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Thread of World──世界の糸の物語──  作者: 織優幸灔&夜月夢羽
一章
51/124

31.女神

 二ヶ月が経とうとする頃には、ジュワルパとの会談も終わり、あとは参界者確保に動くだけとなった。




 本来ならジュワルパの住民が悪事を働けばその地の法で捌くのだが、なんせ参界者。今回ばかりは特例で治外法権を認め、ヴィルパが戦争を回避した形になった。

 ヴィルパが回避したといっても、戦争になればヴィルパが勝つのに変わりはないが。










 律からの情報もある程度揃ったようだし、あとは参界者を確保して引き渡すだけ。一応戦闘員として睦とミヤが行くことになった。


 景矢と雨豪には残りの子供たちを頼んで。






 睦とミヤは隣に座り、向かいに小雨と蜃。遊樹機での移動。




「恋弥さんの様子はどうですか」

「特に変化はないです。慢性的な寝不足に陥って最近は部屋からもいまいち出れないようで」

「……こちらもなにかあればすぐに動けるので。なんでも言ってください」

「……一段落したら本拠地に移そうかと。あっちの方が療養面でも精神面でも助かることが多いと思って」

「わかりました。……睦さんも?」

「悩んでます」

「雨豪さんの技量次第ですか」

「……響皐月が雨豪さんに懐いてくれて安心はするんですが……まぁ、懐いてるならそれでいいんですが。…………小雨さんもいるし大丈夫かなぁと」



 睦の濁したような言い方に小雨は首を傾げ、ミヤは少し目を伏せた。



 今でさえ、睦がいなくなって初めは大泣きからの、今は雨豪から離れようとしない。睦が離れると知ればどうなるのやら。





 睦は有能だ。有能だからこそ、その背には耐えきれないほどの責任という重荷が乗っている。


 それはわずか数個、十にも満たない数でありながら、世界の宝と称され、一度死んだ命を死なせてはならないという、普通の命よりも重い責任。





「いっそ響皐月さんも連れて行っては?」

「さすがに危ない気がします」

「一度聞いてみてください。これ以上睦さんにもストレスがかかるようなら全て政府で対処します」

「…………はい」















 一時間もかからないうちに、リオの崖のある島端部ニーズにやってきた。



 遊樹機から降りると、ミヤが猫又を出した。




「その子座らせよう。猫又がいる限り怪我することはない」

「助かります」


 小雨が猫又に蜃を降ろすと、蜃はふわふわ浮いているそれが不安定で怖いのか小雨から手を離さない。



「落ちる……!」

「落ちないよー……」

「ミヤ、大きくしてあげて」




 大きくして、少し安定すると、蜃はゆっくり離れた。


 しっぽに掴まると、猫又は呑気に鳴く。



「大丈夫だってさ。君がどんだけ暴れても落ちることはないよ」

「ほ、ほんとに……?」

「あぁ。私のペットは優秀だからな」

「ペットて」

「……行こう」



 ミヤと小雨の視線が鋭くなると、すぐに移動を始めた。







 睦は森の中を視回し、人がいないことを確認する。



「誰一人としていませんね。律さんが根こそぎ取ってくれたようです」

「さすが心の神ですね」

「心を操れると言えどそこまで順調に行くか?」

「恐怖と心酔に染まった人間は操りやすいからね」





 しばらく歩くと、ユグドラシルの本拠地、神殿とでも言うかな。真っ白な建物が見えた。



「新しく建てた?」

「うん。……歴史はない」

「元々この辺りも森でしたから。相当な人数で切り開いたんでしょう」








 神殿内部には、何故か景矢の世界にあるランプが多く吊られていた。



 睦の案内で二人がいる奥の間へ。今日は最奥の間にはいなかった。




 小雨が銃を構え、神迎二人が扉を開けた。






 奥の間の中は礼拝堂というか、中庭というか。

 真っ白な部屋の中には一本の木がそびえ立ち、その横に信仰対象なのかなんなのかの像。んで、木の前には一つの玉座。


 その玉座に座る少女は祭服のフードを脱ぐと、手を差し出した。




「控えよ」




 ゾッと圧がかかり、皆が膝を突き、数人は気絶する中、ミヤと猫又に座る蜃だけはケロッとする。



「……我は神に愛された神子なるぞ。頭を垂れ崇敬せよ愚者め」

「黙れクソガキ」



 ミヤが手を振ると、全員の圧が消えた。小雨は咳き込み、降りようとする蜃を猫又が抱え込む。



「神に愛された神子だと? 私のペットは神に通ずる猫又だ。神が使いに負けるわけがないだろう。神に愛された神々(みわ)である私もまた、お前に負けることはない」

「黙れ、虚辞を連ねるな不届き者。化け猫が神だと? 神を冒涜するのも大概にしろ」

「ほう?」

「我は万物を見通す眼を持つ。我に嘘は通じぬ」

「それは神に愛されたギフテッドとやらか?」

「その通り。我は神より世界の秩序を託されたのだ……!」

「それはそれは。可哀想に、魂が腐ってるんだな」



 ミヤの嘲笑う言葉に参界者は怒り心頭で、勢いよく立ち上がった。

 両手をかざすと同時に、付きの男が剣で襲いかかったのを睦がミヤの前に立ちそれを受け流した。




 感覚を腕に集め、男の背を押すと腕を背に引っ張った。



 すぐに神迎が確保し、その間にミヤは少女と力比べをする。



 猫又がもう一体出てきたかと思えば、それはみるみるうちに巨大化し口の裂けた化け猫になる。



「異形め……!」

「神に愛されたと言え。そもそも神などいないし、少なくともお前は神子ではない」

「黙れ! 我は神に仕える者! お前のような反信者はこの世にはいらんッ!」






 突然、ミヤの力ではどうしようもない類の圧が全員を押し潰した。



 猫又は蜃を連れて離れ、ミヤも少女も膝を突く。




「あぁ……神様……! 助けに来てくださった……!」




 ミヤと少女の間に誰かが浮かび、地面に足が突くと同時にその圧がふっと軽くなった。



 変わりに、ゾッとする気配で冷や汗が吹き出し、指先が震えた。




「神よ……! 不届き者に、神を冒涜する愚者に天罰を……!」



 少女が膝立ちで神に縋り付くと、神は少女の頬を強く叩いた。



 少女は愕然とし、ミヤも、何が起こったかは知らないが敵対した奴がいい気味に遭っているという状況に口角が上がった。




「下がれ、愚図はどちらか。こちらの世界に来たとはいえ神々(みわ)の次期当主に力を行使するなど、頑冥不霊にもほどがある」

「……な、ぜ……」

「これ以上話すことはない。お前の()()としての役割は終わりだ」




 そういうと、神に手を伸ばした少女が突然倒れた。首を押さえ、失神する。




「……痲宮(まみや)だな」

「そうだが」



 猫又を杖に立ち上がり、神とやらを見上げた。




 白銀の瞳に、銀の髪の美女。わぁ。


神々(みわ)月火(げっか)の子孫だな」

「そうだが。高貴な神たるお前が私なんかに何の用だ?」

「……ただの確認だ。月火(げっか)火音(ひおと)の血は途絶えていなさそうだな」



 女神はミヤの頬に手を滑らせ、ミヤが眉を寄せると同時に化け猫がその腕に噛み付いた。

 ガシガシと執拗に噛んで、女神はそれを振り払う。血まみれ。



「……ちゃんと役割を果たしているようでなによりだよ」

「よしよし」




 女神の血が地面に垂れた途端、二人の横を小雨が走った。



 少女の頬に手を当て、ただでさえ引いている血の気が真っ青になる。



「息してないしッ……!」

「治せ猫又」

「治さなくていいのに」

「これが死んだら戦争が起こるそうでな」



 女神は腕を組むと首を傾げ、ミヤは猫又を憑けてから本体の方を呼び寄せた。



 睦のそばに行くと、座っていた睦は顔を上げた。



「終わり?」

「あぁ。……大丈夫か?」

「うん。特になんも起こらなかったし、思ったより楽だった」

「だな。私の力で収められる範囲内だったのがラッキーだ」




 ミヤが小雨の方を見ようと振り返ると、真正面に女神のご尊顔があった。


 びっくりして、思わずあとずさると睦の手を踏んでしまった。




「痛っ」

「あ、悪い……」

「痲宮があれの力を制御できたのはねぇ、痲宮の四代前の人が死んで生き返ったからなんだよ」

「……そういう話は全部受け継がれている。死んで不審者が生き返らせて妖輩の改革があったと」

「おぉ。じゃあ、刀もある?」

「あるが。なんで刀を知ってる」



 睨まれた女神はその圧に、久しぶりに肝が冷えた。

 ミヤの手を借りて立ち上がった睦も、ごく稀に出す恐怖でしかない圧を垂れ流す。



「……私も神々に友人がいるからだよ。神様だからね、か……」

「曾祖母からは不審者は全世界で唯一神の手から離れてなお形を留めた世界と聞いたが」

「そこまで……。……私は神だけどその世界を支える神とはまた別の部類。どちらかと言えばこの世界の神様と同類だね」

「そうか。まぁなんでもいいが。刀なんて持ってないし私はまるで興味がないからこの話は終わりだ。先戻る」

「はーい」



 一方的に話をぶった切ったミヤは手を振りながら去っていき、睦は女神の隣を通ると小雨の元に向かった。

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