40.チェック
眉間を突き刺し、刀を抜いた。
なんで休暇中に仕事してんだろ。
斬っても斬っても起き上がる腐愚図共の首を刎ね、臓物をえぐり、眉間を、こめかみを貫き、ため息をついた。
刀の血を拭い、鞘に納める。疲れた。
ほんとに疲れた。昨日の夜から、これで六件目。二十三時から、今は明け方六時。七時間で六件。移動時間含めて一件一時間かかってない。どのくらいが、合格ラインなんだろう。
ふっと目を覚まし、起き上がった。
最近よく寝てる気がする。
陽泰が風呂に行ったのかシャワーの音が聞こえてくる。
リビングで机に突っ伏して伸びていると、陽泰が戻ってきた。
「起きましたか」
「ん〜。……お前怪我してんじゃん。こっち来い、せっかくのご尊顔が」
切れていた頬に薬を塗られ、ガーゼをべチッと貼られた。
「痛いんですが……」
「休暇中だろうが」
「幹部が二人も休んでるんです。仕事は溢れますよ」
「若手育たねぇなぁ」
「……ピステルがユグドラシル教の教徒を鏖殺してからスイハはピステルを警戒しています。トワイライトとしても今二組織が衝突するのは芳しくない。ましてや、トワイライトの問題がどちらかの組織に流れたら……」
「わかってる。三組織の長は誰も戦争する気はない。ただし上がそうでも下は違う。だからトップも警戒しざるを得ない。トワイライトの未処理が他組織に流れれば、それは戦争の火種になりかねない」
だから、今ボスは若手育成よりも三組織の安定を優先している。
「……まーそんな心配すんな。睦がもうすぐ戻ってくるし、俺もそろそろ復帰するし。子供は大人を頼っとけばいいんだよ」
「復帰するんですか?」
「まぁ体戻すとこからだけど。睦からも許可出たし」
「一班が発狂しますね」
「……エレベーター克服しようかな!?」
「せめて睦が帰ってきてからでお願いします頼みますから」
「んなすがられても……」
なんだかんだあって、恋弥が復帰し睦が本拠地に戻ってきた。
陽泰が入口まで迎えに行き、二人で歩く。
「頬っぺどうしたの」
「怪我した」
「仕事出たんだね。休暇中なのに」
「仕事なんて言ってない」
「じゃあどこで何やったの」
黙り込んだ陽泰の頬をつねる。
「不貞腐れるぐらいなら褒めろとでも言っとけばいいの。別に仕事出たのに怒ってるわけじゃないんだから」
「恋弥さんには怒られた」
「俺はあいつじゃねぇよ?」
睦の圧に、陽泰は何度も頷いた。
「……まぁなまらない程度にやるにはいいんじゃない。幹部から落とされたら大変だろうし」
「若手が育たない。情勢が不安定すぎる」
「普通はどうやって育てるの? 実践?」
「基本、吸収された組織でもない限り師匠的な人がいる。その人の仕事について行って見て、たまにやらせてもらったり。地位のある人なら幹部とか一班の練習に参加させてもらったり」
「陽泰とか恋弥にとっての佚世さんってことか」
「………………そう」
「……その練習っていうのは他の人たちは参加させないの?」
「人手が足りない。それなら仕事やらせて使える奴は鍛えて使えない奴は死んだ方がマシ」
「なるほどね」
睦が説明を聞きながら、珍しい陽泰の若手に対する愚痴を聞いていると、突然陽泰が足を止めた。睦も止まり、陽泰が見た方に振り返った。
「団達気さん」
「おつかれ。……誰?」
「はじめまして、睦です。一応恋弥の主治医として失礼させてもらってます」
「佚世さんが廃教会で見ていた人です」
佚世の名前が出た途端団達気の気配が変わり、パッと雰囲気が軽くなった。
早足で睦に近付くと、全身をチェックしていく。
「……これが?」
「これって言わないでください」
「これ佚世のお気に入りかぁ。恋弥とどっちが上?」
「……たぶんこっち」
団達気に執拗に観察され、その吟味するような視線に少し緊張していると、陽泰が団達気の袖を少し引っ張った。
「団達気さん、若手育てる気ありませんか」
「若手? あぁ、お前仕事行ってきたんか。おつかれ」
「若手がいないからボスの気が立つんです」
「……どうすっかなぁ」
団達気は腕を組むと、天を仰いだ。
「…………睦君だっけ、いい案ない?」
「設けてあげましょうか」
「うん?」
「トップ三人は会談を、下っ端共は鍛えて。下が潰れ始めているのはどこも同じですよ」
「よく知ってるな」
「スレッドの社長をやっておりまして。どこの組織の情報も民間人の情報も闇の情報も、本人から民間人から、政府から入りますよ」
睦が笑うと、団達気は微かに目を見張った。
表情豊かな団達気は久しぶりに見た陽泰はふっと頬を緩める。
「……ボスに聞いてみよう」
「是非ご贔屓に」
「ところで、睦君は佚世の弟子なんだよね?」
「はい」
「火事のことは知ってる?」
「はい」
「いっ……」
「本人から聞きました。事件の事後も真犯人も」
「佚世は真犯人知ってるの?」
「えぇ。全て」
「佚世は今どこに?」
陽泰も団達気も、他の誰も、どこもなにも見ていない睦は団達気の問いに、僅かな間を開けてから答えた。
「もうすぐ帰ってくるかと」




