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Thread of World──世界の糸の物語──  作者: 織優幸灔&夜月夢羽
一章
52/124

32.雑貨屋

 ユグドラシルが解決して一ヶ月経っても恋弥が回復することはなく、それでも床になら寝転がれるようになったのと、悪夢で起きるほどうなされることはなくなったのはいい進歩。


 来週末辺りに本拠地に移動する予定。




 というのも、本来なら解決したらすぐに移動したかったのだが、色々とあったのだ。大きいのは、スレッドに例の女神ともう一人、陽泰のクラスメイトになった零曇(あまり)水尋(みつね)が出入りするようになったというもの。



 女神様、グロウと言うらしいが。その人は雨豪と度々刀で盛り上がり、ちょっと意外だったのが響皐月が水尋に懐いてくれたこと。

 水尋は感情の起伏が著しく低いので、無邪気な子供とは凸凹が上手くハマってくれたよう。


 小雨も当初は警戒していたが、水尋を重要人として政府管理下にした上で接触を許可した。相手が響皐月なのでなにかすれば死ぬのは水尋だとわかっているのもあると思うが。





 それと、政府に留置されていた比奈風(ひなかぜ)莉央奈(りおな)が学校に戻ったので陽泰が仕事を言い訳に学校を休むことが多くなったのもある。

 来週から長期休みが始まるので陽泰も一緒に移動する予定。











「おかえりー」

「好きだなぁ将棋」

「だってここでチェスできねぇもん」

「床でいいならできるけど」

「こっちやってるしいー」



 ほぼ一日一食、よくても二食生活の恋弥はほぼ動かないにも関わらずかなり痩せた。体戻すのは大変だろうな。ほぼ銃撃戦なので関係ないか。






 睦が風呂に行き、恋弥が将棋のAI()相手に悩んでいると、部屋にノックが鳴った。



「はーい」

「恋弥さん、睦帰ってきましたか」

「風呂入ってる。待っといていーよ」

「ありがとうございます」



 勉強ペアが勉強道具を持ってやってきて、カーテンの閉まっている窓辺の席に座った。



 陽泰とエリオムがノートを開くと、恋弥がふらっとやってくる。


 陽泰の背に腕を置き、中を覗いた。




「わぁノート綺麗」

「普通かと」

「頭いいなー。でも誤字が酷い」

「読めればいいんです」

「景矢のノートは時々読めないから睦が翻訳してんだって」



 陽泰はビクッと震えると、恋弥を見上げた。

 すぐにノートをエリオムに差し出し、読めるか確認してもらう。



「……まぁ書いてある内容がわかれば」

「気使われてんぞ……?」

「気を付けます……」



 ノート返却が遅い理由がわかった陽泰が凹んでいると、睦が上がってきた。


 風呂上がりは相変わらずの色男。



「あ? 二人とも来てるじゃん」

「差し支えなければ勉強を教えていただけたらと」

「いいよ」



 恋弥は風呂に行き、その間に睦は二人に勉強を教えた。


 陽泰が書くのが遅いと思ったら、字を丁寧に書くのを頑張ってる。



「元々綺麗なんだから誤字脱字さえ気を付けたら問題ないよ」

「……睦は前の世界の文字と混合は?」

「ん? 同じ文字だもん」

「あそう……。景矢は全然違うのに」


 あれはガッツリファンタジーな世界だからなぁ。



「エリオムさんも文字は同じですよね?」

「はい。……歴史の違いなのか、漢字は多少違いますが、ほぼ同じです」

「ですよね〜。景矢とか枯梨は全然違うんですが。……恋弥も違ったらしいですし」

「皆名前は似てるのに」

「いや似てないよ。こっちに来て目立たないように偽名を使ってるだけで」



 睦がそういうと、二人は初情報だったのか目を丸くした。



「睦も?」

「俺は馴染むから本名だけど。それこそ、景矢も枯梨も恋弥も雨豪さんも響皐月も、天獄(てんごく)さんは知らないけど」




 陽泰がエリオムを見ると、エリオムは首を横に振った。



「私提案されてません……」

「エリオムさんはスモッグ的な名前の人がいるからでしょう。景矢たちにはミドルネームもラストネームもありませんし、意味がわからん名前だと参界者の可能性が浮上しますから。景矢はわかりやすいんですけど、名前の由来が旅人を意味しますし」

「へぇ」

「名前を知りたいなら本人に直接聞いてね」




 陽泰は頷くと、いそいそと勉強に戻った。




 懐かしいな、恋弥はこちらの文字を書くのが遅かったので、授業ノートとは別に佚世が翻訳ノートを書いていた。まぁ後半は睦になったけど。


 教師も佚世も、経由されていた睦も大変。当の本人は大喜びだったのでまぁ別にいいが。







 学校も授業受けるのは楽しかったなぁと思い出しながら二人に教えていると、恋弥が風呂から上がった。


 そそくさと布団にダイブすると、足を床に付けた体勢のまま眠り始める。


 最近は眠ることに抵抗もなくなったようだし、体調も回復しやすいかな。




「恋弥さん寝ましたし今日は帰ります」

「うん。……陽泰次空いてる日ある?」

「……明明後日の午後はまだ仕事も入ってない」

「買い物付き合って。……エリオムさんも」

「私ですか? 私は大丈夫ですが……」

「じゃあ空けとく」

「ありがと。じゃあおやすみ〜」

「おやすみ」

「おやすみなさい」

















 ということで、今日は睦とミヤと景矢と陽泰とエリオムの五人で買い物。



「私この世界に来てから買い物は初めてだ」

「私はボスと何回か。わりと前の世界とはあんまり変わらない印象だったよ」

「じゃあ大丈夫かな」


 ミヤとエリオムは一つ違いだが、二人とも大人びた子供なので話が合うようだ。このタイプは、凹凸でハマることはないんだろうな。




「睦さん、なんで俺まで……」

「ちょっと頼みたいことがあってさぁ?」

「頼み事……ですか……?」

「そそ。一枚書いて欲しくて」

「それぐらいなら全然……」



 景矢は珍しい睦のお願いごとに首を傾げ、正直既に疲れてきた陽泰は一人でため息をついた。帰りたい。




「じゃ行こう」

「何買うんですか?」

「色々!」




 女子たちの夏服を数着買ったあと、睦は俗に言う雑貨屋に入った。



 文房具コーナーで万年筆を眺める。



「万年筆ですか」

「ん〜まぁ欲しいのはシャーペンなんだけど。学生四人、好きなの選んでいいよ」

「じゃ私これ!」

「はいはい」



 破顔する三人とは別に、ミヤは四色ボールペンとシャーペンの出る無難なペンを選んだ。色は今から。紫じゃないんだろうか。



「え、睦さん……?」

「政府から支給されるの、重たいでしょ? 景矢が魔法描くのに使ってるペンはもっと太いし特注でもいいかなぁとも思ったんだけど、あれでノートに文字は描きにくいだろうし。……何件か回ってもいいよ」

「いや……」

「陽泰は決まったかい」

「いまいち」

「ちなみに佚世さん使ってたのこれ」

「じゃそれ以外にする」

「そうかい。じっくり選びなさい」



 エリオムは昔使っていたお気に入りのペンと似ているのを探しているようで、ミヤは未だ戸惑う景矢にありとあらゆるペンを推し勧めていた。一旦待ってやれ。







 学生四人のペンを選んだあと、睦はふらっと寝具のコーナーに移動した。



「……ぬいぐるみ?」

「恋弥寝るのにさぁ。いつまでも俺が掴まれてたら俺が寝不足で事故死しそうだから」

「え寝てないの……?」

「うなされたら起きれるようちょっと意識あるよ。だから恋弥とほぼ同時間の十一時間ぐらい寝てる」



 一般人かと思っていたら超人だった睦に愕然としていると、睦はそれに気付いたのかふっと遠い目をして微笑んだ。



「慣れだよ」

「おつかれさまです」

「まぁいいけど。どれがいいと思う?」



 睦は恋弥用の抱き枕を陽泰とエリオムとともに見繕い、その間にミヤは遠慮の欠片もなく睦に買ってもらうノートとファイルも見る。学生は文房具必須は、どこの世界も変わらない。




「……これにするか」

「あぁ」

「睦、これも」

「陽泰持って」



 ぬいぐるみを渡された陽泰はそれを流れるようにエリオムに渡した。うん。



「お会計してくる。……先出といていいよ」



 睦とエリオムが会計に向かったので、三人は一足先に外に出た。





 景矢は睦に頼まれた魔法印を考えるのに俯き、陽泰は恋弥の暇暇メールに夕方前には帰ると思うと返信し、ミヤは小さくあくびをする。

 目立つので猫又はいないが、中で猫又もあくびをしたのがわかる。




「飽きてきた」

「もう少し待ってて。さっきまで大喜びだったくせに」

「自分の金使わずものが増えるのはいいな、金銭の心配がない」

「無遠慮すぎる」

「知ってる」



 ミヤがケラケラ笑い、景矢が呆れていると、三人の前に誰かが立った。



 ミヤは見上げると、微かに首を傾げる。




「なにか」


 がたいだけはよさそうな男だけど。



「な〜君ら三人だけ? 俺らと遊ぼ?」

「……こーゆーのナンパっていうんでしょ」

「そしてあーゆーのを逆ナンという」



 ミヤが指さした先には、明らか陽泰を狙っている女性陣ができていた。男がミヤを、女が二人をって感じにしたいのかな。



「顔効かせろよトワイライト幹部」

「神迎連れてこい参界者」




 二人のその、とても簡潔かつ脅すのには十分すぎる会話に皆が顔を引きつらせると、ちょうど店から睦とエリオムが出てきた。さらなる美男かつ権力者の登場。



「三人とも行くよー」

「は……」

「雪君ッ!」

「あ、お久しぶりでーすこんちゃ。手出したら佚世さんも俺もブチギレますよ」



 三人の前に立った男はしゅんっと凹み、にこやかに手を振った睦は三人と合流すると、だいたい知り合いの女性陣を笑顔で散らせてショッピングを続けた。




 ミヤとエリオムは、もう戦慄。この人顔面凶器だ。知ってたけどね!

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