52.耳
登校日の日、枯梨が部屋にやってきた。
小雨と電話中だった睦はそれをミュートにして枯梨に声をかける。
「枯梨、入っていいよ」
「……ごめんなさい、電話……」
「小雨さんだし大丈夫。どうした?」
「あの、学校……」
「休む?」
聞くと、枯梨は微かに頷いた。
「わかった。言えて偉いね」
枯梨の頭を撫でると、手を引いて睦の椅子に座らせた。
「小雨さん戻りました」
『大丈夫ですか?』
「はい。枯梨休むのでデータ送ってもらえますか」
『わかりました。体調不良ですか?』
「ざっとそんな感じ」
『ざっとそんな感じ……? 担任やクラスになにかあるのであれば言ってくださいね。参界者のための学校ですので』
「枯梨、我慢しなくていいからね」
隣に膝立ちになった睦が頭を撫でると、枯梨はボロっと涙をこぼした。
「大丈夫?」
「ごめんなさい……」
カメラを切って、立ち上がる。
「謝らなくていいよ。どうしたの」
「……せっかく、行かせてもらってるのに……!」
「そんなこと考えなくていいよ。お金かかってるわけじゃないし。学校でなんか嫌なことでもあった?」
参界者だけの登校日でも嫌がるなら、教師だと思うけど。
「学校の、担任の先生が……! 私の目が変なの、ずっと嫌味みたいに言ってきて……!」
枯梨の目は少し変わっていて、左目の瞳孔が十字に見える。見えるだけで、実際は虹彩で十字に見えているだけと検査結果でわかっているのだが。
「この前、睦さんがいない時に耳飾り取られて……! その目変えないと、返さないって言われてぇッ……!」
睦は枯梨の涙を拭うと、いつも桃色の髪で隠れている耳を確認した。
来た頃から既に右耳にピアスがあり、それは世界の共通常識というか、女の子が生まれたら右耳に耳飾りというのが当たり前だったらしい。
中央校の校則的には問題ないので塞がらないようにずっと付けさせていた。
それが、右耳の耳たぶが裂けてピアスが取られている。
「痛かったでしょ。誰にも言ってないの?」
「ミヤが、怒ってくれたんだけど、睦さん大変そうだったから言わないでって言って……」
「言ってくれてよかったのに。我慢したらだめだよ」
「ごめんなさい……」
「よしよし」
睦は枯梨の頭を撫でると、カメラを付け直した。
『その教師はこちらでクビを切っておきます。ミヤさんと響皐月さんは行く予定であるなら景矢さんのクラスに。こちらから伝えておきます』
「まだ学校のやつやってるんですか」
『緊急時だけですよ。誰も出来損ないには期待していないので』
「……まそれはそうですね!」
枯梨を抱き上げ、小雨と話しながらリビングに降りた。
「十五歳組しゅうご〜」
「なーにー」
「あ?」
「今日は景矢の教室行ってね。担任がクソだと密告があったから」
「あい!」
「明らか密ではないな」
「密なんだよ。密告だから」
「なんでもいいが。枯梨の耳治るか?」
「小雨さん俺やっていいですか?」
『大丈夫です』
睦は顔を青くする景矢のそばに枯梨を下ろすと、ソファに座った。響皐月と茶トラが飛び乗る。
『場所どこでやります?』
「知り合いが医者やってて」
『あの闇医者ッ!』
「一時期は政府にいた人ですよ」
『あの人も佚世さんの場所知らないんですか!?』
「知ってますよぅ?」
『取っ捕まえて吐かせます!』
「現在トワイライトに引き抜きかけられてますけどね」
『クッソ……!』
小雨が暴れていると、長小雨がひょこっと現れた。
『睦さんこんちはー』
「こんにちは」
『千譜結あんま暴れんなよ』
『トワイライトに入る前に殺す!』
「本拠地にいますよ。応援してます」
小雨の発狂が聞こえる前に通話を切ると、響皐月は不思議そうな顔で睦を見上げた。
「知らない人がいっぱい出てきた〜」
「よく聞いてるなぁ。そのうちわかるよ」
「睦さん、枯梨の耳どうやって治すんですか……?」
「ん〜? ちょちょっと繋ぎ合わせるだけだよ。痛くないから大丈夫」
「糸あるのか?」
「あるよ。この世界だいたい揃ってるから」
睦は枯梨を呼ぶと、耳を確認した。
ものの完全に治っているので、繋げる部分切除して縫い合わせる感じ。局所麻酔になるが、このぐらいなら一人でいけるな。
「痛みとかはもうない?」
「大丈夫です。ミヤが手当してくれて……」
「なら問題もないし、比較的すぐできるけど」
「早めの方がいいだろう。休みが明けると目立つぞ」
「確認取ってみるよ」
脳之輔から無事全然OKと返事が来たので、睦は枯梨を連れて脳之輔の家に行った。
現在本拠地で医者として荒稼ぎしてるそうなので、好きに使っていいよと言ってもらえた。
中に入って、いつかの時に恋弥と陽泰が眠っていた台の片側をアルコール消毒する。
「枯梨、髪上げれる? ポニーテールとかでいいから」
「わかりました」
患部の耳を上にして、横向きに寝転がらせた。
台の高さを調整し、麻酔を用意する。
「ちょっとチクッとするけどすぐ痛みなくなるからね」
「はい……!」
「いくよ〜」
枯梨は思ったよりも痛くなかったそれにホッと安心して、睦は問題なさそうなのを確認して道具も用意した。
「……今触ったのわかる?」
「いえ……」
「ここは?」
「全然」
「じゃ大丈夫だね。寝れたら寝ててもいいからね」
こくりと頷いたので、とりあえず手術を始めた。
特に問題が起こることもなく、というか、なんか取れた耳を繋げるのを思い出してちょっと懐かしくもなった。
十五分かからない程度で終わらせて、糸を切るとガーゼを貼った。
「終わったよ」
「早かった……!」
「簡単なものだからねぇ。麻酔切れたら痛みが出てくると思うんだけど、あまりにも痛かったら言ってね。そんな動く場所でもないけど、髪が当たると傷跡が悪化する可能性があるからなるべく耳には当たらないようにして」
「わかりました」
道具を片付けると、脳之輔に終わったよーというメッセージとともに茶トラの写真も送っといた。猫の手術って勘違いするかな。




