21.千譜結─道─
目を覚ますと、何故かベッドで寝ていた。
酔っていたわけでもないのに、ベッドにいた記憶がない。
起きて、Hgで時間を確認する。うん、いつも通り。
蜃も隣で寝ているし、眠すぎて記憶が飛んだだけなのかもしれない。
ベッドから降りて、キッチンに移動した。
昨日夜に淹れたコーヒーが冷蔵庫の中に入っていて、固まって首を傾げた。これは、いよいよおかしいぞ。
少しして、冷蔵庫が開けっ放しだったのでピーピーっと音が鳴った。
ハッとして、それを閉めてまた首を傾げる。
おかしい。
挙動不審のまま後ろを振り返ると、机に隅に蜃の教材やノートが積み重なっていた。
あぁ、小雨か。
コーヒーを温めて、冷たい牛乳を入れてぬるくなったのでもっかい温めて、席に座りそれを飲みながら蜃のノートを開いた。
小雨が丁寧に付箋を貼ってくれている。
旦那が、昔自慢してきたなぁ。弟は面倒臭がりの自分にわかりやすいように教えてくれるって。
内容と相まって懐かしいなぁと思いノートを眺めていると、蜃が起きてきた。
ハッと顔を上げる。
「おかーさんおはよう……」
「お、おはよう……! 今何時……!?」
「七時……」
「朝ごはんしてない……!」
「ゆっくりでいいよぅ……。……おじさまぁ!」
蜃が小雨の部屋をノックすると、数秒して開いた。
小雨が向かいにしゃがんで、蜃の肩に手を置く。
「おはよー。どうしたの?」
二日酔いになったかもしれない。
蜃は黙り込んで喋らない叔父に首を傾げ、母を呼んだ。
「おかぁさーん。叔父様動かなくなったぁ!」
「千譜結君、どうしたの……?」
「……二日酔いになったかもしれません」
「瀬織さんと飲み比べても翌日ケロッとしてたのに……」
霜は床に手を突く小雨の額に手を当て、首を傾げた。
「普通に体調不良じゃない?」
「……そうかもしれない。その場合は薬でなんとかなるのでそっちの方がいいです」
「うん寝といてね。体温計持ってくるから」
蜃によって部屋に押し戻され、ベッドに座った。
蜃は小雨の部屋を物珍しそうに観察して、ベッドに座る。
普段入ることがないので、興味津々だ。つってもそんな変なもん置いてないんだけど。
「……あ、そうだ。叔父様は私のお父さんにならないの?」
「バカ一号からいらんこと吹き込まれたな」
「バカ一号?」
「儺宥の言うことは基本いたずらだと思って」
「でもお母さんも私も好きだよ」
「蜃には蜃のお父さんがいるだろ」
「叔父様がお父さんでもいい!」
「俺がなることはないよ」
蜃の頭に手を置くと、すぐに霜がやってきた。体温計と冷感シートを持って。
冷感シートを額に貼られ、体温計を渡された。
「今日は仕事お休みね」
「生活リズムが荒れ狂っていたのでそのせいかもしれません」
「いや毎日のように活ジュースを飲んでるからだと思う」
「効くんです」
「せめてコーヒーとか!」
「体が慣れたら意味ないんですよ」
ものすごい呆れたような、アホを見るような目で見られた小雨はすんっとおとなしくなった。
体温計が鳴り、見事三十八度の発熱が確認される。
「おやすみの連絡入れてね」
「お母さん! 私も今日学校お休みする! 頭痛い!」
「叔父様は熱だから遊べないよ?」
「看病する!」
「頭痛いならされる側だけど」
「……治った」
「まぁ今日ぐらいいいけどね。勉強はしようね」
「はぁい!」
二人が部屋から出ていったので、小雨はベッドに横になった。
二日酔いと間違えるほど頭が痛い。っていうか、これただの過労な気がするなぁ。
長小雨に体調不良の連絡を入れると、既読がついて数分後にお大事にとだけ送られてきた。仕事はしますよっと。
ふと、窓辺に置かれたぬいぐるみシリーズに目を向けた。
うさぎが一番使い心地がいいのでうさぎを使っているが、他にもワニとかトラとかイグアナとか、そのレパートリーはどっからくんだってものばかりのシリーズが並んでいる。
毎年毎年、会った年から毎回誕生日に貰うのだが、そろそろ置く場所がないので誕生日には会いたくないんだよなぁ。
妙なチョイスも相まって、そろそろ手作りを疑い始めているのだが。あの人ならやりそう。
明らか使用感のあるうさぎを取り除いて、一度か二度しか使っていないぬいぐるみたちの山を写真に収めた。あと三つも増えれば窓がなくなる。
その写真を、睦に送った。『このシリーズ知ってますか』と。
さ、仕事しよ。
椅子に座り、Hgを開くと仕事をする。
椅子の上であぐらを組み、うさぎを足に置いて肘置きに、そのまま脳死でできる作業を。
あと、各メンバーの予定を確認してスレッド指針会議の予定を入れないと。
睦は基本いつでも大丈夫で、無理な日はのちのち送ってくれるそうなのでとりあえずいいとして。
皆でメールで確認したり、ただ単の打ち込み作業や会議資料の作成したり。
特に困ることはないが、これなら出勤した方が楽なのかもしれない。いや一応休みなので休みますけどね。
午前に必要最低限の仕事を終え、本格的に体調が悪くなってきたのでHgを持ってベッドに戻った。
どうやら睦も処理落ちでベッドらしい。
前回恋弥に拘束されてから、景矢と枯梨に変な知恵が吹き込まれたと嘆いていたがそれは至って普通であっておかしいのはお前だ睦。
おとなしく寝てろと返信し、嘆きが返ってくるのを無視した。
少しして、部屋にノックが鳴る。
「叔父様起きてる〜?」
「どうした〜……」
「うわしんどそう。お母さんがお昼ご飯食べれるかって」
「いらないって言っといて」
「いらないの? なんか食べた方がいいよ」
「……また、あとでなんか食べる」
「はぁい……」
蜃が出ていってから、起き上がってニュースを開いた。
ユグドラシル教のニュースが一気に増えている。
一夜にして、こんな増えるだろうか。
教祖はリストに載っているものは全員動向が確認できたため、新しい人たち。
新しい教祖がここまで信心を集められるのだろうか。相当なにかに感化されるものがあるとか、でも絶賛するような噂は聞かないし。
これは、本当に誰かが洗脳まがいの宣教をしている気がするなぁ。
とりあえず、降水に連絡を入れて記者にコンタクトを取ってもらおう。取材したという記事もちらほらあるし、実際内部まで書かれているものは書かれているし。
なにかわかるかもしれない。
「……睦さん? お疲れさまです」
『お疲れさまです……お互い体調不良なのに……! ほんとに……』
「すみません。あまりにも急速に事が進んだのですり合わせをお願いします」
『はい。……少し待ってください』
小雨はイヤホンだけ繋げると電話して、席に座った。
仕事用のHgと自分のもの、それにメモ用紙もバインダーに挟んで。
『取り調べは進みましたか』
「一回目以降は真新しいものはありませんでした」
『ではやはり洗脳の可能性がありますね』
「ですねぇ。殺人未遂で目が覚めたって感じでしょう。生き残りがいたらその方たちからも聞けたんですが」
『見事に全員即死でしょう? 腕が良すぎるのも困りものっていうかあれはもはや腕の問題じゃない気がしますが』
「……気になるのはこれだけ拡大してなお、鷹憬にはほとんど侵食していないんですよね」
『俺も一応毎日のように噂は聞きますが、それらしいものはありませんね。ハマった人とかもまったく』
犯罪組織というなら、トワイライトを中心に異常に悪の組織が集る鷹憬は触らぬ神に祟りなしだろう。
ただ、一応は宗教を語っている。悪の組織に包まれている鷹憬は、人の恐怖心をつつくのに絶好のスポットだろうに。それやったら本当に洗脳になるか、いやでもほぼ洗脳状態だもんな。
「……鷹憬に手を出せない原因がある……?」
『鷹憬より向こうの二ーハンとか拡がってます?』
「確実に」
『避けられてますねぇ。……手を出せない原因があるか、手を出すのを最後にするか』
「出せない原因はわかりますが、最後にするとは?」
『世界最凶のトワイライトと、元廃教会のカケラがいるって言われてるんですよ? 外堀固まる前に下手に手出したら即潰されるのが見えています』
「それなりに知恵がある……」
『統率力も。または宣教師は数人しかいないのかもしれません。全員が幹部レベルで指針が固まっている』
「それでも避けるとしたら相当な誘導能力が必要でしょう」
宗教なら信徒はただの素直な心でそれを広めるだろう。そうなっていないのは、信徒にその素直な心がないから。
『……心か……』
「……えやめてくださいね」
『まだ何も言ってません』
「言いました。やめてくださいね」
『まぁそれは最終手段で。……宗教の可能性はほぼ捨ててよさそうですね』
「洗脳なら軽くしょっぴけるのでなんならラッキーです。鷹憬以外にほぼ広まったから鷹憬外から捜査を進めればいいので」
政府はヴァルパ全てを支配する絶対組織。いくらジュワルパの参界者と言えど、まぁ一応はジュワルパはヴァルパの支配下。
参界者も、あまりやらかしすぎたら法は適用されなくとも立場が悪くなるのは自覚した方がいい。
『秘密結社は業務適用外ということで』
「でーすーねぇ〜…………あまりにも歯が立たない場合はまた正式に依頼します」
『お願いします。ではこちらからは一旦ストップという感じで』
「はい。また何かあれば連絡します」
『わかりました。では、お大事に!』
「はぁい……」
電話が切れると、小雨は頬杖を突いた。
Hgに出された地図に印を付けて、捜査の進む順序を箇条書きで書き出す。
情報がある場所には全て印を。
ほんとに、鷹憬と海岸部の盃庵以外ほぼ全体的にまんべんなく拡がっている。
盃庵は政府の中央館と参界者も通う中央学院が置かれる、中央街に隣接する海岸沿いの地区。
鷹憬と隣り合った場所ではないが、まぁ手は出せないよな。
鷹憬にしばらく手が出ないなら参界者は部下に任せても大丈夫そう。
小雨は片付ける方に集中するかな。




