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Thread of World──世界の糸の物語──  作者: 織優幸灔&夜月夢羽
一章
71/124

51.茶会

 朝から風呂に入って珍しく髪を乾かし、髪を結んだ。



 茶トラが洗面所にお菓子の袋を持ってきて、食わせろとでも言うように立てた尾をブンブン振った。犬か。





 しゃがむと、それを開けた。


 猫用の煮干し、先日雨豪と買い物に行った響皐月が買ってきたのだ。




「響皐月に頼めばいいのに」



 うるせぇとでも言うようににゃあっと鳴いて煮干しを奪った茶トラを見下ろすと、もう一本を頭の上に乗せた。


 待てをして、写真に撮る。懐かしいな、佚世が大爆笑していたぽけーっとした顔。




「よし」


 煮干しを振り落として、がしがしと食べると棚を利用して睦の肩に乗った。



 煮干しを閉め、リビングに戻る。



 今日は依頼が多かったので、午前はもう閉めたのだ。




「あ、睦さん、明後日学校になりました」

「何時から?」

「いつも通りです」

「わかった」




 睦は煮干しを片付けると茶トラを下ろした。



「じゃ出かけてくるよ」

「行ってらっしゃい」














 タクシーもどきを拾って、待ち合わせのカフェに着いた。予想よりだいぶ早く着いたので、先に中に入ってコーヒーを頼んだ。


 帝翔から執拗に、今日会うんでしょメールが来るのでそれを暇潰しに使う。





 少しして、約束時間前になってから管理人がやってきた。

 見慣れた黒い面に私服。やっぱ面はあるんだ。



「お待たせ」

「全然、まだ時間前ですし」

「君早すぎないかい」

「自分でもびっくりしてました」

「あぁ、これ先日のお礼」



 そう言って、なかなかの大きさの紙袋と小さな紙袋を貰った。

 両方お菓子だが、大きい方には色々入っている。



「睦君チョコ好きでしょ。お菓子のお礼と依頼お礼と」

「わぁありがとうございます。依頼料貰ったのにお菓子まで」

「あの検査結果見てね、正確な検査してもらったら医者もびっくりしてたよ。俰盤(わだか)に関しては無意識だけどかなり上手く隠されてたから、これ診断した人は腕は相当なものだってさ」

「なにかのお役に立てたなら何よりです」



 睦は紙袋を一つにまとめると、背中側に置いた。



「学校はなにか相談してますか?」

疓憝(ねうら)はあのあとから行ってないね。相手側が中退したってのは聞いたけど。今度中央に見学に行くつもり」

「府立二校と公立の第二しか知らないんですけど、他に公立ないんですか?」

「あるけどいい噂は聞かないよ。そもそも公立の学校は第二含めてヴァルパには六校しかないんだけど、その全部の教師が府立から配属された教師だから。まーいい教師より悪い教師に当たる確率が高いね」

「じゃあやっぱり中央に?」

「だねぇ。……今最年少十五でしょ?」

「十四ですね。トライトの秘書が一応在籍はしているので」

「まー同学年にいないなら大丈夫かな。俰盤(わだか)は手出やすいから、政府と真っ向勝負はしたくないし」



 何食べよっかなーとにこにこの管理人に苦笑いを零しながら、Hgを見下ろした。帝翔からのメールと着信が止まらないんですけど。




「さっきから着信すごいね。彼女?」

「帝翔さんです」

「…………待ってね」



 管理人がHgをいじると、それはピタッとやんだ。



「うん。まだ素直な部類だ」

「律さんは誰に制されても突っ込みますからね」

「前社長が死んだのは痛いねぇ。まぁ私に託されてはいるんだけど……」

「そうなんですか?」

「勘の鋭い人だったからね。自分が殺されるって言うのはわかってたみたいだよ。ピステルよろしくねって組織ごと託された」

「組織ごと……」

「ほんとは佚世君と律と帝翔と三人揃ってスイハに引きずり込む予定だったんだけどね。佚世君が睦君拾っちゃったからやめよ〜と思って」

「俺がいなかったら引きずり込んだんですね……」

「強固たる最古参を潰すにはほつれた糸を切るのが一番だよ?」


 トワイライトごと潰す気だったんかい。






 管理人は珍しくジュースとケーキを頼む。

 普段はコーヒーか紅茶を飲んでるイメージが強かったけど。



「コーヒーじゃないんですか?」

「カフェイン駄目なんだよねぇ。わりと本気で死にかける」

「アレルギー?」

「じゃないんだけどね。摂ると基本的に失神して救急搬送」

「重症ですね。過敏症とかですか」

「さぁ?」

「佚世さんから自分のことになるととことん雑だと聞きました」

「うん。さすがに死ぬから摂らないけど。原因はなんでもいいかなと思って。面倒臭いしさ」

「まぁ止めませんが。気を付けてくださいね、ほんとに」

「さすがにこればっかりはね」




 管理人のケーキが来たので、それを食べると同時に本題に入った。




「パーティーどうだった?」

「大元はイノンダイとミハットの共同ですね。ニーズが売り捌いてる感じかと」

「あの一回でそこまでわかったの……?」

「ミハットの担当が口が軽くて」


 ちょっと聞けば全部喋りました。



「ミハットはともかくイノンダイは駄目だなぁ。あそこ街落として政府に楯突こうとしてるからさ。こちらとしても処理したい」

「バラします?」

「……吸収したらピステル怒るかなぁ?」

「お好きにどうぞ。うちは一応トライトに守られてますので」

「頭がねぇ、今いないんだよ、イノンダイ」

「え?」

「聞けば二人の幹部が動かしてるとか」

「へぇ……?」

「それ殺して引っ張ったらさ、ねぇ?」

「俺を巻き込まないでください」



 でもまぁスイハが勢力拡大してしまったら、ピステルは名声が、スイハは勢力が勝って劣ってになる。そうなれば確実に衝突まっしぐらなのは、管理人もわかってるとは思うけど。


 この人律さんに厳しいからさ、わかっててなお衝突しようとしたりするからさ。だから怖いんだよね。




「まーイノンダイが大元ならたぶん街は焼かれるよねぇ。いらないかなぁ」

「イノンダイから中央館まで結構ありますからね」

「律も怒ったら怖いからなぁ」

「……止めませんよ?」

「ちぇ」



 止めてイノンダイ討伐の不参加を表明されたら、止めた睦のせいと言われる。社長を降りた途端にそんなん擦り付けられたら溜まったもんじゃない。




「まいいや。あのぐらいならさっさと潰して政府の管轄に収めさせるよ」

「お願いします」

「じゃ次。社長、降りたそうだね」



 睦はコーヒーを飲むと、視線を逸らした。



「こら」

「心身の限界を感じました」

「別に降りたことを怒る気はないしそろそろ限界そうだなぁとは思ってたけどさ。せめて一声欲しかったよね」

「聞いてほしいことがあるんです」

「なんだい?」

「聞かされた翌日に交代したんですよ」

「……ん?」






 睦が始めから最後の最後まで話すと、さすがの管理人も顔を引きつらせた。



「……小雨君も強引だなぁ……?」

「びっくりしてその日寝れませんでしたからね」

「そりゃあ驚くよ。逆によく対応できたね」

「振り回されるのは佚世さんと恋弥さんで慣れたので!」



 そんなことを言ってガッツポーズする睦を心配すると、睦は遠い目をした。



「慣れですよ。人生慣れ」

「二十三で何悟ってんの」

「波乱万丈な人生だったんです」

「終わるみたいな言い方しないでよ不謹慎ってか君の場合有り得るからな!」

「大丈夫ですよ、命ある限り」

「死んだら佚世君に遺骨渡すからね」

「やめていただけると嬉しいです」

「知らん」


 絶対毎日死んだことを恨みつらみ怒られる。




 睦がげっそりして、管理人が薄ら笑みを浮かべているとふと睦が顔を上げた。


 にこっと笑うと、後ろから歓喜の声が聞こえる。



「モテるなぁ」

「親の顔が一流でして」

「そんなに?」

「母の顔は言ってしまってはなんですが佚世さんに釣り合いますよ」

「そんなに……!?」

「見ます? 家族写真」

「見る」


 母親も気になるけど幼少期の睦が気になる。



 管理人が頷くと、睦はスマホを出してフォルダを遡った。



 だいぶん昔に母の後見人にあたる日蔓(ひかづら)と、父方の伯父が撮った母の昔の写真があったはず。




「あ、ありました。これ」



 見せると、管理人はあからさまに落胆したような様子をした。睦は首を傾げる。



「どうしました?」

「……なんでもない。お母さん美人だねぇ……!?」

「でしょう。中学か高校ぐらいの写真ですが俺の記憶にある限り顔変わってませんよ」

「すげぇ……ほんとに美人。えーたしかに睦君が生まれるのもわかるなー。お父さんは?」

「父はねぇ……」



 あるだろうか。母は皆に可愛い可愛いと写真を撮られていたが、父はわりと引きこもり体質だったらしいので写真自体少ない。たぶん睦の中身は父に似たんだと思う。




「……父ありませんね。伯父ならあります。父の兄」

「何故伯父」

「色々表彰されてるのでその表彰式とか。招待されたパーティーとかネットに上がってるインタビュー記事の写真とか。俺が撮ること多かったので」

「見せて見せて」

「ほら」

「わーイケメン。……え奥にいるのは?」

「伯父の双子の妹です。そっくりでしょう? 一卵性で性別違いなんですって」

「へぇ!」






 睦の家族の写真で盛り上がって、度々垣間見える背景の異常なナイフやロープや自殺完全本に疑問を覚えながらも、色々な写真を見せてもらった。



「顔面いい一族の子供はそりゃこの顔になるよね」

「そうですよ。だから娘さん二人その歳でめっちゃ美人でしょ?」

「あはわかる? 妻の血が濃いんだろうね」

疓憝(ねうら)ちゃんなら絶対モデルかアイドルになれる」

「なれるだろうな〜。俰盤(わだか)は?」

「女優か踊り子」

「あー将来を想像したくない。永遠に家にいてくれないだろうか」

「……スイハで囲って人間関係遮断したらいける環境ではあるのでは?」

「やるか」

「どうぞ」




 管理人の親バカが発動して、睦はスマホを眺めながら止まらぬその口から紡がれる文章を右から左へ聞き流す。




 管理人の娘溺愛といい律の妻溺愛といい小雨の姪溺愛といい天獄の愛人溺愛、はまぁ普通か。

 なんでこう、適度な愛で留まる人が少ないんだろうか。睦の周りがおかしいのか、両親も似たようなものだったもんな。父のツンデレ母溺愛。


 自分の愛という思想が軽すぎるだけだろうか、それともほんとに、睦の周りだけ異常なんだろうか。



 あれだな、世界観が違うからか。おどろおどろしい場所で生きてきた人たちは愛が過剰になるんだな、うんうん。






 どうせ死ぬなら愛なんかいらねぇだろ

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