14.委員長
「着物……!」
袴の男、参界者。でも景矢の世界の奴じゃない。
刺客の男は刀を立てた陽泰と押し合う。
「何故刀を持っている?」
「今日に限って鬱陶しい……」
陽泰はどこで身につけた剣術か、刺客の男の刀を片手で持った刀で受け流すと数歩後ろに下がった。
片手に鞘、片手に刀で余裕の澄まし顔、カッコよすぎだろ。
管理人の後ろから顔を出した雨々驟は連写し、管理人はそれをとても呆れた目で見下ろした。
刺客は、暗殺というより殺害を命じられたって感じかな。
男が刀を振ろうとしたとき、突然その動きが止まった。
宙に血が伝い、男の着物が赤に染まる。
皆が眉を寄せると、刺客は刀を落とした。
「あんまり抵抗すると腕落ちますよ」
陽泰は刀を納め、睦は男のそばに向かう。
男の動きを止めた犯人である枯梨もやってくる。
枯梨はピエロだ。ピエロはマジックをするし、傀儡も操る。
男が無理に動こうとするので指から血が出ている。こうなるから、小雨からは使わないよう言われていたのだが。
「糸切っていいよ」
「でも……」
「大丈夫」
睦が枯梨の手に触れると、途端糸が切れた。男が倒れ、呼吸が止まる。
「ミヤ! 見といて」
「三分で死に始めるぞ?」
「呼吸はやらせていいよ……」
ミヤが男の上に座ると、猫又は男を吟味するように周囲を歩き始めた。
睦は男の刀を拾い、それを確認する。
「……打刀のくせに重い……」
「…………数百年前の刀鍛冶が打ったものだ」
「いい刀ですね」
「わかるのか」
「うちには刀が五刀ありました。少しばかり教わったことがあります」
「刀ってそんなどこにでもあるものか? うちにも三本あるが」
「日本の文化遺産ですし!」
「寄贈は?」
「してない」
男から鞘を抜くと、刀を納めた。
陽泰も寄ってきて、女子を引きずった恋弥もやってくる。
「陽泰、こいつ知り合いか?」
「…………いや……?」
真面目な顔で首を傾げた陽泰に、さっき叫んだ男子と恋弥に腕を押さえられている女子、二人が声を揃えて怒鳴った。
「はァ!?」
「お前ッ! そんなんだから毎日女子を泣かせんだろ!?」
「ねぇ名前教えたよね!? 今週三回教えたよね!? ねぇッ!?」
何故かいる雨乃に首を絞められ、聞き覚えのある気がする声で怒鳴られる。
「……あ、姫!」
「お前にだけはそのあだ名で呼ばれたくねぇッ!」
「比奈風莉央奈ちゃんな? いい加減覚えろよ鳥頭」
「…………人の名前なんか興味ない……」
「仲良さそうでなによりだけどよぉ」
バツの悪そうに顔をしかめて逸らした陽泰は、恋弥の声でハッとした。
雨乃も腕を引っ込め、後ろで手を組む。
この人、前学校で陽泰突き飛ばして逃げてった人だ。
体育館の口振りからトイトの誰かではあると思っていたが、親睦会に出席する、しかも葉笶が敬語使う人だろ。もしかして幹部の重役なんじゃ……。
「陽泰君、大丈夫かい」
ボスとエリオムがやってきて、エリオムは陽泰に白の手袋を渡した。
「問題ありません。特に死に関わることはありませんでしたし」
「あれ致死性の毒じゃないの……?」
「解毒剤がないときに心配してください」
白い手袋を付けた陽泰は、ハンカチで刀の鞘を拭う。
エリオムはそれを預かり、ポケットに入れた。
恋弥はさっきの怯えた表情はどこへやら、キレた目で陽泰を睨む女子の腕を枯梨に縛ってもらった。
「お前、雇われか?」
「言いません」
「耳打ち落とすぞ」
「構いません」
恋弥は問答無用で発砲し、少女は痛みに顔を歪めた。
「次。お前プロじゃないだろ。参謀か?」
「言いません」
「スパイではないと思います。あまりにも不向きすぎる」
「陽泰が言うのは珍しいな。相当な馬鹿じゃない限りスパイぐらいできるだろって言うのに」
「口が軽いのは致命的な欠点でしょう。言ったことに本人が気付いてないんですから」
「あぁ、無理だなそりゃ」
顔を引きつらせる少女の首に銃口を当て、睦を見た。
「殺すか?」
「小雨さんに引き渡しましょう。参界者との繋がりを調べないと、たった一人残ったのに」
「馬鹿すか殺されるよりいいだろ!」
「それはそうなんですが。それはそうなんですがッ!」
「まぁまぁまぁ」
陽泰は睦の胸に手を置き、恋弥の口を塞ぐと問答無用で引き離した。
すぐに、上から小雨が降ってきた。
見上げると、影がかからない方に遊樹機が飛びはしごが垂れていた。
「お待たせしました」
「緊急にしては最速でしたよ。これが参界者と参界者に雇われた可能性がある子です」
「雇われた可能性?」
睦は小雨に小声で耳打ちし、小雨は眉を寄せた。
少女を受け取ると、ミヤが座っていた参界者を立たせる。
「政府の保護下に入らず監視から逃げたと思えば」
「あんなものに付きまとわれては仕事にならん」
「そんな仕事しないでください」
「春雨さん、確認できたらぜひスレッドに」
「小雨ですあとであなたからも説得しに来てください」
「はぁい」
睦はにこにこで返すと、秘書と副管理人に庇われていた律と管理人の方を向いた。
「……どうします?」
「おひ……」
「続けようよー! 全員死んだんだしさぁ!? ねぇッ!?」
律が帝翔を睨むと、遠くにいた帝翔は素知らぬ顔でそっぽ向く。
皆が律のわがままに呆れ、しかし却下することもできないまま、荒れた親睦会は続行になった。
「と言っても俺と景矢は抜けますよ。仕事ができたので」
「俺も。こいつ検査連れて行くんで」
「ということで俺も」
「えぇ睦君抜けるのッ!? じゃあ僕も行くッ!」
手を上げた恋弥と陽泰を無視して、律は睦に泣き付いた。
ライムがどこからか出した何かで後ろから律の頭を勢いよく叩く。
「では終わり次第ミヤさん、枯梨さん、響皐月さんは私が送り届けさせていただきます」
「待て、私も行く」
「いいけど。どうしたの?」
「少し気になることがある」
「ではお二人ということで」
「お願いします」




