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Thread of World──世界の糸の物語──  作者: 織優幸灔&夜月夢羽
一章
55/124

35.ロック⑵

 少し騒ぎになって、道行く人々が足を止めた。




 連絡を入れると恋弥と陽泰もやってきて、不機嫌そうな天獄もやってきて。でもエリオムが見えると飛び付いて上機嫌になったが。ちょろすぎるだろこの人。





「お前それあいつのHg……?」

「そう。また行く機会あったら開けて中整理しといてって預けられた」

「いーなー」

「これ終わったらあげる」

「まじ? メール漁ったろ」

「好きにしなさい」




 恋弥が逃げようとする陽泰をがっしり掴んで、睦は佚世のHgを少しいじる。


 こちらはもう十年近く前の機種なのに対して、ウイルスは最新製の高機能。こっちからは対応できない。つーかこの人Hgいじりすぎだろ。使いにくい。




「……駄目だ喰われる」

「どうすんの?」

「手っ取り早いのは扉側に繋げて解除してからHgの解く。Hg(こっち)でも頑張ったら解けるけど扉の入ってるせいで即侵入される」

「それしかやりようないじゃん」

「今の機種(タイプ)ならこっちからアクセスして破壊できんだけど、なんせ古いし使い慣れてないからスピード勝負は不利だし。こっちの放置して情報抜かれても危ないからなぁー……」

「どうすんの?」

「……陽泰、俺のカバン持ってきて?」

「わかりました行ってきます恋弥さん離してください」

「三分で戻ってこい」




 陽泰は瞬間消え、睦は扉に背を付けるとしゃがみ込んだ。恋弥と、エリオムも反対隣にしゃがみ覗き込む。何してんのかわかんねぇ。



「この機種でも頑張ったら逆探知して相手のHgに侵入できるんだけどさ。さすがにトワイライトの本拠地で喧嘩売りたくはないからさ。やらないけどさ」

「スレッドならやるんだな」

「うん」

「前の世界ので太刀打ちできんの?」

「たぶんクラッキングとかウイルス系だったらこっちの方が強い。俺作ったウイルスが食い尽くすし」




 五分ほどすると、ふらふらの陽泰が戻ってきた。



 恋弥は荷物を受け取るとパソコンをエリオムに渡し、エリオムは睦に言われた通り慣れないパソコンを操作した。



 アプリを開き、コードをHgに接続した。



 これは政府特注品。




 パソコンを繋げると、睦は得意そうな笑顔を浮かべ。


 恋弥にHgを投げ、パソコンとマウスを膝と床に置くとウイルスを睦の防御ウイルスで防ぎ、即鍵を開けた。



「扉開けて」

「ん」



 恋弥が扉を開けると、周囲にいる大衆が一部中を覗いた。瞬間、顔を引きつらせる。

 興味本心で中を覗く者と、睦たちに見とれる者と。





 睦はものの五分ほどでハッキングされたHgと扉のロックを直した。




「よし」

「なにしてたか全くわからん」

「ウイルス防いでる間にロック側のウイルス駆除してHgも戻しただけ」

「ふーん」



 睦はパソコンを片付けると、陽泰にそれを持たせる。



 さー中に入ろうと扉を開け、顔を引きつらせた。




 中は玄関の先に一本の廊下、その廊下の壁や床、果ては天井にまで、なにかの引っ掻き傷や切り付けた跡、そして血溜まり、血溜まり、血溜まり。



 虐殺現場みたいな状態。




「……え、あいつ死んだ?」

「なわけ。大丈夫?」

「平気」




 恋弥も特に問題なさそうなので、睦と恋弥と陽泰、脳之輔とシィーで中に入った。陽泰は嫌そうだが、おとなしく恋弥に従っている。嫌より興味が勝ってるな。


 エリオムはボスを家に返しに行った。




「俺あいつの家初めて入った」

「俺もです」

「誰も入れたがらなかったからね。私は何回か入ったけど、イツの部屋しか入らなかったし」

「6LDKなんですって。でっかっ……!」

「どゆこと?」

「6部屋とリビングダイニングキッチン」

「広ッ!?」

「さすが一番大きい家なだけある……」





 シィーは各部屋を回ってヴィールヒの何かしらを探すらしい。

 睦は、ずっときょろきょろ周囲を視回している。




「……わりと佚世さんの血も混じってるなぁ」

「……死んだ?」

「死んでねぇって」



 ただ、佚世の血は床や壁に所々とだけ。全面にあるのは、やはりヴィールヒの血か。




「……ヴィールヒって人、もしかしてヴァルパの人じゃない?」

「さぁ」

「でも……たぶんそうですよね。生まれとか誰も知らないって言ってましたし」

「イツならもしかしたら知ってるかもしれないけど……」

「トワイライトの人員記録とかないの?」

「あの人役職持ちじゃなかったもん。シィーは知らんの?」

「陽泰聞いてきて」

「一人で……!?」

「私も一緒に行こう」




 陽泰は脳之輔と来た道を戻っていき、恋弥はそれに盛大に呆れた。家の中ぐらい一人で歩け。




「……お前はここになんの用があんの?」

「佚世さんに回収しといてほしいものがあるって頼まれてて」

「何?」

「わからない。木箱に入ってるって言ってた。見たらわかるよって言われて」

「ふわっとしすぎだろ」

「たぶん政府にバレるのが嫌だったんだと思う。あの時教会の四方八方に政府がいたから」

「あー」






 佚世の部屋はロックがかかり、これはHgをかざすだけでウイルスはいなかった。さっきのウイルスはほんとに、誰かの侵入を報せるためだけのものか。




 中は木目調で統一された綺麗な部屋で、ただベット等はなかった。


 机に、ある壁全部に本棚と、一部には本が積まれたり散乱したりしてるものの。

 床はカーペットで、机には何かのノートも置いてあった。




「懐かし。あいつが読んでた本だ」

「佚世さんも読書家だったんだ」

「俺も陽泰もスモッグも、俺らの世代の奴は皆佚世から本貰って読んでたから」

「教会に本はなかったからなぁ。患者でそれどころじゃなかったし」



 全部焼けたと思っていた恋弥は本棚の本に目を通し、佚世が最後の方にずっと読んでいた医学書やジュワルパの研究論文を手に取った。



 医学書は二冊とか三冊とか持つ癖があったけど、ジュワルパの研究論文はヴィルパではレアでオークションで数億で競り落としたとか言っていたはずだ。ずっと本部にあったのに、なんでここにある。




 レア論文も、帝翔から貰ったと言っていた激ムズの物語も、めっちゃでか重い図鑑や人体解剖図、異世界目録まで、全部本部にあったはずだろ。




「……睦」

「恋弥〜」



 二人の二人を呼ぶ声が被り、二人は目を丸くした。


 その次に発した、何という言葉さえも被る。



「何? どうした」


 睦はノートを持つと、恋弥の方に寄ってきた。



「本部にあった本が全部ここにある。オークションで落としたやつも人から貰ったやつも、世界に数冊しかないとか言って大喜びしてたのも。全部、火事の日も本部の本棚は埋まってたのに」

「……もしかしたら佚世さんは火事を予知してたのかもね」



 恋弥は本を取る手を止めて、いやそんな馬鹿なと眉を寄せた。


 寄せたが、いやそんな馬鹿なと言えないのがあいつなんだよなぁ。




「……あり、えるかも、しれない……」

「佚世さんだし」

「うん……。……あ、で、お前は何?」

「あーいや、これなんのメモかなと思って」



 睦が開いたノートを覗き込むと、中には恋弥の世界の文字で何かが走り書かれていた。



 睦はずっと恋弥に言われたように翻訳ノートに書いていたので、詳しい単語は知らない。




 恋弥が覗き込むと、首を傾げた。



「これ俺の世界の古語だな。古語は読めるけど、意味はわからん。……お前視えねぇの?」

「なんか知らないけど効かないんだよね」



 小雨なら読めるだろうか。いやでも、佚世のノートを見せたらなにかバレるかもしれないし。




「……まいいじゃん。それより木箱は?」

「えーと……」




 あの人のことだから隠してそうだなぁと思って、それも常人には見つけられないだろうなぁと思って、識別を開いた。途端、ビクッと心臓が跳ねる。




「どうした?」

「い、いや……びっくりした、地下があった」

「ここ四階なのに?」

「……あー」




 ここは山の中だ。家に二階はなく、天井=次の階の床になっている。マンションは階の区切りを突き抜けているか、その階全部マンションでマンションの天井が次の階か。


 それを利用したらしい。

 下の階のマンションの最上階とここを繋げている。




「下の階に繋がってる。どっか階段か穴……」



 きょろきょろと見回すと、左奥、机の隣の、本棚の下に穴を見つけた。



「……これ動かせる?」

「これ……!? 」



 中には相変わらず本が詰まってますけど。



「下に移動して上がった方が早いだろ」

「でも下二階からのマンション」

「……行くか!」

「手伝ってね」




 二人、というか、ちょっと動いたあとは恋弥が本読始めたので睦がほぼ一人で。



 本棚を引っ張る。


 薄いカーペットが敷いてあって、重みあるものの力のある睦なら一人でも動かせた。




 本棚の下には、ギリ人が一人入れるかぐらいの穴が空いていた。


 恋弥は本に夢中だし、一人でいっか。脳之輔たちももうすぐ来るだろうし。













 睦が一人で穴の中に落ちていったのを見送って、続けて本を読んでいると、脳之輔と陽泰がやってきた。




「……あれ、睦君は?」

「その穴の中です。戻ってくるまで待っとけですって」

「……わぁ懐かしい本が山のように……!」

「ジュワルパの研究論文ありましたよ」

「わー!?」



 脳之輔は大喜びして、陽泰は疲れたようで恋弥の隣に座った。



「あいつ本人が出てくるわけじゃねぇんだから気楽にしてろよなぁ」

「だって圧が……」

「わからんでもないけど。ちょっと休め」

「はい……」










 それから二十分もしない頃に、睦は二箱を二つ持って下から上がってきた。

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