継承前だから? どっちでもいいよね、嫌って言ったのそっち。俺には関係ないもん」



 イッセが去る前に、目の前にミシェルが立った。




「ちょっと、お嬢様が話があるそうなので……!」

「俺さっさと済ませて帰りたいんだよね。ぶっちゃけあんたの契約悪魔が死のうが世界が歪もうがどうでもいい。俺の世界は守られてるもん」

「……少し待ちなさい。十歳までなら送れます」

「変わんないじゃん」

「ではその印を切り裂きます」



 ヴァイオレットは立ち上がると、杖を突いて去っていった。




 まぁ小さいものの、七歳よりマシの佚世は少し機嫌が良くなった。




「君のご主人様怖いねぇ」

「イッセッ!」

「はいはぁい!」



 ヴァイオレットの怒声に肩を竦ませたイッセはくすくすと笑うと、本棚に向かった。



 ウィリアムはさっきのことをまだ恨んでいるのかずっと睨んでくる。




「ん〜……。……ウィリアム、医学書ある? 悪魔のやつ」

「向こうに行けば。すぐに移動しますよ」

「暇」

「……お嬢様がたまに読んでいるのであれば、悪魔ではありませんが」

「それでいいや。ちょうだい」





 椅子に座った佚世は本を開くと、それをびっくりするスピードで読み始めた。



 少しして、ヴァイオレットが降りてくる。



「できましたよ」

「終わったらすぐ移動するんでしょ。ルーは?」

「向こうにいます。今朝戻ってきたばかりなので」










 ヴァイオレットに連れられ空き部屋に行き、指さされた場所に立った。




 ヴァイオレットが杖を一度突くと、背筋に激痛が走る。


 ヒュッと喉が閉まり、崩れ落ちた。




「あーあー贅沢言うから」


 このクソアマ。




 吐き気のする笑顔で見下ろしてくるヴァイオレットを睨むと、口を押さえた。






 少しして、ふっと肺に空気が入って、痛みが引いた。それでも、まだ体は成長を続けている。



「あ、治った」

「チッ……ショック死ぐらいすればいいのに」

「お前の執事ショック死させるぞ」

「なんでこんなドクズを弟子にしてしまったんでしょう」

「知らなぁい。異世界の知識に釣られたんじゃないの?」



 額全面と左頬に魔法印が刻まれている佚世は後悔するヴァイオレットを鼻で笑い、ヴァイオレットはため息をついた。







 佚世はガッツリ魔法印が入っている服と白衣も問題ないか確認すると、真っ黒な外套(マント)を払った。



「……ちっさ」

「頭捻り潰すぞ」

「自分に言ったんですぅ。自意識過剰だよ〜?」

「黙れ出来損ない」




 ヴァイオレットが杖を突くと、突然視界が変わった。




 そばに現れたミシェルは突然の浮遊感にすっ転び、ウィリアムはそそくさとヴァイオレットのそばに移動した。










 ヴァイオレットの館から、対世界の館の広間に移動した。


 目の前にあるどこかの部屋の扉が開く。




「……子供?」

「縮んだだけですよ。中身はウィル超えてます」

「ね〜医学書ちょうだい」



 ウィリアムとミシェルがえッと驚くのも知らず、佚世は知らない悪魔のわきを通って部屋の中に入った。




 中は全面本棚で、あぁアーネストの館なんだなっていう。







 イギリスに住むイギリス貴族を名乗っているヴァイオレットという少女は、人間ではなく死神だ。まぁ色々混じってるけど。


 それに仕えるは、悪魔の執事アーネストと吸血鬼の執事ウィリアム、人間メイドのミシェル。ミシェルは前来た時はいなかったので新しく入れたんだろうな。




 現在、アーネストの持病が悪化して死にかけているらしいので佚世がヘルプで呼ばれたのだ。交友関係というか交流関係の狭いヴァイオレットが必死に人脈を探した末の、佚世なんだろうな。



 アーネストは現在二十歳前後、生まれ持った持病が進行して、もう他の医者じゃ手に負えない状態なんだろう。






「助手付くの? 誰?」

「一応ルーメルウスを考えていますが」

「一人?」

「あとはあなたの望むだけ」

「最低三人はいる。腕によっては三人でいい」

「……ノエルさんいけます?」

「無理ですね」

「紹介は?」

「…………悪魔医学でしょう……?」

「外科術あればいいよ。つーかぶっちゃけ邪魔しなければなんの問題もない」

「ウィル!」

「刺し殺すかもしれません」

「二人か三人紹介します。外科程度なら数人思い当たるので」

「まともな性格な奴にしてね」

「その判断はお任せします」



 佚世は本を引っ張り出すと、机に置いた。


 全て悪魔医学書だが。




「……この方人間ですよね?」

「異世界のね」




 椅子に座ると、本を開きペラペラとそれをめくる。読んでるのか読んでないのか分からないスピードで。










 悪魔は翼を持つ。カラスみたいなやつね。

 それが、ごく稀に異常に大きく育つことがあるそうだ。アーネストはそれ。それの、重症。


 翼はより大きく強く成長するため、貯まった魔力どころか生命に必要な魔力や生命力でさえ吸い取ってしまう。

 体が死ねば当然翼も死ぬが、まぁ生物進化過程のバグだな。




 結果として、無理やり魔力(養分)だけを吸って翼の物理的な成長スピードが追い付かないせいで翼に行けない魔力が背中に溜まり、背中の組織が壊死し始める。

 それは肩甲骨辺りから腰、肩、胸、腹、腕、首、足にまで広がる。

 全身の九割に進行、全身の七割が浸蝕されたら治療不可能と言われているそう。



 まぁ血も栄養も摂りすぎは毒だって言うし。魔力だってそうなんだろうけど。




 これ、背中に魔法陣刻んで常放出させたら進行止まるんだろうか。こっちの()()は常魔力を消費するはず。やってみたいなぁ、こっそりやったら怒るかな。怒るだろうな、頭潰れる未来が見える。






「アーネストの進行はどのくらい?」

「背中と肩は全面。腕はまだ押さえてるけど」

「前面は?」

「まだ」

「……比率は?」

「一対六」


 内側から進んでる可能性があるな。



「ねぇ内臓は人間と同じなの?」

「全く違うよ」

「それ先ちょうだい」

「ウィル、持ってきてください」

「はい」




 内臓が違う場合、内側の翼の根を取り除くのに困難になる可能性がある。

 さすがに悪魔は取扱専門外。専門外を専門内に収めようとしているので、多少の無茶は許してほしい。ある程度治る治癒力は持ってるだろ。



「一人は内臓扱える人がいいなぁ」

「あなたの分野ですよ」


 ヴァイオレットがノエルを見ると、ノエルの口元に手を当てた。



「内臓ですか……」

「一人はなるべくちっさい人。体に手突っ込める人」

「え」

「あなたも十分ちっさいでしょう」

「先生でもいいよ」

「私が触ったら弾かれますね」

「使えないなぁ。先生と睦君連れてくりゃよかった……」



 佚世はぶつくさ何かを呟きながら、しかし意識が完全に本に行くと黙り込んだ。





 少しして、ウィリアムが本を六冊持って戻ってきた。



「持ってきましたよ」

「……あるなぁ」


 ただでさえ基準サイズがでっかいのに多いなぁ。



「まぁどれか一冊読んだらある程度は理解できるかと」

「解剖図ある?」

「ありますよ」

「開いて」



 ウィリアムがそれを開く間に、佚世は本を三冊開いた。


 解剖図の本も一冊開き、さっき読んでいたそれを読み進める過程でその他四冊で確認する。




「効率悪そう……」

「頭いいのか?」

「さぁ。普通だと思いますが。私が知っている限りとても馬鹿でした」




 ヴァイオレットが座っていた上座に佚世が座ったので、ヴァイオレットは別の席に座る。



 佚世の向かいに座っていた、ヴァイオレットの唯一人間の友人であるエリックは首を傾げた。十五か十六の少年。少年と言えるほどの、あどけなさが残っている。




「馬鹿には見えんが」

「見た目はね」

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