8.18F
恋弥は既にふらふらの睦を小雨と支えながら、地下から抜けて上階を歩く。
帝翔は貝寄を必死に押さえて、もう首に腕をかけている。貝寄は死を悟った顔で、珍しくおとなしい。
それを見る陽泰が可哀想な顔のこと。今の世代の憧れと言われている『金の世代』筆頭二人がこんなんなのは、だいぶんショックだろう。
金の世代生まれと言うだけで威張る輩もいる中で、当人たちはこんなにもふざけているのだから。いや本人たちは大真面目なんだろうけど。
時折追いかけてくる奴を陽泰が殺し、正面からくる奴は恋弥が殺し、そろそろ睦が限界なのでエレベーターで十八階まで上がった。
一番の長身がへばると誰も運べないから困るんだ。
エレベーターを出る前に囲まれるかと思ったが、最上階は思ったよりも人が少なくしんとしていた。
「……ほんとに十八階か?」
「いる。そこ」
「あーもうお前はもう視んな……!」
「お前が聞いたんだろ!」
「聞いてねぇよ少なくともお前にはッ!」
恋弥の怒声に睦が気圧され、小雨はまぁまぁと落ち着かせた。
皆で睦の言う方に歩く。ほんとに、誰一人としていない。
扉の前に立つと、睦は恋弥と視線を通わせた。
小雨が扉に手をかけ、恋弥が銃を構える。
扉を開けると、嗅ぎ慣れたはずの血なまぐさいにおいが鼻についた。
広い部屋の中央にむこうを向いた一つの玉座、その隣には大きな化け猫と、その足元には食い荒らされた死体。
「……軍部長です」
「てことは玉座が参界者か」
「投降するから殺さないでほしいな」
そう言った声は正しく幼い少女で、窓を向いた玉座から立ち上がって姿を現した。
紫の肩より少し長い髪に、空よりも鮮やかな青い目をした女の子。
猫又はさらに死体を喰らい、舌で血のついた牙を舐めずった。
「猫又式痲宮ですね」
「……苗字まで」
「こちらには睦がありますので。参界者というのも間違いなさそうですし」
「それはそんな感じらしいね。私からすればここが異世界だけども」
「何故参界者であるあなたがこんな組織を?」
「私はまだ子供だよ?」
子供は無力非力無為無能。正攻法じゃ参界者といえど雇われず、闇属性の奴らばかりに命を狙われ。
なら闇属性の頭となり、狙ってくる奴らを返り討ちにすればいい。
「大人にはわからない話じゃない?」
「わかりませんが道理はわかりました」
「春雨さん」
「小雨ですなんですかこんな時に病人は黙って倒れてろ」
「酷い。……彼女の言ってること、違います」
「違うんですか?」
「いや違いようがないだろう」
睦は小雨の肩に腕を置くと、少し火照っているのに青白い顔を上げた。
「怖かったんでしょう……。自殺しようとしたら異世界に来て、意味もわからず仲間もいないまま知らない悪役に追い回されて……怖いから、力を付けて悪役の頭になったんでしょう……?」
「ほざくな。怖いものなどあるか。自殺する奴の心情を理解してから言え」
「理解はしてるさ。……俺もこのチビも、元自殺志願者だからね」
「なんで俺チビなん?」
微かに眉を寄せた少女に、あぁやっぱりと笑いかける。
「仲間が欲しいんでしょ? 何かしらで繋がった、一人で死んだ果てにまた寂しいと思ったんでしょ。わかるよ。だから生活確保と、同じ罪で繋がった仲間とともに実刑判決が下る植物培養……最大限刃向かって、死刑にならない程度の懲役刑を望んだ。出た頃には大人で働けるから。……でも残念、参界者はいくら人を殺せど悪を犯せど、自分を殺さない限り罪には問われない」
「……なんだそれ、最悪の機関じゃないか」
「俺のところにおいでよ。参界者しかいない組織がある」
「人が多いところは嫌い」
「十人は超えないよ。今は四人しかいない、君で五人目」
「五人……全員元自殺志願者?」
「うん。全員一回は死んだ身」
なんて言い方もどうかと思うが。まぁ事実そうなので何も口は出さないけど。
恋弥と小雨で上手く周りを囲って、秘密結社に引きずり込み始める睦を傍観する。
死体を喰い終わった猫又は尾を揺らし、毛ずくろいをした。
そのうち、睦は周りをがっちり囲んだあとにもので釣り始めた。
現自殺志願者、自分の意思で来たとしてもすぐに離れる可能性は高い。だから、ここにしかないもので、彼女しか持たないもので釣る。
「ちなみに魚あるよ」
「……マジ」
「マジ。海が近いからさ。漁業はないけど釣りはあるし。和食の調味料は作れたし。日本人でしょ? 同じ世界から来た人が『妖心』を持つ外国人は数人しかいないって言ってたし」
「別に肉も美味いんだけどなぁ……」
「あとスマホ充電できる」
「ガチでッ!?」
「異世界様々だからさ!」
「えーいいなぁ!? マジかぁ!」
「小雨さん、俺の荷物ってまだありますよね」
「ありますよ」
「うん、じゃあパソコンもある」
「わぁ!?」
少女は目を輝かせると睦のそばに駆け寄りぴょんぴょん跳ねた。睦はそのテンションに合わせてにこやかに物欲を刺激して、あっさり入社を決定した。
契約はまた後日。
「スマホ八十切ったら心配でさぁ! 常充電器繋いでたから!」
「依存あるあるだよねぇ! 電気もネットもかからんし」
「……えでもここ圏外よね?」
「えHgと繋いだらいくらでもいけますよ?」
「神か」
「ははは」
なんのために睦のタブレットを差し出したと。まぁもう一台あるけど。ゲーマーなめんなよ。
「あ、ちなみに地下のあれ何?」
「実刑になるための駄目押し。あれ水の中じゃ発芽しないからさ」
「機械は?」
「カッコイイでしょ」
「だよね」
ノリと世界観で話す二人を先頭に、ビルの外に向かった。




