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Thread of World──世界の糸の物語──  作者: 織優幸灔&夜月夢羽
一章
43/124

23.紙

 睦に説教されたからというのもあるが、そのあとに降水(ふるす)に「今日は定時で……」と呟かれたのが大きいかもしれない。




 中央学院全統学校の理事に話をつけるべく中央館に戻り、部屋にノックをした。




 一分が経つか経たないかの頃に扉が開く。




「はい……?」



 顔を出したのは、たぶん年齢的には(みずち)と同じぐらいだろうか。

 蜃より遥かに大きいが、それでも子供の歳の男女の双子だった。


 子供は嫌いなんだが。





「理事は?」

「えと……出かけてます。さっき……」

「どこに?」

「小雨管理官威圧しすぎです泣きかけです」

「……降水、連絡を頼む」

「了解しました!」



 子供がほんとに嫌いな小雨と子供を大人と同等に扱う降水には任せておけず、長小雨(ながさめ)が代わって子供たちを慰めた。





 そもそも小雨は子供が大嫌いだ。兄が子供っぽくて死ぬほど迷惑をかけられたため子供っぽい人や子供は嫌いと、会う人人々に明言している。


 ただし、蜃と参界者という部類に対してはフィルターがかかるようだが。てか人格が変わるっぽいが。




 降水に関しては、そもそも子供を子供と認識しないため子供に無理難題を言う。だからこいつは彼氏彼女がいたことないんだと思う。






 双子に謝って、慌てて小雨を追いかけた。




















 教室を覗いて、目が合った教師に少し会釈をした。



「ど、どうされましたか……!?」

「景矢呼んでもらえますか」

「は、はい」




 教師に呼ばれた景矢はハッとした。



 あ、字間違えてた。



「なんですか……?」

「睦さんが……」


 話し合い終わったのかな。




 ノートを隠していた景矢は目を丸くし、すぐに外に出た。




「どうしましたか」

「話し合い終わったよーっていうのと。一応転校生と校長は小雨さんが処理したのと、諸々の異変は都度対処することになってるんだけど。俺帰るけど景矢どうする? 明日は休みだけど」

「んー……来たばっかりだし、終わるまでいます。インクと紙はありますし」

「じゃ外套(マント)だけ渡しとく」

「ありがとうございます」



 睦は紙袋に入った外套(マント)を景矢に渡した。



 景矢はそれを受け取ると、睦を見送って教室に戻る。



 机の周りの人や他の人が景矢のノートを覗き込んでいた。



「何?」

「景矢君、この絵何?」

「文字だよ。間違えただけ」

「文字なの? 前の世界の?」

「そんな感じ」

「なんて書いてあるの?」

「先生が言った通りのこと」



 景矢は紙袋を机の横にかけると、ロッカーに入っているインクとペンと紙も取りに行く。



 全て向こうの世界のものじゃないと、景矢の魔法は成立されない。それも消耗品なので超貴重品だが。政府に五枚寄贈したので残り少ない。






 紙の枚数を確認し、箱を閉じると席に戻った。


 教師がそっと近付いてくる。




「景矢君、どんな感じ……?」

「最後までいます。自分の身は自分で守れるので」

「わかった。……ノート提出は明日でいいからね」

「翻訳はしてもらいます」



 教師の神妙な顔の頷きに、景矢もしっかり頷き返した。睦に頼も。




「じゃあ景矢君って二ヶ国語? 二世界語? 喋れるんだね」

「あー、うん、なんかそんな感じ」

「家? 仕事場? じゃどっち? こっちの?」

「結構ぐちゃぐちゃ。基本こっち」

「使い分けれるのカッコイイね〜。言葉も違うんでしょ? どうやって意思疎通したの?」

「身振り手振り」

「景矢君がわたわたしてるの想像したら面白すぎる」

「うるさいな」




 けらけら笑う隣席の女子と話しながら、授業を再会してもらった。











 授業が終わると、廊下の人気のない場所で学年主任からさっき睦が話し合っていたことの詳細が伝えられた。






 それと、零曇(あまり)水尋(みつね)はユグドラシルに関わっている可能性が高いのでしばらく登校禁止になり、たぶん退学になるだろうということも。




「一応安全はできる限り確保するが、教師や生徒の中に関係者がいないとも言いきれない。明日から休みになるとはいえ、今日一日は気を付けて」

「わかりました。ありがとうございます」



 学年主任が去っていったので、景矢は教室に向かった。


 慌てて出てきたのでインクたちを忘れた。政府にホルダー返してもらおうかなぁと考えていると、教室が少し騒がしいのに気が付いた。




 扉を開け、中を見て唖然とする。




 景矢の隣席の女子は頬が腫れて倒れ、数回しか話したことのない男子生徒は景矢のインクが入っている箱を荒らし、紙の束にライターで火を点けた。




「げ、帰ってきたぞ……!」

「もう燃やしたから……」

「なにやってんの」



 男子を張り倒し、腕を掴んだ。



「参界者のものに手出したら実刑って知らないの?」

「うるせぇ、ただの紙だろうが。髪伸ばして目瞑って気色悪ぃ」

「ただの紙だ? ただの紙を政府に寄贈するわけないでしょ。この世界には存在しない作れない特殊な紙なんですけど。政府に寄贈したものは研究に使われてもう残ってない。異世界の数少ない最後の宝を君が今燃やしたの。意味わかる? 神迎の一番偉い人に報告するから即退学になるだろうけど、それより最悪なことしてるからね」

「たっ……! 脅す気か!?」

「脅してない。事実を伝えてるだけ」

「そもそも死んだ奴庇って政府の方がおかしいんだ! ただの自殺志願者だろ!? 死に損ないが世界の役に立とうとする方がおかしい……!」



 男子が景矢を突き飛ばし、空中にしゃがんだ景矢に皆が唖然としていると、倒れていた女子が体を起こした。



 よろめく足で助走をつけて、男子のそばに走ると見事な平手打ちをした。




「私にフラれたからって嫉妬してんな見苦しい……! そういうところが嫌なの! 自分のこと棚に上げて、景矢君馬鹿にして笑うような人、付き合うぐらいなら死んだ方がマシッ! 人叩いて世界一貴重な私物燃やして、謝罪するどころか突き飛ばすなんて……!」

「ねぇヤバいよ、顔面真っ青だよ……!?」

「保健室行かないと……!」

「誰か先生呼んで!」



 景矢は気迫がないまま男子を睨む女子のそばに行くと、ふらふらなのを支えた。


 頬も指先も冷たい。叩かれた場所が悪かったか、倒れたんならそこでぶつけたか。





 床に座らせ、友達に背を支えてもらった。



 景矢は自分の右手を軽く振ると、腕に刻まれた魔法印を浮かせた。

 自分に使う分には隠してていいんだけど、他人に使う場合は魔法印が対象に触れていることが条件。というのを睦に見つけてもらったので。




 袖を上げて、印が刻まれている前腕の外側を女子の額に当てた。



 腕に激痛が走り、すぐに引っ込める。痛い。



「あ、顔色が……」

「一応保健室には連れてって」

「うん……! ありがと」



 袖を戻し、立ち上がった。腕、痛い。



 やっぱりもうやるもんじゃねぇなと思いながら、魔法印を消した。





 前の世界じゃ魔法印は魔法使いだけの秘密、しかも体に刻む魔法は禁止だった。

 だから隠していたけど、ここじゃひけらかしても使える人はいないので。




 教師に抱き上げられ連れて行かれた女子を見送り、Hgを開いていると声がかけられた。




「景矢」


 陽泰が教室に入ってきて、それを見下ろした。



「なんですか?」

「睦から景矢に害が加わりそうなら守ってくれと頼まれた」

「依頼?」

「ただの頼み事だ。睦の頼み事は信用できるからな」

「恋弥さんには常に懐疑の目を向けてますもんね」

「あの人は駄目だ。信用するに値しない」




 陽泰は燃えカスの残る机を見下ろすと、小瓶を手に取った。



「このインク濃すぎないか」

「うん? 普通だよ」

「この瓶も不可解だが」

「それは魔法が描いてあるの。返して」



 景矢は椅子に座ると、小瓶を片付けた。



 小瓶が四つと、万年筆のような筆が二本。筆はどちらも色や形が違うが、インクに関してはほぼ一緒。



「何故四つに別ける?」

「全部違うんだよ。政府にこの……なんだっけ、注射?」

「ピペット」

「それかも。一本分寄贈したら数千万貰えた」

「クソ金持ちめ」

「え? こっちの世界のもの買ったら消えましたけど?」

「政府から支給があるだろう」

「参考書も辞書もないよ」

「んなもんで数千万溶かすな。……というか恋弥さんは全部支給してもらってるが」

「あの人はか体が天然記念物だからじゃない」

「お前もだろうが……!」




 陽泰が睨むと、景矢は椅子にもたれて小瓶を手に取った。


「……でも紙なくなっちゃったし、用なしかな」

「普通の紙じゃ駄目なのか?」

「魔力が籠ってないしインクとの相性が悪すぎる。……俺これ以上体に印入れるとたぶん死ぬからさぁ」

「そもそもお前なんで自殺なんか」

「ん〜? こんな体、生きにくいだけだよ」

「重。げぇ……」



 聞いたくせに最悪な反応をする陽泰に掴みかかって陽泰が慌てていると、肩がトントンと叩かれた。



 顔を上げると、睦と小雨、あと知らない大男と、枯梨(からり)も。




「早かったですね」

「まぁね。怪我してない?」

「俺はなにも」

「陽泰そばにいてくれたの。ありがとね」

「構わん。俺も帰るところだ」

「任務? 時間大丈夫?」

「いやサボる」

「青春してるようで何より」

「恋弥さんと同じことしか言わないな」

「あの人が毎日のように言ってたからね」



 睦は景矢を立たせると、頭を撫でた。

 枯梨も撫でると、景矢は少し嬉しそうに笑った。



「ありがと」

「枯梨、景矢お願いね」

「睦さん、俺紙がなくなって……」

「なくなった? もう使い終わったんですか?」

「いや、燃やされました」

「……連絡があってすぐに来たのでいまいち状況が掴めないのですが」



 小雨は額を押さえると、痛む頭を堪えた。ごめん降水、定時は無理だ。




「燃やされたのは誰に? いつ?」

「今、そこのそいつに……」

長小雨(ながさめ)確保を。連絡ののち即手続きを終わらせるように」

「はい。……小雨管理官、降水を使ってもよろしいですか」

「……別の者を使え。下は今手が空いてるはずだから」

「了解しました」




 長小雨はさっきの男子に拘束具をかけると、集まって絶句していた子供たちを見回した。




「協力者はいるか」

「その辺全員だ」

「……陽泰さん、見てたんですか?」



 景矢の席に座って頬杖を突いた陽泰が指さすと、小雨は陽泰を見下ろした。



「見ていた。あの紙でないと無理なら当然止めたんだがまさか魔力なるものが出てくるとは思わないだろう……。たまに切っているのを見かけたから政府が支給した何かかと思っていたんだが」

「はぁ……景矢さん、本部にあまりはありますか」

「ないです。描き貯めてたのはありますが、元々少なくなっていたので……」

「最悪のタイミング……!……政府の研究もイマイチ進んでませんし……」

「たぶん作るのは無理だと思います。龍がいないと、魔力も供給は鈍くなりますし」

「……だから眼も魔法も使う度に痛がるんですね」

「はい。……なのでもう、ほとんど俺を保護する意味は……」

「知識があるだけで十分です」




 景矢と小雨が話し、枯梨が景矢を慰めている間に睦は景矢の外套(マント)が入った紙袋から、景矢が描き貯めていた紙の一枚を取り出した。



 電気に掲げ、それを視る。




「……景矢は龍眼だったね」

「はい」

「あるよ、これと同じ紙。かなり古いけど、数百枚」

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