4.相談
日が落ちて登り、連日でやってきた小雨は修茶の対応神迎を連れてきたと同時に、睦にアタッシュケースを渡した。
神迎は前世界の情報を聞き出す係。
「バスキ結社のデータとリルのデータです。中に頭から下っ端のあるだけの情報が入っています」
「いいんですか?」
「えぇ。あなたに見せておけばこれは破棄しても問題ありませんし」
睦はそれを受け取ると、小雨とともに一番小さな小間に入ってそれを開けた。
この、開けた瞬間飛び出すHgにはいつまで経っても慣れない。普通のパソコンみたいなんでいいのに、なんでアタッシュケースなんだろう。
それを消して、紙の資料に先に目を通した。
何から何までめっちゃ詳細に。
神の能力や携帯していた武器も、全て。
「……え、これ、この人」
「幹部の一人ですね」
「元スイハです」
小雨の腹の底から絞り出したような驚きの声に、あぁ小雨も知らなかったんだなぁと。
結構新しい情報だ。ちょうど、廃ビルの噂が立った頃の。
Hgで電話をかけると、管理人はすぐに応答してくれた。
左の目元を黒い仮面で隠したスイハ管理人、悪の黄金時代にスイハを急成長させた稀代の手腕の持ち主。
『突然どうした〜。珍しいねぇ』
「いきなりすみません、お久しぶりです」
『久しぶり』
管理人との通話が通じると、小雨は向かいから睦の隣に移動した。
いきなり座られたので睦が横に倒れ、小雨は睦の体を肘置きにする。
「ご無沙汰しています管理人」
『これはこれは。神迎のお偉い様といるのに何故私に電話を?』
「少し聞きたいことがあって……」
睦が廃ビルの話から少女と少女を連れ去った男と、ビルに溜まっていた組織の話をすると管理人は口元に手を当てた。
面をしていてもゾッとする冷たい視線と、それをさらに際立たせる完全な無表情が人間味を消している。
そばにいたら、ふわふわした感じの伝わる子供大好きの人なんだけど。
『……たしかに、バスキはスイハから分岐した組織だね』
「あバスキそのものがそうなんですか」
『ボスが元軍隊長だろう?』
「いえ……幹部の一人がそうです」
『……おかしいな』
管理人は一瞬カメラの後ろに向けたかと思うと、綺麗に二度見をした。
『ごごめんまたかけ直す!』
「え?」
いきなり通話が切れ、二人で目を瞬く。
「……たまにこういうことありますよね」
「ありませんよ」
「ありますよ! いきなりぶつって切られるの」
「嫌われてるのでは……?」
「あなただけには言われたくありませんねッ!」
睦が管理人に連絡して返信を待っていると、代わりというように帝翔から連絡が来た。
管理人が我が子のように可愛がっている人で、まぁいい大人なのだが。
黄金時代に、次代を担う若き五人衆の一人を支えていた人。何故かこの人たちは見た目の歳を取らない。なんなんだろう。
「……管理人はご家族と戯れ始めたらしいので帝翔さんと雨々驟さんが代わってくれるそうです」
「あ、じゃあそれで」
また電話がかかってきて、小雨は睦の隣に座る。
『あら、小雨さん』
「管理人は相変わらずですか」
『はい。元気ですよ、皆』
「それは何より。少し聞きたいことがありまして」
『答えれることなら』
管理人の時より雑に説明すると、雨々驟はキツく眉を寄せた。帝翔も口元に手を当て、管理人とよく似た姿で考える。
『……考えられる可能性としては、スイハの派生としてスイハやスイハ関連の組織から圧をかけられたくないという感じでしょうか。やはり元スイハが頭だとどうしてもスイハのイメージが根付いてしまうので、その組織を嫌がる意味で』
『となれば外はそれが頭でも、中の権力者は元軍部長になる可能性がありますね』
「そうなるとどうなりますか」
睦が小雨を見ると、小雨は腕を組んだ。
「……まぁ、まず内部情勢が崩れますね。スイハから離れたということはそれと同時に、圧倒的な後ろ盾がなくなったということです。ぺっと潰せば瞬間潰えますし、内部が荒れている状態なら再構築も難しいでしょう。少なくとも確実に派閥は割れます」
「となれば下からかっさらって大黒柱だけにした方がいいですね」
仮に派閥が別れるほど、グループが別れるほど激化してしまえばその周辺もただでは済まない。それにのちのち、その派閥が強い組織になったとき恨まれるのは御免だ。
となれば別れるであろう人員を潰し、幹部たちを一人か二人ずつ削って、二大巨頭を取れればまぁ中の下かな。
『それで中の下ね』
「あの人ならトップ据え変えて向かってきたのを上手いこと政府に逸らすんですけど、そんな才能受け継げなかったので」
『あれはねぇ……! 歴戦の証だよ……!?』
「そうそう習得できるものじゃありませんね」
『ていうか睦くんがそんな戦闘狂になってほしくないから』
「あの人も別に戦闘狂じゃあありません」
『あの子は怪物だから』
それは、まぁ。
否定できない睦が真顔で小さく頷くと、雨々驟が小さく吹き出した。口を押さえて、画面外に逃げていく。
『……ごめんね、睦くんがツボなんだよ』
「何故!」
『可愛面白いから』
心底不思議そうな顔をする睦をけらけらと笑って、カメラの後ろで口を押さえている雨々驟に見せた。
雨々驟は瞬間ニヤけた口を押さえると、机に膝を突いて帝翔に本気の拳骨を落とす。
画面の向こうからすごい音が聞こえ、睦は首を竦めた。
「大丈夫ですか……?」
『照れ屋なんだよ』
「いや帝翔さんが」
『頑張る』
「根性論」
頭を抱えてうずくまる帝翔にカメラが向けられ、睦が心配していると帝翔の頭に誰かの手が伸びた。
頭を撫でるが、その腕を管理人っぽい人が掴んで押し出していく。
胸上が映らないのでよくわからないが、管理人とその家族って感じかな。
少し揉めたあと、扉が強く閉まる音がして、雨々驟に引っ張られてしぼんだ管理人がやってきた。
頭を抱える帝翔と口を押さえる雨々驟としおれる管理人と。
「賑やかでなによりです」
『退屈はしません』
『睦くん……怒らせた妻に許してもらう方法って何……!?』
「お……怒らせた妻……? 奥さんですか……?」
『そう』
『浮気電話と疑われている最中に嫉妬心が出たので出て行かれてしまったんです。子供諸共』
仲睦まじいなぁ。
「奥様の性格を聞いても?」
『ツンデレってか辛辣! 心に傷をつけて塩を塗り付けるような』
またずいぶんな人を。
睦は少々呆れながら、膝に両肘に乗せ、両手の指の腹を合わせた。
「じゃあプレゼントか奥さんの好きな場所に外食でも。外出を選ぶ場合はプレゼントで物を送るより金で時間を買いたかったとかそんなことをほのめかしてください。なるべくはっきり。プレゼントを贈る場合は付けてもらって写真を撮ってください。ペンダントの中にでもも入れていたら喜ぶでしょう」
『両方やる!』
「アクセサリーを贈る場合は事前に送りましょう。付けて外出してもらい撮ってペンダントに入れたら喜びます。ペンダントではなく写真立てで仕事机にも喜ぶでしょう。その他を送る場合は食事後に。プレゼントか外食かどちらにしようか迷ったけど金より家族だとか言っとけば大抵収まるでしょう」
管理人は目を輝かせ、帝翔は親子並みに歳の離れた睦から愛のアドバイスを貰う管理人に呆れた。
『睦くんはなんでそんなの知ってるの? 教え?』
「いえあの方は基本顔と口で許されるのでこの手のことは学べませんでした。これに関してはまぁ前の世界の知識です」
ツンデレ母とゾッコン父のラブラブカップルに感謝。
まぁ尽くしているという態度を見せるのはいい方法だし、基本的に敷きたい人も尽くしたい人も尽くしてもらいたい人にも効く方法。あとは相手の出方次第で、こちらが相当下手なことやらない限り大丈夫。やったら、それはもう知らん。
『睦くんは人操るの上手だね』
「そんなことありませんよ。あの人に教えてもらっただけです」
『それで実行できるのはすごいよ?』
「そうですか? ありがとうございます」
へらっと笑った睦に帝翔は顔を押さえ、雨々驟は頭を抱えた。
帝翔は倒れ、雨々驟は離脱。
『言わされた気がする……』
「気のせいかと」
『ほぉら上手いッ! 帰ってきたら全部言うからねッ!』
「ぜひ」
『もぉーッ!』
管理人は拗ねて暴れる帝翔を画面外に押し出すと、真ん中を取り返した。
『ごめんね、話が逸れすぎた。……バスキ結社の話、こちらからも人を貸そう。いくらか動揺は狙えるよ』
「…………いえ、それよりも」
バスキ結社は薬物売買の組織。何故今さら参界者を囲う。
人質で政府と取り引きするならバカの所業、あの廃ビルが制圧された時点で諦めた方がいい。元スイハの、それも軍部長の役を持っていたならそれはわかるだろう。
勢力拡大なら、それもバカ。出した先で政府かトライトにつままれるに決まってる。
なら、なにが目的。見つけた瞬間はそこから離さず、存在が確認されてから連れ去った理由を含めて。
『……考えるよりも捕まえて吐かせた方が早いよ?』
「スイハならそうかもしれませんが、ここには勢力も闇組織並みの後ろ盾もないんです」
「後ろ盾なら政府がありますよー」
「相手は政府が後ろ盾だろうがトライトが後ろ盾だろうが敵対組織が提携した作り上げた組織というのを信用しないでしょう。用済みになったら捨てる、潰れても助けないと思いますよ」
「助けなかったら政府が潰れますからねぇ……」
「それを理解してる奴は少ない」
『勢力ならスイハが貸すよ?』
「それはあくまでも管理人の指示です。俺が統率を取ったとして緻密な作戦は成功しない。絶対に「管理人ならこうするだろ」つって暴走する奴が出てきます。俺の手駒にそれはいりません」
この子、前々から思ってたけど素の可愛いところと冷たいところの差が天地なんだよなぁ。
睦は口元に手を当てると頭の中に浮かぶ全ての可能性を集め、一つずつ可能性や意味、方法を考えて除外するか保留か候補でわけていく。
その中で、唯一、なんとも言えない可能性が出てきた。
いやでもこの場合、少女という点が気になる。大人ならまぁ、前の世界でやってたんだろうなで済むんだけど、十四歳だった。あるいは、創設者を押し退けるほどの何かがあるか。
『睦君よく考えるねぇ』
「景矢に偵察にでも行かせますか」
「偵察ならそれこそ……」
睦が小雨を見ると、小雨は画面の向こうを指さした。
「元同僚の方がよいのでは?」




