47.怒り
予定表を確認し、Hgを開いた。
とりあえず先日、電話の後日に管理人の娘二人と直接会って事件の概要は聞けた。疓憝に話も聞けたし、それは終わり。二日後、明後日の放課後に第二学院に行って解決させる。
んでその翌週頭に例のパーティー先入の仕事。こっちは情報等順調、管理人とも連絡頻度が高くなったので連携が取りやすい。
で、十一月末に体育祭。こっちは、体育祭よりも体育祭前に皆に謝って安心させないと。社長交代の話を流して、まぁ出すのが早すぎたってことで。
予定は極貧なのに本題までの準備がしんどすぎる。身体が弱ってるのも原因だろうか、恋弥に体力吸われた気がする。無駄に元気になりやがって。
ソファの下に座り、仰け反って予定帳をペラペラめくっては戻りを繰り返していると恋弥と陽泰がやってきた。
「睦、大丈夫か?」
「ひっでぇ顔してる」
「ちょっと恋弥さん」
「事実だろ」
「心が折れそうだ」
睦のそんな呟きに陽泰はギョッとして、恋弥は首を傾げた。
「お前折れる心あるん?」
「ぶっ飛ばすぞ」
「非人道的、突き通す芯もない、超流されやすいし頼まれたら断れない性格」
「責任感で押し潰されるの」
「答え出てんじゃん」
「出ててもできない時はある」
「できる環境にいるだろうが」
「いない」
恋弥は睦の体の上にまたがると、睦を見下ろした。
「それはお前が逃げてるからだろうが。体力蓄えるためならいいけど逃げ続けて崩壊したらなんの意味もねぇぞ。一時の苦労か永遠のストレスか選べ」
「……もーいー疲れたー……!」
睦はソファから落ちると、床に丸まった。
陽泰は心配して、恋弥は足を退けると床に座る。そのまま、睦の上にクロスするように寝転がった。
「ふへ〜」
「ぅぐッ……! ふへ〜じゃねぇッ……!」
「甘いもん食いに行こうって話なんだけどどう?」
「降りろボケナスゥ……!」
「恋弥さん降りて」
「お前も乗る?」
「そんなことより降りてください」
「そんなことじゃねぇ」
睦は恋弥を引きずり下ろすと、今度は睦が恋弥の上に座った。
「何食べに行くの?」
「パフェかアイス系だって」
「美味しいとこ紹介してもらったよ。そこ行こうか」
「どこ?」
恋弥が満足したので、睦はふらっと街を歩く。
「お菓子買いたいんだよね」
「お菓子?」
「俺も買うー」
「好きにして」
明後日疓憝も話し合いに参加するのに、俰盤がおろおろしないように硬いお菓子と菓子パンを買っておきたい。
ジュースもいるかな。炭酸が好きらしいので炭酸ジュース。
クッキーやガレットやサブレが入った缶詰めを一つと、ラスクアソートを二袋、あと小さめの缶のジュース五本が入ったものを。
「誰宛?」
「管理人の娘さん」
「……お前着々と人脈広げんの何?」
「仕事」
紙袋を受け取ると、本拠地への帰路についた。
バスに揺られ、途中から雨々驟に回収してもらい、第二学院に着いた。初第二。
「わぁ立派」
「公立の筆頭なので腐るほど金をかけてるんです」
こりゃあ、三地区にまたがるのもわかるわ。
睦が感心していると、すぐにもう一台車がやってきた。
管理人とその奥さんが降りてくる。
「睦君お待たせ。今日はよろしくね」
「こちらこそよろしくお願いします」
「酷い顔してるよ」
「……最近ちょっと心労が集りまして」
「佚世君が怒るよー?」
「そんな気がします。まぁ少しすれば一つ目が終わるので」
「お願いします」
直では初めて見る紫の面をしている管理人と頭を下げてから、四人で校内に入った。
教師に案内され、先に保健室に行く。
中には疓憝がいて、勉強をしていた。
「疓憝」
「あ、おとーさん」
「お待たせ」
「ううん。……睦さんもこんにちは」
「こんにちは。今日はよろしくね」
「よろしくお願いします」
管理人は疓憝に荷物を持たせると抱き上げ、教室に向かった。放課後なので生徒は少ないが、それでもちはほらはいる。
管理人と睦の圧が怖いのは、言うまでもない。
なんでこう上に立つ人って重々しい空気をまとう人が多いんだろう。睦は優しい笑顔とのギャップが最高なんだけども。
「こちらです」
教師の扉が開くと、中には既に相手側の当事者と両親、弁護士、担任と校長がいた。六対一で、一人向かいに座る俰盤に圧をかけている。
「俰盤」
管理人が呼ぶと俰盤は振り返り、管理人よりも先に睦が持つ紙袋に目を付けた。有名な店なので知ってたかな。
「睦さんそれ何?」
「お菓子。疲れるだろうから食べていいよ」
「やった」
「準備万端だね」
「必要な頭が働かないと困りますからね」
俰盤は疓憝の手を引くと、紙袋を持って三席ある椅子に座った。
管理人は母親を座らせると自分は後ろに立ち、睦と雨々驟は端に並んで立つ。二人はともかく、管理人相手に嫌がらせかな、御三家に。
「あの、そちらの方は? 弁護士ではありませんよね?」
相手の奥方が睦に目を付け、管理人を見上げた。
「こちらが依頼した万事屋の方です。学校が正当な判断を下さない場合彼に頼みます」
「そちらが依頼したのであれば正当な判断はできないのでは?」
「判断をするのは学校です。彼はあくまでも、学校が正当な判断を下すよう正すと言うだけですのでどちらの味方でもありますよ」
「子供の大切な場にそんな変な人を……」
「どうしても役付けしたいのであれば、まぁ政府から派遣されたスイハと第二学院の視察人とでも思っておいてください」
校長の表情が微かに動き、睦は目を細めた。
視て、自力で帰れるだろうか。
「では始めましょうか。……初めに担任と当事者から説明を聞きたいのですが」
管理人と弁護士が主体で話を進める。
担任が駆け付けたのは花瓶が割れた音でだったので、その前は本人たちからの話しかないのだが。
相手の象能娘としては、給食の配膳を返す際に邪魔をされて、やめてと突き飛ばすように押し返してしまったら疓憝が花瓶を割った。
驚いて近付く時に破片を蹴ってしまい、傷が付いた、と。
疓憝的には配膳を返すのを邪魔され、挙句花瓶を投げ付け破片で頬がざっくり切れ悪者扱い。
「二人の言い分がかなり違いますね。どちらかが嘘をついている可能性があります」
「その子が父親に脅されて言わされているのではありません? 闇組織の父親なんて、家族に対しても何をするか……」
「私たちが言わされてるよりそっちが家族、弁護士、学校グルで嘘突き通そうとしてる方が可能性的には有り得るでしょ。担任は庇う方間違えた失態隠せるしこーちょーせんせーは中央にスイハの管理人に一泡吹かせてやったって声を大にして言えるもんね」
「ちょっと俰盤黙りなさい?」
「私たちが卑怯な手を使ってるとでも言いたいの!? こっちは娘の顔をズタズタにされて、あなたの顔を見るだけでも腸が煮えくり返りそうなのを我慢してるのに……!」
「話し合いが脱線しそうなので当事者は黙らせましょうか」
睦はHgを開くと、弁護士を立たせた。
なんでクソ真面目そうな弁護士より、明らか若くて優しそうな睦君の方が頼りに見えるんだろう。贔屓目かしら、佚世君がいるからかしら。
「こちらとしては娘様の治療費、慰謝料を支払って頂けるのであれば示談でという形にする予定です」
「別に示談でなくても構いませんよ。徹底的に戦うのであれば政府の介入があった方が正当性も合理性もありますので」
「政府が噛んで不利になるのは……」
「一応言っておきますが私秘密結社の社長として管理人に雇われていますので。政府はスイハを潰す気はありませんよ」
「……証拠鑑定に移りましょうか」
「えぇ」
睦はにこやかに笑い、弁護士は元の場所に戻った。
「ということで校長、防犯カメラ映像の確認をさせてください」
「い、いや、これはプライバシーの問題で……」
「当人が揃っているのに?」
「ですが……」
「……ではここだけ政府に介入していただきましょうか」
校長が制止するのも聞かず、睦は小雨に電話した。管理人は子供たちに絶対喋らないよう伝える。
「お疲れ様です小雨さん」
『お疲れ様です。どうしましたか』
「今仕事で第二学院に来ていましてですね。防犯カメラを見るのにプライバシーとうるさいので許可を頂きたいんです」
『第二学院? 校長います?』
「目の前に」
『代わってください』
校長にHgを渡すと、校長は顔を青くして受け取らない。
仕方がないので机に置くと、カメラが開き小雨が写った。
『お疲れ様です校長』
「お疲れ様です……! ご無沙汰しております……」
『えぇ。この前体育祭の話で会ったばかりですが。……防犯カメラ映像でしたっけ。見せても問題ありませんよ、誰がいつ見て何をしたかなんて私の方ですぐ確認できるので。というか私がやれば睦さんにデータ送るの三秒もかかりませんから』
「今ストーカーのあれで危ないんです。ほんとにプライバシーが」
『だそうなので見せなさい?』
「…………はい……」
顔面真っ青のまま校長が出ていき、睦はHgを回収した。
『睦さん睦さん、第二学院の依頼人って誰でッ……』
通話を切ると、メッセージでありがとうございましたと送っておいた。鬼電くるが知らん。
「睦君頼りになるねぇ」
「政府が介入したのでお代高くなりますよぅ」
「うーん愛娘のためなら何千億でも出すよ?」
どっかの誰かと同じこと言ってるし。
十分ほどして、俰盤が疓憝にラスクを食べさせていると校長が戻ってきた。
「も、持ってきました……」
「見ましょうか」
弁護士が映像を開くと、時間を調整した。
睦が俰盤を呼んだので、皆が見ると言い出した。Hgを大きくして皆で確認する。
「……変」
「な、なにがよ!? ホロに写ってるままだわ!」
疓憝が象能の髪を掴もうとして象能が突き飛ばし、疓憝が花瓶を割って、象能が蹴って疓憝が怪我。
完全象能の証言と同じだが。
皆が疓憝を見ると、疓憝は管理人を見上げて首を横に振った。
その目は恐怖に染まり、大粒の涙が溢れている。
「違うの……! ほんとに、なにもしてないの……!」
「嘘おっしゃい! 映像に残ってるわ! どうしてそんな平然に嘘をつけるの!?」
「やはりおかしな親の元でまともな子供が育つはずがない! こんな子供を学校に置いておくのは、保護者の不安を煽ることになるのでは!?」
「少し黙ってくださいね」
睦はHgの向きを変えると、机に頬杖を突いてHgを少しいじった。うーん。
立ち上がると、俰盤が睦の袖を掴んだ。不安そうに睦を見上げて、その目は動揺に揺れている。
「……一応改ざん検査かけてみましょうか。これで引っかからないようであれば今回はこちらが黒ということで」
「改ざん検査……?」
「簡単なものですよ。映像を読み込ませて影や光、映像の歪み、映像のズレがないかを確認するっていう。カメラは人に見えない形で歪んでますからねぇ」
睦は自分のHgを出すと、少しいじって校長の方には改ざん後、改変前を自分のものに映し出した。
皆に向ける。
睦の方には、疓憝の主張の映像が流れた。
疓憝はぽろぽろと泣いて、俰盤は不安そうに睦を見上げた。
「こちらが検査結果ですが」
「こんなの……!」
「お前が今改ざんしたんじゃないか!? 適当に映像持ってこさせて、嘘を重ねて……!」
「ではどなたかのHgでこれを確認してください。私が何を言っても嘘と言われるようなので」
睦が笑うと、皆嘘がバレるとわかっているのか言葉をどもらせた。
「……下手くそな嘘つくよりもどっかの探偵に白にしてくださいって頼んだ方が得策でしたね」




