49.救い
メイクを落とし、ピンで止まっているだけのエクステを外して着替えるとホテルを出た。
前に停まっていた車に乗ると、小雨が軽く会釈した。
「参界者どうなりそうですか」
「心神喪失状態なので政府で完全管理します。情報提供ありがとうございました」
「スレッドにお願いします」
「はい」
スレッドに戻り、エクステを外すと風呂に入った。
Hgで陽泰と連絡を取りながら部屋に戻ると、部屋の前には響皐月と景矢がいた。響皐月はしゃがんで寝落ちそうで、景矢も眠たそう。
睦が来たことに気付くと、響皐月はハッと顔を上げて睦に抱き着いた。
「……おかえりなさい」
「どうしたのこんな夜中に」
「睦が帰ってきたから」
「心配してくれたの?」
こくりと頷いた響皐月の頭を撫で、抱き上げると響皐月は大粒の涙を流していた。
睦は思わずびっくりして、慌てて涙を拭く。
「どうしたの……」
「睦さんと修茶さんが喧嘩したあとに睦さんが出て行ったので二日ぐらい大泣きだったんです。ミヤが怒って、そのあとは泣かなかったんですが」
「……景矢もごめんね。心配かけて」
「おかえりなさい」
響皐月はすすり泣きながら睦に抱き着き、睦は景矢の頭を撫でた。
景矢も涙を堪えて、それでも睦にしがみついた。
「皆心配してたんです……! しゅうささん、かおまっさおでッ……!」
「ごめんね。明日起きたらまた謝るよ。雨豪さんにも迷惑かけたし、ミヤと枯梨は不安だっただろうし」
ズレた歯車を直さないと。
翌朝、睦が部屋にいなかったのでリビングに降りると、リビングのソファで仕事をしていた。
「おはようございます。……徹夜したんですか?」
「ん〜? さっき起きたとこ」
「今日休みなのに」
「十分休ませてもらったからね。確認してるだけだしすぐ終わるよ」
景矢は小さく頷くと、枯梨の代わりに朝食を作り始めた。
「枯梨は?」
「最近昼前まで寝てることが多いんです。九時前にはあくびして部屋に帰っていくんですが……」
「……学校は?」
まだ登校日が数日残っていたはずだが。
「響皐月が水尋と行くことが多くなって、響皐月が引っ張って行ってます」
「その日ご飯食べる?」
「……少ないです。白米食べずに、二、三口食べたら部屋に帰るっていう……」
危ないなぁ。
睦は景矢の頭を撫でて続きをお願いすると、事務室のHgで枯梨のHgを確認する。
一応、このHgでだけ確認できるようになっている。ロックがかかっているので睦だけだが、自殺志願者の集団をまとめるにはある程度行動や現状を把握できないと。
使用時間や閲覧履歴等を調べ、明らか時間が減っているのを確認する。
元旅人だし元々Hgよりも本で時間を潰すことが多かったので、これで全て把握できるかと言われれば否なのだが、にしても減っている。
頬杖を突いて目を細め、頭を回転させていると事務室の扉が開いた。
「ご飯だよー」
響皐月が顔を出し、睦は思考を止めた。
「今行く」
響皐月と一緒に三階に上がると、リビングには既に修茶と雨豪がいた。七人になって机が大きくなったので、少し圧迫感がある。
二人とも響皐月を見たあと、睦を見上げて修茶は綺麗な二度見をした。雨豪は硬直。
「むっ……」
「睦くぅんッ! 睦君帰ってきたんごめんなぁ!? 殴ったん痛かったやろ痕残らんくてよかったァ! 俺もう殴ったん自分でもびっくりして死ぬかと思ってッ!」
「大丈夫ですよぅ……」
「おかえりッ! 生きてて何よりや!」
「落ち着いて……」
睦は半狂乱になっている修茶の肩に手を置いて落ち着かせ、それが面白い響皐月はクスクスと笑った。
「睦、大丈夫か?」
「ご心配おかけしました。恋弥さんも復帰しましたしそろそろ戻る予定です」
「そう……もう少し休んでも問題ないが」
「さすがに申し訳ないので」
「……何はともあれ戻ってくるなら安心できる」
昼頃、ミヤと枯梨が降りてきた。
ミヤは平然と冷蔵庫を開け、枯梨は睦がいることに目を見張った。
「おかえりなさい……!」
「任せきりにしてごめんね」
「いえ……!」
皆でリビングでくつろいでいたので枯梨は睦に駆け寄り、睦は枯梨の頭を撫でた。
「……背伸びた?」
「……伸びたかもしれません」
「わぉ」
頬を撫でると、枯梨は睦の隣に座った。響皐月が反対からしがみつく。
「枯梨ご飯は?」
「あとでいいです」
「そー言っていっつも食べてないでしょ!」
「いいよ響皐月。好きな時に食べればいいんだし。お腹はそのうち空くから」
夜になって、睦がリビングでパーティーの詳細を小雨に報告していると、雨豪がやってきた。
「睦、話がある」
「なんでしょう」
ソファに座った睦の前に正座して、睦は思わず足を引っ込める。
「社長になる話、まだ有効なら受けようと思う」
「え、いやもう……」
「小雨殿が俺が社長になれるよう全面協力し引き継ぎもやってくれるそうだ。睦がもう少し休んでいたら完了するらしいが帰ってきたので今言う」
ちょっと知らぬ間に知らんことが起こってんですけど。
睦は小雨に電話をかけ、小雨はすぐに応答した。
『はい』
「ちょっと」
『お疲れさまでした』
「聞いてないんですが」
『だって社長降りても社長とほぼ変わらない役なんですよ? 知る必要ないでしょう苦労人。ただ表だッ……』
思わずブツっと電話を切ってしまい、雨豪のエッと驚く声で我に返った。
小雨の鬼電に出ると、怒声が耳を貫いた。
『ねぇッ!?』
「すみませんすみません無意識に……!」
『常言い逃げガチャ切りするからですよ!? あなたそれ他人にやったら失礼ですからねッ!?』
「小雨さんにしかやってません!」
『誰にもやるなボケェッ!』
「すみません……!」
一通り怒鳴ると、小雨は部下に押さえられて、仕方がないので座り直した。
『……まぁそういうことです。一応天獄さんには言っていますので』
「……管理人にも言わないと。今絶賛協力体制築き中なので」
『そーゆーのは報告が必要なんですよ知ってます?』
「だって昨日だってスイハいたでしょう?」
『あれはトワイライトとの協力であってスレッドではないので』
「人脈が広がる分にはいいでしょ!」
『善良な人脈はね?』
電話越しでも伝わる小雨の圧に凹むと、ごめんなさいと謝った。
『……雨豪さんは?』
「ここにいます」
『ある程度重要項目の引き継ぎは終わったのでそちらでも引き継ぎ始めてください。こちらも社長が変わり次第対応できるようになっていますので』
「……では正式な日時が決まったらまた連絡します」
『お願いします。では』
通話を切ると、睦はソファから滑り落ちた。
慌てて雨豪が退くと、睦は床に倒れ込む。
「……ありがとうございます」
「大丈夫か……?」
「いい加減心身の限界を感じていたのでほんっとに代わっていただけてよかった」
「いや……俺はまだまだ経験不足、知識不足が出てくる。その時は是非、助言助力をお願いする」
「それなら任せてください。一応得意分野ではあるらしいので」
あの人によると。
二人で向かい合わせで頭を下げると、睦は顔を上げた。
「じゃ、夜の間に引き継ぎ済ませましょうか!」




