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Thread of World──世界の糸の物語──  作者: 織優幸灔&夜月夢羽
一章
28/124

8.18F

 恋弥(れんや)は既にふらふらの(むつ)小雨(ささめ)と支えながら、地下から抜けて上階を歩く。


 帝翔(ていと)貝寄(暴れ馬)を必死に押さえて、もう首に腕をかけている。貝寄(かいより)は死を悟った顔で、珍しくおとなしい。



 それを見る陽泰(ようたい)が可哀想な顔のこと。今の世代の憧れと言われている『金の世代』筆頭二人がこんなんなのは、だいぶんショックだろう。


 金の世代生まれと言うだけで威張る輩もいる中で、当人たちはこんなにもふざけているのだから。いや本人たちは大真面目なんだろうけど。





 時折追いかけてくる奴を陽泰が殺し、正面からくる奴は恋弥が殺し、そろそろ睦が限界なのでエレベーターで十八階まで上がった。

 一番の長身がへばると誰も運べないから困るんだ。





 エレベーターを出る前に囲まれるかと思ったが、最上階は思ったよりも人が少なくしんとしていた。



「……ほんとに十八階か?」

「いる。そこ」

「あーもうお前はもう視んな……!」

「お前が聞いたんだろ!」

「聞いてねぇよ少なくともお前にはッ!」



 恋弥の怒声に睦が気圧され、小雨はまぁまぁと落ち着かせた。




 皆で睦の言う方に歩く。ほんとに、誰一人としていない。






 扉の前に立つと、睦は恋弥と視線を通わせた。




 小雨が扉に手をかけ、恋弥が銃を構える。


 扉を開けると、嗅ぎ慣れたはずの血なまぐさいにおいが鼻についた。

 広い部屋の中央にむこうを向いた一つの玉座、その隣には大きな化け猫と、その足元には食い荒らされた死体。



「……軍部長です」

「てことは玉座が参界者か」

「投降するから殺さないでほしいな」




 そう言った声は正しく幼い少女で、窓を向いた玉座から立ち上がって姿を現した。


 紫の肩より少し長い髪に、空よりも鮮やかな青い目をした女の子。




 猫又はさらに死体を喰らい、舌で血のついた牙を舐めずった。




猫又式(ねこゆしき)痲宮(まみや)ですね」

「……苗字まで」

「こちらには(情報網)がありますので。参界者というのも間違いなさそうですし」

「それはそんな感じらしいね。私からすればここが異世界だけども」

「何故参界者であるあなたがこんな組織を?」

「私はまだ子供だよ?」



 子供は無力非力無為無能。正攻法じゃ参界者といえど雇われず、闇属性の奴らばかりに命を狙われ。

 なら闇属性の(トップ)となり、狙ってくる奴らを返り討ちにすればいい。



「大人にはわからない話じゃない?」

「わかりませんが道理はわかりました」

「春雨さん」

「小雨ですなんですかこんな時に病人は黙って倒れてろ」

「酷い。……彼女の言ってること、違います」

「違うんですか?」

「いや違いようがないだろう」



 睦は小雨の肩に腕を置くと、少し火照っているのに青白い顔を上げた。




「怖かったんでしょう……。自殺しようとしたら異世界に来て、意味もわからず仲間もいないまま知らない悪役に追い回されて……怖いから、力を付けて悪役(追う側)の頭になったんでしょう……?」

「ほざくな。怖いものなどあるか。自殺する奴の心情を理解してから言え」

「理解はしてるさ。……俺もこのチビも、元自殺志願者だからね」

「なんで俺チビなん?」


 微かに眉を寄せた少女に、あぁやっぱりと笑いかける。



「仲間が欲しいんでしょ? 何かしらで繋がった、一人で死んだ果てにまた寂しいと思ったんでしょ。わかるよ。だから生活確保と、同じ罪で繋がった仲間とともに実刑判決が下る植物培養……最大限刃向かって、死刑にならない程度の懲役刑を望んだ。出た頃には大人で働けるから。……でも残念、参界者はいくら人を殺せど悪を犯せど、自分を殺さない限り罪には問われない」

「……なんだそれ、最悪の機関(システム)じゃないか」

「俺のところにおいでよ。参界者しかいない組織がある」

「人が多いところは嫌い」

「十人は超えないよ。今は四人しかいない、君で五人目」

「五人……全員元自殺志願者?」

「うん。全員一回は死んだ身」


 なんて言い方もどうかと思うが。まぁ事実そうなので何も口は出さないけど。



 恋弥と小雨で上手く周りを囲って、秘密結社(スレッド)に引きずり込み始める睦を傍観する。


 死体を喰い終わった猫又は尾を揺らし、毛ずくろいをした。




 そのうち、睦は周りをがっちり囲んだあとにもので釣り始めた。


 現自殺志願者、自分の意思で来たとしてもすぐに離れる可能性は高い。だから、ここにしかないもので、彼女しか持たないもので釣る。




「ちなみに魚あるよ」

「……マジ」

「マジ。海が近いからさ。漁業はないけど釣りはあるし。和食の調味料は作れたし。日本人でしょ? 同じ世界から来た人が『妖心(ようしん)』を持つ外国人は数人しかいないって言ってたし」

「別に肉も美味いんだけどなぁ……」

「あとスマホ充電できる」

「ガチでッ!?」

「異世界様々だからさ!」

「えーいいなぁ!? マジかぁ!」

「小雨さん、俺の荷物ってまだありますよね」

「ありますよ」

「うん、じゃあパソコンもある」

「わぁ!?」



 少女は目を輝かせると睦のそばに駆け寄りぴょんぴょん跳ねた。睦はそのテンションに合わせてにこやかに物欲を刺激して、あっさり入社を決定した。



 契約はまた後日。





「スマホ八十切ったら心配でさぁ! 常充電器繋いでたから!」

「依存あるあるだよねぇ! 電気もネットもかからんし」

「……えでもここ圏外よね?」

「えHgと繋いだらいくらでもいけますよ?」

「神か」

「ははは」


 なんのために睦のタブレットを差し出したと。まぁもう一台あるけど。ゲーマーなめんなよ。



「あ、ちなみに地下のあれ何?」

「実刑になるための駄目押し。あれ水の中じゃ発芽しないからさ」

機械(システム)は?」

カッコイイ(ロマン)でしょ」

「だよね」




 ノリと世界観で話す二人を先頭に、ビルの外に向かった。

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