9.スマホ
遊樹機に乗り、参界者を連れてとりあえず飛び立つ。これは撃たれたやつとはまた別の機体。小雨の部下優秀。
睦はぐったりして倒れ、猫又が頬をふにふに押している。
恋弥はだろうなと呆れて、もう我関せず。陽泰も何考えてんのかわからん。
「管理長、このままスイハでいいんですか?」
「先にスレッドに……」
「政府でお願いします」
「え」
「俺のスマホ……!」
「……ですって。政府でお願いします」
「わ、わかりました……」
どこまでも曲がらない睦に帝翔は呆れ、何もわかっていない貝寄はとにかく楽しそう。人生気楽でいいなぁ。
痲宮は遊樹機の中を動くと、睦のそばに寄った。座って、睦の頭を膝に乗せる。
付いていた血は綺麗になった猫又が腕の中に潜り、しかし睦本人はそれを認識していない。帝翔は、向かいに寝転がってガッツリ正面から撮るけど。雨々驟に頼まれてるんです。
「この人はなんで熱出してんの?」
「能力使いすぎでショートした」
「機械人間か」
「そんな感じ」
小一時間飛ぶと政府の遊樹機離着陸上に着陸し、睦は体を起こした。
「睦くん、大丈夫? 俺抱っこできるよ」
「身の危険を感じるので遠慮します。春雨さん肩貸して」
「襲われてしまえ」
そう言って小雨に置いていかれたので、恋弥に肩を借りながら遊樹機を降りた。
恋弥はこの中じゃ痲宮の次に小さい。たぶん170ぐらい。ほんとに、睦と初めて会ったときからまるで変わってない。あのときはほぼ同じで、睦は10センチちょっと伸びたので差が大きい。
「……君もうちょっと伸びれん?」
「代われ陽泰ッ! この失礼極まりない青二才を捨てろッ!」
「あーたーまーにひびくぅ……」
「代わります」
「助かる……」
「問題ない」
睦と陽泰は、意外にもちょっと仲良しだ。
根本的にアホな恋弥を引く二人として、佚世に振り回された者同士できっと通ずるものがあるんだと思う。主に感情の一致で。
そもそも二人の性格が臆病で小心者のクソ真面目と一致しているので、破天荒な恋弥とはイマイチ合わない。代わりに、性格も頭も境遇も似ていたからこそ仲がよくなった。
あとは、睦が陽泰の中で唯一頼れる大人になったので、陽泰がこっそり懐いているというのもあると思う。歳の差も兄弟程度だし。
ちゃんと頼れて頼られて、まぁ組織の差があるのでそこまで親しくはできないが。わりと、仲がいい方ではある。
小雨が客間を用意してくれて、睦はそこに倒れるように寝転がった。
「小雨さん保冷剤あります……?」
「ありますよ」
「お前使う頻度考えろよなぁ」
「一回だけでもその日の行動量とか仕事内容とか視る量とか対象によって変わんだよ黙れ能なしドアホ……!」
「あぁん?」
「まぁまぁ」
「まぁまぁまぁ」
陽泰は恋弥を押さえ、小雨は睦を落ち着かせた。
睦は目を閉じて、なるべく外からの情報を遮断する。頭痛いとかないんだけど、永遠に情報が入ってこない上熱で気分が悪いので嫌いなんだよな、この時間。
小雨の部下から貰ったタオルで包まれた保冷剤をこめかみに乗せ、少しため息をついた。
「寝ててもいいですよ。景矢さんたちには連絡入れますし」
「……スマホとパソコンとタブレットをッ……!」
「あ、はい」
「持ちすぎだろう」
基本的に参界者が世界を超える際に持っていた所有物は政府が預かるか、必需品や護身のものは本人が持ち歩く。
政府が預かった場合は小雨しか開けることができない金庫に入っているので小雨が取りに行く。
あんなんどうやって使うんだろうなぁと思いながら、機械類一式金庫から取り出し睦の元に持って行った。
飛び起きた睦は目を輝かせてそれを受け取り、嬉々としてそれを開けた。
そりゃ十年前の機種なので古いもんですけど、バッテリーはタブレット第二を犠牲にして新しいの作ってもらいましたから。
ロックを開けて、中を確認した。
痲宮が寄ってきて、ソファの後ろからそれを覗き込む。
「あーやっぱサービス死んでる」
「あでもほら、いけた」
「えこれ交換いけんの?」
「ガラケーとスマホ並でしょ」
「メルアド教えて」
「チャレンジ精神なぁ……」
睦は痲宮にメルアドを見せ、痲宮は試しに空白メールを送ってみた。
「……あぁ来たすげぇ来たッ!」
「ガチ!? 世界超えたじゃんパラレル〜」
「マジかぁ!」
というか、メールアドレスさえあればタブレットにもパソコンにも飛ぶなら、Hgにも飛ぶのでは?
そんな思考が頭をよぎり、睦はHgを開いた。
「何?」
「アプリ作ってメルアドの@から後半スマホ系にしたらこっちにも飛ぶんじゃねと思った」
「いや無理でしょ通信ないのに」
「俺のやつ中身半分ホロだからさ!」
「無理無理。んなことより受電器ちょーだい」
「帰りますか。受電器量産してもらわないと……」




