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Thread of World──世界の糸の物語──  作者: 織優幸灔&夜月夢羽
一章
45/124

25.マント

 ユグドラシル教の動きに混乱しながらもとりあえず大方は把握できた。




 そんな中で、夜中に小雨は目を覚ました。



 少しぼんやりしてから、起き上がってジャージに着替える。











 銃を持って、外に出た。




 夜勤の数人しかいない本館が、数分後警光灯で赤く染った。






『侵入者デス。侵入者デス。神迎ハ直チニヒトマルフタゴ(1025)ヘ集合。管理官、指揮官ハ至急ヒトマルフタゴ(1025)ノ警備強化ヲ命ズ』






 数秒してすぐに騒がしくなる。



 一番早くに1025に着いた小雨は、まだ中にいた一人の足に発砲した。





 それと同時に館内の各場所から数回、発砲音が聞こえる。



 そのあと、すぐに警光灯が消えた。




千譜結(ちふゆ)!」

「おう」

「怪我は?ってお前心配するだけ無駄か」

「失礼なこと言うなボンクラ」




 やってきた長小雨(ながさめ)は少し安心したように笑うと、中に入って気絶している者を回収した。気絶てか、多量出血で死にかけてる。止血はしとかないと、情報は宝なので。





「……特に変わったとこはないな。よく被害出る前に動けたな」

「直感。起きて散歩来たらこうなった」

「相変わらず不思議な感覚か。蜃ちゃんの夢といい伯父様の危機感知と言いお前の気分の第六感といい、管理官になる奴は皆変な感覚持ってるな」

「……まぁ才能的な何かではあるのかもしれないけど。管理官に関係はないだろう」



 実際、兄は持っていなかったし蜃を管理官にする気はないし。




「戻る。処理は部屋に回しておけ」

「了解」















 その昼間、小雨は荒らされた1025を見て絶句する。




 明朝、襲撃があった場所。その時は何もなかった。



 侵入者が全員捕らえられたのを確認して警光灯は消えたのに。ユグドラシルの刺客たちが羽織っていたあの外套(マント)、姿の消えるあの外套(マント)が、全て盗まれた。





「小雨管理官……!」

「……システム室にいる者を全員検問にかけろ。中央門を閉じろ! 外に出たものは即刻捕らえよ!」

「はっ!」




 すぐに神迎と長小雨が動き、小雨は降水を連れてエレベーターに向かう。




 あの外套(マント)の効果は小雨が直接報告した者とその効果を見た者しか知らない。ユグドラシルが回収しに来たと考えるのが妥当か。


 警備システムに入り込んで、警光灯消し、侵入者は全員捕らえたと勘違いさせた。またはシステムが再度発動しないよう細工した。

 なんにせよ、警備室に入られたのは間違いない。




 あれを取られると、影を把握するか景矢を呼ぶかになってしまう。てか、なってしまった。厄介だ。



 あれが未完成品なら、完成品が出てくる前に叩かないと。もし完成で影まで消えたら、景矢に頼り切りになる。それは参界者を保護するものとして、民間人を守る政府として、絶対に避けないと。










 エレベーターで地下三階まで降りると、受け付けの前に立った。




「拘留番号四に面会をお願いします」

「身分証、パスワード、指紋認証、色彩認識をお願いします」



 身分証とともにHgを渡した。


 降水は背を向け、目を閉じた。




 パスワードと指紋認証、色彩認識が終わるとようやく鍵を渡された。



「右側三つ目のお部屋です」




 鍵を受け取り、降水を置いて奥に向かう。



 三つ目の部屋に入り、椅子に座ると、神迎とともに零曇(あまり)水尋(みつね)が入ってきた。



 椅子に座って、小雨を見上げる。




「こんにちは」

「ユグドラシルが外套(マント)を回収しに来ました。あれを作れる人間がいるんですか?」




 水尋は薄く笑ったまま、こてんと首を傾げた。



外套(マント)?」

「透過する外套(マント)です」

「透過……あ、あれは拾ったものです」

「拾った?」



 小雨が眉を寄せると、一緒に入ってきた神迎もペンを持った。



「崖があるでしょう?」

「……リオの崖のことですか?」

「たぶんそれ」



 ヴァルパに崖と呼べる崖なんて、中央館より向こうのそこしかない。




「そこの下に洞窟があるでしょう?」

「ありませんが」

「あります」


 そんな記録ない。




 あそこは海岸の手前に崖があって、海岸が異常に高くなっている。だから危険区域として、神迎が常に張り付いて毎日地形の報告をする。洞窟があるなんて報告、陸側からも海側からも空からも、聞いたことがない。



「……まぁあるとしましょう」

「そこで拾いました。研究室ですか? 明かりが付いて作業台もインクもペンも紙も、糸や針もありました」

「研究室……」

「私が嘘をついているとは疑わないんですか? 一昨日来た人は馬鹿馬鹿しいと帰ったのに」

「思いますよ。一昨日にも誰か来たんですか?」

「真っ黒なスーツを着た男の人」

「副官長が来られたんです。噂で聞いた新しい部下を三人連れて」

「……何故ここに?」

「理事長の名前が出てきました。推測ですが、学校を停学になっているのでそれ関連かと」



 理事と政府副官長は繋がっている、ね。




「わかりました、ありがとうございます。……研究室にこんな紙はありましたか」




 小雨が景矢の知識から知る魔法印を見せると、水尋は首を傾げた。



「ランプはありました。火はありませんでした」

「ペンは万年筆のような?」

「はい」

「作業台は木の?」

「石。壁から直接」


 人工的に作られた洞窟。最近作られたものとしたら、絶対に作る途中で神迎が見つけるはず。



「ランプに明かりは?」

「点いていました」

「インクはガラスの壺?」

「はい。金と銀の縁に銀の小さな翼がついていました」

「翼?」

「コウモリの翼」

「大きさは?」

「このくらいの壺より小さかったです。縁からちょっと生えてる程度」




 インク壺は5センチから7センチの楕円、蓋の蝶番(ちょうつがい)にコウモリのような銀の羽。


 景矢の世界は、龍を信仰してるって言ってたな。




「インクの色は?」

「黒。ピンクにも見えました。青にも、緑にも」

「四色が混ざっていた?」

「反射の中にありました」



 この世では、有り得ないインクの色。




「……糸や針に変わった点は?」

「糸は銀色でした」

「紙は何枚?」

「一枚」



 水尋は先ほど、小雨が描いて見せた魔法印を指さす。



「こんな模様がたくさん描いてありました。外套(マント)の形と同じかもしれません。台形にフードが付いて」



 景矢も来た時、外套(マント)を持っていた。

 今も着ているが、着る人によってサイズの変わる外套(マント)。銀の刺繍とかは入ってなかったけど。





「……洞窟は崖のどちら側に?」

「陸側に。崖正面に右に入口がありました」

「わかりました」



 調べる価値は大いにありそう。





 小雨が立ち上がると、水尋は首を傾げた。




「色々調べてみます。嘘だった場合刑が重くなるだけなので。お疲れ様でした」

「あ、はい」



 水尋が頷くと、小雨は外に出た。




 受け付けでHgを返してもらい、待っていた降水とともにエレベーターで上に上がる。





「睦さんと景矢さんに連絡を。リオの崖に向かう」

「了解しました。車も回しておきます」

(みずち)も連れていく」

「了解しました」






 降水と別れ、部屋に帰ると長小雨が暇そうにしていた。



「あ、おかえりなさい」

「仕事は?」

「終わりました。警備室にいた二人は監獄に、捕まえた奴らは指揮官に任せました」

「リオの崖に向かう。準備を」

「了解しました」




















 二時間と少しかけて中央学院に行くと、既に睦と景矢が待っていた。




「お待たせしました」

「いえ」

「先に乗っといてください。少し用事があって」

「俺も行っていいですか? 子供たちの諸々をやらないと」

「では行きましょうか」




 小雨と睦と二人で校内に入ると、睦は職員室に、小雨は蜃の教室に行った。



 声をかける前に教師と目が合って、プリントを持っていた教師がそれを落とす。





「さッ……! ど、どうされました……!?」

「蜃早退させてもいいですか。少し協力してもらうことがありまして」

「は、はい……! 少しお待ちください……!」




 名を呼ばれて気付いた蜃は目を瞬くと、教室から飛び出した。



「叔父様どうしたのー!」

「夢に出てきたかもしれない場所に行くから。荷物取っておいで」

「はぁい!」




 周りの席の皆が蜃の帰りの準備を手伝い、それを待っていると用事が終わったらしい睦がやってきた。




「姪っ子ちゃんですか」

「夢の確認を」

「小雨さんって子供好きですよね」

「部下からは子供嫌いの化身とあだ名を付けられました」

「わぁ。好きの表現が下手くそとかそういうのですか?」

「いや実際子供は嫌いです。蜃が生まれる前まで認識すらしていませんでした」

「……俺たちは?」

「参界者は参界者です。子供でも大人でも関係ありません。世界の宝ですから」

「感性が独特なんですね!」

「あなたが言います?」




 少しして、荷物を持って出てきた蜃は睦を見上げた。



 小さく会釈すると、小雨の後ろに隠れる。

 それに気付いた睦は少し離れた場所に片膝を突いた。



「はじめまして、睦です。よろしくね」

「……叔父様が言ってた人?」

「そう。スレッドの社長」

「はじめまして、蜃です。……よろしくお願いします」

「さっさと向かいましょう」




 小雨は蜃の荷物を持つと、手を繋いで車に向かった。

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