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Thread of World──世界の糸の物語──  作者: 織優幸灔&夜月夢羽
一章
64/124

44.サイン

 睦の女装がすごいと言っても、恋弥も陽泰もできるにはできる。三人とも佚世に仕込まれたから。

 恋弥に至っては声が男、陽泰に至ってはやる前から暴れて手が付けられなくなるのでやることはないが。




 ほんとに、睦も身長さえ小さければ女として普通にすごせる程度。だって身長が181あるんだもの。いや、身長の問題じゃないか。睦が女装して狙うような対象の好みの問題。




 だから、今の睦と変わらないぐらいの身長だった佚世はよく踊り子に扮していた。男でめっちゃ筋肉ついてたくせに、肌の露出の多い踊り子に扮するのはあれはほんとに人間の技じゃない。人間の睦じゃ無理。





 だから睦は髪を長くしてポニーテールにする。そのままメイクで顔を変えたら、同じ男でももう別人。

 前髪をセンター分けにして、後ろ髪もつむじを通るように線で分けたら横髪のように下ろす。



 顔周りの髪と耳の後ろから見える髪があるかないかで、顔を変えずとも印象は結構変わる。


 ただ潜入でこれじゃバレるので顔を変えるという。






 アイラインを引いて、アイプチで二重幅も変えた。これに一重は似合わん。てか睦に一重が似合わん。


 女もちらほらいるっぽいのでなるべく顔は良さげな雰囲気で。



「あとで買い物行こっかな。カラーエクステ買いたい」

「俺はお前を怪人二十面相と思うことにした」

「貸したの呼んだ? 面白かった?」

「うん」

「……んな疑うなよ」



 睦的には、恋弥の懐疑的な目よりも、何故メイクしているだけで日幻兎(にげんと)とだんちと糖港(とうこう)にガン見されなければならないのだろうという疑問がある。



 現在鏡を隔てた向こうにその三人がいる。その三人は、睦をガン見している。今日は練習だってのに。いや練習だからこそだろうか。




「……げ、歪んだ」

「直せば」

「練習だしいいや。落として出かけるし」

「えー落とすん」

「街で参加者に見られたら元とこもねぇだろうが。各地から来んのに」

「それはそれで」

「ぶっ叩くぞ」




 恋弥の隣で課題中だった陽泰が顔を上げ、それに気付いた睦は流し目でそちらを見た。



「嫌なら部屋帰りな」

「別にそれは嫌じゃないけど。……人間不信になりそう」

「ごめんて。君だけは素直に育ってくれ」

「既に十分ひねくれてるだろうよ」

「やれ」



 恋弥は陽泰の腕を防ぐと、陽泰の両腕を掴んで自分の方に引っ張った。陽泰は発狂並に叫んで嫌がる。それを羨ましそうに見る糖港も糖港だが、完全無視の睦もいかがなものかと思う。




「……よしできた」

「じゃ落としてこい」

「助けて……!」

「そーゆーことしてるから嫌われるんだぞ」

「うるせぇ!」



 睦は陽泰を恋弥から剥がすとだんちに渡し、メイク用品が入っているポーチの中を漁る。ポーチと言っても全部入ってるので馬鹿でかいが。



「……まいいや。疲れた〜……」

「髪巻くん?」

「どうしよ。別にいい気がする。合う色なかったら黒か金入れて巻くかもだけど」




 恋弥が睦を追いかけて変装について話し始めたので、だんちはしおれている陽泰を慰めた。












 陽泰も引きずり出されて、男三人で買い物をする。


 実際、こんだけルックスが良くて完璧超人のような雰囲気をまとっていたら話しかけられることも少ない。




「なー甘いもん食べたぁい!」

「陽泰の家では全然食べてないもんな」

「そもそも本拠地()で食べてる奴とか滅多にいない。自分で作るか買ってくるか食べに行くかだし」

「なんかどっかで食べてから回ろうか。何がいい」

「アイス!」



















 ふと後ろを振り返り、シートに膝を突くと窓に手を突いた。



「イケメンがいるッ!」

「お父さんまた俰盤(わだか)が食い付いた」

「わだか〜お父さんも顔はいいでしょ〜?」

「自分で言いますかね……」

「偏差値的に言えば疓憝(ねうら)俰盤(わだか)の方が上だろうね」



 そんなことを言いながら、どんなイケメンかなと二人も視線を飛ばし、瞬間俰盤の隣に貼っついた。



「睦くんがいるゥッ! ねぇ雨々驟(ううしゅう)さん止めてッ! 睦くんがァ!」

「イケメンしふくぅ……」

「……管理人、いいですか」

「君が会いたいんだね」

推し事(責務)と言ってください」

「好きにしなさい……」




 すぐに車をわきに停めると、帝翔は車を飛び出した。




「睦くぅんッ!」

「え、わぁッ!?」

「わぁ〜」



 恋弥は睦の情けない反応を笑い、陽泰はそれに呆れた。



 帝翔は睦を押し倒す勢いで抱き着き、雨々驟はおもむろにカメラを構えた。




「今日髪いつもと違うねぇかっこいい。佚世の教え? いいなぁ似合う。佚世は長髪やってくれなかったからさぁ。可愛いねぇ」

「あの……」

「睦さん一枚撮っていいでしょうか……!?」

「これは駄目ですぅッ!」



 雨々驟が帝翔を剥がし捨てると、睦は恋弥と陽泰を引っ張った。



 睦と恋弥はらしい笑顔を浮かべ、もう諦めモードの陽泰はにこにこと、ただにこにこと笑う。




 色んな角度から数十枚撮られたあと、次に話しかけられたのは雨々驟だった。どうやら界隈の有名人としての顔が出たようで。





「疲れた……」


 睦が髪を払うと、ちょいちょいっと袖を引かれた。


 目を丸くして下を向くと、幼い女の子がいる。




「すみません、サイン貰ってもいいですか? 御三方一つずつ」

「……サイン?」

「趣味なんだよ、イケメンのサイン集め」


 それはなんともまぁ、勇気のいりそうな趣味ですこと。



 戻ってきた帝翔の説明に三人は目を丸くしたが、一番に恋弥がしゃがんだ。




「どんなサインがいい?」

「……俰盤(わだか)って入れてください」

「ローマ字でいい? 漢字無理なんだ。異世界文字でも良ければ書くけど」

「なんでもいいです……!」

「お兄さんイケメンに見えるかい」

「はい」

「何番目にイケメン?」

「三」

「……身長?」

「顔」



 恋弥は凹みながらサインを描くと、少女の頭を撫でた。睦にも渡す。



「サインねぇ……どんなサインがいい?」

「おい」

「俰盤って入れてほしいです」

「漢字わかる?」

「和むの左に行人偏の()に円盤の(ばん)

「難しい漢字だねぇ」



 普通のサインだと悪用される可能性が高いので、かなり崩してほぼ読めないサインにした。この子には悪いけど、まぁ俺が見たら俺とわかりますので。




 陽泰にも渡すと、陽泰は睦の服を掴んで首を横に振った。



「サインなんてない……!」

「……普通はそうだよね」

「ここで考えたら?」

「……写真じゃ駄目?」

「顔に興味はない」

「イケメン好きなのでは……!?」

「イケメンの文字が好きなんだよね」



 帝翔の言葉にこくこくと頷く変な子供に困って、睦を見上げると睦は少し苦笑いをした。



「この人のサイン俺が描いてもいい?」

「うん。でも宛名描いてくれるならそれは描いてもらいたい」

「わかった」



 睦は陽泰(ようたい)葉笶(ようや)を漢字のままぐちゃっと潰し、何となくでそれを描いた。

 端っこに俰盤とだけ描かせ、ノートを返す。




「これでいい?」

「ありがとうございます」

「ね〜俰盤?」

「……何?」

「俺それにサインしてないよ?」

「ふーん」

「俺のサインは?」

「私は欲しいとは言ってないよ」




 帝翔は俰盤の頬を挟み、俰盤は帝翔を蹴ると疓憝(ねうら)の方に逃げた。



 帝翔がそちらに行こうと足を向けた途端、背中に衝撃が走る。








「集まるなぁ」




 帝翔と喧嘩する律を眺め、その大衆の後ろにいる天獄にも目を向けた。



 そして、反対の道で真顔で睨んでくる管理官にも。金の世代の四人集まっちゃった。



「ねぇ、子供たち大丈夫……?」

「大丈夫だよ。子供に手あげるような子じゃないし睦君いるし。それに……」


 あっちにも子供いるみたいだし。






 管理人は左顔面を片手で押さえたまま、小雨の方を向いた。


 手を振ると、そばにいた女の子を抱き上げる。










 ものの見事に揃った皆に、睦と陽泰は真顔の裏で至極面倒くさいため息をついた。




 帝翔と律が喧嘩して、天獄は幼女とオタクと顔の良さについて語り、エリオムは陽泰たちのところに行くこともできず端に立ち、やってきた小雨は睦のそでを引いた。




「管理人引きずり出しません?」

「悪化する気がするので嫌です」

「……あれ受けてもらえますか?」

「仕事は変わらず受けますよ」

「お願いですから休んでくださいね。なるべくスレッドが動きやすいにしますから」

「今までと変わらずで問題ありません。ただ根回しはもう少し待ってください」

「……もう十分ですよ」

「廃教会が欲しいなら望むレベルまで育てます。仕事ですから」




 小雨は少し困った表情をして、(みずち)は少し怖い睦に怯えるように小雨にしがみついた。




 二人の話が終わると、すぐに恋弥が睦の肩を掴んだ。



「なぁ抜けよう」

「陽泰」

「疲れた帰りたい」

「甘いもん食って帰ろう」

「本題を忘れるな」









 車の中から、去っていく三人を見送ってそれに気付かず喧嘩を続行する帝翔と律を見下ろす。やはり二人よりも佚世に鍛えられた三人の方が明らか能力がある。



 天獄は三人が消えると、顔面偏差値九十以上が消えたからかエリオムを連れて瞬間消えて行った。小雨は二人の喧嘩が終わるのを待ってんのか。




「……雨々驟、子供たち乗せて。行こう」

「はい。……帝翔!」

「くたばれ昼行灯」

「黙れ万年役なし野郎」

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