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Thread of World──世界の糸の物語──  作者: 織優幸灔&夜月夢羽
一章
40/124

20.千譜結─飲─

 管理職といえど、いや管理職だからこそ。上と下に挟まれた管理職だからこそ、わりと動き回ることが多い。




 そして今日。今日は参界者の修茶(しゅうさ)雨豪(うごう)が『秘密結社(スレッド)』に入る日。


 鷹憬(おうけい)まで二人を送り届けなければならない。






 それで午前中が潰れ、午後にはそのスレッドの扱いや完璧な保護、スレッドの方針を話し合う会議。正直、優秀な部下が二人いるので出なくていいかなと思うけど。出ないと駄目らしいので出る。



 それで、そのあと三時頃からは養成校の校長や各学年主任と会議。

 そのあと五時から少し神迎の実力テストを確認して、六時になれば就業時間。今から中央地下監獄の看守長と話し合い、九時から事務仕事です。





 引きつるこめかみを押さえ、机に突っ伏した。



「……むり……」

「頑張れ先輩!」

「弱いぞ千譜結」

「徹夜明けに徹夜させようとすんな……!」



 長小雨(ながさめ)降水(ふるす)がすんっと真顔になり、小雨はHgを閉じた。




「なんで徹夜?」

「蜃に三人で一緒に寝ろと言われた」

「え」

「先輩一緒に寝たんですか……!?」

「だから徹夜した」

「あぁ……お疲れさま……」

「あ、徹夜……? ん……?」



 バカ二号の混乱を放置し、小雨は机に突っ伏したまま顔を上げた。


 向かいにしゃがんでいた長小雨と目が合う。もう、キラッキラに輝かせて。



「なんだコノヤロー」

「お前彼女とかそういう子まだできないの?」

「作る気もない」

(そう)さん心配するぞ」

「しねぇだろ。義姉と姪と同居の俺にんなこと有り得ないって一番わかってるだろうに」

「俺(そう)さんとお前が再婚したら蜃ちゃん大喜びすると思うんよね! 千譜結は父親以上に慕われてるし霜さんも千譜結のこと頼ってるし! 仲は良好じゃん?」



 いきなり、人の気も知らず嫌なことを言ってくる長小雨にため息をついた。



 長小雨は破顔し、ワクワク顔で聞いていた降水も目を丸くする。




「有り得ない。お前がはとこでも作ってやれ」

「えー、もー……どこ行くんだよ!」

「おつかれ」



 仕事用のHgを持ってふらっと出て行ってしまった小雨を見送ると、それと入れ替わりに蜃が顔を覗かせた。


 小雨が、蜃に気付かなかっただと。



 いやそんなことより。





 馬鹿でかい声で再婚の話をしていたという自覚がある長小雨と降水は固まったが、蜃はペコッと会釈した。




「お母さんと叔父様結婚するの?」

「……しないって断られたよ」

「……私がいるから?」

「そもそも千譜結に誰かを大切にしろって言っても無理なんだと思う」



 長小雨は片膝を突いたまま、やってきた蜃の手を取ると頭を撫でた。



「蜃ちゃんがお願いしたら、もしかしたらお父さんになってくれるかもね」

「ほんと?」

「千譜結は優しいから」

「……叔父様どこ行ったの?」

「教えてくれなかった。怒らせたかも」

「……帰ってきたら言ってみる!」

「結果教えてね」

「うん! またね儺宥(だゆう)様、降水さん!」

「またね」

「気をつけてお帰りください」
































 とあるバーに行くと、珍しくお客さんが一人入っていた。




「こんばんは。お久しぶりです」

「ほんっとに。……今日は珍しい方がお二人揃いましたね」

「参界者がこんな夜更けに出歩かないでください」

「お守りありますから!」




 睦はいつものカウンター席に座り、カウンター席の端で仕事をしていた小雨は休憩がてら顔を上げた。



「徹夜ですか。ひどい顔」

「わかります?」

「ほんとに酷い顔してますよ」

「……おかしな話が出まして」

「恋バナですか」

「視ました?」

佚世(いっせ)さんからの教えです」

「嫌なこと教えてんなぁ……!?」



 睦はけらけらと笑い、小雨はため息をついた。




「姪の父親になれと勧められました。兄はしばらく前に死んでいるので」

「あぁ、小雨さんが毒盛ったやつ」

「知ってるんですか。関係者にすら言ってないのに」

「言ったら捕まるでしょうよ。……これも佚世さんからですよ。聞けばなんでも教えてくれました」

「過去のことも?」

「はい。火事も元カノも自分がどこから来てどこに行くのかも」

「……そんなに気に入られてたんですか。恋弥さんでも聞いてませんよ、それ」

「恋弥さんには高校生ぐらい……十六とか七とかになって人の話を黙って聞けるようになったら言うつもりだったらしいです。その前に火事になったので言えなかっただけらしいですよ」




 腕を上に伸ばした小雨は納得して、腕を勢いよく振り下ろした。疲れた、肩こりだ。




「聞けば教えてくれますか」

「火事の全貌と元カノのことは話していいよと許可は降りてます」

「……残念ながら後者は確認済み、火事の方は恋弥さんから俺が暴くと宣言されてまして。いやそんなことより佚世さんがどこから来てどこに行ったのか知りたいんです!」

「それは残念」



 睦は酒の入ったグラスをゆらゆらと揺らし、マスターは微かに首を傾げた。



「睦君も何かありそうですね」

「俺はただの疲労です」

「……おや」



 睦が一口目を飲んだ時、扉のベルが鳴った。


 ここ数日、毎日のように通っている馴染みの顔が現れた。



「こんばんは。今日は遅かったですね」

「うーん……う……うぅ……!? なんでいんの……!?」

「おや、噂をすれば」

「タイミングいいなぁ」



 小雨と睦は、Hgを見ながらやってきた恋弥にゆるりと手を振った。



 恋弥は顔を引きつらせて、行く先々で会うこいつらにもはやなにかの呪いなのではと疑う。

 呪いは本に出てきた。目には見えぬ呪縛。




「……タイミングって何?」

「彼の御方の話ですよ」

「佚世の? 何?」

「おー食いつく食いつく」

「うるせぇ酔っ払い」

「まだ酔ってねぇ」

「あの火事の真相をいつ小雨さんに教えるのか、という話です」



 マスターが伝えると、恋弥は顔を引きつらせた。小雨は眉を寄せ、睦は美味しいお酒に笑みを零す。佚世に度々飲まされてたけど、その時からのお気に入り。




「真相わかってるんですか?」

「い……やぁ……?」

「睦さん教えてください」

「あ!? なんでお前が知ってんだよ!?」

「佚世さんから聞きました〜」

「は!? 俺なんも聞いてねぇのに!」

「知りません。恋弥さんよりもお気に入りだったってだけでは?」

「……推理力はあいつから教えてもらえなかったか才能がなかったってところか。あれはお前にはとことん甘い所あるからな〜!」

「は?」

「なるほどな、恥かかせて悪かったよ。マスター上借りる〜」

「どうぞ」




 恋弥と睦の額に青筋が浮かび、恋弥は言い逃げのように去っていった。



 睦は軽く深呼吸すると、穏やかな空気に戻る。大人だなぁ。




「上に何かあるんですか? 前はマスターの趣味部屋でしたよね」

「今も変わってませんよ。……ただ、彼の御方の写真が数百枚と……アルバム数十冊……?」

「えなんでそんな趣味でしたっけ」

「私が撮ったのではありませんよ。元カノもとい元ストーカーの方から頂きました。わざわざプリントされて」

「……強烈な方ですもんね」

「会ったことが?」

「ありますよー。何百回来たと」

「私はありませんが。伝えたら失神したので相当強烈な方なんでしょう」

「…………それで朝帰りッ!」

「えぇ」




 まるで酔った様子もないのに、いやザルだったので酔ったところは見たことないけど。アルコール飲んだ様子もないのに、ぐったりして朝帰りだったことがある。

 あのあとの病院死ぬほど忙しかったのに佚世が使い物にならなくて脳之輔(のうのすけ)がブチギレたんだぞ。



 あぁ、理由を聞いたら、あぁ〜。踏んだり蹴ったりだったんだな、佚世さん。





「恋弥さんはあれにもなかなか懐いていたようでしたし、そもそも誰が撮った写真とかは興味ないんでしょうね。教えたら毎日のように来ますよ」

「ふーん」

「……睦君はいいんですか、見なくて」

「俺は会えるとわかっているので」

「大人ですねぇ。可愛げがなくなって」

「うるっさいですね」




 睦は酒を煽ると、空になったコップをカウンターに置いた。



「睦さん、修茶さんと雨豪さんの様子はどうですか?」

「一日目ですからね。でもお二人とも気さくな方なのですぐ仲良くなっていましたよ。特に雨豪さんと響皐月は祖父と孫」

「なかなかその年齢差の赤の他人と交流を持つことってないでしょうからねぇ。相当大きな組織にでも属していないとまずないと思います」

「でしょうね。修茶さんはすぐに事務仕事を覚えてくれましたし、雨豪さんはとにかく礼儀があの中では一番整っているので接客担当ですね。客の年齢層にもよりますが」

「よく考えてますねぇ」


 とりあえずなんの問題もなさそうでよかった。今日の会議でも特に問題は露見されなかったし、しばらくは宗教に集中できるだろうか。



「このまま雨豪さんが仕事覚えてくれたら社長の座にでも押し上げますかね」



 できなさそう。




 小雨は机に突っ伏して、それにマスターが驚いて反応した。



「もっと早く言えません……!?」

「な、なにかまずかったですか……?」

「今日指針会議がありましてね!?」

「すみませんッ!」

「…………まぁいいです。しばらく先の話でしょう」

「まぁ雨豪さんの調子を見てですが、二ヶ月ぐらいは〜と……」

「また会議開くので次は睦さんも出席するようにッ!」

「はぁい……」






















 夜の一時頃、ようやく仕事が終わったので家に帰ると蜃がソファで寝ていた。


 (そう)は机に突っ伏して、そのそばにはブラックコーヒーと、顔の下にはノートと教材が広げられていた。蜃の学校のノートにメモを書き込んでいたのか。




 風呂に入って、音で起きる気配がないので二人をベッドに移動させた。



 さっき霜が座っていた椅子に座り、蜃のノートをめくる。

 父に似て頭はよさそうだが、悪いところも似て重要なところをすっ飛ばしてノートを取っている。だからわからなくなって霜が全部メモを書き込んでるんだな。もう十二になるだろうに。


 やはり夢のせいか、周囲の子より少し幼い言動が目立つ気がする。



 少しアドバイスしてやるか。





 教科書や参考書を閉じると、ノートに色々と付箋を貼った。

 全部、学生の頃の兄にアドバイスしたことだけど。




 よく似てるなぁと思いながら、それでもまだ頑張っているので偉いとしよう。君の父親は開けて悩んで閉じずに消えたからね。




 ノートも閉じると、それを教科書の上に重ねた。


 さ、寝よ。

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