13.モテ
トワイライト、現存する組織の中で記録上最古とされる超巨大規模組織。
その頭と主幹部が参界者ということもあり、政府は警戒よりも結託を選択。闇のルールに忠実なため、今のところ一般人に大きな被害は出していない。
ピステル、元闇市の卸売業者が立ち上げた、市場を操ることに関してはトワイライトより秀でている御三家が一角。
スイハ、高級ホテル会社の元御曹司が立ち上げた、御三家の中で最も若い会社。二代目だが、管理人と呼ばれる出生も家族も、本名や神の力すら謎に包まれた男によって一時期は世界最大勢力とも言われた組織。
そんな御三家は、敵対関係にありながらわりと結構仲がいい。だって常にバチバチだと謎に不可侵領域が被っている鷹憬が壊滅しちゃうからね。
これは、戦争を好まない管理人の提案に感謝だ。
トワイライトのボスが交代したのと、ピステルの社長が若くなり色々なことへの対応が柔軟になったってのもあるんだろうけど。
その結果、結構な頻度で結構な面子で結構なことをすることが、度々ある。
異色メンツでバーに行ったりダーツしたり家に呼んだり呼ばれたり拒否したり、そんなん。
そりゃ、ただでさえ少ない女子の少ない組織が三つ集まったんだ。少ない女子の会話は恋バナから推し、派閥争いにまで激化する。
今人気なのはやはり、睦と恋弥。
初っ端から御三家じゃないんかいと思うが、まぁそこは置いといて。
次に人気になったのが響皐月、陽泰。
んで管理人から、律と帝翔。謎にミヤが好きというコアなファンまでできた。
ちなみに雨々驟は推し事中。明るいうちに推しの写真を集めたいんだと。
「お前人気あんなぁ」
「なんのですか?」
「女子だよ」
「……あぁ」
あからさまに面倒くさそうな顔をした陽泰の頬をつねると、陽泰はその手をペッと払った。
「集られると集られた分だけ煩わしくなりますよ」
「いい顔でクズじみた発言すんなよなぁ口にパイプ突っ込んで顎関節外すぞ」
「え?」
「でもまぁ仕事中に叫ばれるとちょっとビクるけど、んな煩わしいって言うほどか?」
「……まぁ、俺の場合学校もありますので……」
「けっ! 自慢かよ」
「いやでも割合的には恋弥さんの方が多いと思うんです」
「マジ?」
「だって俺より上で歴長くて二十歳半ばでしょう? 完璧な物件では?」
「マジ!?」
「んなところ来てまで恋バナかよ」
目を爛々と輝かせた恋弥と真剣な顔をした陽泰の間に睦が立ち、噴水の向こうでこちらを見ていた女子が悲鳴を上げた。
睦と恋弥はポーズを決め、陽泰は顔を隠す。
「女関連はあの人の問題に巻き込まれるので十分だ……」
「それはそうだけどさ。俺情報網と人脈必要なんよ」
「……まぁ手っ取り早く作る方法ではある」
「女の人って口軽い人多いじゃん?」
「お前ら後ろ見てみろ」
恋弥が吹き出しそうになるのを堪えながら二人の後ろを指さすと、二人の後ろには血眼でこちらをガン見してくる御三家の幹部たちがいた。
多くはトワイライトの影にかすみ、認知さえされていない。
「僻みだな。見苦しい」
「眼球の血管切れないといいけど」
「お前やめろ俺あれちょっとトラウマだかんな」
「痛いとかはないんだけどさ。グロいんだよね」
いつかの血涙睦を思い出した恋弥は身震いして、見ていない陽泰は首を傾げた。
「……俺はいつかお前の片耳がもげることを望んでる」
「なんてことを」
「んだけ揃ってんだから片耳ぐらいいらねぇだろ」
「ほんとになんてことを……!?」
「恋弥さんはきっと友人として推しとして遠目から見るにはいいんでしょうね。恋人や結婚相手にするとなると、それこそ相当熱烈な愛でもないと」
「なんでだよ」
「お前の性格がめんどくさい上熱すぎてくどいからだよアホ」
恋弥は睦に掴みかかり、睦はそれを払い落とすと襟元を整えた。
「てかお前も彼女もクソもねぇだろ」
「作ったら怒らせることになるからさ?」
「あ? なんで?」
「ははは、そういうところがアホっつってんだ」
さっきの人脈の話で首を傾げてると思ったら。
アホって言われ怒りながらも、陽泰に理由を聞く恋弥を小さく笑った。
「なんだよ教えろ!」
「いやぁ? ボスにでも聞いてきな? きっと頭いい人はわかるからさ」
「隙あらば馬鹿にすんじゃねぇ」
そう言いながらも素直に聞きに行く恋弥を見下ろすと陽泰を見下ろした。
「陽泰彼女いないの?」
「作る意味がわからんな。任務で利用することはたまにあるが。そういうのはだいたい恋弥さんや雨地科さんだから」
「彼女いたことは?」
「あるが瞬間冷めた。よくある百年の恋も冷めるというやつだ」
「へー意外。恋すんだね」
「したからこそまるで興味が尽きた」
空のグラスを揺らす陽泰を見下ろすと、顔を覗き込んだ。
「酔ってる?」
「ノンアルしか飲んでないが」
頭突きをされ、石頭が直撃した顔面中心を押さえた。ちょっと拗ねたし。
「まー青春してそうでなにより」
「睦は? 俺よりも明らか人数や言い寄られる数は多いだろう」
「俺? 俺はこっち来てから一人だけ」
「一人は作ったのか」
「やっぱ違くて即別れたけどねぇ。そもそも恋とか愛とか興味ないかなぁ。好みなら付き合うし仕事とあらば誰とでもなんでもするけど」
どこか遠くを見る睦に首を傾げ、まぁいいやと二人で飲み物を注ぎに行く。
「トップは三人が結婚してるってのに」
「いや天獄さんはしてないでしょ」
「エリオム様が子供だからだろう」
「いやーエリオムさん嫌そうだったよ?」
「じゃあないか。ボスはエリオム様に振り回され続けてるし」
「律さん並の束縛心ないとね」
「無理だろう。そんなことできるほど女に対して肝は据わってない」
自分の上司にも辛辣な陽泰に苦笑いをすると、恋弥がふらっと戻ってきた。
睦の肩に腕をかけ、二人の間に割り込む。
「ボスはスペックいいけどさぁ。究極の面食いで性格は三の次だから結婚まではならないだろうな」
「一に顔面、二に体型、三に声と四に性格……いや相性か」
「三の次どころの話じゃねぇな! はは!」
「スペックって言えばやっぱ帝翔さんかなぁ。あの人文武両道で顔いいし優しいし、見た目は歳よりめっちゃ若いし」
「……あの人ぐらい彼女いそう」
「彼氏いたりして」
三人で帝翔の方を見ると、話に興味を持ってこちらを見ていた帝翔と視線が合った。
三人で視線を戻し、かわいた笑みを浮かべる。
「ねぇな」
あの人は佚世一直線だわ。
「律さんは奥さんいるし。子供いんのか知らないけど」
「いるだろ〜。あの執着心は」
「逆に取られたくないからいないとか」
「ガチそっち考えたら切りないだろ?」
「好きに対してそこまで考えれる理性は持ち合わせてないだろうね」
「……いるに一票」
「同じく」
「いないに一票。恋弥さん聞いてきて」
「あ!? 俺!?」
「言い出したの恋弥さんでしょう」
二人に圧をかけられた恋弥は睦を興味津々で見ている律の方に視線を向けると、少し笑ってしまった。
「いねぇかもな」
「答え合わせは?」
「お前やれよ」
「あの人ありとあらゆる人に手出してるからさ。たぶん血的には三十人近くいるんじゃないかと思ってる。本人が知らないだけで」
「……ちょっとわかるのなんか悔しい」
「なんでだよ」
「恋弥さんは恋愛とか結婚とか考えないんですか? 全員友達みたいな雰囲気してますけど」
「えーおれー?」
いきなり恋弥の目が死に、陽泰は地雷踏み抜いたと自覚すると少し心臓が縮んだ。
「俺はなー、死んでるからなー」
「おい待てそれ言ったら俺もそうなる」
「お前やる気ねぇんだろ?」
「死んでるを言い訳にするな死に損ない」
「そもそも俺の世界じゃ婚約者とか親が決めるし?」
「お前いたん?」
「俺次男で忌み子だからいませんでしたー」
「忌み子? てかお前兄貴いんの?」
二人が驚くと、恋弥は睦の肩から腕を退かした。
まるで睦のように、自分の目を指さす。
「目の色違うだろ。オッドアイだっけ? だから家に監禁。殴られて病院送りで飽きて屋上から飛んだらこんなことになった」
「あ飛び降り? 飛び降りってあれどうなるん?」
「永遠に落ちてく。お前は?」
「俺首切り。俺なんか白い箱みたいな場所で天の啓示みたいなん聞こえて」
「あーわかる。あれな、ようこそーじゃーね〜の」
「あれガチ声だけで探したろっかなと思ってたけど」
「いけるかな!?」
「無理だろ」
参界者に対してとても触れずらいところをバンバン会話のネタにする二人の会話を聞いて、陽泰が黙ったままジュースを飲んでいると、ふと視界の端に銀に輝く何かが映った。
睦と恋弥に腕を引かれ、慌ててそちらに移動した。
「陽泰血止めろ。毒塗ってある」
「景矢! 解毒剤を!」
恋弥は透明になっていたそいつに弾を撃ち込み、陽泰を見下ろした。
鼻血が出て、口を押さえると同時に倒れる。
睦は景矢に渡された解毒剤を注射に入れると腕に刺した。
「毒は?」
「経皮。服についたのが瞬間吸収された」
「神か? うじゃうじゃ混じってる」
「神ならんなずさんなことやらないだろうよ」
恋弥は人がいないのに人の影が浮かぶところに発砲し、一人を除いて殺した。一人は、明らか挙動不審だったので情報吐き役として。名誉な役だ。
「お前」
「……俺……!?」
「ちげぇどっか行け」
恋弥が銃口を向けた辺りの人は皆はけ、恋弥はそれに紛れて移動しようとするそいつの足元に一発打った。
「動くな」
恋弥は銃を構えたまま、そちらに行くとそいつの影にある外套のフードを脱がせた。
透過が解けて、ポニーテールの女子が現れる。顔面は真っ青で、恋弥を見上げている。
「雇われか? 本業じゃ……」
恋弥が眉を寄せると、それと同時に後ろから男の叫び声が聞こえてきた。
「比奈風さんッ!? なんで……!」
「あ? 知り合いかー?」
恋弥は振り返ると、ピステルの役持ちの方に振り返った。
学生たちが集まって話していて、数人が唖然としている。
「く、クラスメイトです……! 葉笶と同じクラスで……!」
「スパイか」
それを見下ろしていると、陽泰が体を起こした。
あぐらをかいて、こめかみを押える。
「陽泰さん、大丈夫?」
「解毒剤は回った。助かった」
「致死性の猛毒だから一応後遺症ないか確認してね」
「あぁ」
陽泰はそこら中に散らばっているたぶん仲間であろう死体を見回し、立ち上がった。
陽泰を襲った奴の死体を確認していた景矢が、顔を上げる。
「む……睦さん……」
「どうした?」
「この外套、俺の世界のものです……」
「……参界者か……」
陽泰を支えながら、睦は死体を見下ろした。
全て視て、口元に手を当てる。
その視線の凪いだこと。
「雇われか……枯梨、小雨さんに連絡を」
「は、はい……」
「陽泰、怪我は?」
「ない」
切れた上着を脱ぐと、寄ってきたエリオムに渡した。代わりに刀をもらう。
「……上着いる?」
「いらないが? 何故?」
「いや……」
女子が卒倒しそうなんだもの。特に雨々驟が。
睦は視線を逸らすと、上着を脱いだ。枯梨から外套を貰い、それを羽織ると管理人と社長とボスと合流する。
「睦君、犯人特定できそう?」
「参界者が関わっていそうなので小雨さんを呼びます」
「さん……」
律の言葉を遮るように、鉄と鉄がぶつかる甲高い音が聞こえた。
見ると、新しく増えた男と陽泰が刀で押し合っていた。




