表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Thread of World──世界の糸の物語──  作者: 織優幸灔&夜月夢羽
一章
57/124

37.興味

 スレッドに戻ってきた翌日、目を覚ますと目の前にグロウの顔があった。



 ユグドラシル教の教祖が降ろした女神様。





 こっちに来て以来あの変な圧は使っていないが、度々出現はするらしい。





 にこっと笑われたので思わず顔をしかめ、起き上がると身支度をした。



 とりあえず風呂。冷水風呂。




 体の芯まで冷やして、代謝で体温を上げる。







 濡れた髪のままもういなくなったかなと戻ると、まだ座って本を読んでいた。




「……何か御用でしょうか」

「ん〜? 君のご両親の話を聞きに来た」

「お帰りください」

「ご両親元気? 子供自殺しちゃったけど会いたいと思う?」

「両親は死にましたよ」



 睦が取り上げた本を棚に片付けながら告げると、数秒女神の言葉が止まった。




「……嘘ほんとに?」

「琵琶湖とともに八咫鏡の界魔(カイマ)も出てきて。俺が死ぬ前に富士五湖と皇居御所の鏡からも出てきたようですし、今日本大荒れですよ。まぁ日蔓(ひかづら)さんと静璐(せいろ)さんが生きてんで特に問題ないと思いますが。伯父もなんだかんだ言って強化用具は作っていましたし」

「…………そう……」



 女神の声から明らか張りがなくなり、それでも睦は気にすることなく椅子に移動した。




「もういいでしょう。出て行ってください」

「……君二回目はやらないの?」

「なんの」

「自殺」

「やりませんよ。社長になりましたし」

雨豪(うごう)さんに代わるんだろう?」



 Hgを開き、ミヤが処理した仕事のリストにチェックを入れ、グロウの言葉を無視する。馬鹿の戯れ言に付き合うほど心優しくはない。




 そんなことをしたせいか、グロウは立ち上がると後ろから睦に腕を回し顔を寄せた。




「今死ねば私がご両親のところに連れて行ってあげるよ。まだまだ愛されたいだろう。願うなら、両親と共に殺されたかったか?……自分だけを助けた日蔓を恨むか。私といれば死後両親の元へ行ける。君にとってこれほど幸福なことがあるのかな。また両親と、家族三人で過ごせるんだよ」



 手を止めて、ぼんやりとした睦を見下ろし薄く微笑む。

 家族との幸せを思い出させ、両親の死に際を写し、今の自身を見つめさせ、そのうち睦はグロウの方を向いた。




 成功かなと思って唇を近付ける。


 が、その前に口を塞がれ睨まれた。




「黙れドクズ。死後に快楽を求めるほど腐ってねぇよ」




 部屋から叩き出され、がくんと項垂れた。



 カツカツカツと足音が鳴り、見上げると呆れ顔のミヤが立っていた。




「ずいぶん睦に執着するようだな、ドクズ」

「聞いてたんならちょっとは助け舟を出してくれてもいいと思う」

「ミリも興味がない」

「でも睦くんの生前の話が聞けてよかったでしょ?」

「死人みたいに言うなよ」

「参界前か。……君のご先祖さま、神々(みわ)月火(げっか)と彼の母である未優(みゆう)はほぼ同一人物。君と彼は魂が似ているが故に共感性、感受性、性格や諸々の相性的にバッチリ」

「……で?」

「最高の妖力を持つ君とさい……」

「残念ながらお前の思惑が成功することはない。私には騎士(ナイト)がいるし彼は恋愛にクソほど興味もない。それは私もだ」




 階段を降りたミヤは足を止めると、本当に、これで生者を語るかと言うほど死んだ目でグロウを見上げた。




「現自殺志願者に(感情)を求めるな」
















 あの女神のせいでなかなかに腹が立ったので、気分転換に少し出かけた。脳之輔もいないし、どこに行こう。




 ぼんやりとしている間に無意識に足を向けたようで、ハッとした。

 また、廃教会(ここ)に戻ってきてしまった。




 まいっか。



 扉を開け、中に入った。




 二階に上がると、自分のスペースに入ってベッドに座った。


 定期的に掃除には来ているのでまぁ綺麗な方ではある気がするが。








 ため息をついて、横になった。


 ほんとに疲れた。



 社長なんて引き受けるんじゃなかった。向き不向きがあって、佚世を見ていたら自分は社長にはなれないとは思っていた。思っていたけど、まさかここまで酷いとは思いもしなかった。



 天才はほんとに、母や伯父、佚世、脳之輔。そういう人のことを言うんだろう。

 自分が天才でないのは、物心つく前から知っていた。


 当たり前に使う怪異の力(異能)に母が泣いていたのを覚えている。

 新しいフルーツを食べ、識別が使えるようになった。それを喜ぶのも束の間、母はずっと泣いていた。だから、それを使うのをやめた。聞かれても、視えなくなったと泣いた。そしたら皆、笑うから。



 役者に向いていたんだと思う。でも人に見られることが嫌いだった。

 自分は人をミるだけで全てがわかるから、普通の人は自分のどこまで知っているのかわからなくて、もし嘘がバレたらどうしようとだけ、ずっとそれだけを悩んでいた。だから昔からストレス性の白髪が多かったんだと思う。



 そもそもこの目の青のせいで、生まれた頃に両親は大喧嘩したそうだ。親二人が純日本人とは思えないほどいい顔をしているのでどっちかの遺伝子が出たんだろうけど。てかどっちの遺伝子も出たんだろうけど。


 結果的に二人の子とDNA検査でわかったからよかったものの、たぶん不幸な星の元に生まれたんだろう。それが生まれた時から出たって感じ。





 きっと神様が後押ししてくれたんだと思う。



 元々自殺には興味があった。

 ロープを買ってみたり、ナイフを買ってみたり、さすがに七輪は買ってないけど。


 両親に精神科に連れて行かれたこともあったが、一般人を演じていれば『知能の高い子供』で『死に興味を持った』と説明してもらえた。

 両親はその興味を止めることはなかったけど、ロープやナイフはリビングの人目につくところに管理されどこかに持ち出すのは禁止。使う時は両親と一緒という約束になった。



 あんなんやろうと思えばすぐ持ち出せたけど、今すぐ死にたかったかと言われると別にって感じだし、特に人生に絶望してたとかいじめられてたとか嫌いな人がいたとか、そんなんじゃない。ただ、天才に囲まれた凡人は生きる意味がわからないだけ。




 父に自殺した人や凄惨な事件のまとめ動画を見た話とかをして、父や伯父に人体の話や死に方の話を聞くことが増えた。


 屈託なく笑えば皆ただの好奇心として受け取ってくれるから、それで色々誤魔化してた気がする。








 正直、両親の死に際はいまいち覚えてない。



 元々界魔とは頻繁に戦ってたし、そのせいで死に興味があったのかもしれないけど。



 両親が死んだあとの一番最近の記憶は、葬式だろうか。界魔を殺すのに二日ほどかかって、当然遺体なんて残らないから骨もなかったし。


 葬式で、元々あった鏡界館(キョウカイカン)という組織の人々と会ったのは覚えている。



 皆泣くのに笑うのはおかしいかと、でも嘘泣きとかそんな嘘で誤魔化せる場面でもなかったので、普通に無表情だった気がする。




 両親に捨てられた母を鏡界館で育てた日蔓(ひかづら)さんって人と、母の同班だった静璐(せいろ)って人と、父の兄姉と、たくさんの人にうちにおいでって言われてたけど、その時は何故か断った気がする。その時には無意識下で自殺が決定していたのかもしれない。



 首を吊れるような場所がなかったから、学校の屋上から飛び降りてもよかったけど、人に迷惑がかかるから。他の皆が怖がったらいけないし、だから部屋で手首を切った。


 少し朦朧としたところで首を刺して、刺したはずだったんだけど。




 今でもその痛みは明確に思い出せるし、ナイフの先が骨に当たった感覚も手に残ってる。それでも、こんな世界に来てしまったんだから、神様も酷いと思う。自殺を後押しするなら環境を整えるより先に、運命の自殺道具に巡り合わせてほしかった。そんなんあるか知らんけど。





 女神には自殺はしないと言ったが、参界者の皆に死に方を聞いてしまうのは、もはや癖の一種だと思う。だって皆楽しそうに笑うんだもん。なんで自殺して楽しく笑えるのか、今が本当に楽しいのか、余程吹っ切れるような死に方をしたのか。興味湧くなという方が無理。



 特に辛いこともなく、興味のあったことを誰にも止められることなく遠慮なくできるのは、ほんとにいい環境だったと思う。


 強いて言うなら、頭にある自殺方法全部試したかったんだけど。さすがに怒られそうだから、やめとこうかな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ